Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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日本のヴィヒタの歴史

 最近では、セルフロウリュができるサウナも以前より増えてきて、サウナ室にヴィヒタを置く施設もあります。ヴィヒタで身体を叩いてもらうウィスキングのサービスを受けられる機会もちらほらあります。このヴィヒタ、日本ではいつ頃からサウナのアイテムとして知られているのでしょうか。今回は、日本のヴィヒタの歴史について考えてみます。

 

1960年代のヴィヒタへの言及

 ヴィヒタに言及する記事は、古いものだと1967年に見られます。1967年の『読売新聞』「湿度高くべとつく 自宅でサウナ式入浴」という記事は、「ツユは、やはりうっとうしいものです」と始まります*1。梅雨がうっとうしい理由として、「湿度が高くなると、水蒸気として皮膚面から蒸発していた水分が、皮膚に停滞して、蒸発が鈍って」*2くることが指摘されています。その上で、次のようにサウナに言及しています。

最近、サウナぶろが評判のようです。ふろの中の気温75度から120度ぐらい、湿度は20%から30%というのが本場のフィンランドでの条件です。こうなると皮膚からの水分の排せつはさかんになり、老廃物を体外に出すばかりか、体重を減らすのに有効だというわけです*3

 老廃物は汗と一緒に排出されないこと、ダイエット効果はないことなどは既に過去の記事でも見た通りです。「サウナと汗 デトックス効果は都市伝説」では、汗は99.5%が水で、老廃物を体外に排出するのは尿であることを確認しました。ダイエット効果がないことは「サウナと汗 発汗のメリット」でも指摘しましたし、何よりサウナに行く人たちはそれを経験上知っていると思います。しかし2020年の今でもそうした効果を期待している人はいますし、1960年代には新聞でもそういう効果について言及されていたわけですね。いずれにせよ、サウナ室でたくさん発汗できるということは事実ですね。そして、ヴィヒタについて次のように言及されます。

サウナぶろとかトルコぶろとか、近年の流行のようにいわれていますが、この形式のふろは奈良時代からありました。(略)しかし、シラカバなどの若枝で、からだをたたくという形式は、サウナ独特かもしれません。これらの葉からは芳香性のフィトレチッドが発散されます。それは、皮膚をたたくときの機械的な刺激とあいまって、皮膚面に有効な刺激を与えるはずです*4

 既にいろいろな記事で言及してきた通り、日本の沐浴は古くから蒸気浴であり、蒸し風呂自体の歴史は長いわけですが、シラカバなどの枝で身体を叩くのは「サウナ」独特かもしれない、ということですね。シラカバなどの枝で身体を叩く、つまりウィスキングのようなことに言及しています。そして、ヴィヒタで身体を叩くことは家の風呂でもできると書かれています。

このような操作は、普通の家庭ぶろでも、やってみてもよいでしょう。なにもシラカバの葉に限りません。ポプラ、カシ、ツツジ、ユーカリの葉からは有効なフィトレチッドが出るはずです*5

 サウナ室にこだわらず、家の風呂でも、シラカバ、ポプラ、カシ、ツツジ、ユーカリなどで身体を叩いてみては、という記事です。

 ヴィヒタで身体を叩くことについては早くも1960年代にはその効果が注目されていたわけです。しかし、日本のサウナ施設でヴィヒタを使う、ということはあまり定着しなかったようです。

サウナのあるところ

 (画像出典:【3月7日はサウナの日】フィンランド映画『サウナのあるところ』本当に熱々のロウリュを浴びるサウナ室4D上映会を開催! | PR TIMES)

 

「本場式」要素としてのヴィヒタ

 新聞に見られるヴィヒタの言及は、その後しばらくなく、1993年に出てくるのも「本場」ではどうかという話です。

 1993年の『読売新聞』[いまどきの香り]という連載記事の4つ目に「楽しむための新製品続々 音と併せて快適感」という記事があり、その中でヴィヒタについて言及されています。「サウナに慣れ親しんだシラカバ」という小見出しで、次のような記載があります。

