Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナと結露・潜熱 潜熱の量

 「サウナと結露・潜熱 汗と結露の割合 」では、ロウリュをした時の汗と結露による水分との割合について検証した論文を紹介しました。割合がなんとなくわかると、次に気になるのはそのくらい結露が生じた時、人の皮膚表面ではどのくらいの潜熱が発生するのか、ということです。今回は、潜熱の量について考察してみます。

 

サウナ室の結露と潜熱

 サウナ室で実際に結露が発生していることが確認でき、Zechらの論文によって汗と結露による水分の割合も、幅はあるとは言えおおよそわかりました。そうなると気になるのが、そのくらい結露が生じた時、実際に私たちの皮膚表面でどのくらいの潜熱が発生しているのかということです。

サウナの結露と潜熱の疑問

 

 「サウナと結露・潜熱に関する論文」で紹介したVesalaの論文でも潜熱は算出されていましたが、サウナ室全体で発生し得る潜熱量でした。ここまで見てきたことをもとに、大まかな数値になりますが、皮膚表面で生じる潜熱の量について考えてみたいと思います。

 

サウナでかく汗の量

 Zechらの実験では、身体についた水分のうち、少ない場合で14%、多い場合で67%が結露による水分だという結果になったとのことでした。皮膚表面で発生する潜熱の量を考えるには、ロウリュ後に身体につく水分がどのくらいなのかということを考える必要があります。そのために、まずはサウナ浴でどのくらいの汗をかくのか考えてみます。

 そもそも人は1日にどのくらい汗をかくのでしょうか。冬よりは夏の方が、運動しないよりはした方が汗をかくと考えられますが、夏に安静に過ごす運動習慣のない成人男性では、「一日の発汗量は1~2リットル、多少筋活動する人では2~3リットル程度」*1とされています。しかし、条件や発汗習慣によっては、1日15リットルという記録もあり、1時間当たりの最大量は男性で1.5~2リットルであるが短時間であれば2~3リットルの記録も可能だとされています*2

 では、サウナに入るとどのくらいの汗をかくのでしょうか。日本サウナ・スパ協会は、1回のサウナ浴で出る汗の量は「約300~400mℓ」*3であるとしています。「サウナと湿度 絶対湿度の算出~男性サウナ室~」などで引用したNiilo Teeriの論文では、成人男性であれば1時間に1~2kgの汗をかき得るとされており、3人の男性が20分サウナ室にいれば合計1kg以上の汗がサウナ室で発生する、と考えられています*4。つまり1人で20分くらい入るとしたら333mℓということになります。15分のサウナ浴で1.1ポンドの汗をかく、と書いているものもあります*5。1ポンド=0.4kgなので1.1ポンド=0.495kg、つまり約0.5ℓ、約500mℓの汗ということです。

 個人差もあればサウナ室のセッティングにもよりますが、1回のサウナ浴で大体300mℓ~500mℓの汗をかくと考えてよさそうです。まとめると以下のようになります。

サウナでかく汗の量

 

 Zechらの実験では、500mℓの水をかけてロウリュをし、8分以内で人とボトルに付着した水分を採取して汗と結露の水の割合を調べていました。じっくり10分~15分入るのではなく、ロウリュをしてすぐに採取した時に身体に付着する水分ということで、仮に汗の量を200mℓとして潜熱の量を計算してみます。

 

潜熱のエネルギー

 「サウナと結露・潜熱に関する論文」で紹介したVesalaの論文では、100gの水をかけてロウリュをした時、サウナ室全体ではロウリュによる熱さが持続する30秒間、毎秒7700Jの潜熱が発生していると算出されていました*6。一方、Zechらの論文では、5倍の500mℓの水をかけてロウリュをし、汗と結露の水の割合を算出していました。

