Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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ストーンのサウナはカラカラ?

 「遠赤外線サウナについて考えてみよう」では、遠赤外線サウナについて海外の広告なども見ながらまとめてみました。伝統的なサウナ、つまりストーンを使ったサウナと遠赤外線サウナを比較した記事に、ロウリュをしなければストーンを使ったサウナの方が遠赤外線サウナよりも湿度は低いという記述がありました。今回は、ストーンを使ったサウナと湿度、ロウリュの関係について考えてみます。

 

ストーンのサウナはカラカラ?

 「遠赤外線サウナについて考えてみよう」で引用したCraig Lahtiの"How to Compare Traditional vs Far-Infrared Sauna"(伝統的サウナと遠赤外線サウナを比較する方法)には、次にように書かれていました。

The traditional sauna will be drier (10% or lower) until water is sprinkled over the rocks*1.

(伝統的なサウナは水を石にかける前にはもっと低い湿度(10%以下)になります。)

 この記事によると、遠赤外線サウナがずっとスイッチを「オン」にしていない限り通常の部屋と同じくらいの湿度になるのに対して、伝統的なストーンを使ったサウナは水をかけなければそれよりも低い湿度になるというのです。10%以下になると言いますが、過去の湿度計測結果などからも、これは比較的湿度の低いサウナにあたる数値と言えます。例えば「サウナと湿度 計測~男性サウナ室~」「サウナと湿度 計測~女性サウナ室~」で計測した男女10施設の相対湿度を見ても、10%以下というのは湿度が低いサウナ室、カラカラのサウナ室であると言えます。遠赤外線サウナに比べて、ストーンのサウナの方が湿度が低くなるのはどうしてなのでしょうか。

 

ストーンを使ったサウナがカラカラになる仕組み

 ストーンを使ったサウナの湿度が低くなる理由として、まず湿度と温度の関係があります。「サウナと湿度 湿度と温度」でも見たように、空気は温度が高くなるほどたくさんの水分を含むことができます。相対湿度は、その空気中に含むことができる最大の水分量(飽和水蒸気量)に対して、今何割の水分が空気中に含まれているかという割合です。この相対湿度が普段我々が体感できる湿度です。サウナの温度と湿度

 

温度が高くなれば、含むことのできる水分の総量が大きくなるので、総量に対して何割の水分が含まれているかをあらわす相対湿度は、温度が高いほど低くなります。

 ストーンを利用したサウナは主に対流熱で温まると考えられます。石を温めることで、空気が熱い石に触れます。空気は温度が高くなると軽くなるので、温められた空気は上にあがっていきます。正確には、温められていない重たい空気が下におりてくるため、軽くなった温められた空気は上に押し上げられます。下におりてきた温められていない空気が石に触れ、温まり、上に押し上げられる、これを繰り返して、空気が石に触れることで温められ、熱が空気に乗って人のところまで運ばれるのがストーンを使ったサウナが温まる仕組みです。空気によって運ばれる熱、つまり、対流熱で温まるということです。

ストーンサウナ

 

 ストーンを使ったサウナでは、空気全体を温めることになるために湿度が下がると考えられます。空気が温められた石に直接触れるということも、湿度が下がることと関係があるかもしれません。

 実際に、ストーンを使ったサウナは水をかけなければカラカラであることが指摘されています。先に挙げたLahtiの記事の他にも例えば、"What is the perfect sauna humidity? Forget hygrometers!"(サウナの完璧な湿度とは?湿度計は忘れよう!)という記事にも次のような記述があります。

Without applying water on the rocks, it will only give "dry" heat. Without doing the löyly, the humidity in a Finnish type sauna would be around very dry 5-15%*2.

(石に水をかけないと、「乾いた」熱しか出ません。ロウリュをしないと、フィンランド式サウナの湿度は5~15%と非常に低くなります。)

 遠赤外線サウナよりストーンを使ったサウナの方が湿度が低いことには、対流熱と輻射熱の違いと関係がありそうです。


対流熱と輻射熱と湿度の関係

 遠赤外線サウナは「遠赤外線サウナについて考えてみよう」で詳しく見た通り、対流熱ではなく輻射熱によって身体が温まる仕組みです。空気に乗って熱が運ばれてくる対流熱とは異なり、輻射熱は空気などの物質を介さずに直接身体に届く電磁波です。Debra Rose Wilsonによる"Is an Infrared Sauna Better Than a Traditional Sauna?"(遠赤外線サウナは伝統的なサウナより良いか?)では、遠赤外線サウナでは80%の熱が身体を温めるのに使われ、空気を温めるのは20%に過ぎないことが指摘されています*3。つまり、空気に及ぼす影響が少ないということになります。空気をそれほど温めずに直接身体を温めることができるので、熱効率がよく、ストーンを使ったサウナに比べて低い温度で発汗ができるというのが遠赤外線サウナの売りでした。