◇ピルッコ・ハンヌラさん (フィンランド政府観光局長)
森と湖の国フィンランドにはシラカバの木が多く、五月初めに一斉に若葉が出ます。長かった冬が終わり日一日と昼が長く、暖かくなります。
シラカバの若葉にはフレッシュで清潔な独特の香りがあります。私はこの香りが大好きです。
フィンランド人はサウナで、ビヒタという、シラカバの葉を束ねて作った道具を使います。これで体をたたきながらサウナに入ります。ビヒタはサウナの湿気で独特の香りを出します。これがシラカバの若葉の香りなんです。
小さなころからサウナで慣れ親しんだ香り。だからよけい、この春の香りを好ましく思うのかもしれません*6

 フィンランドの文化として、フィンランド政府観光局長のピルッコ・ハンヌラさんがヴィヒタについて紹介しているという形です。フィンランドの話という文脈ですが、「香り」の連載記事の中でサウナの香りについて取り上げられているのは興味深いです。

フィンランド 白樺

 (画像出典:フィンランドのシンボル白樺と白樺グッズ | キートスショップ)

 

日本でのヴィヒタ利用

 日本のサウナ施設でヴィヒタを使うということに関しては、2000年代に入ってからサウナ人気の低迷という文脈で出てきます。例えば「逆風のサウナ専門店、人気再沸騰へ策は?」という2013年の『朝日新聞』の記事です。この記事は次のように始まります。

おじさんの癒やしの場、サウナ専門店に逆風が吹いている。東京で半世紀の歴史を誇る店が閉店を決め、全国の店舗数も減少が続く。若者や女性にアピールしようという動きもある*7

 老舗が続々閉店していて、「おじさん」だけでなく若者や女性にアピールしようという動きもあるということが語られています。「逆風」の具体的な状況については、次のように書かれています。

厚生労働省の統計では、サウナ営業を主とするサウナ風呂の施設数はバブル期に約3千店を数えたが、その後はほぼ下降線をたどり11年には1883。同省は「スーパー銭湯でもサウナが楽しめるようになったことが大きい」とみる。
一方、浴場のあるスポーツ施設は右肩上がりで、11年は3225。サウナのある施設も多く、専門店離れの一因にもなっている*8

 つまり、1970年代~80年代に急増していたサウナ施設がどんどん閉店するようになり、店の数は減り続けているということです。約3000から1883、2/3以下に減っているということですね。その原因として、スーパー銭湯やスポーツ施設のサウナの充実があげられています。この状況を打開するためにどうするべきか、というこの記事の中で、一つの策としてヴィヒタについて言及されます。

フィンランドの人たちは日本のサウナをどう見るか。フィンランド大使館のミッコ・コイヴマー参事官(36)はスーパー銭湯などのサウナを何度も訪れた。「ホームシックを癒やすのにいい。母国のと違って中でテレビも見られる。変な感じだが面白い」
同大使館内には大使用と職員用の二つのサウナがある。熱した石にひしゃくで水をかけて蒸気を出し「ロウリュ」という状態を作る本格式。さらに「ヴィヒタ」と呼ばれる白樺の枝葉で体をたたくのが本場流だ。
「日本にサウナが広がっていることは誇り。専門店も、よりフィンランド風を追求し、ヴィヒタも用意するなど本物志向にすれば人気が出るのではないでしょうか」*9

 フィンランドではロウリュをすること、ヴィヒタで身体を叩くことが紹介され、それが「本場流」であるとされています。そして、サウナ施設もヴィヒタを用意するなど「本場志向」にすれば人気が出るのでは、というまとめです。これは背景にスーパー銭湯やスポーツ施設のサウナという競合する存在があって、それらとの差異付けという意味でもあるのでしょう。本場流を追求すれば「サウナ施設」として人気が出る、生き残れるのでは、ということです。この記事は2013年、つまり7年前のものですが、最近のサウナ施設の動きを見てみると、セルフロウリュができるようになったり、ヴィヒタを置くようになっていたり、いわゆる「本場流」に変えていく動きもあり、サウナに特化したサウナ施設の「売り」として「本場流」は有効なのかなとも思います。

ヴィヒタ

 (画像出典:北海道ホテル Hokkaido Hotel 投稿 | Facebook)

 

 実際にヴィヒタを置いている施設の記事としては、2015年にウェルビーの「森のサウナ」が取り上げられています。2015年の『読売新聞』「サウナに『ロウリュ』人気 熱い石に水かけ蒸気、短時間で発汗」という記事です。