 Vesalaの論文で使われている2.3×10の6乗という計算式を用いて、汗が200mℓで、身体についた水分の14%が結露した時、67%が結露した時の潜熱量を計算すると、14%の場合が2,496J、67%の場合が31,131Jになります。つまりロウリュによって熱さを感じる30秒の間、毎秒2,496~31,131Jのエネルギーが発生する、ということです。14%が結露による水分の場合、皮膚で発生する潜熱の総量は74,883J、67%の場合933,939Jになります。これをkcalに換算すると、14%の場合が約18kcal、67%の場合が約223kcalになります。kcalは、1ℓの水を一瞬でこの温度まで上げるだけのエネルギーということなので、14%の場合は1ℓの水を一瞬で18℃まで上げるだけのエネルギー、675の場合は一瞬で223℃まで上げるだけのエネルギーが合計で生じるということになります。これもロウリュの熱さの持続時間30秒で割ると、14%の場合が1ℓの水を一瞬で0.6℃上げるエネルギーが毎秒発生し続け、67%の場合7.4℃上げるエネルギーが毎秒発生し続けるということになります。あくまで大まかな計算ではありますが、まとめると以下のようになります。

サウナの潜熱のエネルギー

 

潜熱の熱さ

 ここで算出した値は汗の量も仮定のもので正確なものではないですが、あくまで、汗の量が200mℓだったとして、Vesalaの用いた計算式を応用すると、身体につく水分のうち14%・67%結露が生じたとすればそれくらいのエネルギーが発生し得る、ということです。

 ロウリュを受ける時も、私たちは当然、ヒーターからの熱の熱さを感じています。 また、「サウナのロウリュが熱い仕組み①」で見たように、ロウリュが熱い仕組みには潜熱だけでなく水蒸気の対流もあります。これらによる熱さに加えて、潜熱による熱さも皮膚表面で感じているということです。

 実際に、湿度の低いカラカラのサウナ室でのロウリュサービスは熱いと体感している人も多いかもしれません。「サウナのロウリュの湿度計測」で見たように、施設によるロウリュサービスでは一気に湿度が上昇します。例えばニュージャパンスパプラザでは26%、ニュージャパンレディスサウナでは28%も相対湿度が上がっていました。室内の温度や皮膚表面の温度にもよりますが、一気に湿度が上がれば、皮膚表面での結露も多くなると考えられます。つまり潜熱の発生する量も多くなり、ヒーターの熱だけでは味わえない熱さが生まれると考えられます。ロウリュの前にドアを開けるのは換気や温度調整などの意味もあるのでしょうけれど、湿度調節にも関係しているかもしれません。

 ロウリュの時、退室しようと動くと更に熱いというのも、動くことで新たな結露・潜熱が生じるためと考えられます。顔をタオルで覆うと楽になるのも、皮膚表面での結露を防ぐことができていると考えられ、確かに潜熱による熱が発生しているのだなと感じられます。

 

 今回はロウリュによって実際にどのくらいの潜熱が皮膚表面で発生し得るか考察してみました。結露する量も、潜熱量も正確な数値を出すことはできませんが、ロウリュが熱い理由がよくわかりました。ヒーターからの熱だけではない種類の熱を感じられるところが、ロウリュのあるサウナの贅沢なところですね。 

  

 参考文献

Teeri, Niilo. (1976) "The Climatic Conditions of the Sauna", Teir, H., Collan, Y. and Valtakari, P., Sauna Studies. Ⅵ International Sauna Congress, Helsinki, August 15-17, 1974. pp.113-120.

Quora (2017), "Does sweat from a sauna excrete salt as fast as sweat from exercise?"

Vesala, Timo. (1996) "Phase Transitions in Finnish Sauna", Nucleation and atmospheric aerosols. Eds. M.Kulmala and P.E.Wagner, Pergamon, pp.403-406

日本サウナ・スパ協会、「知っておきたいサウナ・スパの健康知識」、『サウナ・スパ健康アドバイザー 公式テキスト』

 

 

*1:菅屋、p.16

*2:同上

*3:日本サウナ・スパ協会、p.18

*4:Teeri, p.119

*5:Quora

*6:Vesala, p.404