Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

ポカリがサウナーと聞いて

 サウナの飲料と言えばポカリスエットやイオンウォーターをイメージする人も多いのではないでしょうか。ポカリスエットは人ではないのにSauner of the yearに選ばれるほど、サウナの定番飲料と考えられています。ポカリスエットに限らず、水分補給はサウナ浴をする上で重要だと言われています。今回は、サウナと飲料について考えてみます。

ポカリスエットの歴史

 サウナの前やサウナの後にポカリスエットやイオンウォーターを飲む人も多いでしょう。ポカリスエットは1980年に245ml缶で発売されて以来、今日に至るまで多くの人に親しまれ、今では世界20カ国・地域で飲まれている飲料です*1。一方イオンウォーターは2013年に発売開始と比較的最近登場した飲料です。 イオンウォーターは「東京都サウナ・スパ協会サウナ公式飲料」とされています*2。さすが人ではないのにSauner of the year 2019に選ばれるだけのことはあります。そんなポカリスエットの歴史は公式サイトにまとめられていました。

pocarisweat.jp

 

 そんなサウナ好きにもそれ以外にも愛されるポカリスエットですが、すぐに受け入れられ人気が出たわけではないそうです。最初は「味が薄い」と言われたり、いろいろ苦労があったと言います。いかに今のような人気商品になったのか、また出発点は「点滴液」であったことなど、誕生秘話も公式サイトにまとめられていました。

pocarisweat.jp

 

 ポカリスエットは「汗の飲料」として、「失われた汗の成分を手軽に補給できる飲み物」を作ろうというコンセプトのもとで開発されたそうです*3。汗で失われる水分と電解質を補える飲料を作ろう、というコンセプトで、「汗をかいた時においしいことが大事」*4と考えてこの味になったのだそうです。「ポカリ」はネパール語で「湖」、「スエット」は「汗」を意味しますが、「汗の飲料」というコンセプトとはぴったりなこの名称、英語圏の人から、どうしても「sweat」という名前の飲み物は抵抗があって飲めない、と言われたことがあります。外国語だから抵抗なく美味しく飲めるのかもしれませんね。なんにせよ、名前にも入っている通り、またそのコンセプトから、ポカリスエットは発汗やそれに伴う水分補給と密接な飲み物だとわかります。

 

水分補給が必要な理由

  サウナに入る時には水分補給が重要だと言われます。「海外のサウナの入り方」でも出てきましたが、これは日本でも海外でも共通ですし、多くの人が水分補給は重要と認識していると思います。そもそも水分補給はなぜ重要なのでしょうか。

 まず、身体の水分、体水分の役割は大きく分けて2つあるとされています。1つは「物質を溶かすもの(溶媒)になること」、もう1つは「体温を調節すること」です*5

 1つ目は栄養素の化学反応をすすめ、栄養素や老廃物を体内で運ぶというものです。2つ目の体温調節は、汗の分泌や血管の収縮によって行います。発汗などで大量の水分が身体から外に出てしまうと、体液が減り、脱水状態になってしまいます。体重の3%以上の体液が失われると運動能力が低下したり、体温が下がりにくくなることが指摘されています*6。その前の段階、体重の2%の体液が失われると、「とてものどが渇く 不快感」*7という症状が出始めるとされています。体重の2%の水分は、体重が50kgの人の場合、1.0kgの水ということになります。

 この、「のどが渇く」という症状が出るまで、つまり体重の2%までの水分損失は体温に影響しないのですが、それ以上に水分を失うと、1%水分を失うごとに深部体温が約0.3℃上昇するとされています*8。運動時や暑い日、入浴時などは失われる水分を2%以内におさえるために、水分補給が必要になるということです*9。体重の2%の水分が失われるとのどの渇きを感じるとされていますが、それ以前の軽度の脱水状態では人はのどの渇きを感じないそうです*10。つまり、「のどが渇いたな」と認識する時にはもう脱水が始まっていて、この時点で慌てて水を飲んでも遅いということです。

サウナとポカリスエット

 

