Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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pHと肌感覚

 「水質の基準と調査」では、水質の基準や簡単な水質調査で測定が可能な項目についてまとめました。それぞれの項目と、水風呂として入ったときの肌感覚にはどのような関係があるのでしょうか。今回は、まずpHと肌感覚についてまとめてみます。

 

pHと温泉

 pHはその溶液中の水素イオン濃度、(H+)の量を表すものでした。一般的には7を中性とし、7より大きいとアルカリ性、7より小さいと酸性になるのでした。「水質の基準と調査」で見たように、温泉の場合はpH6~7.5未満を中性としています*1

温泉のph

 

 

 一休コンシェルジュの記事「温泉のpHが肌に与える効果とは?」では、温泉の特徴をpHで分けてまとめています。それぞれどのような特徴があるのでしょうか。

 

【アルカリ性の温泉(pH7.5以上)】

 アルカリ性の温泉は、さらに下記のように分けられるそうです。

  • 強アルカリ性:pH10以上
  • アルカリ性:pH8.5以上
  • 弱アルカリ性:pH7.5以上8.5未満*2
    厚木飯山温泉

(画像出典:一休コンシェルジュ 厚木飯山温泉 元湯旅館(神奈川県/厚木飯山温泉)/pH11.3)

 

 一休コンシェルジュの記事には、参考に石鹸のpHが7~10で、海水のpHが8~8.5と書かれています*3。アルカリ性の温泉は石鹸や海水くらいのpHということですね。特徴については、次のようにまとめられています。

アルカリ性のお湯はトロトロ・ヌルヌルするような肌触りが特徴。クレンジング効果で、皮脂の汚れや油分を落としてくれます。特に強アルカリ性の温泉は、油分が取られすぎて肌がカサカサになってしまうことがあるので、入浴後は真湯でしっかり洗い流し、入浴後には化粧水などで保湿ケアを行いましょう。また、温泉に入るだけで肌の汚れが自然に落ちるので、体をごしごしと洗いすぎないようにしましょう*4

 肌触りはトロトロ・ヌルヌル、そして皮脂の汚れや油分を落としてくれるのが特徴ということです。

 

【中性の温泉(pH6以上7.5未満)】

 温泉で言うところの中性はpH7ではなくpH6以上7.5未満でした。

山形座 瀧波

(画像出典:一休コンシェルジュ 山形座 瀧波(山形県/赤湯温泉)/pH7.3)

 

 一休コンシェルジュの記事には、参考値として水道水がpH6.5、牛乳がpH7、汗がpH7~8と書かれています*5。汗と同じと聞くと、刺激が少なそうに感じます。記事でもやはり、肌への刺激が少ないことが指摘されています。

日本の温泉の中で最も多いのが、中性~弱アルカリ性の温泉です。肌への刺激が少なく、肌が弱い人や敏感肌の人でも安心して入浴することができます*6

 汗や水道水と同じくらいというだけあって、肌への刺激は少ないようです。

 

【酸性の温泉(pH6未満)】

 酸性の温泉は、さらに下記のように分けられるそうです。

  • 弱酸性:pH3以上6未満
  • 酸性:pH2以上3未満
  • 強酸性:pH2未満
    奈良屋

(画像出典:一休コンシェルジュ 奈良屋(群馬県/草津)/pH2.0)

 

 こちらも参考値として、胃液がpH1.2、レモンがpH2.5、炭酸飲料がpH3、皮膚がpH4.5~6.5と示されています*7。レモン、炭酸飲料など、少し刺激が強いイメージのものが並んでいます。汗は中性でしたが皮膚は弱酸性なのですね。特徴は次のようにまとめられています。

酸性のお湯は少しピリピリするような肌触りが特徴。殺菌効果やピーリング効果があり、肌の表面にある古い角質を柔らかくして溶かしてくれます。また、体の新陳代謝も促してくれるので、昔から慢性的な皮膚病などの治療にも使われてきました。入浴後は肌がツルツルになりますが、肌の弱い人には効きすぎる場合もあるので、入浴後に真湯でしっかり洗い流しましょう*8

 ピリピリする肌触り、少し刺激がありそうです。アルカリ性は油分などを落としてくれるという特徴がありましたが、酸性は古い角質を柔らかくして溶かすのですね。どちらも肌の汚れが落ちそうです。しかし、アルカリ性の温泉が油分を取り過ぎて肌をカサカサにすることがあるように、酸性の温泉も肌が弱い人には効きすぎてしまうことがあるとのことです。刺激という意味では、中性が一番少ないということでしょう。しかしアルカリ性や酸性は、それぞれ油分を取ったり、角質を柔らかくしたりと肌の汚れを落とし、肌をつるつるにしてくれる効果もあるということですね。
肌感覚

 

pHと肌

 温泉のpHとその特徴を見てみると、肌に最も刺激が少ないのは汗などと同じ中性ということになります。ただ、人の肌は弱酸性、だから洗顔料やボディソープは弱酸性が良い、というような広告も見たことがあります。弱酸性の洗顔料やボディソープが肌に良い、と言われる理由について、第一三共ヘルスケアのHP「健康美塾」では次のように説明されていました。

健康的な肌の表面は、pH(ペーハー)4.5~6.0の弱酸性に保たれています。肌は弱酸性のとき、角質層内の肌本来の保湿成分(天然保湿因子・NMF)が、もっとも水分を保持しやすくなる、という特徴があります。

