Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナの日②

 「サウナの日①」では、日本サウナ・スパ協会の制定した「サウナの日」について、またフィンランドのサウナデイについて見てみました。サウナの日と言えば、国際的なサウナの大きなイベント、International Sauna Congress(国際サウナ会議)も忘れてはいけません。今回は、International Sauna Congressについて見てみます。

 

International Sauna Congressとは

 International Sauna Congress、国際サウナ会議は1958年にフィンランドで開催されたのを最初に、4年に1回のペースで開催されるサウナに関する国際会議です。

 日本が初めて参加したのは、第6回、1974年にフィンランドで開催された年のようです。日本サウナ・スパ協会の沿革を見ると、「第6回サウナ会議(フィンランド・ヘルシンキ)へ代表団を初めて派遣」と記載されています*1。その後、第7回~9回については沿革に特に記載がありませんが、1991年の第10回は日本が国際会議開催国になり、国際サウナ協会と社団法人日本サウナ協会*2共催で開催されました。その後、第11回以降はすべて代表団を派遣しているようです*3

国際サウナ会議

 

Congressの意義

 1974年にフィンランドで開催された第6回Inrternational Sauna Congressの内容は、Sauna Studiesという本にまとめられています。「良いサウナの条件とは①」「良いサウナの条件とは②」で紹介したNiilo Teeriの論文もこの本に掲載されています。つまり、これも1974年の国際会議での発表の一つだったわけです。

 国際会議のオープニングセッションとして、政府を代表して当時の教育大臣Marjatta Väänänenのスピーチも記録されています。

サウナ サウナ会議

(画像出典:Finnish Government HP

さすがフィンランドの教育大臣、貫禄満点のサウナ顔ですね!(※Saunologyの主観) 

 Väänänen教育大臣はフィンランドにおけるサウナの位置づけについて、"The Finns made the sauna their own long time ago; and while the sauna disappeared in other countires, we maintained and promoted the tradition."*4(フィンランド人は大昔、サウナを作り出しました。そして、他の国でサウナが姿を消す中、我々はサウナを使い続け、伝統を促進してきました)と述べます。フィンランドがサウナ発祥の地であるだけでなく、他の国のようにその歴史が途切れることなく続いていることを強調します。

 そして、そのように伝統を守ってきている一方で、サウナは姿を変えることが多々あるということにも言及しています。

The shape and appearance of the sauna have often changed considerably in the process of adaptation to new conditions. The phenomenon can be seen both in Finland as new types of sauna are born here, and when the sauna is introduced to other countries. Sometimes the sauna may change so much that it hardly deserves to be called a sauna at all *5.

(サウナの姿かたちが新しい環境に適応されるプロセスの中で、大きく変わることはよくあります。この現象は、新しいタイプのサウナが生まれているフィンランド国内でも見られますし、他の国に紹介した際にも見られます。時には、サウナがもはや「サウナ」と呼べないほど、変わってしまうこともあります。)

 フィンランド国内においても、サウナの形は環境に応じて変わってくることを指摘し、国外で受け入れられる時に本来のサウナとは違う形で受容されることがあることにも触れています。もはや「サウナ」と呼べないほど、もとの姿とは程遠いようなケースもあるとしながら、大臣は次のように続けます。"I hope that even if the sauna may lose some of its originality on its way to the world, it will continue to be a place of peace and harmony. "*6(たとえサウナが世界に渡る中でそのオリジナリティーの一部を失ってしまっても、サウナが平和と調和の場であり続けることを願います。) 

 教育大臣は、International Sauna Congressがサウナ研究にとって非常に重要な場であることを述べて、サウナ研究の目的について次のようにまとめています。

With the steady increase in the use of the sauna it is important for us to know the sauna and the process of having a sauna as thoroughly as possible. The ultimate aim of research on the sauna is to find out what kind of sauna is the best, how it should be used in order to gain the maximum positive effect, and, should there be aloso harmful and hazardous effects, how to minimise them *7.