 サウナ浴で私たちは発汗によってどのくらいの水分を失っているでしょうか。「サウナと結露・潜熱 潜熱の量」では、サウナに入るとどのくらいの汗をかくのか考えてみました。具体的に、日本サウナ・スパ協会は1回のサウナ浴で出る汗の量を「約300~400mℓ」*11であるとしていることや、Niilo Teeriの論文では20分で333mℓの発汗量があるとされていること*12、15分のサウナ浴で1.1ポンド(=約500mℓ)の汗をかくとしているものがあること*13を紹介しました。その上で、1回のサウナ浴で大体300mℓ~500mℓの発汗はあるのだろうと考えました。

 温泉療法を専門とする東京都市大学教授の早坂信哉は、100℃のドライサウナに10分間入浴した場合、500mℓの発汗があるという研究報告があると指摘します*14。早坂はお湯に入る入浴について「一回の入浴で約800mℓの水分が体から抜ける」*15とも指摘しています。サウナではなくお湯に入る入浴でも、約800mℓの水分が失われるということです。サウナも複数セット入るとしたら、失われる水分は500mℓ以上ということになります。サウナ浴で失われる水分は、体重の2%をすぐに上回るわけではないでしょうが、何セットも繰り返し入っていれば出て行く水分も多いでしょうし、サウナに入る前から水分不足の状態であれば、十分に脱水の状態になり得ると言えるでしょう。だから水分補給が必要なわけです。

  

 水分補給はサウナ前?サウナ後?

  脱水状態にならないためには、身体から失われる水分を体重の2%以内におさえる必要があるということでした。それでは、水分補給はいつ、どのくらいの飲料を飲むのが良いのでしょうか。

 のどの渇きを感じ始めた時には脱水は始まっているということですから、サウナに入る前にも水分補給は重要だと言えそうです。これは正しい入浴法、健康的な入浴法と言った文脈の記事でも共通して言われていることです。飲むタイミングについて、すぐには血液に吸収されないため15分前、30分前などに飲む方が良い、としている記述も見かけます。高橋徹は、水分のほとんどは小腸で吸収されるとし、動物実験では「胃に水を入れて20~30分後には、水は小腸に流れ込んで小腸から吸収されてしまいます」*16と指摘します。飲んだ水が身体に吸収されるには、実際20~30分の時間がかかるようです。ただ、"ingested water is very quickly available for thermoregulation"*17(摂取された水は非常に速く体温調節のために使われています)と指摘する論文もあります。身体に吸収されなくても、飲んで比較的すぐに体温調節機能に影響はある、ということでしょうか。時間を空ける、ということはそれほど気にしなくても良いのかもしれません。

 身体に吸収されるまでの時間、ということを考えると、スポーツドリンクは吸収が早いので水分補給を早くできると思っている人も多いのではないでしょうか。しかし、実際にはスポーツドリンクの水分吸収速度は水や薄い食塩水よりも遅いということが指摘されています。番場誉は、「驚くことに、スポーツ飲料(アイソトニック飲料)は水分吸収が最も遅く、薄い食塩水やただの水のほうが吸収は早いのです。実はスポーツ飲料は味覚やエネルギーの補給を優先していて糖分が多く血液と等張(浸透圧が同じ)なために水分吸収は早くありません」*18と言います。スポーツドリンクは意外と糖分などが多く、吸収速度という点で言うと水や食塩水よりも遅いわけです。

サウナと水分吸収量

 

 スポーツドリンクが水よりも吸収速度が遅いのは糖分などが多いためですが、スポーツドリンクだから大丈夫、と沢山飲むと血糖値の上昇を引き起こすリスクがあることも指摘されています*19。では汗をたくさんかいた時には何を飲むのがよいのでしょうか。ダナ・コーエンとジーナ・バリアは「水と一緒に天然塩をひとつまみ摂ること」*20が一番良いと指摘します。人工的に精製された食卓塩はよくないそうですが、加工を最小限におさえた天然塩をひとつまみ、水と一緒に摂取するのが一番良いとのことです。男性専用施設のマルシンスパ やサウナセンターなどで水と一緒に塩が置いてあるのは、水と少量の塩を摂取するのが一番良いからということでしょう。ちなみに女性用の施設で塩を置いてあるのは見たことがない気がします。

