Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナと汗 発汗のメリット

 「サウナと汗 デトックスは都市伝説」では、発汗にデトックス効果は期待できないと考察しました。基本的に汗は体温調節のために身体の水分を犠牲にしているものということでしたが、では発汗をすることにメリットはないのでしょうか。今回は、サウナ浴による発汗のメリットについて考えてみます。その前に、もう少し発汗に関する誤解についても見てみましょう。

 

サウナで酒が抜ける?

 サウナ好きにはあまりいないかもしれませんが、サウナで汗をかくことでアルコールが抜ける、と考えている人もいます。しかしこれはデトックス効果と同じく誤解です。

 お酒を飲み過ぎた時、頭が痛くなる、吐き気がするなどの症状が見られますが、これはアルコールが分解されてできたアセトアルデヒドが原因です。サウナでたくさん汗をかいて酒を抜く、という考えは、アルコールやアセトアルデヒドが汗によって身体の外へ排出されるのでは、と思うからでしょう。しかし、汗腺にはアルコールやアセトアルデヒドを排出する機構は備わっていないといいます*1。発汗によってアルコールやアセトアルデヒドの血中濃度が下がることはないのです*2。アルコールは大部分が小腸で吸収され、肝臓でアセトアルデヒドに分解され、酢酸になり、最終的には水(尿)と二酸化炭素(呼吸)で体外に出ていきます。

 

サウナ アルコール

(画像出典:タニタの健康応援ネット からだカルテ

 

 「酒が抜ける」というのはこのようにアルコールが肝臓によって分解されることであり、最終的に水になるとは言え、水になるまでの分解の速度がかわらない限り「酒が抜ける」早さは変わらないということです。サウナで大量に発汗しても、アルコールが早く抜けるということはないということです。

  

サウナで痩せる?

 サウナでたくさん汗をかくと痩せると思っている人もいるようです。サウナだけでなく、汗をかくことで痩せると考えている人もいます。しかし、汗をかくこと自体にダイエット効果はありません。汗をたくさんかくと、その直後は体重が減りますが、これは一時的に「体の水分(体液)を失って脱水状態になっているだけで、痩せることとは全く別物である」*3と言われています。減量とは脂肪分が減ることであり、そのためにはカロリーの摂取量を減らすこと、エネルギー消費量を増やすことが必要で、一時的に汗として水分が体外に排出されることは減量にはならないのです*4

 発汗をうながす通気性の悪いウェアをサウナスーツと呼んだりします。男性サウナ室ではいないですが、女性サウナ室では通気性の悪い素材の布、いわゆるサウナシートで全身を覆っている人を時々見かけます。「ゴム性のサウナシートを持ち込まないでください。臭いについて苦情があります。」という貼り紙があるサウナもあります。サウナシートで身体をぐるぐる巻きにしている人は、その方がたくさん汗をかくことができると考えているのでしょうし、ダイエット効果なども期待しているのかもしれません。

サウナシート

 

 しかし、汗をかくことそのものにダイエット効果はありませんし、通気性の悪い布で身体を覆うことは熱中症の危険もあります。「サウナと汗 発汗の仕組み①」で見たように、汗が蒸発することによって人は体温の調節をしています。通気性の悪い布で覆ってしまうと、汗が蒸発しないので体温が上がり、熱中症になる可能性もあります。汗をたくさんかいているように感じるのも、蒸発しないで布の中に溜まるからであって、蒸発していかない分、実際にはあまり汗をかいていないのです*5「サウナと汗 サウナ室でかく汗」で見たように、私たちの体温調節で重要なのは目に見えない汗、有効発汗の汗です。身体を覆ってしまうと、有効発汗の汗をかけなくなり、体温調節がきちんとできないわけです。

 サウナに頻繁に行く人は、サウナにダイエット効果がないことは実感していることでしょう。痩せないどころか、サウナ後のごはんは美味しいのでサウナに行くようになって却って太ったという声も聞きます。ちなみに、サウナ後の食事が美味しいことにも理由があります。これはまた別の記事で詳しくまとめます。

  

暑熱順化と発汗機能の向上

 汗自体はほぼ水であり、デトックス効果やアルコールを早く分解する効果、ダイエット効果などは望めないようです。しかし、発汗の習慣があることで発汗機能を高めることができると言われています。

 私たちの身体は、繰り返し暑い・熱い負荷が身体にかかると暑さ・熱さへの耐性が高くなると言います。この適応的な変化は「暑熱順化」と呼ばれています*6。つまり暑さに慣れるということです。暑熱順化には以下のようなメリットもあると言われています。

サウナと暑熱順化

 

「良い汗」が作られる仕組み

 暑さ・熱さの刺激を繰り返し受けて、発汗の習慣があると汗の分泌機能が高まり、塩分濃度が低くなるわけです。分泌機能が高いと、より水に使いサラサラで蒸発しやすい「良い汗」が出るような体質になります。

 どういう仕組みで「良い汗」が作られるか、汗が作られる過程を見てみましょう。まず血液から汗の原液である「前駆汗」というものが作られます*7。この原液である前駆汗は、塩分やミネラルなどいろいろなものが含まれた状態です。それが、汗となって皮膚表面に出てくるまでの間に管(導管)を通って、管を通る間に塩分やミネラルなどが管に吸収されて、余分な成分を含まない、ほぼ水の状態になっていきます*8。つまり、皮膚表面に出てくるまでの間に濾過されて、ほぼ水の状態になるのです。

