Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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サウナの外気浴が気持ち良い理由

 サウナ・水風呂に加えて、外気浴もサウナの楽しみの一つです。サウナ・水風呂後の休憩で、とりわけ外に出て休む外気浴は気持ち良いという人も多いのではないでしょうか。今回は外気浴について考察してみます。

 外気浴が気持ち良い理由は以下の4つがあると考えられます。

サウナの外気浴が気持ち良い理由

 

温熱的快適感

 サウナに入らない人も、露天風呂が好きだという人は多いのではないでしょうか。露天風呂がどうして気持ち良いのか、文献では「温熱的な快適感」について指摘されています。

 菅屋潤壹は「体温が高いときは皮膚温が低いほど快適感が強いことがわかっている」*1と言います。つまり身体の中の温度である体温が高い時は、表面の皮膚温度が低ければ低いほど心地良く感じるということです。これは水風呂の気持ち良さとも関係ありそうです。体温が上がっているサウナ後に、皮膚温が水風呂によって下がることで強い快適感を得られるということでしょう。

 露天風呂で湯ぶねに浸かっている時、湯に浸かっている身体の温度は上がっているので、顔には汗をかいています。露天風呂では、風がこの汗の蒸発を促進することで「顔面の皮膚温度を大きく下げるため温熱的な快適感が生じる」*2のです。

 湯ぶねに浸かっている時は外気によって蒸発するのは頭の汗だけですが、サウナ後の外気浴では全身の汗や水分が蒸発していきます。水風呂に入ることで皮膚表面は既に冷えていますが、外に出ることによって汗や水分が蒸発し、皮膚温は更に下がり、快適感も得られると言えるでしょう。

 汗などの蒸発という観点で言えば、浴室内の休憩に比べて外気浴は皮膚表面の水分が蒸発しやすいと考えられます。浴室内は基本的に湿度が高いです。外気浴の場合、外は浴室内より湿度が低く、かつ風もあるので、水分は蒸発しやすいです。「サウナと汗 発汗の仕組み①」で見たように、汗は蒸発することで気化熱によって皮膚表面から熱を奪います。この蒸発による冷却効果が、浴室内より湿度が低く風もある外気浴の気持ち良さの理由の一つと言えそうです。皮膚温が下がることで得られる温熱的快適感です。

 

自然の風の効果

 露天風呂では風によって汗が蒸発することが快適感につながるということですが、単に風が当たれば良いということではなく、自然の風だから良い、ということも指摘されています。

 こんな実験があります。お湯に浸かっている人の顔に扇風機の風を当て、「暑い」「寒い」という温熱感覚と、「快適」「不快」という温熱的快適感を観察するというものです。この実験をすると、最初は顔の汗が蒸発し、皮膚温が急速に下がるので快適感を得られるけれど、送風をし続けても快適な状態は続かず、不快な状態に変わってしまうという結果になったそうです*3。これは、送風を開始してすぐは温度センサーの動的反応が引き出され、快適感が生じるがすぐに減弱してしまうためだそうです*4。つまり、心地良く感じるのは最初だけで、すぐにその快適感を得られなくなってしまうのです。

 しかし、露天風呂の外気の場合は、快適感がずっと得られると言うのです。菅屋は、自然の風は「顔面に分布するいくつかの温度センサーに作用して一瞬一瞬に様々な程度の動的特性を発生させると考えらえる。すなわち、自然の風のもとでは動的反応はほとんど持続的に生じるのだ」*5と言います。つまり、顔には複数の温度センサーが分布していて、扇風機の一定の風だと反応が起こらなくなるのに対して、自然の風は強さ、吹いてくる方向などが一定ではないため、常に反応が起こり続けて、ずっと快適感を得られ続けるということです。菅屋は、「露天風呂で感じる温熱的な快適感は、自然の風によってもたらされた偶然の現象なのである」*6とまとめます。

 体温が上がった状態のサウナ後の外気浴でも、身体の温度センサーが様々な強度で、いろいろな方向から来る風によって反応し、快適感を得られ続けていると考えられるでしょう。浴室内で風を送るのでは再現できない、自然の風ならではの気持ち良さが外気浴にはあると言えます。

 

脳冷却の効果

 露天風呂の気持ち良さには、他に脳冷却の効果があるとされています。頭に風があたることで「冷えた血液が脳内に流入して脳を冷やす」*7のです。この脳冷却は、顔面や頭蓋で冷やされた静脈血が脳内に入り脳組織内の動脈血と熱交換して脳組織を冷却する仕組みで起こります。

 脳冷却の効果は2つあるとされています。まず、脳冷却は「快適感の改善に大きく貢献」*8すると言われています。皮膚に比べて、脳温はわずかな低下で大きな快適感が得られると言うのです。つまり、脳が冷やされることによって私たちは大きな快適感を得られるということです。もう1つは、脳のオーバーヒートを防ぐという点です。露天風呂では頭を冷やしているため、脳の温度が上昇しすぎるのを防ぎ、熱中症への移行を阻止できると言います*9

 湯ぶねに浸かる場合、頭だけが湯の外に出ているため、脳冷却の効果が露天風呂の気持ち良さの理由としてあげられています。サウナ後の外気浴の場合、頭だけでなく全身が風にあたりますが、脳冷却も起こっていると言えるでしょう。

 脳冷却という観点で言うと、水風呂も頭まで潜った方が、大きな快適感を得られると言えそうです。プールになっている水風呂などで頭まで潜ることができると気持ち良いですよね。また、潜ることができない場合、外気浴は頭を冷やすのに一役かっているとも言えます。身体全体の皮膚温を下げる効果ももちろんですが、脳冷却ができるのも、外気浴の気持ち良さの理由の一つだと言えるでしょう。

  

心理的開放感

 ここまで、外気浴が気持ち良い理由について考えてみました。こうした身体の仕組みに加えて、心理的開放感も外気浴が気持ち良い理由の一つだと言えるでしょう。菅屋も露天風呂の気持ち良さについて、「露天風呂でリラックスるするのは開放的な湯ぶねの心理的な要因もあるだろうが」*10と、外であることの心理的な効果について指摘しています。風の有無は身体の仕組みに直接影響しますが、それだけではなく、広い露天風呂や空が見える露天風呂、景色が綺麗な露天風呂では外気浴も一層気持ち良く感じるでしょう。心理的な要因も大きいと考えられます。

 

 今回は外気浴が気持ち良い理由について考えてみました。やはり外気浴もサウナ・水風呂とあわせてサウナ浴の楽しみの一つですね。

 

参考文献

菅屋潤壹(2017)『汗はすごい-体温、ストレス、生体のバランス戦略』、ちくま新書

 

*1:菅屋、p.207

*2:同上

*3:同上、p.209

*4:同上

*5:同上

*6:同上、pp.209-210

*7:同上、p.210

*8:同上

*9:同上

*10:同上、p.207