Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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サウナの湿度計測の難しさ①

 最近ではサウナの特集やサウナのドラマなど、サウナがメディアで取り上げられることも多くなりました。そうした中で、サウナ室の温度や湿度についても数値を表示するケースが出てきて、中にはサウナ室の湿度としては考えにくい数値が出ていることもあります。今回はサウナ室での湿度測定の難しさについて、改めて考えてみます。

 

ドライサウナの温度と湿度

 一般的に、ドライサウナは温度が80℃~100℃くらい、湿度は10%前後、と説明されることが多いです。「サウナと温度 座面温度の計測~男性サウナ室~」で座面温度の計測を試みた10施設は、表示温度は85℃~120℃、座面温度は72℃~104℃でした。「サウナと温度 座面温度の計測~女性サウナ室」では、表示温度73℃~98℃、座面温度52℃~90℃と男性側よりは低いものの、サウナ室の温度が一般的に80℃~100℃とされているのは実態とそれほど離れていないと言えるでしょう。

 湿度については、「サウナと湿度 計測~男性サウナ室~」では相対湿度0%~19%の範囲でした。「サウナと湿度 計測~女性サウナ室~」の方は非常に相対湿度が高かったスカイスパ(44%)を除けば5%~22%であり、男女共に0%~20%の間と言えそうです。スカイスパ(女性側)の場合は、座面温度が52℃と他と比べて低いため、相対湿度の数値は高くなっていますが、純粋な空気中の水分量を示す絶対湿度を算出すると他と比べて決して高すぎるわけではないことは、「サウナと湿度 絶対湿度の算出~女性サウナ室~」で確認した通りです。まとめると以下のようになります。

サウナの温度と湿度

 

 一般的に言われていることからも、計測結果からも、ドライサウナの場合、サウナ室の温度は大体温度は80℃~100℃、湿度は相対湿度0%~20%であると言えそうです。

 メディアで示された相対湿度が、サウナ室のものとしては高すぎると話題になったいくつかの例は、相対湿度を60%~80%あたりの数値で示していたものでした。

 

高温のサウナ室で高湿度があり得ないわけ

 ではどうして、80℃~100℃のサウナ室で相対湿度60%~80%はあり得ないと言えるのでしょうか。仮に、温度が80℃で相対湿度が60%だとすると、絶対湿度は174.368g/㎥、相対湿度80%だとすると絶対湿度は232.491g/㎥にのぼります。1㎥の空気の中に、174.368g・232.491gもの水分が含まれていることになります。「良いサウナ室の条件とは①」で紹介したNiilo Teeriの論文では、サウナ室の湿度について快適なのは絶対湿度40g/㎥~60g/㎥(Teeriの論文では単位としてg/kgを使っていますが、便宜上㎥に統一します。*1)であるとされていました*2。その根拠は、人の皮膚の露点温度、つまりどのくらいの湿度から人の皮膚表面で結露が生じるかということでした。絶対湿度が60g/㎥をこえると、皮膚表面で結露が生じてしまうため、これより低い湿度の方が快適だと考えられるのです。

 絶対湿度が60g/㎥でも、人の皮膚表面で結露が生じる高さなのです。174.368g/㎥や232.491g/㎥が人がいられる湿度帯ではないことはここからも想像できます。

 また、高温のサウナ室でそこまで湿度が高ければ、火傷してしまいます。そもそも私たちが高温のサウナ室にいても火傷しないのは、空気の熱伝導率が低いからです。熱伝導率は、熱の伝わりやすさのことです。「サウナと汗 発汗のメリット」でも取り上げたように、水の熱伝導率は0.6(W/mK)くらいであるのに対し、空気の熱伝導率は0.02(W/mK)にすぎません。お湯だと40℃をこえたらもう熱く感じるのに、サウナ室の場合80℃でも平気で入っていられるのは、この熱伝導率の違いのためです。

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 しかし、仮に空気中の水分が、1㎥の空気中に174.368g・232.491gも含まれるほど多かったらどうでしょうか。水は熱を伝えやすいわけですから、火傷してしまうわけです。サウナ室で火傷しないでいられるのは、空気中の水分量が少ない、湿度が低い状態だからです。

 こうした視点からも、80℃~100℃のサウナ室で相対湿度が60%~80%ということはあり得ないと言えます。

 

サウナ室の湿度測定の難しさ 

 「サウナと湿度 計測できるのか」で見たように、湿度を計測する方法はいくつかあります。高温環境であるサウナ室で測定できるものは限られていることがわかりました。デジタルのものは高温に耐えないことが多いですし、市販の湿度計は測定範囲がそもそも20%以上のものが多いのです。「サウナ用」と書いてある温湿度計もいくつか試しましたが、やはり20%以下は測定できませんでした。

 フィンランドのサイト、Saunologia.fiの記事でも、サウナ室内での湿度計測は難しいことが言及されています。「Mihin saunan lämpömittari kannattaa sijoittaa?」(サウナの温度計はどこに置くのが良いか?)という記事の中では、サウナ室での温湿度計測の難しさに触れられています。温度計についても、7つの温度計で計測をした時に数値がばらばらであったことが紹介されています*3。湿度についても、サウナ室内では毛髪を使用した湿度計は残念ながら精度が低いと言われている、と書かれています*4「サウナと湿度 計測できるのか」で見たように、湿度計には次の3種類がありました。

サウナの湿度計

 

 この中の、毛髪式はサウナ室で正確に湿度を測ることが難しいということでしょう。デジタルも、高温環境に耐えるものはなかなかなさそうです。

 「Saunastandardit ja löylyvakiot – Lämmön ja ilmanvaihdon suosituksia」(サウナとスチームバスの基準-推奨される熱と換気の条件-)という記事でも、サウナ室の環境で湿度計測をすることは簡単ではないこと、極端に高い相対湿度の数値が表示されることがあることについて言及されています*5

 そもそも湿度は温度との関係で決まるものです。その温度の空気が含むことができる水分量のうち、現在何%の水分が含まれているか、という相対的な数値です。温度計も、サウナ室に持ち込んでから、針が安定するまでに20分~30分かかります。同様に、湿度計測もある程度の時間、サウナ室に湿度計を置く必要がありますが、高温環境で長時間置いておけるものは限られてきます。

 

 サウナ室で正確な湿度を計測するのは難しいことであると言えます。それにしても、高温のサウナ室で相対湿度が60%~80%というのは、人がいられる環境とは考えられないような数値です。どうしてこのような数値が出てくるのか、次回は更に考えてみます。

 

 参考文献

Niilo Teeri(1966)"The Climatic Conditions of the Sauna", Teir, H., Collan, Y.and Valtakari, P., Sauna Studies. Ⅵ International Sauna Congress, Helsinki, August 15-17, 1974. pp.113-120.

Saunologia.fi. "Mihin saunan lämpömittari kannattaa sijoittaa?" (2016年9月20日)

Saunologia.fi. "Saunastandardit ja löylyvakiot – Lämmön ja ilmanvaihdon suosituksia" (2016年11月27日)

*1:絶対湿度の単位は、㎥とkgの両方で表すことがありますが、ほとんど差はないことは「サウナと湿度 湿度と温度」でも確認した通りです。

*2:Teeri, p.115

*3:Saunologia.fi

*4:同上

*5:Saunologia.fi