Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

水質の基準と調査

 水風呂を語るとき、水温や水風呂の広さ、深さやバイブラの有無などの他に「水質がよい」と言うことがあります。施設側も、水質のよさを謳っていることがあります。温度や湿度とは違って、「水質」というのはなかなか複雑です。

 

水質の基準

 水質調査をしたり、水質分析をするときには、測定した結果を「水質基準」と比較して評価することがあります。この水質基準には、「飲料水、温泉水、排水あるいはプール水や公衆浴場水などを対象にしたものがあり、目的に応じて規制あるいは判定の手段として活用されている」*1といいます。水質基準にはどのような基準があるのでしょうか。

水質基準

 

 まず「環境基準」です。環境基準は、「環境基本法」(1993年11月19日)に基づいて「人の健康を保護し、生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準として定められたもの」*2です。水に関するものとしては、「人の健康の保護に関する基準」と「生活環境に関する基準」の2つに分けて定められているそうです*3

 「人の健康の保護に関する基準」はすべての公共用水域に適用される、全国一律の基準です。そして、「その主旨は、人の健康を維持するための最低限度としてではなく、より積極的に維持されることが望ましい目標として位置付けられている」*4そうです。最低限の基準というより、目標値のような形のようです。最初は1971年、カドミウムなど8項目が設定されたそうですが、時代とともにさまざまな化学物質が生産・利用されるようになる中で項目が見直され、項目が増えたといいます*5。現時点では27項目のようです。環境省のホームページに一覧があります。

www.env.go.jp

 一方、「生活環境の保全に関する基準」は「河川、湖沼、海域の公共用水域について、水道、水産、工業用水、農業用水などの利用目的に応じて設けられたいくつかの水域類型ごとに基準値が定められている」*6そうです。こちらは特定の物質を指定するのではなく、一般的な水質汚染を測定評価するために設定されており、測定項目は水域ごとに異なるそうです。

 次に、「排水基準」という基準があります。これは、排出する水の基準です。「水質汚濁防止法」(1970年12月25日)では、水などを排出する施設を設置する事業者に排水基準の遵守義務を定めています*7。違反に対する罰則規定があるのが環境基準と違うところです。

 そして、私たちにとっても身近な「水道水の水質基準」があります。こちらも、水質検査体制・制度の見直しや、世界保健機構(WHO)による飲料水水質ガイドラインの全面的改訂作業が進められるなどして、2003年に水質基準に関連する制度が大幅に見直されました。その結果、地域の実情に応じて、合理的な範囲で検査の省略ができるようになったといいます。このときには、46項目から9項目が削除され、新たに13項目が追加されて50項目になりました*8。現在は、51項目のようです。こちらは厚生労働省のホームページに一覧があります。

www.mhlw.go.jp

 そして、「生物学的水質判定法」というのもあります。これは、その水域に生息する生物群集を調べることで、水域の環境条件や水質汚濁の段階を表すことができる方法だそうです*9。水にはそこの水質・水温・水流など環境に応じて、細菌・プランクトン・原生生物などが生息して、生態系を形成しています。その生物を調べることで、水の状況もわかるということですね。

 「水質の基準」といっても、照らし合わせる基準はいろいろあるということです。そして、それぞれの基準にはたくさんの項目が定められているわけです。水質調査というのはなかなか複雑そうです。

 

簡単な水質調査 

 「水質」を調べるといっても基準もさまざま、項目もたくさんあることがわかりました。簡単に「水質」を語ることはできなそうです。しかし、素人でも簡易的な水質調査は、必要な試薬や器具を買うことで一応可能です。自分でも測定できる「水」の要素にはどのようなものがあるか整理してみました。

 

・pH

 「水の質を構成する要素」でも見たように、pHはその溶液中の水素イオン濃度、(H+)の量を表すものです*10。pHの値が7の状態が中性で、7より大きいとアルカリ性、7より小さいと酸性となります。

 一般的には7を中性としますが、温泉の場合はpH6~7.5未満を中性としているそうです*11。温泉の場合、次のような区分になるそうです。

温泉のph

 

 日本温泉協会のホームページでもpHは「入浴時の感触や肌触りにも関係するので注目ポイントの一つです」*12とされており、「肌感」に関連がありそうな項目の一つです。

 

