「サウナと温度 座面温度の計測~男性サウナ室~」「サウナと温度 座面温度の計測~女性サウナ室~」では、サウナ室で私たちが実際に座っている位置の温度がどのくらいなのか計測した結果をまとめました。「サウナと湿度 計測できるのか」で、絶対湿度を個人で計測することは無理だということがわかりました。しかし、「サウナと湿度 計測~男性サウナ室~」「サウナと湿度 計測~女性サウナ室~」で得られた相対湿度の数字と、「サウナと温度 座面温度の計測~男性サウナ室~」「サウナと温度 座面温度の計測~女性サウナ室~」で得られた座面の温度の数字を使えば、絶対湿度を計算で出すことができます。今回は、湿度計測で選んだ10施設の男性サウナ室の絶対湿度を算出してまとめます。
サウナ室の絶対湿度
フィンランドのサウナ室の絶対湿度について、Niilo Teeriの"The Climatic Conditions of the Sauna"では40g/kg~60g/kgが適切であるとされています*1。
According to several investigations, the normal humidity of the sauna should be in the range of 37…43℃ wet temperature, i.e. 40…60 g of water per air kilogram. *2
(いくつかの調査によるとサウナ室の通常の湿度は、37〜43℃を露点温度とする範囲、つまり空気1kgあたりに40g~60gの水分量の湿度であるべきなのです。)
1kgの空気中に40g~60gの水分量、つまり絶対湿度40g/kg~60g/kgが適切だと言うのです。これは、サウナ室であたたまった人の皮膚表面が43℃前後であると考えて、それを基準に高すぎず低すぎない湿度帯を出した数値です。これよりも湿度が高いと汗の蒸発を妨げるだけでなく、皮膚表面で結露を起こしてしまう可能性もあるためだとされています。また、これ以上湿度が低いとカラカラすぎて、汗もすぐに蒸発してしまい、皮膚に負担がかかると考えられます*3。つまり、サウナ室の絶対湿度は40g/kg~60g/kgが高すぎず低すぎない範囲とされているのです。人の体温を考慮すると、この範囲であれば快適であると言えるのかもしれません。
実際に、サウナ室の絶対湿度は40g/kg~60g/kgの間の数値になるのでしょうか。計測した相対湿度と、座面温度をもとに計算してみました。絶対湿度の単位について、論文ではkgを使っていますが、この記事では㎥を使います*4。絶対湿度の単位はkgで表すことと㎥で表すことがあり、どちらもほとんど値は同じであるということは「サウナと湿度 湿度と温度」で確認しました。
絶対湿度の算出方法
絶対湿度は、実際にその空気中に含まれている水分量です。相対湿度は、その温度の空気が含むことができる最大量のうち、今含んでいる水分が何割なのか、という割合です。温度がわかっていれば、その空気が含むことができる水分の最大の量(飽和水蒸気量)を算出できます。更に、相対湿度がわかっていれば、その相対湿度の時に実際に含んでいる水分の量が飽和水蒸気量の数値から計算できます。
例えば、90℃の空気の飽和水蒸気量は418.323g/㎥です。これが相対湿度100%の時の水分量ということになります。なので、90℃の空気で相対湿度が50%でれば、実際に空気中に含まれる水分量は418.323g/㎥の半分、209.1615g/㎥ということになります。
つまり、絶対湿度は次のような計算で算出できるということです。
その温度の飽和水蒸気量(g/㎥)×相対湿度(%)
温度には計測した座面温度の数値を用いて、各温度の飽和水蒸気量は宮城教育大学大気科学研究室のサイトを使って算出し、計測した相対湿度の数値を使って、10施設の絶対湿度を算出し、マッピングしてみました。
絶対湿度の計算結果
絶対湿度を算出した結果は以下のようになりました。
カプセル&サウナ ロスコの相対湿度は市販の湿度計では精緻な値の計測が難しいためか、実際にはあり得ない値になりましたが、複数回かつ湿度計も替えて計測した結果が一貫して0%ということから、湿度は他の施設と比べて「低」いということが言えます。
座面温度と絶対湿度の分布
計算で得られた絶対湿度をもとに、座面温度と絶対湿度の値でマッピングをしてみました。
