Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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硬度と肌感覚

 「pHと肌感覚」では、水の質を構成する要素の一つであるpHと肌感覚との関係についてまとめてみました。水風呂の場合、多くのものが中性の水であると考えられるため、水風呂に入ったときの肌感覚の違いとpHはあまり関係がなさそうだと考えました。一方、硬度に関しては、水風呂によって差がありそうな気がします。今回は、硬度と肌感覚について考えてみます。

 

硬度とは

 「水の質を構成する要素」で見た通り、硬度とは、水1000ml中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を表わした数値のことです。硬水・軟水はお風呂の文脈より、飲料水の文脈で耳にすることが多いかもしれません。

硬度

(画像出典:FCサービス株式会社 浄化槽点検/貯水槽清掃/給排水設備)

 

また、「硬水・軟水のエリアと文化」で見たように、食文化とも関係がありそうです。しかし、硬度という尺度は水の「味」とは本来関係のない尺度です。龍谷大学経済学部准教授の山田誠は次のように指摘します。

時々、「この水は軟水なのでおいしくて飲みやすいですよ」とか、「この辺の水は軟水なので、○○のような料理に合うんです」みたいな話を聞くことがあり、あたかも、水の硬度が水の味や料理に関係する尺度のように捉えられている感じがすることがあります。もちろん、硬度は水の味や料理と深く関係しているのですが、元々はそれらとは全く関係ない尺度であることはあまり知られていません。そもそも硬度とは、「石けんが泡立つか泡立ちにくいか」を表す尺度であり、石けんがよく泡立つものを「軟水」、泡立ちにくいものを「硬水」としました*1

 つまり硬度は、石鹸がよく泡立つかそうでないか、ということを表す尺度なわけです。しかし、硬度は水に含まれるカルシウムとマグネシウムの量なので、味にも影響はあります。

とはいえ、人間は、水に含まれているカルシウムイオンとマグネシウムイオンを、味という形で検知することができます。また、調理のプロセスの中で、水に溶けている成分(溶存成分)は,食材との相互作用によって、できあがる料理の味に影響を与えます。その様なことから、硬度は、石けんの泡立ちに関する尺度としてよりも、水の味や料理に関係する尺度としてのほうが、感覚的になじみやすいのかもしれません*2

 水の中の成分、カルシウムとマグネシウムの量の多い・少ないという指標なので、硬度の違いは肌感覚にも影響がありそうな気がします。

 

硬度と肌

 美容の文脈で見てみると、硬度の高い水は肌や髪によくないとされていることがわかります。ウォーターサーバー比較ガイドというサイトには、次のような記述があります。

高度の高いミネラルウォーターを洗顔など、そのままお肌に使うことは、あまりおすすめできません。硬度の高いお水は、これまでの紹介のように、多くの成分が含まれているため、肌への負担が大きくなりがちです。このような理由から、化粧水替わりや洗顔時の利用には向いていないといえます*3

 カルシウム・マグネシウムを多く含む水は、肌への負担が大きいというのです。肌への負担を考えて、スキンケアには軟水の方がよいといいます。

軟水

(画像出典:軟水シャワーde軟水美活始めましょう! | ハウステック)

 

硬度の低いお水(軟水)を洗顔やスキンケアとして活用する場合においても肌への負担が少なくおすすめといえます。

肌に浸透しやすく、優しくいたわることができます。いろいろなスキンケア方法に、軟水を取り入れて、自然な美しさを手に入れましょう*4

 硬水は肌への負担が大きく、軟水は負担が少ない上に、肌に浸透しやすいというのです。硬度の高い水で肌が荒れる、ということも指摘されています。その仕組みを、榧根勇は次のように説明しています。

洗濯のとき硬水は泡立ちが悪く、石鹸が硬度成分とくっついてカスができる。このカスが皮膚を刺激し、皮膚の細胞をふさぎ、その新陳代謝をさまたげるので、皮膚が荒れる。日本の水は軟水が多く、日本人の肌がきれいなのは軟水のおかげ、との意見もある。日本の河川水の硬度は世界の平均の半分以下である*5

 硬度が高い水の場合、石鹸の泡立ちが悪くなることは「入浴と硬水・軟水」で見た通りです。その仕組みは、カルシウムやミネラルが石鹸と反応して、水に溶けない金属石けんになるためでした。この反応でカスができると、それが皮膚を刺激して皮膚の細胞をふさいでしまうというのです。これは、「軟水の方が肌に浸透しやすい」ということとも関連します。大阪府の銭湯、昭和湯のホームページでは次のように説明されています。

水道水の中のカルシウムやマグネシウムと、石けんの中に含まれている脂肪酸とが結びついてできる石けんカスは体を洗うときに肌をコーティングしてしまって乾燥し、化粧水もはじき飛ばします。

軟水はミネラル分がなく、石けんカスがでないので角質に水分が入ります*6

金属石鹸

(画像出典:株式会社サンエス・サービスHP

 

