Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

良いサウナ室の条件とは①

 サウナ室にはいろいろなバリエーションがあります。熱いサウナが好き、湿度が高いサウナが好きなど、個人の好みも様々で、何が良いサウナ室か、とは一言では言えません。好みは人それぞれである、という前提のもと、良いサウナの条件について考察した論文が1976年に書かれています。Niilo Teeriの"The Climatic Conditions of the Sauna"(1976)です。今回と次回は、この論文の内容を紹介したいと思います。

 

Sauna Studies

 この論文はSauna Studiesという本に掲載されています。Sauna Studiesは1974年に開催された第6回 International Sauna Congressで発表された内容をまとめたものです。

 Congressが1974年、本の刊行が1976年と、古い資料になりますが、今読んでも興味深い内容が多く、最近の論文でも「最初のまとまったサウナ考察本」として引用されているのを見かけます。

 ちなみに、Sauna Congressは今も開催されており、昨年2018年6月には第17回のSauna Congressが開催されました。第17回Sauna Congressの内容は、要約がサイトに掲載されています。Sauna & Health、History & Culture、Technology, Design & Architecture、どれも面白そうです。 

saunainternational.net

 
サウナ室のコンディションを構成する4要素

 Teeriの論文に戻ります。Teeriはサウナ室内のコンディションを構成する要素は次の4つであるとしています。

良いサウナ室の条件

 

 Teeriは次のように述べています。

"When all these components are at their best, the sauna bathing conditions are ideal"*1

(この4つの要素がそれぞれベストな状態のとき、サウナのコンディションは理想的なものになります)

  Teeriは、もちろん個人個人の好みがある、ということを前提として指摘した上で、それでも経験上、また自らが調べた結果、一定の「良い」ラインがあり、それを知っていれば4つの要素を最適なものにすることができると考えています。この要素のどれか1つがよくないと、他の要素がよくても快適なサウナ室にはならないというのです。

 今回は、1つ目の温度と2つ目のロウリュと湿度について、論文の内容を見ていきます。

 

1つ目の要素:温度

 1つ目の要素の「温度」は、サウナ室の空気の温度を指します。ストーブ自体の温度は2つ目のロウリュと関連し、壁の温度は3つ目の熱輻射と関連するものとして、1つ目の「温度」は単純にサウナ室内の空気の温度のことを指しているそうです*2。つまりここでは、単純にサウナ室内の空気の温度について言及しています。

 Teeriは、サウナ室の温度管理について次のように述べています。

Controlling the temperature of the sauna air is easiest task. You read it from the thermometer and act accordingly, providing you know what you want.

(サウナ室の空気の温度を調節するのは最も簡単なことです。温度計を見て、それに応じて、自分が望む温度に向けて調整すれば良いだけですから。)*3

 「しかし」とTeeriは続けます。

However, the construction of the sauna and the stove decide how the temperature varies at different heights in the sauna.

(しかし、サウナ室の構造やサウナストーブによって、異なる高さにおいて温度にどのくらい差があるかは変わってきます。)*4

つまり、サウナ室の空気の温度調節は、単純に表示温度を調節するのであれば簡単なことだけれど、サウナ室の高いところと低いところでの温度の差は、サウナ室自体の構造やストーブの種類などによって変わってくる複雑なものだということです。

 Teeriは、温度の好みは人にもよるとしながら、頭が熱くなりすぎて足があたたまらないサウナ室は良いサウナ室ではないと言います。要は、足元までしっかり熱いのが良いサウナ室だと言うのです。

It is not a good sauna if your head feels too hot while your toes feel cool air.

(頭は熱すぎると感じるほど熱いのに、足元は涼しく感じるのは、よいサウナではありません。)*5

 サウナストーブの熱が十分に空気中にまわらないストーブであったり、ストーブの位置が高すぎると、頭の位置と足の位置で温度の差が大きくなると言います*6。位置が高すぎる、というのは特に電気式ストーブのケースでよく見られると言います*7。Teeriは次のようにまとめます。

The sove must, be it an original smoke sauna stove or a modern electrically heated unit, raise the air all the way from floor to ceiling from which the hot air then sink back to near floor level.

(伝統的なスモークサウナのストーブであれ、最近の電気式のストーブであれ、サウナストーブは床から天井までしっかり熱が上がるようにして、床近くの低いところまで熱が戻ってくるようにしなければなりません。)*8

 「サウナと温度 座面温度の計測~女性サウナ室~」で見たように、空気は温度が高いほど軽く、低いほど重いという特徴があります。そのため、低い温度の空気は重力によって下にさがり、軽い高温の空気が上に押し上げられます。そのため結果的に熱い空気が上の方に溜まるわけです。サウナストーブの周りからから次から次に熱い空気が生じると、後ろからやってくる新たな熱い空気に押し出されて、落ちてくるという動きをします。つまり、次から次に熱い空気が押し寄せれば、上の方に上がった空気がどんどん押し出されて下に降りてきて、床付近のレベルにも熱がまわることになります。こうした仕組みで、きちんと下の方まで熱がまわっているサウナ室を、Teeriは良いサウナ室と考えているようです。

  ちなみに、温度の数値に関しては、1974年時点でフィンランドのサウナ室の一般的な温度は頭のあたりで80℃~110℃の範囲であるとTeeriは言います*9。この時点から更に20年ほど前のサウナのエキスパートたちは、110℃を超えるサウナを薦めていた、とも書かれており、興味深いです。

 最後にTeeriは、温度の好みは人ぞれぞれである、としながら、

I personaly find that a sauna where the temperature at head level does not normally exceed 80℃ is unhygienic.

