Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

カラカラサウナのいろいろ~女性サウナ室~

 「カラカラサウナのいろいろ~男性サウナ室~」ではカラカラサウナについて考えるために体感の湿度を高い、低いで分けた時に低いと感じる男性サウナ室の相対湿度、絶対湿度、座面温度を見てマッピング・グルーピングをしてみました。女性サウナにも、湿度が低めだなと感じるサウナ室はあります。今回は、女性側のカラカラサウナについて考えてみます。

 

女性サウナ室の湿度

 日本の高温カラカラサウナ vs 本場フィンランドの高湿サウナという図式で語られることがありますが、女性側にこの「高温カラカラ」のサウナ室というのはあまり多くないように感じます。「サウナと湿度 計測~女性サウナ室~」で見たように、女性サウナ室は全体的に男性サウナ室より湿度が高い傾向にありました。女性には湿度が高い方が好まれるという考え方があるようです。それは、女性側がロッキーサウナというところが意外と多かったり、女性側はミストサウナ・スチームサウナのみでドライサウナがなし、という場合が多いことからもうかがえます。逆に男性側がミストやスチームサウナ、女性側がドライサウナということは稀です。

 実際に女性は「湿度が高い方が好き」と言う人が多いように思います。それは、男女の発汗の仕組みの違いとも関係があるかもしれません。「サウナと汗 発汗の仕組み②」で見たように、女性は男性よりも汗をかきにくく*1、汗の量も同じ体温で見ると女性は男性の2/3~1/3の発汗量で、汗が出始めるまで男性より時間がかかると言われています*2。しかし、「これらは女性が暑さに弱いということを物語るものではない」*3ということも指摘されていて、女性は男性よりも少ない発汗量で体温調節ができるということのようです。とはいえ、サウナ室では目に見える汗をしっかりかきたい、と思う女性は多いでしょう。こうした体質の差からも、女性には湿度が高めのサウナ室が好まれる傾向にあると考えられます。

 そうした中でも、体感の湿度を高い・低いの二つに分類した時、湿度が低いと感じるサウナ室もあります。こうしたサウナ室の湿度は実際どのくらいなのでしょうか。

 

体感が低湿度のサウナ室の相対湿度

 男性サウナ室の場合と同じように、まずは体感が低いと感じるサウナ室の相対湿度を計測した結果をまとめてみます。相対湿度は、その温度の空気が含むことができる最大の水分量(飽和水蒸気量)に対して、今何割くらいの水分を含んでいるかという割合です。

 

・2018年11月~2020年3月にかけて計測を試みた約100施設のうち、湿度が低いと感じるサウナ室を選定。

・計測位置は原則、サウナ室の最上段の背中から腰の間。

・計測時間は湿度計の針が安定するまでの20~30分程度とし、ロウリュを実施しているもしくはセルフロウリュが出来る施設の場合は、なるべく影響を受けないようにロウリュ後から30分以上あけて計測。

・誤差を少しでも小さくするため、一つの施設につき必ず複数回計測し、その平均値を使用。

・湿度計に故障・不調が見られたら新しいものに変えて再計測。

・利用者が多い時と少ない時とで湿度に大幅に差が出るケースも見受けられたため、入室率が50%を超えた場合は計測結果から除外。

 

 体感の湿度が低いと感じるサウナ室の相対湿度をまとめると次のようになります。 サウナの温度と湿度

 ※湿度0%になった施設については、市販の湿度計で精緻な値の計測は難しいためか実際にはあり得ない値になりましたが、複数回かつ湿度計も替えて計測した結果が一貫して0%ということから、湿度は他の施設と比べて「低」いということが想定できます。

 

 体感の湿度が低いと感じるサウナ室の相対湿度の平均は9.4%でした。男性側の体感の湿度が低いと感じるサウナ室の相対湿度平均の6.65%に比べると少し高めの数値になりました。「サウナと湿度 計測~女性サウナ室~」で計測した、湿度に幅が出そうな10施設の相対湿度の平均は17.4%なので、それに比べると9.4%は低めであると言えます。

 

体感が低湿度のサウナ室の絶対湿度

  男性側と同じように、座面温度と絶対湿度の関係も見てみます。絶対湿度は実際に空気中にどのくらいの水分が含まれるのか、という値です。絶対湿度の算出は今回宮城教育大学大気科学研究室のサイトを使って行いました。

サウナの温度と湿度

 

 この結果から、男性側と同じく体感の湿度が低いサウナ室でも、実際の水分量である絶対湿度を見ると位置付けは様々なことが分かりますが、バリエーションは男性側よりも少ないように思われます。バリエーションは少ないながらもこれらを「湿度のないグループ」「湿度もあり温度も高いグループ」「意外と湿度のあるグループ」に大別してみました。

サウナの温度と湿度

 

 サウナサバスとロスコは「湿度のないグループ」に分類でき、体感もかなり湿度が低く感じて、汗が出てくるのに時間がかかるグループであり、『カラカラサウナ室』と言えます。

