Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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サウナのロウリュが熱い仕組み②

 「サウナのロウリュが熱い仕組み①」ではロウリュが熱い仕組みの一つ目、水蒸気の対流についてまとめました。ロウリュが熱い仕組みにはもう一つ、「潜熱」があります。そして、ロウリュの熱さにはこちらの方がより重要であるとされています。今回はロウリュの熱さの2つ目の秘密、潜熱について詳しく見ていきます。

 

ロウリュの熱さの2つの秘密

 「サウナのロウリュが熱い仕組み①」で見たように、ロウリュの熱さには2つの秘密がありました。

サウナのロウリュの熱さの2つの秘密

 

 ロウリュの熱さには2つ仕組みがあるということは、文献でも指摘されています。例えば、Michael Zechらは、ロウリュが熱い仕組みについて次のように書いています。

the main responsible mechanisms for the increased heat flux onto the skin are, on the one hand, extra convection caused by hot steam coming off the stove.(肌に届く熱が増加する主な仕組みは、まず一つにはストーブから発生する水蒸気の対流です。)*1

 ロウリュが熱い仕組みの一つ目として、ストーブから立ち込める熱い蒸気の対流があると指摘しています。「サウナのロウリュが熱い仕組み①」で見た水蒸気の対流です。そして、Zechらは以下のように続けます。

On the other hand, the perhaps even more important mechanism is latent heat being released during condensation of water vapor onto the skin.(また、もう一方の原因、恐らく一つ目よりもっと重要なメカニズムは水蒸気が肌の表面で結露する際に発生する潜熱です。)*2

 より重要なものとして、latent heat、つまり「潜熱」をあげています。ロウリュが熱いメカニズムとしては、皮膚表面で水蒸気が結露する時に放たれる「潜熱」がより重要な原因であると言うのです。

 

潜熱とは

  潜熱とは、物質が変化する時に発する熱・吸収する熱のことです。例えば、水蒸気から水に、水から氷に変化することを「相転移」と言いますが、この相転移の時に発生する熱・あるいは吸収する熱を「潜熱」と言います。

サウナの潜熱である気化熱と凝縮熱


 水の場合で言うと、水は蒸発し水蒸気に変わる時に周りの熱を奪います。これを気化熱と言います。この気化熱も、潜熱の一つです。夏の暑い日に打ち水をするのは、この気化熱の働きを利用して温度を下げようとするものです。熱い地面に水をかけると、水は蒸発し、水蒸気になります。水(液体)から水蒸気(気体)に変化する時に、周りの熱を奪うのです。

 逆に、水蒸気(気体)から水(液体)の状態に変わる時には、今度は熱を発します。これを凝縮熱と言い、これも潜熱です。ロウリュの熱さには、この潜熱が重要であると考えられています。

 ロウリュをすると、湿度が一気に上がります。そうすると、身体の表面で結露が起こります。結露の時に潜熱が発生するわけですが、そもそも結露はどういう仕組みで起こるのでしょうか。

 

結露の仕組み

「サウナと湿度 湿度と温度」で見たように熱い空気はたくさんの水を含むことができますが、温度が低くなると空気中に含むことができる水分の量が減ります。たくさんの水分を含んでいた空気が、冷たいものに触れたりして冷やされると、水をかかえきれなくなって空気中の水分が目に見える水滴にかわります。これが結露です。

サウナの結露の仕組み

 

  ロウリュをすると湿度が上がり、サウナ室の中で結露が起こると考えられます。そして、その結露が潜熱の発生につながります。具体的にどのようなことが起こるのでしょうか。更に詳しく見てみます。

 

ロウリュが熱い仕組みその2-潜熱-

 気体(水蒸気)が液体(水滴)に変化する時には、潜熱が発生します。そして、サウナ室でロウリュをすると湿度が一気に上昇し、皮膚表面で結露が起こります。たくさんの水を含んだ熱い空気が肌に触れることで冷やされ、冬にガラス窓に水滴が付くのと同じ原理で私たちの皮膚表面に水滴が付きます。水滴が付く(結露する)度に皮膚表面では潜熱が発生します。水蒸気が皮膚表面で結露して水滴になる度に、熱を発しているのです。これがロウリュの熱さの秘密の2つ目です。

サウナのロウリュが熱い仕組みの1つの潜熱

 

 ロウリュの時、熱いな、退室しようと立ち上がり出入り口に向かう時に身体の表面が熱い、という経験をした人も多いのではないでしょうか。熱いから出たい、出たいけど動くと余計に熱い、という状態になることがあると思います。普段のサウナ室で熱いからそろそろ出よう、と思って動いても、このような熱さは感じないはずです。

 ロウリュの時、動くと余計に熱いのも潜熱による熱さだと考えると納得できます。サウナ室の中には、ロウリュによって発生した水蒸気が充満しています。その中では、動けば動くほど新しい水蒸気が身体の表面に当たり、次々と結露し、潜熱を発生させるため、じっとしているより動いている方が熱いのだと考えられます。潜熱を放つ水蒸気たちの中に、自分から突っ込んで行っている状態です。だから、じっとしている方がまだ熱くないのです。

サウナのロウリュの潜熱のイメージ

 

 また、顔などをタオルで覆っていると熱さが緩和されるのも、直接水蒸気が肌に触れなくなり、潜熱が皮膚表面で発生しないからだと言えるでしょう。これも、通常のストーブの熱とロウリュによる熱さの違いです。

 

 ロウリュが熱い仕組みには、水蒸気の対流と潜熱の2つがあることがわかりました。このような仕組みでロウリュは熱いわけですが、ロウリュによって湿度が上がることも体感温度の上昇には寄与していると考えられます。実際にロウリュによって湿度はどのくらい変化するのでしょうか。次回は、ロウリュ前とロウリュ後の湿度の変化について計測結果をまとめます。

 

参考文献

Zech, Michael etal. (2015) "Sauna, Sweat and Science- Quantifying the Proportion of Condensation Water Versus Sweat Using a Stable Water Isotope (2H/1H and 18O/16O)Tracer Experiment", Isotopes in Environmental and Health Studies.51(3), pp.1-8

 

 

 

 

 

*1:Zech etal. , p.2

*2:同上