Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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遠赤外線サウナについて考えてみよう

 家庭用サウナを見ても海外のものはロウリュができるものが多かったですし、本場フィンランド式と言えばストーンのロウリュができるもの、というイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。実際そうなのでしょうが、あるいはそうだからこそなのか、海外のサイトでは遠赤外線サウナの効果をアピールしているものも多いです。今回は、遠赤外線サウナの効果やストーンを使ったサウナとの違いについて、海外の広告なども見ながら考えてみます。

 

遠赤外線とは

 「サウナと熱 熱の種類」で、遠赤外線とは何かということについて見てみました。その時にも確認しましたが、改めて遠赤外線の定義を見てみましょう。

赤外線のうち、波長が長く、100~25マイクロメートル程度の光線。水や高分子物質・有機物に吸収されやすく、ヒーター・調理器・サウナなどのほか、除菌・脱臭にも利用。遠赤外光*1

 空気中を伝わる波のような電磁波、これには色や光として目に見えるものと見えないものがあります。この中の、目に見えない「波長が約0.72マイクロメートルから1ミリメートルまでの電磁波」*2を赤外線と言います。さらに赤外線の中でも波長の長さによって、近赤外線、中赤外線、遠赤外線と分類されています。

 赤外線は物質を効率良く温める性質を持っています。電磁波の中で、人体などの物質が一番熱として受け取りやすい範囲の周波数を「赤外線」と呼んでいるわけです。

 熱はその伝わり方によって、対流熱、伝導熱、輻射熱に分類されるということも「サウナと熱 熱の種類」でまとめました。この中の輻射熱というのは「放射線(電磁波)で伝わる熱」のことです。つまり、遠赤外線の熱は輻射熱であると言えます。

サウナの熱

  この輻射熱、電磁波で伝わる熱は、空気にのっかって伝わってくる対流熱や、直接触ることで伝わってくる伝導熱とは違って、他の物質を介さずに直接身体に届きます。何かに乗って運ばれてくるのではなく、直接身体に届く熱です。そのため、「効率良く温まる」わけです。

 冬にハロゲンヒーターなどを使っていて、正面にいると顔などが熱いくらいなのに、立ち上がると部屋の空気はそれほど暖まっていない、という経験がある人もいると思います。これは熱が直接身体に届いているためです。一方、エアコンの場合は空気の流れによって暖まるため、部屋全体が暖かくなります。

 

遠赤外線サウナのメリット

 身体に直接熱が届く、効率良く身体を温めるという性質を持つ遠赤外線、サウナの熱源として使う場合どういうメリットがあるとされているのでしょうか。Debra Rose Wilsonによる"Is an Infrared Sauna Better Than a Traditional Sauna?"(遠赤外線サウナは伝統的なサウナより良い?)という記事を見てみました。ここで言うtraditional sauna(伝統的なサウナ)は石を温めて、その熱を空気が運んでくる対流熱で温まるサウナ室のことです。

Unlike a traditional sauna, infrared saunas don’t heat the air around you. Instead, they use infrared lamps (that use electromagnetic radiation) to warm your body directly.(中略)Manufacturers claim that in an infrared sauna, only about 20 percent of the heat goes to heat the air and the other 80 percent directly heats your body*3.

(伝統的なサウナと違って、遠赤外線サウナは周りの空気を温めません。その代わり、遠赤外線ランプ(電磁放射線を使うもの)を使って身体を直接温めます。(中略)メーカーは、遠赤外線サウナでは熱のうちわずか20%だけが空気を温め、残りの80%は直接身体を温めると主張しています。)

 熱全体のうち、80%は直接身体を温めて、20%だけが空気を温めるというのです。身体を温める、ということだけ考えれば、確かに効率が良いのがわかります。

Supporters of infrared saunas say the heat penetrates more deeply than warmed air. This allows you to experience a more intense sweat at a lower temperature*4.

(遠赤外線サウナを支持する人は、遠赤外線の熱は温まった空気よりも深く身体に浸透すると言います。このことによって、低い温度でよりたくさんの発汗ができるようになります。)

 つまり直接届く遠赤外線の輻射熱の方が、温められた空気によって運ばれてくる対流熱よりも身体に深く浸透し、低い温度でもたくさんの汗をかくことができる、ということです。

 別の記事で、Craig Lahtiの"How to Compare Traditional vs Far-Infrared Sauna"では湿度に関して言及されています。こちらも伝統的なサウナと遠赤外線サウナを比べた記事です。

Both sauna types will be relatively dry. The far-infrared rooms tends to be close to normal house humidity levels unless it has been on for extended periods of time. The traditional sauna will be drier (10% or lower) until water is sprinkled over the rocks. The traditional sauna is the only bath in the world where the user controls both temperature and humidity, with humidity controlled to user liking by how much water is thrown on the rocks. In far-infrared saunas you control the temperature, but the humidity is whatever it is*5.

