「サウナと温度 座面温度の計測～男性サウナ室～」では、男性サウナについて、私たちが実際に座る座面の位置の温度計測の結果をまとめました。今回は、同じように女性側の計測結果をまとめます。その前に、そもそも高い位置ほど温度が高いのはなぜなのかについてまとめます。
高いところほど温度が高い理由
「サウナと温度 座面温度の計測～男性サウナ室～」では、株式会社アクトパスの代表取締役、望月義尚さんのブログ「温泉・温浴コンサルタントブログ【一番風呂日記】」から、あるスーパー銭湯のサウナ室内で温度計の位置によって50℃以上差があったという結果を紹介しました。具体的には、高いところの計測結果は110℃、低いところは53℃という数値が示されていました。
この記事からもわかるように、サウナ室で温度を測ると、位置が高いところほど高い温度に、低いところほど低い温度になります。上段の方が熱いということは、サウナに行く人は知っていることでしょう。熱い空気は上にたまる、と感覚的に、あるいは経験上知っている人も多いと思いますが、なぜ熱い空気は上にたまるのでしょうか。
これは、空気の重さと関係があります。そもそも「熱」とは、分子の運動の激しさのことです*1。高温の物質ほど、分子は激しく動きまわっています。逆に低温の物質は分子の動きが緩やかです。
このような分子の動き方の違いが原因で、空気の重さは温度によって異なります。
低温の重たい空気が重力によって下にさがってくるので、軽い高温の空気が上に押し上げられます。結果的に、サウナ室は上にいくほど高温の空気がたまることになります。熱い空気が上にいくのではなく、むしろ低い空気が下に落ちてしまうことによって結果的に上の方が熱いという状態になるのです。このような仕組みで基本的に上の方が熱いということになりますが、空気の対流によっては一度上に押し上げられた熱い空気が空気の流れで下にもまわってきて部屋全体があたたかくなると考えられます。
女性側のサウナ室でも、温度計は比較的高い位置に設置されていることが多いです。私たちが実際に座っているところの温度はそれぞれ何度なのでしょうか。計測結果をまとめます。
座面温度計測の条件
・2018年11月～2019年2月に計測を試みた約50施設のうち、「サウナと湿度 計測～女性サウナ室～」と同じ関東の10施設の女性サウナ室を選定。
・計測位置は原則、サウナ室の最上段の背中から腰の間。
・計測時間は温度計の針が安定するまでの20～30分程度とし、ロウリュを実施している施設の場合は、なるべく影響を受けないようにロウリュ後から30分以上あけて計測*2。
・誤差を少しでも小さくするため、一つの施設につき必ず複数回計測し、その平均値を使用。
・温度計に故障・不調が見られたら新しいものに変えて再計測。
計測対象の10施設
「サウナと湿度 計測～女性サウナ室～」と同様に、以下の10施設で計測を実施しました。
①カプセル＆サウナ ロスコ（東京都北区）
②カプセル&スパ レディース510（東京都新宿区）
③ファンタジーサウナ＆スパ おふろの国（神奈川県横浜市）
④センチュリオンホテル&スパ上野駅前（東京都台東区）
⑤東京新宿天然温泉テルマー湯（東京都新宿区）
⑥ルビーパレス（東京都新宿区）
⑦ヨコヤマ・ユーランド鶴見（神奈川県横浜市）
⑧アダムアンドイブ （東京都港区）
⑨湯乃泉 草加健康センター（埼玉県草加市）
⑩スカイスパYOKOHAMA（神奈川県横浜市）
計測結果
まず、サウナ室にある温度計の表示温度をまとめたものが以下となります（表示温度の降順）。
次に座面温度の計測結果をまとめたものが以下となります。
表示温度と座面温度の差は、少ないところでは3℃、多いところでは26℃でした。
差の少ない「おふろの国」は、最上段に座ると設置されている温度計とほぼ同じ高さになり、また最上段は天井ともかなり近い位置になるので、表示温度と座面温度の差が小さかったのだと考えられます。
（画像出典：ファンタジーサウナ＆スパ おふろの国HP）