(個人的に、頭の高さで80℃を超えないサウナ室は非衛生的だと感じています。)*10

と指摘します。詳しい理由などは言及されていませんが、興味深い指摘です。

 

 

2つ目の要素:ロウリュと湿度

 「絶対湿度の算出~男性サウナ室~」「絶対湿度の算出~女性サウナ室~」でも引用したように、サウナ室内の湿度は絶対湿度で40g/kg~60g/kgが快適であるとTeeriは指摘しています。これは、人の肌の表面の温度を根拠にしています。露点温度、つまり結露が起こり始める温度との関係で40g/kg~60g/kgの範囲が、皮膚を傷つけることもなく、汗の蒸発を妨げたり結露を起こしたりすることもない快適な範囲だと考えているのです*11。そして、ロウリュによってサウナ室をこの湿度帯にできると言います。

This is achieved by throwing water on the stones, the humidity can temporarily rise into the range around 100g/kg (中略)Good ventilation ensures a fast levelling down to about 60g/kg, (中略)It burns a bit, but pleasantly.

(これはストーンに水をかけることによって達成されます。水をかけると、絶対湿度は一時的に100g/kgあたりまで上がります。換気が良いと、すぐに60g/kgくらいまで下がります。少し熱いですが、心地良い熱さです。)*12

 ロウリュによって絶対湿度は一時的に100g/kgあたりまで上昇しますが、換気が良ければすぐに心地良い60g/kgあたりまで下がるというのです。 

 Teeriは、ロウリュの一番の役割は湿度を心地良いレベルにするということであるとしながら、ロウリュのもう一つの役割にも言及しています。それはイオンの発生です。

From investigations I started last year, I noticed that especially throwing water on the hot stones develops plenty of ions in the sauna air.

(最近私が始めた調査で、熱いサウナストーンに水をかけることで多量のイオンがサウナ室内に発生することがわかりました。)*13

 湿度を調整するだけであれば、ストーンに水をかけるのではなく別の方法で蒸気を発生させたり、熱湯を使うなども考えられますが、ストーンに水をかける方法だけがイオンを発生させると言うのです*14。薪を使ったストーブであろうと電気式ストーブであろうと、石に水をかければ同じようにイオンが発生するとTeeriは言います。湿度帯が40g/kg~60g/kgであることと併せて、石に水をかけることで湿度調節ができるということも良いサウナ室の条件と言えそうです。つまり、ロウリュによって、この湿度帯にできるということが良いサウナ室の条件ということになります。

 ちなみに、Teeriはロウリュのタイミングについて次のように述べています。

Because of the ion balance, it seems to be advisable to throw water onto the stones as soon as you start the sauna bath, not after a few minutes as many do.

(イオンのバランスを考えると、多くの人がやるように数分待ってからではなく、サウナ室に入ったらすぐにストーンに水をかけることをお勧めします。)*15

 セルフロウリュできるサウナ室では、参考にしたいですね。

 

理想的な温度・湿度

 Teeriの論文では、 頭のあたりの温度で80℃~110℃が通常の、よくある温度帯であり、足元まで温まるのが良いサウナ室であるとされています。また、湿度に関しては、絶対湿度40g/kg~60g/kgの範囲が心地良いと、具体的な数字が挙げられています。

 「サウナと湿度 絶対湿度の算出~男性サウナ室~」サウナと湿度 絶対湿度の算出~女性サウナ室~」では、男性・女性それぞれ10施設について、座面の温度と相対湿度を計測し、絶対湿度を算出しました。Teeriの言う40g/kg~60g/kgの湿度帯は色のついた部分になります。

 

男性サウナ室 

サウナ 湿度

 

女性サウナ室

サウナ 湿度

 

 絶対湿度の単位は、kgと㎥、どちらも使うことがあります。論文では絶対湿度の単位はg/kgで示されており、グラフではg/㎥の単位を使っています。どちらもほとんど値は同じであるということは、「サウナと湿度 湿度と温度」で確認しました。

 重要なのは、4つの要素のどれか1つが良くても他が良くなければ理想的なサウナ室の環境にはならないというTeeriの指摘です。また、この湿度帯に入っていないから良いサウナ室ではないということでもない、というのがこの計測・算出結果からわかります。つまりどれか1つの要素が、Teeriの考える理想的な範囲に入っていないとしても、他の要素が理想に近い状態であれば、サウナ室は快適で良いサウナ室になり得ると言えそうです。逆に湿度がこの理想の範囲に入っていても、極端に温度が低ければ良いサウナ室とは言えないでしょうし、残りの2つの要素、熱輻射や換気も重要だろうと考えられます。4つの要素のバランスも重要なのでしょう。結果的には、サウナ室の心地良さは複数の要素のトータルで決まると考えられますが、ただ漠然と良い、と言うのではなく要素ごとに分けて考えると、なぜ良いのかということがわかりやすいです。そういう意味で、Teeriの論文は現代においても示唆的です。

 

 今回はTeeriが良いサウナ室の条件を考える際に重要であるとする4つの要素のうち、温度と、ロウリュと湿度について見てきました。次回は残りの2つ、熱輻射と換気について見てみます。

 

参考文献

Niilo Teeri(1976)"The Climatic Conditions of the Sauna", Teir, H., Collan, Y.and Valtakari, P., Sauna Studies. Ⅵ International Sauna Congress, Helsinki, August 15-17, 1974. pp.113-120.

 

 

*1:Teeri, p.113

*2:Teeri, p.114

*3:同上

*4:同上

*5:同上

*6:同上

*7:同上

*8:同上

*9:同上

*10:同上

*11:同上、p.115

*12:同上

*13:同上

*14:同上

*15:同上