(サウナ利用が着実に増えている中、サウナと、サウナ浴のプロセスについてできる限り多くのことを知ることが重要です。サウナ研究の最終的な目的は、どのようなサウナがベストであるか、また、最大限有効な効果を得るためにはどのように利用すればよいかということ、そして有害な、危険な面があるならいかにそれを最小限にすることができるか、ということを知ることです。 )

 サウナに優劣はない、という意見もありますが、どういうサウナがベストなのか、有効な入り方はどういうものなのかを知ることはサウナ利用をする中で、また人にサウナ利用を勧める中で重要だと言えます。また、「サウナは身体にいい!」という結論ありきで医学的な効果などを語る言説も見受けられますが、大臣の言うように有害な、危険な面についてもはっきりさせて、それをいかに最小限にできるかということを考えることが重要だと改めて感じます。

  オープニングセッションにはもう一つ、当時の国際サウナ協会会長Harald Teirによる講演もあり、それも記録されています。1972年から国際サウナ協会の会長を務めたHarald Teirは医師であり、ヘルシンキ大学の教授でもあったそうです*8。詳しい経緯はわかりませんが、記念アートメダル化もされているようです。裏面はヴィヒタとサウナストーンのようです。お洒落です。

サウナ 協会 会長

(画像出典:HUUT

サウナ 協会 会長

(画像出典:HUUT

 

 Teirは"Aims of Sauna Research"というタイトルで、サウナ研究の意義についてまとめています。

Scientific research on the sauna? What could it be? Quite unnecessary is often the answer. Especially in Finland where we are so used to sauna baths, the theme seems childish. The sauna is part of our everyday life, and we seldom come upon the thought that it would be worth research. Some have even told me that there should be no sauna research, that the sauna is so good. That is, it could best be compared with the sacred cow of India; it should not be touched*9.

(サウナの科学的研究?どんな研究?答えはしばしば、不要ということになります。特に、サウナ浴に慣れすぎているフィンランドでは、このテーマは稚拙と考えられてしまいます。サウナは毎日の日常生活の一部であり、研究する価値があるか、ということはほとんど考えられません。サウナは研究するべきじゃない、とても良いものなんだからという人さえいました。インドにおける神聖な牛と同じです。触れるべきではないこと、と考えられるのです。)

 フィンランドではあまりにサウナが身近で、研究対象として価値がないのでは、と思われてしまう一方で、サウナは良いものなのだから研究などするべきではない、という声もあるということが紹介されています。今の日本でも、サウナに優劣はない、研究など持ち込むなという意見もありますが、1970年代のフィンランドにもそうした考え方はあったのですね。

 これに対してTeirは、サウナが変わってきていることを指摘します。

The sauna, which for centuries and perhaps thousands of years has been the same roomy, shaky smoke sauna with its large stove, good ventilation, humid air, birch whisks and moderate temperature, has been rapidly changing during the last generation. The result is often a small, too small, room with a too high temperature, and often too dry and badly ventilated air and thereby insanitary.*10

(サウナは何世紀もの間、おそらく何千年もの間、同じような広々とした、大きなストーブに良い換気、湿度のある空気、シラカバのヴィヒタのある、適度な温度のスモークサウナでしたが、これが急速に変わり始めています。新しいものは、小さい、小さすぎる部屋に高すぎる温度、往々にして乾燥しすぎていて、換気のよくなく不衛生なものです。)

 伝統的なスモークサウナから、電気式のサウナに変わっていく中で、改めてサウナについて、

  1. how should the sauna be built(サウナはいかに作られるべきか)
  2. how should the sauna be used(サウナはどのように入ったらよいか)

