Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナの湿度計測の難しさ②

 「サウナの湿度計測の難しさ①」では、最近メディアで紹介されるサウナ室の湿度の数値が考えられない数値の場合があるということについて考えてみました。どうしてそういうことが起こるのか、また、サウナ室のような高温環境で相対湿度60%~80%というのがどのくらいあり得ない環境なのか、今回は専門家に質問してみました。

 

80℃~90℃で相対湿度60%~80%の世界とは

 湿度計測の難しさについて考えているうちに、以前湿度計測を試みるに当たり、温湿度に関するプロ、温湿度マイスター武田さんに相談したことを思い出しました。

温湿度マイスター

株式会社第一科学
特機事業部長
JCSS技術委員会湿度分科会委員
NPO法人気象システム技術協会理事

www.daiichi-kagaku.co.jp

 こちらは温湿度マイスター武田さんが記事を書いている温度と湿度の会社のブログです。

 

 プロに見解を聞いてみよう、ということで、サウナ室のような高温環境、80℃~100℃の世界で、相対湿度が60%~80%とはどんな状態か、なぜそうした数値が出てくるのか、質問してみることにしました。前回同様、温湿度マイスター武田さんは親切にお返事をくれました。実際にメディアで出たことのある、120℃で70%~80%の世界とはどんな世界か、わかりやすい例を教えてくれました。

 

この場合、相対湿度ではなく水蒸気圧で説明します。

90℃や120℃の世界で70%~80%ですが・・・

120℃で70%の相対湿度の蒸気圧を計算すると、

水蒸気圧(at120℃/70%)=1389.42hP

大気圧は通常1013.25hPなので大気圧を越えています。

つまり通常の部屋では理論的にあり得ない環境となっています。

これが可能な空間とは身近な所で圧力釜の中が一番近い環境なのですね。

間違いなく死んで(料理されて)しまいます。笑

 大気圧とは、空気の重さによる圧力です。空気は目に見えませんが、空気にも重さ、つまり質量があります。質量があれば、重力によって引きつけられます。この空気が重力で引きつけられる力が大気圧です。大気圧は空気の重さによるので、高いところに行くと小さくなります。高い山の頂上は低いところに比べて空気の量が少ないため、大気圧も小さくなるわけです。飛行機に乗った時や高層ビルのエレベーターで耳がキーンとなり、「気圧の変化で」と言うことがありますが、これは大気圧のことを指していることが多いです。

 そして、水蒸気圧とは大気圧全体の中で、水蒸気によって占められる圧力のことです。空気の中にどれくらい水蒸気があって、その水蒸気によってどれくらいの圧力が発生しているかという数値です。「サウナと湿度 湿度と温度」で見たように、空気は温度が高いほどたくさんの水を含むことができます。つまり、120℃の空気の場合、大量の水蒸気が空気中に含まれないと相対湿度が70%にならないわけです。その大量の水蒸気による圧力が水蒸気圧です。

 マイスターの言う通常の大気圧、つまり私たちが生活している環境の中にある空気の圧力は1013.25hPで、このくらいの圧力であれば私たちは問題なく生きていられますが、もし120℃で相対湿度が70%になると、それを上回る1389.42hPの水蒸気圧が発生するということです。そしてその環境とはつまり圧力釜の中と同じような環境だと言うのです。圧力釜はとても人がいられる環境ではありません。

 また、これも実際にメディアで出たことのある数値ですが、90℃で相対湿度80%という環境については、車の耐久試験の条件が近いと教えてくれました。

 

自動車業界で耐久試験(加速度試験)の条件が85℃85%という規格があります。

この目的は10年壊れないかを3ヶ月で再現する為の試験なので、

車部品がダメージ受ける環境の中に人体が入るというあり得ない試験になります。

私もこの環境に一瞬手を入れてみましたが危険でした。

 

 車が10年壊れないかを3ヶ月で再現する耐久試験の時の環境が85℃で相対湿度85%だと言うのです。これも、いかにあり得ない数値かがわかりやすい例です。

 「サウナの湿度計測の難しさ①」では、絶対湿度などを考えてみましたが、圧力釜、車の耐久試験と言われると通常人がいる環境ではないということがよくわかります。

 