 「湿度もあり温度も高いグループ」は今回のデータではおふろの国だけですが、女性側でこのセッティングは珍しいと言えます。体感の湿度は低く感じますが、温度も高いため発汗もできる『高温中湿のサウナ室』です。体感の熱さが楽しめます。 

 グルーピングしてみましたが、女性側は分布があまり広がらず、近い位置に集中しているように見えます。低湿と思っていましたが、大半の施設が「意外と湿度のあるグループ」にあてはまり、『中温中湿のサウナ室』の位置付けです。むしろそれ以外のセッティングは女性側では珍しいとも言えます。男性側は、もっといろいろなバリエーションがありました。男性側と比べるために、前回まとめた男性側のマッピングの結果と重ねてみます。

サウナの温度と湿度

 

 重ねてみると、いかに女性側のセッティングが同じような位置にかたまっていて、男性側が幅広い温湿度帯に施設が散らばっているかがわかります。また、女性側の方が温度の平均が明らかに低いこともわかります。男性側では、女性側の『中温中湿のサウナ室』の温度帯にくるものはほとんどありません。こうして見ると、熱いと感じていたサウナ室よりもずっと熱いサウナ室が男性側には存在するのだということがわかります。

 男性側では、体感の湿度が低いサウナ室でも絶対湿度が40g/kgを上回るところがあるのに対して、女性側は40g/kgに達するところはありませんでした。また、温度帯も65℃~80℃あたりに集中しており、湿度・温度共に男性側ほどバリエーションがないことがわかります。似たセッティングのところが多いと言えそうです。

 男性側のように、実は湿度も高くて体感が熱かったのだ、といようなところはなく、体感の温度は男性側より低いということが数値からもわかります。そもそも、体感がそこまで熱くなるようなセッティングは、女性側にはあまりないと言えそうです。その背景には、やはり女性の方が熱さに弱い、女性向けにはマイルドにするべき、という考え方があるのでしょう。

  女性の方が熱さに弱い、という誤解は未だにいろいろなところで見られます。例えば、女性にサウナを勧める記事でのスカイスパYOKOHAMAの紹介は「女性サウナでは、ストーブにかけるアロマ水を男性側に比べやや少な目にしたソフトなアウフグースが『とっても癒される』と好評です」*4とされており、ロウリュの湿度さえ、男性よりマイルドにしてあることが「売り」とされているのです。また、先日開催された池袋の男性専用施設かるまるでのレディースデーに関しても、「17日のレディースDayで、サウナ室の温度設定を全室女性用に下げてはどうかという話になりましたが」*5と、女性用に温度を下げることが検討されていたようです。せっかく男性専用施設に入ることができる機会でも、女性向けにマイルドにしようか、という声があがるわけです。

 しかし、これに対して女性のサウナ好きたちから、通常通りにしてほしいという返信も多く見られました。そして、実際には女性の方が熱さにも寒さにも強いという説もあります。女性は男性よりも少ない汗で体温調節ができること、また皮下脂肪が厚い傾向にあることから、女性の方が熱さに強いとも考えられています。皮下脂肪は断熱効果があるため、女性の方が男性よりも身体に熱が入ってきにくいというのです*6。「かように女性は寒暑とも耐力が強いのに、労働基準法では女性が高温工場等の使役から保護されているには本質的にいえば当を得ぬことである」*7という指摘もあります。実際に男性専用施設のレディースデーで満足、感動という感想が多いことからも、女性の方が熱さに弱いということはないと言えそうです。

 

 今回は女性サウナ室について、湿度を高い・低いと大別した時に低いと感じるサウナ室のデータを見てみました。同じように体感で湿度が低いと感じるサウナ室でも、男性側は温湿度帯が幅広く、バリエーションに富んでいるのに対して、女性側はあまり分布に広がりが見えませんでした。いわゆる「高温カラカラ」というサウナ室を、女性は経験できていないのかもしれません。サウナを語る時、男性と女性では見ている世界が結構違います。男性専用施設でのレディースデーが増えてきて、女性も男性と同じようなセッティングを楽しみたい、そんな声が以前よりは多くの人の目にとまるようになったのではないでしょうか。これをきっかけに、女性のサウナの選択肢も広がると良いです。全部のサウナを変えてほしい、ということでは当然ありません。数は少なくても、女性もバリエーションに富んだサウナを楽しめたら、サウナ好きの女性はもっと増えるのではないかと思います。

 

参考文献

Precious.jp.「今すぐ行きたい!都会の銭湯やホテル、スパ施設の快適なサウナ 冬こそ「サウナー」デビューを!東京・横浜の「女性にうれしいサウナ」5選」 2019年12月1日(最終アクセス日2020年4月11日)

菅屋潤壹(2017)『汗はすごい-体温、ストレス、生体のバランス戦略』、ちくま新書

久野寧(1963)、『汗の話』、光生館

 

 

*1:久野、p.75

*2:菅谷、p.183

*3:同上

*4:Precious.jp

*5:サウナ王のTwitterでの2020年3月13日のツイートより

*6:菅谷、p.184

*7:久野、p.75