Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナ室の「グリル感」と遠赤外線

 「ヒーターの種類と壁材との関係」では、ヒーターの種類と壁材との関係について考えてみました。温度設定などはもちろん、ヒーターの種類や壁材の種類によってもサウナ室の体感は変わってきそうです。サウナ室によっては、焼かれるような「グリル感」を感じるサウナ室があります。今回は、こうした「グリル感」はどうして生じるのか、考えてみます。

 

「グリル感」の正体とは

 サウナ室によっては、焼かれているような、グリルされているような感覚をおぼえるところもあります。皮膚表面がひりつくような感じ、顔が熱くなる感じで、「蒸されている」というより「焼かれている」に近い感覚のサウナ室です。体感の温度や、表示温度が高いサウナ室でも、グリル感はないサウナ室もたくさんあります。このグリル感、どのような仕組みなのでしょうか。

グリル

 

 このグリル感、思い起こしてみると遠赤外線ストーブを使ったサウナ室で感じていたように思います。このグリル感には、遠赤外線ヒーターの特徴が関係してきそうです。遠赤外線を使ったサウナ室の広告に、「遠赤外線が身体の芯まで届いて身体を温める」というようなことが書かれていることがあります。これはサウナ用のヒーターに限らず、遠赤外線を使ったヒーターの広告などでしばしば見かける文言です。

遠赤外線ストーブ

(画像出典:サンバーニング株式会社HP)

  しかし、実際には遠赤外線はそれほど、身体の内部まで届くものではないようです。

「遠赤外線は体に深く浸透するので、体の芯から温かくなる」というように書かれた暖房器具の広告が見受けられますが、これは誤りです。遠赤外線の持つエネルギーは、皮膚表面から約200μmの深さで、ほとんど吸収されてしまい、熱に変わります*1

 200μm(マイクロメートル)、つまり0.2mmほどで吸収されてしまうということです。身体の芯まで遠赤外線が届く、ということはないといえます。それでも結果的に身体の中まで温まるのは、表面が遠赤外線で温まり、それが血液などで体内に伝わるためです。

その熱が血液などにより体の内部(芯)まで効率よく伝わり体を温めているのです*2

 つまり、遠赤外線は人体を温めやすく、あたっていれば体温も上昇するわけですが、「遠赤外線が身体の芯まで直接届く」わけではない、ということです。遠赤外線が届くのはあくまで表面で、そこで温められた血液などによって身体の中心も温まるという仕組みだといえます。

 そう考えると、遠赤外線ヒーターのサウナ室で感じるグリル感は、遠赤外線ヒーターを高温にしすぎると生じるものかもしれません。遠赤外線は空気などを介さずに直接身体に届く電磁波です。それが、皮膚表面の比較的浅いところで吸収されるということですから、あまり高温に設定すると焼かれるようなグリル感をおぼえるのかもしれません。

 

石を使ったヒーターとの違い

 焼かれるような感覚、「グリル感」を感じるのは遠赤外線ヒーターを使ったサウナ室の場合が多いように感じます。その理由の一つに、直接届く電磁波である遠赤外線が、皮膚の表面で吸収されるということがあると考えました。

 また、遠赤外線ストーブのサウナ室は、石を温める方式のサウナ室とは熱の動きも違うと考えられます。遠赤外線ヒーターの場合、特にヒーターの真正面だとグリル感をおぼえることがあるかと思います。ヒーターとの距離が近いとなおさらです。これも、遠赤外線の「基本的には空間を直進する」*3という性質が関係ありそうです。狭いサウナ室で、真正面に遠赤外線ヒーターがあると、皮膚表面がひりついてグリルされているような感覚になることがあります。これは、遠赤外線の熱が真っすぐに、ダイレクトにとんできて、皮膚表面の浅いところで吸収されるためではないでしょうか。

遠赤外線ヒーター

 

 一方、石を温める対流式のサウナ室の場合、熱が直接身体に届くわけではなく、空気によって運ばれます。そのため、熱が直線的にヒーターからとんでくるのではなく、空気の流れ、対流によっていろいろな方向から身体に届くことになります。石を使ったサウナ室でグリル感をあまり感じないのは、こうした熱の届き方の違いも関係ありそうです。直接身体に届くのではなく空気によって運ばれ、方向も一直線ではなくいろんな方向から熱が身体に届くため、石を使ったサウナ室は高温でも「蒸され感」はあっても「グリル感」はないのかもしれません。

対流式ヒーター

 

  また、湿度のことを考えても、ヒーターの種類によって違いがありそうです。そもそも、石を使ったサウナ室はロウリュをすることで湿度をコントロールできるのに対して、遠赤外線ストーブのサウナ室はあまり湿度をコントロールすることができません。そして、ロウリュをしなければ、石を使ったサウナ室の方が湿度が低くなるということも指摘されています。 "How to Compare Traditional vs Far-Infrared Sauna"という、石を使ったサウナ室と遠赤外線ヒーターを使ったサウナ室を比較した記事では、次のように指摘されていました。