サウナ風呂などの温浴施設に、フィンランド発祥の「ロウリュ」と呼ばれるサービスを導入する動きが広がっている。熱い石に水をかけて蒸気を発生させるもので、湿度の高い熱波に当たり、短時間で発汗できるという*10

ウェルビー森のサウナ

(画像出典:「日本のサウナクレイジーに行った 〜ウェルビー栄森のサウナ〜」ちーりんのブログ)

 

 ロウリュサービスを導入する施設が増えていることが紹介されています。記事の前半では、杉並区の「なごみの湯」がロウリュ用のサウナ室を用意したことが取り上げられています。こうした施設のロウリュサービスについて、次のように書かれています。

ロウリュはサウナの本場フィンランド生まれだが、「日本では、タオルを振り回してあおぐというフィンランドにはない行為も加えて、ロウリュと呼んでいる」と、日本サウナ・スパ協会(東京)事務局長の若林幹夫さん。イベントとして盛り上がり、集客につながると、導入する施設がここ5年ほどで一気に増えたという*11

なごみの湯

(画像出典:都内から1時間以内で行ける!話題のスーパー銭湯まとめ16選【関東】-じゃらんニュース)

 

 単純に水をかける「ロウリュ」に加えて、タオルなどであおいで蒸気を攪拌する、アウフグースの部分も含めて「ロウリュ」と呼んでいること、そしてそうしたサービスを導入する施設が5年ほどで一気に増えたことが指摘されています。つまりロウリュサービスは2000年に入ってから急増したということですね。そして、記事の後半にヴィヒタが出てきます。

一方、本場そのままのロウリュを打ち出す施設も。サウナとカプセルホテルのある施設を展開するウェルビー(名古屋市)は、サウナ室「森のサウナ」を、名古屋市内に昨年と一昨年、計2店開設した。
フィンランドと同様に、アロマ水は客自身でかける。また、シラカバの小枝を束ねた「ヴィヒタ」も用意。本場ではヴィヒタで体をたたき、刺激と香りを楽しむという*12

 「本場」とは少し違うロウリュサービスに対して、「本場そのままのロウリュ」を打ち出している例としてウェルビーの「森のサウナ」が紹介されています。利用者が自分でロウリュする、つまりセルフロウリュができることに加えて、ヴィヒタも用意してあるということが書かれています。

ウェルビー森のサウナ

(画像出典:【宿泊レポ】ウェルビー名駅に泊まった感想。サウナが整いすぎて楽園すぎた!- ココハマ)

 

 このように、日本のサウナ施設でもロウリュやヴィヒタが取り入れられるようになるわけですが、それは主に2000年代に入ってからと言えそうです。

 

 今回は日本におけるヴィヒタの歴史についてまとめてみました。ヴィヒタについての言及は、1960年代からあるものの、すぐには定着せず「本場」のものという位置づけだったようです。2000年代に、スーパー銭湯の台頭やスポーツ施設の充実によりサウナ施設が減っていく中で、「本場式」のロウリュやヴィヒタの利用が注目された、という流れのようです。気軽にいろいろな層がサウナを楽しめるスーパー銭湯とはまた別の、セルフロウリュができる、ヴィヒタが置いてある施設や、ウィスキングを受けられる施設も増えてくると、日本のサウナはますます多様になってよいですね。

 

参考資料

『朝日新聞』「逆風のサウナ専門店、人気再沸騰へ策は?」、2013年8月9日、朝刊

『読売新聞』「[いまどきの香り](4)楽しむための新製品続々 音と併せて快適感」、1993年11月28日、朝刊

『読売新聞』「湿度高くべとつく 自宅でサウナ式入浴」、1967年6月17日、朝刊

『読売新聞』「サウナに『ロウリュ』人気 熱い石に水かけ蒸気、短時間で発汗」、2015年3月4日、朝刊

 

 

*1:『読売新聞』1967年6月17日、朝刊

*2:同上

*3:同上

*4:同上

*5:同上

*6:『読売新聞』、1993年11月28日、朝刊

*7:『朝日新聞』、2013年8月9日、朝刊

*8:同上

*9:同上

*10:『読売新聞』、2015年3月4日、朝刊

*11:同上

*12:同上