また、肌が弱酸性のときは、肌表面の常在菌のバランスが安定するために、肌に対する刺激の原因となる悪玉菌の黄色ブドウ球菌など、雑菌の繁殖を防いでくれます*9

 健康的な人の肌はpH4.5~6の弱酸性であり、肌は弱酸性のときに最も水分を保持しやすくなるとのことです。さらに、弱酸性だと雑菌の繁殖も防いでくれるといいます。

弱酸性

(画像出典:知らないと損!洗顔料の「弱酸性」「アルカリ性」って結局何が肌にいいの? | cancam.jp)

 

しかし、肌もいつでも弱酸性ではないようです。

しかし、敏感肌・乾燥肌のような、肌表面の常在菌のバランスが崩れやすくなってしまった状態では、肌を弱酸性に保つ皮脂などが減少しているために、肌のpH(ペーハー)がアルカリ側に傾いてしまいます*10

 敏感肌・乾燥肌などの状態はアルカリ性側に肌が傾ていてしまっているといいます。更に気になる記述もありました。

ちなみに、肌に傷や湿疹ができてしまったときや、大量の汗をかいたりしたときは、肌のpH(ペーハー)がアルカリ性に傾いている状態です*11

 大量の汗をかいているときの肌はアルカリ性に傾ていているようです。サウナでは大量に汗をかきますから、サウナ浴中は肌がアルカリ性に傾く、ということでしょうか。肌がアルカリ性に傾くと「バリア機能」が乱れてしまい、細菌や微生物が繁殖しやすくなり、炎症や湿疹につながるそうです*12。よくない細菌はアルカリ性を好むため、肌を弱酸性に保つことが大事だそうです*13。だから洗顔料やボディソープは弱酸性がよいとされているのですね。サウナ好きは日常的に大量に汗をかきますから、大量の汗をかくと肌のpHがアルカリ性に傾くという情報は気になります。しかし、健康的な肌の場合は、pHがアルカリ性に傾いてもすぐに回復するようです。

健康的な肌の場合には、pH(ペーハー)のバランスが一時的に崩れても、30分ほどでpH(ペーハー)を弱酸性に戻すことができますが、バリア機能が低下している肌は、健康的な肌と比べ、弱酸性に戻るまでに時間がかかってしまうことがあるのです*14

 健康的な肌であれば、弱酸性に戻るということですが、サウナ浴中の肌はアルカリ性に傾く可能性があり、肌の「バリア機能」が低下しているかもしれない、と思っておいてもよいのかもしれません。

 

pHと水風呂 

 ここまで、温泉のpHと肌感覚について、人間の肌とpHについて見てみました。では水風呂はどうなのか、というところです。温泉のようにさまざまなpHの水風呂があり得るのでしょうか。

phと水風呂

(画像出典:「水風呂」の効果効能は?温度から時間まで正しい入り方を解説! | 温泉部)

 

 一休コンシェルジュの記事で参考値としてあげられていたように、水道水は中性です。東京都水道局のHPには、以下のように書かれています。

 pHの水道水質基準値(5.8〜8.6)は、水道施設の腐食等を防止する観点から、中性付近の値にあることが望ましいとして決められています。
 これは、化学的根拠に基づく基準ではなく、過去の実態調査で、自然水のpHがおおむね5〜9であるという結果に基づいています。

 なお、東京の水道水のpHは、平成25年度、平均7.6(6.8~8.1)でおおむね中性です*15

 水道水を中性の値にするのは、化学的根拠に基づくのではなく自然の水が中性だからだということです。

 実際、ミネラルウォーターのpHを見てみると、pH7~8のものがとても多いことがわかります。水広場のHPには、さまざまなミネラルウォーターのpHと硬度の値がまとめられています。硬度の値には幅がありますが、pHにはそれほど差がないことがわかります*16

 自然の水の多くが中性であり、それに合わせて水道水も中性になるようにしているとすれば、水風呂はほぼ全部中性ということになります。黒湯の水風呂のような、冷鉱泉の水風呂であれば中性ではない場合もあるかもしれませんが、こういう水風呂はかなりレアケースです。つまり、温泉はアルカリ性や酸性のものもあり、幅広いpHのものが存在するけれど、水風呂は基本的に中性、ということになります。つまり、水風呂の「水質」の違いを考える際にpHはあまり問題にならない、関係ないと言えそうです。

 

 今回はpHと肌感覚についてまとめてみました。水風呂は基本的にすべて中性ということであれば肌に刺激は少なく、水質の違いにpHはあまり関係ない、ということですね。地下水にせよ水道水にせよ、水風呂の水はほぼ全て中性ということで、pHは水風呂の水質を考える上では考慮しなくてよい要素だといえそうです。汗を大量にかくと肌がアルカリ性に傾く、ということであれば、刺激の少ない中性の水風呂がちょうどいいのかもしれませんね。pHは水風呂に入った肌感覚には大した影響を及ぼさないだろうということですが、他の項目についても引き続き考えていきます。

 

参考文献・資料

Tsuboi, Mika. 「温泉のpHが肌に与える効果とは?」『一休コンシェルジュ』2018年3月12日(最終アクセス日:2022年3月17日)

第一三共ヘルスケアホームページ「お肌をいたわる洗い方って?」(最終アクセス日:2022年3月17日)

東京都水道局ホームページ「トピック第5回 pH(ピーエッチ)とは?」(最終アクセス日:2022年3月17日)

日本温泉協会ホームページ「温泉分析書の見方」(最終アクセス日:2022年3月17日)

水広場ホームページ、「pH値(7以上?10.5未満)ミネラルウォーター 一覧」(最終アクセス日:2022年3月17日)

 

*1:日本温泉協会HP

*2:Tsuboi

*3:同上

*4:同上

*5:同上

*6:同上

*7:同上

*8:同上

*9:第一三共ヘルスケアHP

*10:同上

*11:同上

*12:同上

*13:同上

*14:同上

*15:東京都水道局HP

*16:水広場HP