 湿度は空気の温度との関係で決まるので、空気をあまり温めない遠赤外線サウナの方が相対湿度が高くなるということです。また、熱い石に空気が触れるようなこともなく、電磁波が身体に届く仕組みなので、空気中の水分が奪われるということもあまりないと考えられます。

 ストーンを使ったサウナと遠赤外線サウナの湿度の違いは、その熱の仕組みの違いが原因であると言えそうです。暖房器具でも、エアコンは他のものよりも乾燥すると感じる人が多いかもしれません。ウェザーニュースの「エアコンを使うと乾燥してしまう理由」には、エアコンを使うと乾燥する理由についてまとめられています。温度と湿度の関係から、部屋の温度が上がれば湿度は下がるわけですが、エアコンの場合なぜ顕著に乾燥を感じるのか、次の理由が挙げられています。

1.エアコンは空気の温度を上げるのが全てなのに対し、ストーブ等は赤外線で体を直接温める効果もあるため
2.空気の循環により肌から水分が奪われやすくなるため
3.やかん等で加湿が出来ないため*4

 1つ目はまさにストーンを使ったサウナと遠赤外線サウナの違いです。遠赤外線で身体を直接温める効果のあるストーブに対して、空気の温度を上げるエアコンは乾燥しやすいということです。

 

ロウリュありきの伝統的サウナ

 水をかけなければ、つまりロウリュをしなければ、ストーンを使ったサウナは遠赤外線サウナよりカラカラになるということがわかりました。"What Are Sauna Stones and How Do They Work?"(サウナストーンとは?どんな機能?)という記事で、ストーンの役割は次の2点であるとされています。

1. Absorb and retain heat.
2. Produce steam.

(1.熱を吸収し、保つ

  2. 蒸気を発生させる)

 つまり、部屋の温度を上げることと、湿度を上げることがストーンの役割というわけです。

Since they’re thermally conductive, sauna stones will accomplish the first of those two functions simply by sitting in the sauna. (中略)As they slowly release that heat back into the air, they serve to keep your sauna nice and toasty. To complete their second function of producing steam, sauna stones need to come into contact with water. This can be accomplished by ladling water onto the rocks periodically — most dry sauna users keep a bucket and ladle in their sauna for this very purpose.

 

(サウナストーンは熱を伝えるので、2つのうち1つ目の役割はただサウナ室で座っているだけで果たされます。ストーンはゆっくりその熱を空気に放出するので、サウナ室を暖かく快適に保ちます。蒸気を発生させるという2つ目の役割を果たすためには、ストーンが水と接する必要があります。これは定期的にストーンに水をかけることによって達成されます。このために、ドライサウナの利用者はラドルとバケツを持って入るわけです。)

 何もしなくても、ストーンはサウナ室を温めるという役割を果たし、人が水をかけることによって蒸気を発生させるという2つ目の役割を果たすというわけです。ストーンには温度と湿度に関わる役割があり、それに関連して、ストーンの大きさにはばらつきがある方が良いことも指摘されています。

Bigger stones hold more heat, while smaller react quicker to the water when turning it into vapor. Combination of different sizes of rocks is the best*5.

 (大きい石はより熱を保持し、一方小さい石は水をかけた時にすぐに反応して蒸気を発生させます。異なる大きさの石を混ぜるのがベストです。)

 先に挙げた"What is the perfect sauna humidity? Forget hygrometers!"には、カラカラでもあり湿度が高くもあるストーンを使ったサウナの湿度について次のように書かれています。

We often get asked if the traditional Finnish sauna is a wet or dry sauna? The answer is it's both! That's why no one can tell you what the correct humidity level should be. (中略)Without applying water on the rocks, it will only give "dry" heat. (中略) Add water into those stones, and the humidity rockets closer to 100%, just temporarily. That's why this kind of a sauna is both wet and dry sauna in one!