金属石鹸

(画像出典:くらぷらブログ

 

 つまり、硬度の高い水、硬水が石鹸と反応するとカスができて、それが皮膚を刺激したり、皮膚を覆ってしまって肌が乾燥してしまうということです。逆に、硬度が低い軟水であれば、このカスができないので皮膚に水分が浸透しやすい、ということです。こうした理由で、軟水の方が肌に優しい、肌に良いとされているわけです。

 

温泉と硬度

 肌への刺激ということを考えると、カスができない軟水の方が肌に優しいということがいえるようです。こうしたことも影響してか、「美人の湯」=軟水、というような言い方も散見されます。「美人の湯」とは「温泉の泉質の効果効能によって美肌効果が期待できる温泉のこと」*7だそうです。そして、群馬県の川中温泉、和歌山県の龍神温泉、島根県の湯の川温泉が「日本三大美人の湯」と呼ばれるそうです*8

川中温泉

(画像出典:川中温泉(群馬県) | BIGLOBE旅行

 

龍神温泉

(画像出典:龍神温泉(和歌山県) | BIGLOBE旅行

 

湯の川温泉

(画像出典:湯の川温泉(島根県) | BIGLOBE旅行

 

 美人の湯といえば軟水!と書いているサイトもありますが、「ニセ科学と石けんの諸問題」というサイトでは、日本三大美人の湯のうち、川中温泉と湯の川温泉は硬水であることを指摘した上で、温泉の善し悪しと硬度は関係がないと結論付けています*9。美肌効果が期待できる温泉は必ずしも軟水ではない、ということですね。

 軟水だから肌がきれいになる、というより、硬度が高い水の場合、石けんと反応してカスができるので、肌に負担がかかり乾燥や肌荒れの原因になり得る、ということなのでしょう。軟水だから肌がきれいになる、と謳うのは若干、飛躍があるように思います。

 

硬度と水風呂

 硬度と肌について見てみると、硬度の高い水、硬水は肌への負担が大きい、逆に軟水は肌への負担が少なく水が皮膚に浸透しやすいということになります。軟水は肌をきれいにする、というより、肌への負担が少ない水ということのようです。

 硬水が肌に負担をかけるのは、石けんと反応してカスができるからということでした。そうすると、髪や身体を洗うシャワーとして使う場合には硬水か軟水かで肌への負担が変わってきそうですが、石けんを流しきって、サウナ室で汗をかいて、それから入る水風呂で同じような影響があるかというと、そうでもなさそうです。身体を洗った際の石けんが皮膚に残っていたとして、反応が起こるとすれば、軟水の方が水が皮膚に浸透しやすい、ということになります。一方、硬水の場合はカスができて皮膚をふさいでしまうということになります。

 髪や身体を洗い流したあとに入る水風呂で、どの程度こうした反応が起こるのかはわかりませんが、カスが皮膚をふさいでしまうという状況は水風呂が肌に残るように感じる感覚と、関連がないこともなさそうな気がします。

 とはいえ、石けんとの反応でカスができる、という仕組みを考えるならば、硬度も水風呂の肌感覚にそれほど大きな影響は及ぼさないのではないかという気がします。

 

 今回は、硬度と肌感覚について考えてみました。髪を洗う、顔を洗う、身体を洗う、といった、石鹸をつけて洗い流す際の水の硬度と肌との関係と、水風呂の硬度と肌との関係は違うような気がします。水風呂の肌感覚については、硬度もそれほど大きな影響は及ぼしていないかもしれません。ただ、皮膚を覆う、ふさいでしまうということが、水風呂から出てからの肌感覚と無関係でもなさそうです。頭の片隅に置いて、他の要素についても考えていきたいと思います。

 

参考文献・資料

温泉部ホームページ「日本三大美人の湯とは?由来や特におすすめの人気温泉旅館3選も【2018年版】」2018年2月23日(最終アクセス日:2022年4月5日)

ウォーターサーバー比較ガイド「天然水が与える肌への影響は「硬度」が関係?洗顔前に見ておこう」、2016年6月20日(最終アクセス日:2022年4月5日)

榧根勇(1992)『地下水の世界』、日本放送出版協会

昭和湯ホームページ「昭和湯のお湯は軟水です」(最終アクセス日:2022年4月5日)

ニセ科学と石けんの諸問題「『美人の湯』と硬度について」(最終アクセス日:2022年4月5日)

山田誠「水は『かたい』か『やわらかい』か」、『Moglab』(最終アクセス日:2022年4月5日)

 

*1:山田「水は『かたい』か『やわらかい』か」

*2:同上

*3:ウォーターサーバー比較ガイド

*4:同上

*5:榧根、p.77

*6:昭和湯HP

*7:温泉部HP

*8:同上

*9:ニセ科学と石けんの諸問題HP