(どちらのタイプも比較的乾燥しています。遠赤外線サウナのサウナ室は、長時間「オン」の状態にしない限り家の普通の部屋の湿度帯と同じくらいになりがちです。伝統的なサウナは水を石にかける前にはもっと低い湿度(10%以下)になります。伝統的なサウナは、世界で唯一の、利用者が石にどのくらい水をかけるかで湿度を調節できる風呂です。遠赤外線サウナは、温度の調節はできますが湿度は調節できません。)

 湿度のコントロールができるかできないかが大きな違いになりそうです。ロウリュをしなければ、伝統的なサウナの方がさらに湿度は低いというのも興味深い指摘です。

 また、Wilsonは遠赤外線サウナの効果について、基本的には伝統的なサウナと同じであるとして、いくつかの研究結果を紹介しています。まとめると主に次の3つです。

・慢性疲労の治療

・筋肉痛の軽減、回復の促進

・血圧を下げる可能性

 ただし、Wilsonは遠赤外線サウナの効果についてはまだ研究が少ないことを指摘し、注意も促しています。

The lack of solid evidence and wide-spread studies about the possible benefits of infrared saunas leaves the consumer (you) to sort through the claims made by the companies who provide this service*6.

(遠赤外線サウナの効果の可能性について、確たる証拠や幅広い研究がなされていないために、消費者は企業や遠赤外線サウナを提供する人たちからの情報を精査する必要があります。)

   売る方は当然効果があることを強調するわけですが、まだ十分に証明されていないので健康効果を謳っていても全部信じるのは危険、ということですね。Wilsonは、熱の仕組みの違いから、遠赤外線サウナは伝統的なサウナに比べて低温でたくさんの発汗ができる点で、熱くて高温のサウナに入れない人にとってメリットがあるとしています。

 では実際に、遠赤外線サウナの効果はどのように宣伝されているのでしょうか。広告を見てみましょう。

 

ストーンを使ったサウナとの違い

  こちらは遠赤外線サウナと伝統的サウナの違いをまとめたイラストです。

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(画像出典:Denniston, Heather, "Infrared Sauna Benefits")  

 

 左が伝統的なストーンを使ったサウナ、右が遠赤外線サウナについての記述です。特徴をまとめると次のようになります。

遠赤外線サウナ

 

 こちらは、遠赤外線サウナの効果についてまとめたものです。

サウナ 遠赤外線

(画像出典:Denniston, Heather, "Infrared Sauna Benefits")

 

 こちらも内容をまとめると次のようになります。 

遠赤外線サウナ

 中でも「痛みの軽減」は一番よく研究されている遠赤外線サウナの効果であると書かれていました*7。二番目によく研究されている効果は循環器系の改善とのことです*8。いずれにせよ、Wilsonも指摘していたように遠赤外線サウナの効果の研究はまだ多くなく、広告の内容を鵜呑みにしてはいけないということでしょう。

 熱の伝わり方の特性から、遠赤外線サウナは効率良く身体に熱が届くということは間違いないでしょう。身体を温めることのみが目的の暖房器具であれば、遠赤外線は効率が良いと言えます。しかし、私たちはサウナに暖をとりに行っているわけではありません。心地よく温まる、ということを考えると、熱効率は悪くても部屋全体が温まる伝統的なサウナ、ストーンによって空気を温めるサウナ室の方が好き、という人もいるでしょう。効率良く発汗したい、苦しくなく長くサウナ室にいたいという 人は、遠赤外線サウナの方が好きということもあるでしょう。

 

 今回は、遠赤外線サウナについてさらに詳しく見てみました。当然ですが、熱の種類が違えば温まり方も違うわけですね。サウナに何を求めるかによっても、どちらが好きかが分かれてくるかもしれません。

 

参考文献

Denniston, Heather, "Infrared Sauna Benefits," FIX. (最終アクセス日:2020年5月1日)

Lahti, Craig, "How to Compare Traditional vs Far-Infrared Sauna", finnleo. (最終アクセス日:2020年5月1日)

Wilson, Debra Rose, "Is an Infrared Sauna Better Than a Traditional Sauna?", healthline. (最終アクセス日:2020年5月1日)

 

*1:『デジタル大辞泉』

*2:『大辞泉』「赤外線」の項

*3:Wison

*4:同上

*5:Lahti

*6:Wilson

*7:Denniston

*8:同上