「おふろの国」より更に表示温度と座面温度の差が小さかった「草加健康センター」は4段あり、最上段に座ると温度計とそれほど差がない高さになります。また、ここまで表示温度と座面温度が近い値である背景には、サウナ室の対流の強さもあると考えられます。「草加健康センター」のサウナ室は対流が強く、熱い空気が天井だけに溜まらず、対流によって部屋全体にまわっているのかもしれません。
（画像出典：湯乃泉 草加健康センターHP）
一方、表示温度と座面温度の差が大きかった「レディース510」は、温度計は比較的高いところに設置されていますが1段のみのサウナ室で、座面と温度計の位置に差があり、数値にも差が見られました。座面と天井にも距離があります。また、ヒーターの正面に扉があり、扉は座面のすぐ近くのため扉の開閉の影響もありそうです。
（画像出典：Let's ENJOY TOKYO 「『女性専用カプセル＆スパレディース510』体験レポ」）
同じく1段の「ロスコ」は天井と座面の間には距離がありますが、温度計も天井付近ではなく、座面と天井の間くらいに設置されています。その分、「レディース510」よりは差が小さかったのかもしれません。
（画像出典：Booking.com カプセルアンドサウナロスコ）
「テルマー湯」も差が大きかったのですが、段数は3段と少なくありません。ただ、「テルマー湯」は天井が高く、最上段に座っても天井とは距離があります。天井に近い位置に設置されている温度計と座面には、やはり距離がありました。
（画像出典：テルマー湯HP）
「センチュリオン」は、2段目に座ると天井はそれほど遠くないですが、温度計の位置が天井に近い上にヒーターに非常に近いため、表示温度が高くなっていると考えられます。ただ、温度計がヒーターに近いとは言え、計測を試みた場所もヒーターのすぐ近くで、温度計との距離もそこまで遠いわけではありません。にも関わらず表示温度と座面温度の差が大きかった背景には、換気口の位置などによる対流も関係していると考えられます。天井に熱が溜まりやすいサウナ室だと言えそうです。
（画像出典：センチュリオンホテル＆スパ上野駅前HP）
「スカイスパ」も温度計は高い位置にありますが、座面も2段目に座ればそれほど低いわけではなく、天井も比較的近いです。しかし、「スカイスパ」は横長のサウナ室で、2段目に座ることができるところはヒーターからは少し遠くなってしまい、ヒーターから近い位置の温度計とは差が出たのかもしれません。また、2段目に座ることができるところは、ガラス窓の向かいに位置し、石などで囲まれたサウナ室より熱を感じにくく、体感もこの座面温度と合致します。
（画像出典：スカイスパYOKOHAMA HP）
アダムアンドイブは、2段目に座った場合、温度計は頭のすぐ上くらいの位置になり、それほど距離があるわけではないのでここまで大きな差があったのは意外でした。天井もそれほど遠いわけではなく、体感はむしろ表示温度の方に近いです。男性側とは異なり、壁材は基本的に竹ですが、触れると熱く、竹は石や木の壁材とはまた異なる熱のもち方をするのかもしれません。座面温度よりもむしろ表示温度に体感が近いことには、壁材が竹であることも関係しているかもしれません。
（画像出典：「サウナ女子が選ぶ、女子が行くべき最旬サウナスポット3選」）
表示温度と座面温度の差は、単純に温度計の位置と座面の位置の距離だけに起因するのではなく、さまざまな要素が関係していると言えそうです。体感からは座面温度の数値が意外なケースもあり、体感温度は単純に温度だけではないということもわかりました。
謎は残っていますが、私たちが実際に座っているところの温度がわかったので、次回はこの座面温度と計測した相対湿度を使って、男女10施設ずつのサウナ室の絶対湿度を算出してまとめます。
参考資料
株式会社アクトパス代表取締役 望月義尚、「温泉・温浴コンサルタントブログ【一番風呂日記】」（最終閲覧日：2019年3月22日）