 量についてはどうでしょうか。脱水は危険なので水を大量に飲んでおこう、と考えてがぶがぶ飲むのはどうやらリスクがあるようです。入浴前に飲む量について、早坂は「200~300mℓ」*21が適切であるとしています。サウナ前に飲む量についても「コップ1~2杯」*22が良いとしています。なぜがぶ飲みしてはいけないのでしょうか。それは、一気に水を飲むと「血中ナトリウム濃度が下がり、水中毒のリスクが高まる」*23ためだそうです。

 では汗をかいて水分を失ったサウナ中やサウナ後に大量に飲むのは良いのか、というとそうでもないようです。汗を大量にかいた状態で血液の中のナトリウム濃度が下がると、皮膚や筋肉、内臓の細胞のナトリウム濃度は変わらないため、身体がバランスを補正しようとして、浸透圧によって細胞外液から水が引き出された結果、細胞にうっ血が起こることもあり得るそうです*24。のどが渇くとつい一気にたくさんの飲料を飲んでしまいますが、「がぶ飲み」にはリスクもあると思っておいた方が良いかもしれません。

 「がぶ飲み」のリスクを考慮するという意味でも、失われる水分量が体重の2%をこえないように保つという意味でも、サウナの前、サウナに入っている間、サウナの後にコンスタントに水分補給をするのが良さそうです。 

 

飲んだものは汗として出てくるのか

 「汗の飲料」として開発されたポカリスエットですが、私たちの汗には、事前に飲んだ飲料の成分が含まれるのでしょうか。以前、「サウナと結露・潜熱 汗と結露の割合」で紹介したMichael Zechらはサウナと汗というトピックの研究第二弾として「私たちは飲んだものを汗として排出しているのか?」というテーマで検証を行っています。"Sauna, sweat and science Ⅱ- do we sweat what we drink?"という論文です。「サウナと結露・潜熱 汗と結露の割合」で紹介した論文は、同位体をトレーサーに用いて、汗と結露の割合を調べるものでした。汗と飲料に関する今回の研究では、冒頭でサウナ浴前後の水分補給について言及されています。 

Compensating water loss during sauna bathing is essential and thus one golden sauna rule says 'one should drink plenty of water before, during or after the sauna bath to maintain hydration'. At the same time, this rule is sometimes disputed from a medical point of view. It is proclaimed that when drinking during sauna bathing you will sweat the ingested water and you will not have an optimal purification of your body. *25

(サウナ浴の間に水分を失うことは避けられないので、サウナの鉄則は「水分補給のためにサウナ前、サウナ中、サウナ後に充分に水を飲むべき」とされています。同時に、この鉄則は医療の観点から議論されることもあります。サウナ中に水を飲むと、摂取した水が汗として出てしまい、身体が浄化されない、と言われることがあるのです。)

  サウナの前後、またサウナに入っている時に水分補給が必要、ということはサウナ浴の鉄則とされていますが、水をあまり飲んでしまうとそれが汗として出てしまって身体が浄化されない、という指摘もあるというのです。そこで、Zechらは"do we really sweat (isotopically) what we drink?"(「私たちは飲んだ物を汗として排出している?(同位体の視点で)」)*26という問いを立てて実験をしました。 

 実験は2016年5月にドイツのサウナで行われました。90℃~95℃のサウナ室で、相対湿度を極力低く保つためにロウリュをしないで実験をしたそうです。相対湿度が上がると、汗に結露の水分が混ざってしまう可能性があるためです*27

 この条件で、被験者にサウナに入ってもらい汗を採取するわけですが、普通の飲料とは成分の異なるトレイサーを使います。トレイサーにはコーラ・ヴァイツェン500mℓに重水(D2O)2mℓを混ぜたものを使い、5人の被験者から汗を採取するという方法で実験を行ったそうです*28。サウナは全部で6セット入ってもらい、最初は全員トレイサーの飲料を飲み、2セット目以降は被験者1と2は飲まないでもらい、被験者3と4には普通の飲料を飲んでもらい、被験者5には引き続きトレーサーの飲料を飲んでもらう、という形にしたそうです*29。そして、採取した汗の中に含まれる物質を調べたところ、異なる飲み方をした被験者5人の間に有意な差はなかったと言います*30。論文の中では、採取した汗の成分などについて細かく結果が分析されています。