(伝統的なサウナは湿度のあるサウナなのか、湿度の低いドライサウナなのか?とよく聞かれます。答えは両方です!それが、サウナ室の湿度がどのくらいであるべきかということが言えない理由です。(中略)石に水をかけないと、「乾いた」熱しか出ません。(中略)水をかけると、湿度が100%に近づきます。だから、このタイプのサウナは湿度の高いサウナ、低いサウナ両方を兼ね備えているのです。)

 つまり、ロウリュをすれば湿度は上がるけれど、しなければカラカラのサウナというわけです。湿度のあるサウナにもカラカラサウナにもなり得るというところがストーンを使ったサウナの特徴というわけです。そう考えると、ロウリュをしなければストーンを使ったサウナは本領を発揮できないと言えます。

 もちろん、必ず水をかけなければいけないということではありません。湿度を高くも低くもできる、というところが良さだと言えるでしょう。カラカラで入りたい人はロウリュをしなければ良いわけです。

The question is whether you want the humid hot temperature feeling or a dry hot heat feeling? It is just a matter of choice*6.

(問題は、湿度のある熱さを感じたいのか、乾いた熱さを感じたいか、ということです。単純に選択の問題です。)

 要は入る人の好みということです。カラカラの熱さも湿度のある熱さも楽しめる、利用者がそれを選択できるのがストーンを使ったサウナの魅力なわけです。

 とはいえ、日本ではロウリュができるサウナ室は限られています。ただ、それは電気式で水をかけると故障するからではないようです。"USING WATER ON AN ELECTRIC SAUNA HEATER"(電気式サウナヒーターの水の使用)という記事では、電気ストーブのサウナでもロウリュができると書かれています。

Did you know that it is a myth that a sauna heater can not be used with water? As a mater of fact all electric sauna heaters can be used with water.(中略)No commercial sauna would be wired in such a way that water on the rocks could provide a shock. Sauna heaters have been designed to produce steam by adding water on the sauna rocks*7.

(サウナヒーターは水をかけて使えないというのが神話だと知っていますか?実際、すべての電気式サウナヒーターは水をかけて使うことができます。(中略)商用サウナを石にかけた水が衝撃を与えるようなつくりで配線をすることはありません。サウナヒーターは、サウナストーンに水をかけて蒸気を発生させるように設計されています。)

 つまり電気式のサウナストーブであっても、ロウリュをすることは可能ということです。カラカラのサウナ室にしたいか、湿度のあるサウナ室にしたいか、という好みによって本来はどちらにもできるということです。

サウナストーンとロウリュ

(画像出典:Heaters 4 Saunas)

 

 もちろん、水をかけすぎれば故障や事故につながりますし、利用者側のリテラシーが必要になってきます。上記のHeaters 4 Saunasによる記事にも、水をかけすぎると火傷をするので必ずラドルを使って適量かけるようにと書かれています。また、水をかけることがヒーターの寿命を短くする可能性もあるため、それで許可しないところもあるとも書かれています*8。ただ、商用のサウナは水をかけて壊れるようなつくりにはなっていないということです。

 電気ストーブにロウリュをしたら壊れる、と思っている人も多いかもしれませんが、そういうわけではないのです。当然、施設側が「水をかけないで」としている、セルフロウリュ可にしていない場合は故障しないからと言って水をかけてはいけません。言うまでもなくそれは提供する側の決めたルールに従うのが当然です。

 しかし、構造上かけてはいけないわけではないということは、多くの人が、どの程度かけて平気なものか、どのくらいかけるとどのくらい蒸気が発生するかなど、サウナに関するリテラシーを身につけられれば、セルフロウリュを許可する施設も増えてくるかもしれません。

 漫画「サ道」で「日本のカラカラサウナは間違っている」というような記載もありましたが、「日本の」サウナが間違っているというより、ストーンを使ったサウナでロウリュをしないのは本領が発揮できていない、役割の半分しか果たせていない点で正しくない、ということなのかもしれません。

 

 今回は、ストーンを使ったサウナの湿度とロウリュについて考えてみました。文化的に、本場はロウリュができて良い、ということはよく耳にしますが、そもそも仕組みを考えるとロウリュなしではストーンを使ったサウナというのは本領を発揮できないということですね。

 

 

参考文献

Aqua Living Stores, "What Are Sauna Stones and How Do They Work?" (最終アクセス日:2020年5月9日)

Divine Saunas, "What is the perfect sauna humidity? Forget hygrometers!"(最終アクセス日:2020年5月9日)

Heaters 4 Saunas, "USING WATER ON AN ELECTRIC SAUNA HEATER" (最終アクセス日:2020年5月9日)

MY OWN SAUNA, "STONES IN THE SAUNA"  (最終アクセス日:2020年5月9日)

ウェザーニュース「エアコンを使うと乾燥してしまう理由」2019年2月5日、(最終アクセス日:2020年5月9日) 

 

*1:Lahti

*2:Divine Saunas

*3:Wison

*4:ウェザーニュース

*5:MY OWN SAUNA

*6:Heaters 4 Saunas

*7:同上

*8:同上