・硬度

 これも「水の質を構成する要素」で見た項目です。定義は下記の通りでした。

水のカルシウムイオン・マグネシウムイオンを含有する程度。酸化カルシウムに換算して、水1立方メートル中に10グラム含むときを1度とする。硬度20以上を硬水、10以下を軟水という*13

 つまりカルシウムやマグネシウムなどのミネラルの含有量です。日本の天然水は軟水が多く、ヨーロッパや北米には硬水が多いということでしたが、人口的に硬水に軟水処理を施すことも可能です。硬度の違いで水の「味」や「飲みやすさ」には違いがありますが、「肌感」とも関連があるかもしれません。

水の硬度

 

・遊離残留塩素

 塩素については「塩素消毒の仕組みと塩素臭の正体」でも詳しく取り上げました。遊離残留塩素は、水中に残っている塩素のことです。

残留塩素

 (画像出典:鈴研株式会社 HP)

 

IWAKIホームページでは次のように説明されています。

水中に投入された殺菌力のある塩素のこと。水中の塩素ガス分子(Cl2)・次亜塩素酸(HOCl)・次亜塩素酸イオン(OCl–)の三種類の濃度を合計した値で、水のPHによって存在する割合が変わる。なお、塩素イオンとは化学的に性質が異なる*14

 pHによって割合が変わるというのは興味深いです。水質を考えるには、これらいろいろな要素を総合的に考える必要がありそうです。

 塩素は消毒のために入れているので、残留塩素がまったくなくてもよくないわけです。水道法では「蛇口での有利残留塩素を0.1mg/L以上保持」することが定められているそうです*15。プールなどで塩素臭を感じる、目が充血するのは水中の塩素が多いからではなく水中のアンモニア、つまり人の尿や汗が多いからだということも「塩素消毒の仕組みと塩素臭の正体」で取り上げました。水道水などで基準はありますが、どの程度であれば水風呂として快適なのか気になります。

 

・溶存酸素(Dissolved Oxygen)

 溶存酸素は水中に溶けている酸素ガスのことです。通常、溶存酸素は大気中から供給されて、溶解量は空気中の酸素分圧に比例しますが、水中に酸素を消費するものが存在すると溶存酸素濃度が下がります*16。有機物質や、それを栄養源とする微生物の呼吸などが溶存酸素を低下させるので、有機物質汚染の指標とされます*17

 溶存酸素の最大値、飽和溶存酸素量は気圧、水温、溶存塩類濃度などによって変化するといいます*18。蒸留水、一気圧下における飽和溶存酸素量は、0℃で14.16mg/L、18℃で9.18mg/L、40℃で6.59mg/Lだそうです*19。結構温度によって変わるようです。

 溶存酸素量は「水質汚濁の指標のひとつであり、正常な河川ではほぼ飽和状態である」*20といいます。自然の水ではなく、水風呂のように人が入る場合に、どの程度有機物質が増え、溶存酸素量が低下してしまうのか、気になります。

 

 今回は、「水質」について考えるために「水質の基準」や素人でも簡易的な計測が可能な要素について見てみました。「水質」といっても非常に多くの項目からなる基準がいろいろあり、複雑です。ただ、簡易的な測定ならできる項目もあります。味や、飲んだときの人体への影響ではなく浸かったときの「肌感」に、どの項目がどのように影響するかを考えていくのが、水風呂の水質の謎を解く鍵かもしれません。

 

 

参考文献・資料

IWAKIホームページ「第23回 用語編【遊離残留塩素と結合残留塩素】」(最終アクセス日:2022年2月27日)

日本温泉協会ホームページ「温泉分析書の見方」(最終アクセス日:2022年2月27日)

日本水処理工業株式会社ホームページ「pHとは」(最終アクセス日:2022年2月27日)

日本分析化学会北海道支部編(2005)『水の分析』第5版、化学同人

*1:日本分析化学会北海道支部、p.27

*2:同上

*3:同上

*4:同上

*5:同上

*6:同上、pp.27-28

*7:同上、p.35

*8:同上、p.38

*9:同上、p.41

*10:日本水処理工業株式会社HP

*11:日本温泉協会HP

*12:同上

*13:goo辞書

*14:IWAKI HP

*15:同上

*16:日本分析化学会北海道支部、p,287

*17:同上

*18:株式会社レックスHP

*19:同上

*20:同上