Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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サウナにおけるロウリュと湿度

 「サウナのロウリュが熱い仕組み①」「サウナのロウリュが熱い仕組み②」では、ロウリュがなぜ熱いのかを見てきました。ロウリュをすると湿度が上がるわけですが、実際にロウリュによって上昇する湿度はどのくらいなのでしょうか。ロウリュと湿度の変化について考えてみます。まず今回は、フィンランドのサウナ室の湿度についてまとめます。

 

ロウリュと湿度

 「サウナと湿度 絶対湿度の算出~男性サウナ室~」でもとりあげたNiilo Teeriの論文では、サウナ室の絶対湿度は40g/kg~60g/kgが快適であるとされていて、Teeriはロウリュによってこの湿度帯にすることが可能だと言います。そして、ロウリュによって絶対湿度は一時的に100g/kgまで上がるとも指摘しています。

This is achieved by throwing water on the stones, the humidity can temporarily rise into the rage around 100g/kg (中略) Good ventilation ensures a fast levelling down about 60g/kg...

(これはストーンに水をかけることによって達成されます。水をかけると、絶対湿度は一時的に100g/kgあたりまで上がります。(中略)換気が良いと、すぐに60g/kgくらいまで下がります。)*1

 サウナストーンに水をかけることで、絶対湿度は一時的に100g/kgまで上がり、換気によってすぐに快適な60g/kg程度に下がると言うのです。換気などですぐに下がるとはいえ、ロウリュは一時的にサウナ室内の絶対湿度を100g/kgまで上げることができると考えられます。

 

フィンランドのサウナ調査

 Teeriは快適な湿度はロウリュによって保たれると言います。利用者が自分でロウリュをするセルフロウリュは、日本の温浴施設ではできるところが限られていますが、フィンランドではロウリュをしながら入るのが普通のようです。

 ロウリュをしながら入るフィンランドのサウナ室の湿度はどのくらいなのでしょうか。1970年代にTeeriがまとめたように、40g/kg~60g/kgの範囲内なのでしょうか。フィンランドのサイトSaunologia.fiの湿度に関する記事を見てみました。

 Saunologia.fiの記事によると、フィンランドのサウナ研究ではサウナ室の理想的な条件を測定する・決定することが目的の一つとされてきたようです。フィンランドでは、戦後すぐの1947年にスモークサウナの計測など、研究が始められています。1940年代の研究については、カイヌー県のスモークサウナの調査結果などが残っています。この調査によると、当時のスモークサウナの平均温度は76℃、平均相対湿度は29%だったそうです。計算すると、絶対湿度は72g/kgになります。当時、スモークサウナ以外のサウナについても調査が行われており、そちらは平均温度が62℃、平均相対湿度は49%で、計算すると絶対湿度は69g/kgになります。つまり、1940年代のフィンランドのサウナ室の湿度は、大体70g/kgであったと言えるようです。Saunologia.fiでは、これは後のサウナ室の調査や現代のサウナ室の調査結果と比べて非常に湿度が高い状態だと言えると指摘されています。

 そして、ここでも引用しているTeeriの研究などが出てきます。Teeriの論文は1970年代のものです。湿度に関しては既に引用してきましたが、Teeriは同じ論文でサウナ室を構成する要素を4つに分けて考察しています。この論文については別の記事で詳しくまとめます。

 

今のフィンランドのサウナ室の湿度は?

 より最近の研究としてSaunologia.fiの記事の中ではHelmaraの研究によるグラフが引用されています。今のフィンランドのサウナ室についてうかがい知ることができるのはこの研究だと言えるでしょう。Helmaraの研究によると、フィンランドのサウナ室の湿度は以下のグラフのようにまとめられるそうです。 

フィンランドのサウナの湿度

(画像出典:Saunastandardit ja löylyvakiot – Lämmön ja ilmanvaihdon suosituksia, Saunologia.fi)

 

 Saunologia.fiの記事によると、以下のようにグルーピングされるとのことです。

A:フィンランドで推奨される領域

B:ドイツで好まれる領域

C:1980年代~90年代のフィンランドの住宅サウナの実測結果(個人用のサウナ)

