Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナと湿度 絶対湿度の算出~女性サウナ室~

 「サウナと湿度 絶対湿度の算出~男性サウナ室~」では、測定した相対湿度と座面温度を用いて絶対湿度を算出し、まとめました。今回は、女性サウナ10施設について同じように絶対湿度を算出し、マッピングします。

 

サウナ室の絶対湿度

 「サウナと湿度 絶対湿度の算出~男性サウナ室~」では、フィンランドのサウナ室の絶対湿度について40g/kg~60g/kgが適切であると考えられていることを紹介しました。Nillo Teeriの"The Climatic Conditions of the Sauna"では、"the normal humidity of the sauna should be the range of 37…43℃ wet temperature, i.e. 40…60 g of water per air kilogram"*1(サウナ室の通常の湿度は、37〜43℃を露点温度とする範囲、つまり空気1kgあたりに40g~60gの水分量の湿度であるべきなのです。)と述べられており、この40g/kg~60g/kgという数値は他の論文でも踏まえられています*2。この範囲よりも絶対湿度が高いと汗が蒸発しにくく、結露する可能性もあり、逆にこの範囲よりも低いと汗が空気中に持っていかれすぎると考えられています。

 実際に、サウナ室の絶対湿度はどのくらいなのでしょうか。10施設の女性サウナ室について、計測結果をまとめます。計算方法は「サウナと湿度 絶対湿度の算出~男性サウナ室~」と同様に、各座面温度の飽和水蒸気量を宮城教育大学大気科学研究室のサイトで算出し、そこに計測した相対湿度をかけるという方法です。

  絶対湿度の単位について、論文ではkgを使っていますが、男性側の場合と同様に、この記事では㎥を使います*3。絶対湿度の単位はkgで表すことと㎥で表すことがあり、どちらもほとんど値は同じであるということは「サウナと湿度 湿度と温度」で確認しました。

 

絶対湿度の計算結果

 絶対湿度を算出した結果は以下のようになりました。

女性サウナの絶対湿度の算出結果

 

座面温度と絶対湿度の分布

 計算で得られた絶対湿度をもとに、座面温度と絶対湿度の値でマッピングをしてみました。

女性サウナの座面温度と絶対湿度の分布

 

 フィンランドのサウナ室において快適とされている湿度帯に含まれるところは少数で、それよりも低い湿度帯に位置する施設が大半でした。「サウナと湿度 計測~女性サウナ室~」で、女性側は男性側より全体的に相対湿度が「高」いということがわかりましたが、絶対湿度を算出してみると、温度との関係で女性側の絶対湿度はそれほど高いわけではないことがわかります。また、男性側と比べると、一か所に集中して分布していると言えます。比較的似通ったセッティングのところが多いと言えるでしょう。

 座面温度と絶対湿度の特徴から、以下のように4つに大別できそうです。

 

  グルーピング

女性サウナの座面温度と絶対湿度のグルーピング

 

 Aの4施設は、「サウナと湿度 計測~女性サウナ室~」で体感を「低」としていた施設です。しかしロスコを除く3施設(テルマー湯・レディース510・センチュリオン)は相対湿度が意外と高く、体感を「中」としていたユーランド鶴見よりも高い数値になりました。その結果、相対湿度でマッピングしてみたところ、ユーランド鶴見よりもこれらの3施設は高い位置になっていました。しかし、絶対湿度で見るとこれら3施設もユーランド鶴見より低い結果となり、体感が「低」だったのもあながち間違ってはいなかったと言えるかもしれません。このグループは温度もそれほど高くなく、湿度も低めなので、どちらかと言うと汗をかきにくいサウナ室と言えるでしょう。それが、体感を全て「低」としていたこととも関係がありそうです。

 Bは、Aのグループよりも湿度・温度が高く、体感が熱いサウナ室と言えます。体感を「中」としていたアダムアンドイブ・ユーランド鶴見に対して、体感を「低」にしていたおふろの国の方が若干数値が高いという結果になりました。おふろの国は温度も高いので、その熱さからカラカラであると体感していた可能性もあります。Aのグループより、体感温度が高く、汗もかきやすいサウナ室と言えるでしょう。

 Cは、体感を「高」にしていた施設ですが、実際に絶対湿度も高いということがわかりました。ルビーパレスはフィンランドのサウナ室で適切とされる湿度帯に位置し、草加健康センターはそれより高い位置になりました。温度も高めで高温高湿なのでロウリュがなくても十分、常に体感温度が高いサウナ室と言えますが、草加健康センターではロウリュもあり、一時的に非常に体感が熱い状態も体感できます。ルビーパレスはオートロウリュで定期的にサウナストーンに水がかかるので、常に高温高湿が保たれ、しっかり熱いサウナ室です。

 Dは相対湿度が44%と、他の施設と比べて非常に高い数値となりましたが、体感の湿度を「高」とした草加健康センター・ルビーパレスと比べて高いとも感じませんでした。絶対湿度を見るとこの2施設より低い数値となり、体感に差がなかったことにも納得できます。

  座面温度と絶対湿度でマッピングをしてみると、女性サウナは男性サウナのように湿度が極端に低いカラカラのところは稀で、逆に40g/㎥~60g/㎥のエリアに入るほど絶対湿度が高いところも多くはないということがわかりました。そのエリアの手前くらいの絶対湿度帯の施設が多く、温度帯も近い数値で分布しています。男性サウナのサウナ錦糸町のように極端なケースも、女性側には見られません。

 男性側の分布を見ると、カラカラで高温の昭和ストロングスタイルのサウナ室からフィンランドで適切とされている湿度帯のサウナ室まで、幅広いバリエーションがあることがわかります。それが日本のサウナ文化の特徴であり、魅力であると言えます。一方、女性側は男性側に比べてバリエーションが少ないと言えそうです。その背景には、日本のサウナ文化が男性中心であったことがあげられるでしょう。

 女性側にはサウナ専用の施設は少なく、サウナと言えば銭湯のサウナやスーパー銭湯のサウナがほとんどです。サウナを中心としたサウナ施設とは異なり、銭湯やスーパー銭湯においてサウナはいろいろあるお風呂の一つであり、一般的な、よくあるセッティングを踏襲するのも無理はないでしょう。

  長い間男性が利用者の中心だったサウナですが、女性のサウナ好きが増えてきた今、フィンランドのサウナ室のような湿度帯を好む女性もいれば昭和ストロングスタイルのようなサウナ室に入ってみたい女性もいるでしょう。幅広い、バリエーション豊かな日本のサウナ文化を、女性もこれから享受できるようになれば、日本のサウナ文化は更に豊かなものになるのではないでしょうか。

 

参考文献

Teeri, Niilo. (1976) "The Climatic Conditions of the Sauna", Teir, H., Collan, Y. and Valtakari, P., Sauna Studies. Ⅵ International Sauna Congress, Helsinki, August 15-17, 1974. pp.113-120.

 

参考資料

宮城教育大学大気科学研究室、「大気中の水蒸気についてのいろいろな計算」(最終閲覧日:2019年4月2日)

 

*1:Teeri, p.115 

*2:例えば、Timo Vesala "Phase Transitions in Finnish Sauna"など

*3:飽和水蒸気量を算出する宮城教育大学大気科学研究室のサイトが㎥を使っているため。