  Zechらはこの実験を次のように結論付けています。

drinking 'Cola-Weizen' moderately while sauna bathing certainly contributes to relaxation and we, therefore, recommend it. The overall conclusion of our 'Sauna, Sweat and Science Ⅱ' study, in any case, reads: we do not sweat (isotopically) what we drink.*31

(サウナ浴中に「コーラ・ヴァイツェン」を適度に飲むことはリラックスできるのでお勧めします。いずれにせよ、この研究の全体的な結論は次の通りです。「私たちは飲んだ物を発汗していない」)。

 つまり、飲んだ物が汗として出てくるわけではない、ということです。だとすると、この論文の導入で指摘されていた、サウナの前に水を飲んでしまうとその水が出てしまうので身体が浄化されない、ということはないということになりますね。水を飲んだからと言ってすぐにそれが汗として出てくるわけではないのですから、サウナ前に水を飲むことに問題はなさそうです。

 ところで、実験に使ったというコーラ・ヴァイツェンはビールとコーラを混ぜた飲料です。ドイツでは一般的なようですが、サウナ中の飲料としても親しみがあるのでしょうか。アダムアンドイブのサウナ室内で飲んでみたい。

サウナとコーラ・ヴァイツェン

(画像出典:楽天レシピ「☆ドイツのミックスドリンク☆ビールとコーラ レシピ・作り方」

 

 今回は、ポカリスエットをきっかけにサウナと水分補給について考えてみました。サウナ浴をする上で水分補給はやはり重要です。ポカリスエットやイオンウォーターとうまく付き合いながらサウナを楽しめたらいいですね。

 

参考文献

Teeri, Niilo. (1976) "The Climatic Conditions of the Sauna", Teir, H., Collan, Y. and 

Quora (2017), "Does sweat from a sauna excrete salt as fast as sweat from exercise?"

Zech, Michael etal.(2019) "Sauna, sweat and science Ⅱ-do we sweat what we drink?" Isotopes in Environmental and Health Studies. 55:4, pp.394-403

高橋徹、「腸での水の吸収と水の拡散」、太陽化学株式会社『食と健康Lab』

ダナ・コーエン、ジーナ・ブリア 、服部由美(訳)『「食べる水」が体を変える
疲労・肥満・老いを遠ざける、最新の水分補給メソッド』より抜粋した記事「『ペットボトルがぶ飲み』があなたの体を壊す理由」

テレ東プラス、「朝1分のシャワーが加齢臭に効く!お悩み別『正しい入浴法』」

日本コカ・コーラ株式会社、「運動時の適切な水分補給。」

日本サウナ・スパ協会、「知っておきたいサウナ・スパの健康知識」、『サウナ・スパ健康アドバイザー 公式テキスト』

早坂信哉、「寿命を縮める『サウナの禁じ手』10、お風呂研究家が教えます」

番場誉、「脱水の治療に最適な水分とは?」長野医療生活協同組合HP

ポカリスエットHP、「ポカリスエット誕生秘話」 

ポカリスエットHP、「ポカリスエットの歴史」

目加田優子、「熱中症予防のための食生活」

 

*1:ポカリスエットHP「ポカリスエットの歴史」

*2:ポカリスエットHP、「サウナといえばイオンウォーター」

*3:ポカリスエットHP「ポカリスエット誕生秘話」

*4:同上

*5:目加田、p.5

*6:同上

*7:同上

*8:日本コカ・コーラ株式会社

*9:同上

*10:同上

*11:日本サウナ・スパ協会、p.18

*12:Teeri, p.119

*13:Quora

*14:早坂

*15:テレ東プラス

*16:高橋

*17:Zech etal., p.398

*18:番場

*19:ダナ・コーエン、ジーナ・ブリア

*20:同上

*21:テレ東プラス

*22:早坂

*23:ダナ・コーエン、ジーナ・ブリア

*24:同上

*25:Zech, p.395

*26:同上

*27:同上

*28:同上

*29:同上、p.397

*30:同上、p.398

*31:同上、p.402