D:1980年代~90年代のフィンランドの住宅サウナの実測結果(数名が入ることができるシェアサウナ)

これらは比較的最近のフィンランドのサウナ室の調査結果と言えるでしょう。この結果から、Saunologia.fi管理人は今のフィンランドのサウナ室の典型的な湿度は20g/kg~50g/kgの間だと言えると教えてくれました。Teeriが快適であるとする40g/kg~60g/kgより少し低めの絶対湿度になりますが、日本のサウナ室の絶対湿度も施設によって様々であったように、フィンランドのサウナ室にもバリエーションがあるということでしょう。

 同じグラフでEとFを除いたものが『サウナをつくろう:設計と入浴の全て』(1992)にも引用されていて、

サウナの温度と湿度の関係で様々な好みの範囲を示したグラフ。Aはフィンランド人が一般に好む温度、湿度の範囲。フィンランド人は100℃位の高温のサウナを好む。Bはドイツ人が好む範囲で湿度はやや低い。次にサウナの規模に応じた快適な温度をみると、Cは個人用の小規模サウナで低温度が好まれる。Dは3~4人が入浴できる住宅の一般的なサウナで、温度はAとCの中間である。このようにサウナの規模が小さくなるにしたがって、低い温度を快適と感じるようになる*2

と説明されています。

 Saunologia.fiの解説を見ると、Aは"suomalainen suositus"とされており、フィンランドの「おすすめ」「推奨」といったニュアンスのようです。Bはドイツで"suositu"、「人気のある」「好まれる」領域だと言えそうです。また、これらに対してCとDはどちらも"tutkimustulos"「調査結果」であるとされていて、Aはフィンランドで推奨されている領域、Bはドイツで人気のある領域、CとDは実際の計測結果を示したグラフであると解釈できそうです。Saunologia.fiの記事では、Aの推奨の領域とC・Dの計測結果(実態)とは必ずしも一致していないことについてもコメントしています。

 

 また、Saunologia.fiは珍しいデータが取れたと以下のグラフも共有してくれました。Kaken grilliというサウナ室での計測結果です。

 フィンランドのサウナの湿度

(画像出典:Kaken grilli ja kovien löylyjen kundit, Saunologia.fi)

 

 青線が湿度(%、右軸)、赤線が温度(℃、左軸)、緑線が露点温度(℃、左軸)を示しています。Kaken grilliはフィンランドで典型的なセッティングのサウナ室ではなく、これは珍しい計測結果だそうです。Saunologia.fiによると、Kaken grilliの露点温度は68℃で、これは計測してきた中で最高値だそうです。他の熱いサウナ室でも、露点温度は通常50℃以下だったと言います。フィンランドによくあるサウナ室のセッティングではなく、かなり稀なケースだとのことですが、ロウリュをする度に湿度が上がっているのがわかります。変化が大きいところでは、ロウリュによって20%ほど相対湿度が上がっています。こういうセッティングのサウナ室もフィンランドにはあるのですね。

 

 今回は、ロウリュをしながら入るフィンランドのサウナ室の湿度についてSaunologia.fiの記事をもとにまとめました。日本のサウナ室でロウリュをする前と後とではどのくらい湿度が変化するのでしょうか。次回は、Saunology管理人が日本で計測した結果をまとめます。

  

参考文献

Saunologia.fi.(2016) "Saunastandardit ja löylyvakiot – Lämmön ja ilmanvaihdon suosituksia", (最終閲覧日:2019年5月6日)

Saunologia.fi.(2019) "Kaken grilli ja kovien löylyjen kundit", (最終閲覧日:2019年5月6日)

Teeri, Niilo. (1976) "The Climatic Conditions of the Sauna", Teir, H., Collan, Y. and Valtakari, P., Sauna Studies. Ⅵ International Sauna Congress, Helsinki, August 15-17, 1974. pp.113-120.

沼尻良(1992)『サウナをつくろう:設計と入浴の全て』、建築資料研究社

 

*1:Teeri, p.115

*2:沼尻、p.63