あり得ない数値が出てくるわけ

 どうしてこのような数値が出てくるのでしょうか。理由を考えてみました。

 

(仮説①)単純に湿度計が壊れている

 サウナ室という高温環境で湿度を計測するのはなかなか困難です。20%未満も測定でき、このブログで計測に使っている湿度計も、繰り返し使用する中で故障していきました。繰り返し使用していると、一見計測できているように見えても、高い数値から下がらなくなってくるのです。温度が極端に高いサウナ室では、一回で壊れてしまうこともありました。故障すると、基本的に30%半ばくらいまでしか針が下がらなくなります。常にサウナ室内に温湿度計を設置している施設などでは、高温環境に耐えられず壊れてしまっているということも考えられます。

 

(仮説②)設定湿度のようなものがある

 サウナ室内の温度については、設定温度と実際のサウナ室内の温度は必ずしも同じではありません。脱衣所等にある調整版の温度表示と、サウナ室内の温度計が示す値には結構な差があるのを見たことがある人もいるかもしれません。ある銭湯で、「設定はいつものように100℃ですか?」と尋ねた人に対して店主が、「設定はいつも80℃ですよ、80℃に設定するとサウナ室内は100℃になるんですよ」と説明をしていました湿度に関しても、設定湿度の数値のようなものがあるのかもしれません。

 と、考えてみてもわからないので、この点についても温湿度マイスターにご意見をうかがってみました。

おそらく、計測するのにサウナ室に人が湿度計を持って入ると思います。

その時の湿度計の表面・筐体温度は25℃近辺。

計測器の温度が低いために一瞬で結露してしまいます。

いったん水が凝縮すると気化するまでに時間が掛かるため、しばらく高い湿度値を示すという理由です。

そのまま放置すれば正確に測れる可能性は高いのですが、本体の耐熱温度と液晶部分が黒くなる等の理由で出来てないものと推測します。

サウナ室に眼鏡をかけて曇るのと同じですね。

また、温浴施設側が提供してとありますが、もしかしたら加温用に循環するボイラーの出口のスチーム条件と勘違いしているのかもしれませんね。

ちなみに前述の条件で1~2年も保つ湿度センサは残念ながらありません。

弊社もサウナメーカーに温湿度センサを納入していますが温度も湿度もかなり低い状態で運用しています。

 

 湿度計を持って入った瞬間に、温度の低い湿度計は、高温環境に入った途端結露し、雲ってしまい、その水分によって相対湿度も高い数値が出てしまうというのです。その水分が気化し、サウナ室内の温度の中で実際の相対湿度がどのくらいかを計測するには時間がかかるわけですが、機器が長時間の計測に耐えなかったり、なかなか下がらないことからその数値をそのままサウナ室の相対湿度として記録してしまっている可能性も考えられるというわけです。

 実際に湿度計を持ち込んで測った数値なのだ、と言っても、こうした理由で高い数値が記録されてしまうということはあり得るわけですね。

 

 今回は、サウナ室の相対湿度として非常に高い数値がメディアなどに出る理由を、温湿度のプロ、温湿度マイスター武田さんに聞いてみてまとめました。数値がメディアで取り上げられるのは、サウナ室の温度や湿度への関心も高まっているということを示しているのかもしれません。こうしたアプローチが出てきたことも「サウナブーム」と言われる動きの中の一つの現象なのかもしれません。

 サウナ好きとしては、サウナ室というのが大体どのくらいの湿度帯のものであるのか知っておきたいですし、少なくとも60%~80%というのは人がいられる環境ではない、ということは知っておきたいものです。そんなこと知らなくてもサウナはサウナ、気持ち良ければいい、という意見もあると思います。ですが、見る人が見ればそんなはずはない数値がサウナ室の湿度として紹介されることは、サウナ好きではない人にあまり良い印象は持たれないでしょう。例えば文化として先を行く温泉について考えてみれば、温度はとても重要な要素になります。その温泉の温度が80℃前後、と紹介されていたらどうでしょうか。サウナにとっては温度と湿度が重要な要素です。サウナが文化として根付くためにも、正確な情報を知っておくことは大事かもしれませんし、色々な角度から語られることは奥行きのある文化につながっていくのではないでしょうか。