Both sauna types will be relatively dry. The far-infrared rooms tends to be close to normal house humidity levels unless it has been on for extended periods of time. The traditional sauna will be drier (10% or lower) until water is sprinkled over the rocks. The traditional sauna is the only bath in the world where the user controls both temperature and humidity, with humidity controlled to user liking by how much water is thrown on the rocks. In far-infrared saunas you control the temperature, but the humidity is whatever it is.*4

(どちらのタイプも比較的乾燥しています。遠赤外線サウナのサウナ室は、長時間「オン」の状態にしない限り家の普通の部屋の湿度帯と同じくらいになりがちです。伝統的なサウナは水を石にかける前にはもっと低い湿度(10%以下)になります。伝統的なサウナは、世界で唯一の、利用者が石にどのくらい水をかけるかで湿度を調節できる風呂です。遠赤外線サウナは、温度の調節はできますが湿度は調節できません。)

  つまり、石を使ったサウナ室は、ロウリュをしなければ湿度がかなり低くなるということです。空気を温めるので、湿度が低くなるのもうなずけます。しかし水をかけることができるので、ロウリュによって湿度を高くすることもできるわけです。

 一方、遠赤外線ヒーターの場合、長時間「オン」にしなければ普通の部屋の湿度と同じくらいになるとのことです。長い間温めていれば湿度は下がっていくと考えられますが、それでも空気を温めにくいという特徴があるので、石を使ったサウナ室ほどカラカラにはならないと考えられます。湿度を計測してみても、遠赤外線ヒーターのサウナ室は湿度がそこまで低くないケースが多かったです。相対湿度が0%に近いようなサウナ室は、軒並み石を使ったサウナ室でした。

 グリル感とはまた少し違いますが、高温高湿のサウナ室では乳首が痛くなることがあります。これはカラカラで湿度が低いためかと思っていましたが、サウナ錦糸町のように、実際に計測してみると実は温度だけでなく湿度も高かった、というサウナ室で痛みを感じることがあるようです。実際に、湿度を計測したときに相対湿度が0%に近かったり、0%を切るようなカラカラのサウナ室は意外と痛みを感じません。つまり、高温・高湿の方が痛みを感じる可能性があり、極端に湿度を低くすると高温でも痛みは感じないようです。そして、遠赤外線のヒーターを使ったサウナ室は、そこまでカラカラにはならず、極端にカラカラにするには石を使った方がよいといえそうです。

 

遠赤外線ヒーターの使い方

 遠赤外線は直接身体に届くので、あまり高温にすると皮膚表面がひりつき、また熱が直線的にとんでくるため正面・ヒーター近くにいるとグリル感を覚えるのではないか、と考えられます。また、高温・高湿のサウナ室の方が、極端にカラカラの高温・低湿のサウナ室よりも痛みを感じやすいとも考えられます。

 こうしたことを考えると、遠赤外線ヒーターはあまり高温にしない方がよいのかもしれません。そもそも物質を介さずに直接身体に熱が届き、「効率よく温める」「低温でも発汗」というのを売りにしている遠赤外線ヒーターですから、あまり高温にするものではないのかもしれません。そして、湿度という点から見ても、空気を温めにくい遠赤外線ヒーターの場合、高温にしても石を使ったサウナ室ほどカラカラにはならず、結果的に温度を上げすぎると高温・高湿になり痛みを感じるサウナ室になる可能性もあるといえそうです。 

 それぞれのヒーターの特徴を考えると、熱くしたい、高温にしたい場合は石を使ったサウナ室にして、遠赤外線ヒーターは低温・中温、マイルドなセッティングだけど発汗できる、というサウナ室にするのが良いのかもしれません。熱すぎるのが苦手な人でも入ることができるような、マイルドなセッティングのサウナ室にこそ遠赤外線ヒーターは適しているのかもしれません。

 

 今回はサウナ室で感じる「グリル感」について、遠赤外線の特徴とあわせて考えてみました。遠赤外線ヒーターは高温セッティングで使うよりもマイルドなセッティングで使った方が良さを活かすことができそうです。石のヒーターと遠赤外線のヒーターとでは、向いているセッティングが違いそうですが、両方の良さを活かすサウナ室もあります。次回は、この二種類のヒーター両方の良さを活かしたサウナ室について見てみます。

 

 

参考文献・資料

Lahti, Craig, "How to Compare Traditional vs Far-Infrared Sauna", finnleo. (最終アクセス日:2021年3月5日)

一般社団法人遠赤外線協会、「遠赤外線とは?」(最終アクセス日:2021年3月5日)

ヒートテック株式会社、「6.遠赤外線の吸収率」、Heat-tech(最終アクセス日:2021年3月5日)

 

*1:一般社団法人遠赤外線協会

*2:同上

*3:ヒートテック株式会社

*4:Lahti