という問いが出てくるとTeirは指摘します。

また、サウナの健康効果や身体への影響について、Teirは"The answer must come from serious scientific research. We should not be content with assumptions and speculations."*11(答えは科学的研究からもたらされるべきです。仮説や推測で満足していてはいけません。)と指摘します。そして、科学的な研究によって害があるとわかれば、その原因を取り除く必要があると言います*12。教育大臣も指摘していたように、身体に害があるようであればそれもはっきりさせて、取り除いていく必要がある、ということです。サウナを多くの人が利用するようになるためにはとても重要な視点です。「サウナは身体にいいもの」という結論ありきでそれを医学的知識と結び付けるだけでは意味がなく、ネガティブな側面も解明していくことが重要だと言えそうですね。

 そして、Teirは国際サウナ会議の目的、義務について以下のようにまとめます。 

The duty of this congress, like the duty of sauna enthusiasts in general, is to work so that people can bath and relax without anxiety, to deliver them from everyday worries and problems.*13

(この会議の義務は、一般のサウナ愛好家の義務と同様に、人々がリラックスして、不安なくサウナを楽しめるように働きかけること、人々を日々の心配事、問題から解放することです。)

 国際サウナ会議の義務として人々がリラックスして、不安なくサウナを楽しめるようにすることが挙げられていて、それが一般のサウナ好きの義務と同じだと言われているところが興味深いです。専門家ではなくても、サウナ好きは誰もがサウナに安心して入れる、リラックスして入れるように、サウナのことを詳しく知る必要があるという考え方です。「サウナは気持ちいい」「サウナはいいもの」というだけではなく、多くの人が安心してリラックスできるようにするために、サウナについてできる限り知るというのはサウナ好きの義務だと考えられているわけです。それを牽引していくのが、国際サウナ会議ということですね。

 

1991年第10回国際サウナ会議in京都

 ここまで見てきた教育大臣と国際サウナ協会会長のスピーチが行われた第6回からは、日本からも代表団が派遣されて参加していました。それから44年後の1991年、第10回 International Sauna Congressは日本の京都で開催されました。ヨーロッパ以外での開催はこの時が初めてだったそうです。1991年5月7日と8日に開催されたこの国際会議、テーマは「健康とサウナ生活」だったそうです。

 フィンランドはもちろん、ドイツ、スイス、韓国など12カ国からサウナ研究者や経営者などが集まり、2日間でのべ約1200人が参加したそうです*14。日本サウナ協会と国際サウナ協会が主催、厚生省(現厚生労働省)・在日フィンランド大使館・朝日新聞社などが後援、キリンビールが特別協賛、大塚製薬株式会社などが協賛でした。

サウナ サウナ会議

(画像出典:SAUNA

 第10回の国際会議は、国際サウナ会議実行委員長の米田一也の開会宣言で幕を開き、社団法人日本サウナ協会*15会長の中野幸夫のあいさつが続きました。

このたびのサウナ会議開催は、日本のサウナがメディカル指向へ大きな転換をはかる契機といえるでしょう。日本においても新しいサウナの文化を創造するときがきたのです*16

 会議の様子を報じる「朝日新聞」の記事では「サウナが、レジャーだけではなく、健康増進にも寄与するものと認識してもらおうというのが、協会の狙いのひとつだ」*17と紹介されています。

 開会式のあとは、国際サウナ協会の会長アンティ・エイロサ(内科医)による基調講演「サウナ研究の進展」の中で、循環器系の器官についての研究が進んできていることや、高齢者の利用についてもう少し研究されるべきであることなどが報告されたそうです。そして、エイロサ会長は「サウナ文化を豊かにするために、各地にある習慣を尊重していきたいと思います」*18とも述べたそうです。

 各国代表の講演が17題、その前に「歴史や利用形態・各国の研究者のテーマなど、あらゆる角度からサウナを分析したマルチスライド『サウナと健康』」*19が上映されました。マルチスライド、見てみたいです。その中では子どものサウナ浴についても触れられ、フィンランドにはサウナを設置した小学校・中学校もあることなど紹介されたそうです。

