Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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サウナのロウリュが熱い仕組み①

 ロウリュをすると湿度・体感温度が上がり、どばっと汗が出ます。サウナ室の温度が上がっているわけではないのに、ロウリュが熱いのはどうしてでしょうか。そこには2つの秘密があるようです。今回はロウリュの仕組みを考えてみます。

 

ロウリュとは?

 ロウリュはフィンランド語(löyly)で、熱したサウナストーンに水をかけて蒸気を発生させる入浴方法のことです。辞書の定義は以下のようなものです。

サウナ風呂の入浴法の一。熱した石に水をかけて蒸気を発生させ、発汗作用を促進する。*1

サウナでロウリュをする画像

(画像出典:ウォーカープラス「たっぷり汗をかいてすっきり爽快!名古屋で楽しめる注目のサウナ3選」

 

 ロウリュをする目的は何でしょうか。サウナ室の湿度が極端に低いと、粘膜が痛んだり耳や手足の先が熱くなりすぎて身体に害があります。一方、湿度が高すぎると汗が蒸発しにくく、熱くなりすぎて入っていることができません。サウナ室の湿度は、身体を保護するために低すぎない範囲でできるだけ高いのが理想的であるとされています。湿度を高くする方法の一つに、ロウリュがあるということです。

 サウナ室を常に適度な湿度に保つのではなく、ロウリュによって湿度を上げることについて『サウナあれこれ』では以下のように説明されています。

サウナ室の通常の状態を「乾」とすれば、ロウリュの時は「湿」の状態になります。絶対湿度でみれば、スチームバスより高い湿度になります。この「乾」と「湿」の繰り返しこそ、他の入浴方法にないサウナの楽しみと思います。(中略)ロウリュによる「乾と湿」によって、醍醐味が味わえるのだと思います。*2

 また、蒸気を発生させる方法は他にもある*3中でなぜ石に水をかける方法をとるのかということについて、中山眞喜男は「自分の好みの量を調整できるのとは別に、マイナスイオンが発生するからです。他の方法で蒸気を発生させてもマイナスイオンは出てきません。これがサウナの大きな特色の一つでしょう」*4と言います。ロウリュによってイオンが発生することは、1976年の論文でも既に指摘されています。Niilo Teeriは、"The Climatic Conditions of the Sauna"の中で次のように述べています。

From investigations I started last year, I noticed that especially throwing water on the hot stones develops plenty of ions in the sauna air. The proportional amount of negative ions is also increased.*5

(昨年始めた調査から、熱いストーンに水をかけることがサウナ室の空気中に大量のイオンを発生させることに気づきました。マイナスイオンの割合も増加しました。)

 サウナストーンに水をかけるという方法はサウナ室の湿度を上げるだけでなく、マイナスイオンを発生させるということです。湿度が上がるということも、体感の温度が上がることと関連はありますが、ロウリュの熱さはそれだけでは説明できません。どういう仕組みがあるのでしょうか。

 

ロウリュの熱さの2つの秘密

 ロウリュをすると体感温度が上がります。このとき、部屋の温度は上がっていないどころか、「温度計はわずかに低い温度を示す」*6とされています。『サウナあれこれ』では、「通常使用している温度計では、ここまで反応しません」*7とされています。また、Timo Vesalaの論文には"this does not change the air temperature in the short run"(これ(ロウリュ)は短い時間ではサウナ室の温度を変えません。)*8と書かれており、ロウリュで室温は変化しないとされています。いずれにせよ、ロウリュでサウナ室の温度は上がらないわけです。

 にも関わらず、ロウリュをすると体感温度は上がります。ロウリュが熱い仕組みには、「水蒸気の対流」と「潜熱」という2つの秘密があります。

サウナのロウリュの熱さの2つの秘密

 

ロウリュが熱い仕組みその1-水蒸気の対流-

 ロウリュが熱い仕組みの一つは水蒸気の対流です。熱した石に水をかけると、その水は蒸発します。蒸発するということは、石に触れた瞬間水は100℃になり、すぐに少し冷えて湯気(水滴の集合)になり、水蒸気になります。まずロウリュをすると熱い水からできた水蒸気が発生するというわけです。

 ロウリュで発生する水蒸気はどのような動きをするのでしょうか。まず、水をかけた直後のヒーターの周りの動きを考えてみます。水は水の状態である時よりも気体(水蒸気)の状態である時の方が体積が大きいので、水が石に触れて水蒸気になった瞬間に体積が大きくなりぶわっと広がります。綿を手でぎゅっと握って、手を開くとぼわっと大きく膨らむようなイメージです。

ロウリュが熱い仕組みの1つの水蒸気の対流

 

 爆発のように発生した水蒸気は、サウナ室の対流にのって私たちの身体に届きます。水蒸気の動きも通常の熱と同じように基本的には上の方にいきますが、熱とは少し違うところもあります。

 通常、熱はその性質上、天井に向かって垂直に上がっていって、天井にぶつかり対流します。これは熱の性質上こういう動きをするわけですが、熱の流れ方については別の記事でまとめます。ロウリュで発生した水蒸気も、基本的にはこの対流に乗っかって流れてきますが、普通の熱とは異なりもわっと直接迫ってくる感覚があると思います。水蒸気は普通の空気よりも若干重たいということもあり、天井まで上がりきらずに分厚い層で上の方に対流してきます。熱に比べて、蒸気は幅が広い状態で迫ってくるイメージです。

サウナのロウリュの熱と水蒸気の動き

 

 更に、タオルで撹拌すれば水平方向に効率よく広がり、熱い水蒸気が身体に届きやすくなると考えられます。

 今回は、ロウリュの熱さの秘密の1つ目、水蒸気の対流についてまとめました。体感の熱さには、2つ目の秘密「潜熱」の方がより大きな影響を与えていると考えられます。次回は、「潜熱」について詳しく見ていきます。

 

 参考文献

Teeri, Niilo. (1976) "The Climatic Conditions of the Sauna", Teir, H., Collan, Y. and Valtakari, P., Sauna Studies. Ⅵ International Sauna Congress, Helsinki, August 15-17, 1974. pp.113-120.

中山眞喜男(2008)『サウナあれこれ』、公益社団法人日本サウナ・スパ協会

 

*1:デジタル大辞泉

*2:中山、p.19

*3:ヒーターで蒸気を発生させる、湯を噴霧するなど

*4:中山、pp.18-19

*5:Teeri, p.115

*6:中山、p.17

*7:同上。

しかし、実際にロウリュサービスが始まるとサウナ室の温度計の数値が下がることがあります。焼石に、とは言え水をかけているので、少し室温が下がるのかもしれません。

*8:Vesala, p.404