フィンランドのサウナ室において快適とされている湿度帯に含まれるもしくはその近辺に位置する施設と、それよりも低い湿度帯に位置する施設と、おおよそ半々に分かれる形で分布されました。
座面温度と絶対湿度の特徴から、以下のように4つに大別できそうです。
グルーピング
Aの4施設は、湿度は低いものの温度は高いため、しっかりと体を温めることができ汗もかける、いわゆる昭和ストロングスタイルと呼ばれるカラカラなサウナ室群と言えるでしょう。オリエンタルとサウナセンターではロウリュも実施されていますが、温度が高いため非常に熱いロウリュを味わうことができます。
この湿度帯でもう少し温度が低い場合、カラカラでマイルドな体感となり、体もなかなか温まりにくく汗もかきにくいサウナ室になりそうです。
Bは、中温で湿度がほどよくあり、ロウリュすることにより、更に体感が熱くなるサウナ室群と言えるでしょう。マルシンスパとスカイスパYOKOHAMAは通常時の熱さには少し物足りなさも感じますが、ロウリュ実施時には体感の熱さがアップし、発汗も十分できます。ロウリュありきのサウナ室とも言えそうですが、フィンランドのサウナ室も似たような体感なのでしょうか。
しかしアダムアンドイブについては、Bの他の施設とは異なる体感であり、「サウナと温度 座面温度の計測~男性サウナ室~」で述べたようにそもそも体感温度はもっと高く感じます。絶対湿度を算出しても相変わらず謎が多いサウナです。
Cは、高温高湿のため、ロウリュなしでも体感の熱さは十分です。草加健康センターはこの状態からロウリュをやるため、一時的に更に熱い体感になります。AとBのグループは人によってそれぞれ好みが分かれることもありますが、このCのグループは万人に人気な施設が多いのではないでしょうか。
Dは、温度も湿度も極端に高い位置にあると言えます。このセッティングのサウナ室は関東でも数えるほどしかなく、本当にガツンと熱い熱を体感できるでしょう。
絶対湿度と温度を使ってマッピングするにあたり、40g/kg~60g/kgが快適であるというフィンランドのサウナ室に関する文献を使い、一つの基準としました。しかしフィンランドで快適とされている湿度帯が本来あるべき姿で、それに合わせる必要があると言うつもりはまったくありません。個人の好みによって快適である・好ましいと感じるサウナ室のセッティングは様々であり、Saunology管理人個人としてもそれぞれのグループに好きなサウナ室がたくさんあります。
昨今、日本特有の、特にAのグループのような高温低湿のサウナ室は本場フィンランドとは異なるという意見もよく聞きます。絶対湿度の値からもこれはその通りだと言えますが、フィンランドのようにゆっくりとサウナ室に入るという時間的余裕が日本人にはなく、短時間でがっと汗をかけるサウナ室が求められ、ローカライズされてきたという見方もあるのではないでしょうか。
日本のサウナ室にはテレビがあることをおもしろおかしく取り上げたり、その賛否について意見が交わされることもありますが、日本のサウナを語る上でそれは些末なことで、昭和ストロングスタイルと言われる熱くカラカラなサウナ室から本場フィンランドに近い低・中温で高湿なサウナ室まで、様々なタイプのサウナ室を楽しめるのが日本のサウナ文化の大きな特徴であり、魅力なのではないでしょうか。
次回は女性の施設の算出結果を紹介します。
参考文献
Teeri, Niilo. (1976) "The Climatic Conditions of the Sauna", Teir, H., Collan, Y. and Valtakari, P., Sauna Studies. Ⅵ International Sauna Congress, Helsinki, August 15-17, 1974. pp.113-120.
参考資料
宮城教育大学大気科学研究室、「大気中の水蒸気についてのいろいろな計算」(最終閲覧日:2019年3月30日)
*1:Teeri, p.115
*2:Teeri, p.115
*3:Teeriの研究はフィンランドのサウナ室についての考察だが、サウナ室の温度は80℃~110℃であるとしており、絶対湿度の数値をこのまま参考にして差し支えないと考える
*4:飽和水蒸気量を算出する宮城教育大学大気科学研究室のサイトが㎥を使っているため。