 逆に、発汗習慣がない人は濾過機能が低く、塩分やミネラルを多く含んだ汗になってしまうと言います。身体に有毒なものや老廃物ではないですが、水以外の物質を含みますから、ねばねばして蒸発もしにくい「悪い汗」になります。

サウナの良い汗が作られる仕組み

 

分泌機能が高い、ということは、この濾過機能が高いということです。濾過がしっかりできるので、塩分やミネラルが管を通る間に吸収されて、汗となって出てくる頃には水に近い状態になるということです。 

 汗には老廃物など、身体に有害な物質が含まれることはありませんでした。しかし、塩分やミネラルは含まれ、その濃度は発汗機能、濾過機能の高さによって変わります。塩分やミネラルの濃度が少なければ、ほぼ水になるのでサラサラの汗になります。また、このサラサラの汗は蒸発もしやすく、体温調節も効率的にできます。食塩水は、塩分濃度が薄いほど蒸発しやすいのです*9

  

サウナ好きの汗は「良い汗」

 サウナ好きは、高温のサウナ室で暑い・熱い負荷が身体に繰り返しかかっているため、暑熱順化し、発汗機能も高いと考えられます。

サウナの良い汗
 

 サウナ浴だけでなくお湯につかる入浴でも熱さの刺激は受けますし、発汗もしますが、サウナ浴とは発汗に違いがありそうです。お湯に浸かる入浴でも体温が上がり、私たちは汗をかきます。お湯に浸かることでも、私たちの体温は上昇してるわけです。サウナ室は90℃や100℃でもいられるのに、お湯は40℃でも熱くてすぐに出てしまう、という人もいるのではないでしょうか。これは、水と空気の熱伝導率の違いのためです*10。熱伝導率、つまり熱の移動しやすさが違うのです。水の熱伝導率は約0.6であるのに対して、空気の熱伝導率は約0.02です。

サウナの熱伝導率

 

 熱伝導率の違う素材による熱の伝わり方の違いは、熱い液体が入った物を持った時などにも実感できます。

 

熱伝導率 サウナ

(画像出典:Cradle CAE用集
 

 お湯に浸かると、浸かっている部分の皮膚温はすぐにお湯の温度近くまで上昇すると言われています。一方、サウナ浴の場合は身体に触れるのが空気であるため、身体への熱の移動が緩やかです。つまり体温上昇もお湯に比べてゆるやかだと言われています。

 発汗という点で見ると、お湯に浸かる場合とサウナ室にいる場合で、汗をかくことができる面積が違います。湯に浸かると、一気に体温が上昇するので、汗腺を動かす信号も増えます。しかし、「サウナと汗 サウナ室でかく汗」で見たように、汗の出口である汗孔は濡れることで周りの角質がふやけてふさがっていってしまいます。当然、お湯に浸かっていると浸かっている部分の汗孔はだんだんふさがっていきます。そのため、汗が排出されるのは湯に浸かっていない部分、頭や首などに集中します*11。一方、サウナ浴の場合は全身から汗をかくことができます。

サウナとお湯の汗をかく部位

 

全身からの発汗を習慣的に行っているサウナ好きは、発汗機能が高まっていて、「良い汗」が出る体質であると言えそうです。サウナ好きだと、老廃物どころか、塩すらそれほど出ていかないということですね。

 汗の成分はもともとほぼ水であり、暑さ・熱さの刺激を繰り返し受けていて、発汗習慣もあるサウナ好きの汗は、そうでない人の汗よりも更に水に近いものだと言えそうです。成分だけ見ると、汗自体はそれほど汚いものではないということになります。しかし、私たちの皮膚表面には汚れや細菌が存在するので、汗が出てきて皮膚表面でそれらと混ざることで、結果的に汚くなることはあります。「サウナと汗 発汗の仕組み②」で見たように、汗自体は無臭ですが、汗の成分が皮膚表面の細菌によって分解され、芳香性の物質に変化することでにおいが生じるようになるわけです。

 サウナ好きの汗が水に近い「良い汗」でも、皮膚表面が汚れていては出てきてから汚いものになってしまいます。水風呂に入る前に汗を流すのは当然大切ですが、皮膚表面をよく洗っているということの方がより重要かもしれませんね。

 

 発汗の効果として言われていることには誤解が多く、発汗はあくまで身体の冷却機能であり、汗はほぼ水です。しかしサウナ浴などによって発汗機能が高まれば、汗はより水に近く蒸発しやすい「良い汗」になります。サウナ好きは、自分たちの汗は「良い汗」だと自信を持って良いかもしれません。

 

参考文献

小川徳雄(1998)『汗の常識・非常識-汗をかいても痩せられない!』、講談社

菅屋潤壹(2017)『汗はすごい-体温、ストレス、生体のバランス戦略』、ちくま新書

 

 

*1:小川、p.65 

*2:同上

*3:小川、p.130

*4:同上、p.131

*5:小川、p.131

*6:菅屋、p.101

*7:小川、p.72

*8:同上

*9:菅屋、p.105

*10:菅家、p.203

*11:同上