 日本の講演として、鹿児島大学医学部の鄭忠和は遠赤外線サウナを心不全の治療に実験として利用した成果を報告したそうです。その中で、「頭だけを出す特別構造の遠赤外線サウナ」が効果を上げている、という成果が報告され、一般の聴講者の間でも一番印象に残った講演、と注目されたそうです*20

 「健康とサウナ生活」というテーマのこの会議、オーストリアのサウナ協会会長ルードビッヒ・プロコブ(スポーツ医学博士)からは、「サウナが健康に役立つかどうかは、正しい使用法をわきまえることにかかっている」という指摘があり、「間違ったサウナ利用法」がいくつか指摘されたといいます*21

間違ったサウナ利用法

 

 そして、国際サウナ協会会長のアンティ・エイロサは「サウナ浴で何より大切なのは、本来の目的であるリラックスを楽しむこと」であるとし「どこまで高温度に耐えられるかというガマン大会ではありません」と述べたと言います。上記の「激しい水流で急速に体を冷やす」ことは、いわゆるととのうためには必要ですが、フィンランドのサウナ浴の本来の目的であるリラックスを楽しむことからすると、異なる利用法なのかもしれませんね。

 ではどういう入り方が「正しい」のかということについて、ドイツのサウナ協会会長ロルフ・アンドレアス・ピーパーは「サウナの後、まず外気浴で身体を冷やし、次に冷水浴、横になって休息。これを3セットほど繰り返すのがドイツでは一般的。冷水浴の後で足湯も推奨されている。サウナ室に15分以上とどまることはない」*22とドイツでの一般的な入浴法について説明したそうです。そういえば「海外のサウナの入り方」では足湯のイラストが見られました。 

 会議には一般の聴講者も参加しており、「サウナの勉強をしたくとも、日本では文献や講演がほとんどない。今回の会議は本当に有意義でした」*23(家庭用サウナメーカー勤務・40歳)という感想なども新聞記事で紹介されています。1974年の国際サウナ協会会長の言葉にあったように、研究者以外のサウナユーザーも、サウナのことを知り、みんなが安心してサウナに入ることができるよう働きかける必要があるわけですが、個人でできることには限界があります。こうした大きな会議が定期的に開催されることで、知識が共有されるのはとても大事なことですね。

 

 今回は、International Sauna Congress、国際サウナ会議について見てみました。サウナの利用が広がれば広がるほど、サウナ研究は重要になっていき、またサウナ研究が充実していけばサウナ利用者も増えていくのでしょうね。 

 

参考文献

Teir, Harald (1976) "Aims of Sauna Research", Sauna Studies.Ⅵ International Sauna Congress, Helsinki, August 15-17, 1974, pp.12-17.

Väänänen, Marjatta (1976) "Adress by The Finnish Government", Sauna Studies.Ⅵ International Sauna Congress, Helsinki, August 15-17, 1974, pp.9-11.

Wikipedia, "Harld Teir"の項。

朝日新聞、「サウナは健康によい利用法を 京都で国際会議、各国から1200人」、1991年5月14日、朝刊

朝日新聞、「「第10回国際サウナ会議」盛況の2日間」、1991年5月30日、朝刊

公益財団法人日本サウナ・スパ協会、「日本サウナ・スパ協会ご案内」

*1:日本サウナ・スパ協会、「日本サウナ・スパ協会ご案内」

*2:現公益社団法人日本サウナ・スパ協会

*3:日本サウナ・スパ協会、「日本サウナ・スパ協会ご案内」

*4:Väänänen, p.10

*5:同上

*6:同上、p.11

*7:同上

*8:Wikipedia、"Harald Teir"の項

*9:Teir, pp.12-13

*10:同上、p.12

*11:同上、p.16

*12:同上

*13:同上、p.17

*14:朝日新聞、「サウナは健康により利用法を 京都で国際会議、各国から1200人」

*15:現公益社団法人日本サウナ・スパ協会

*16:朝日新聞、「『第10回国際サウナ会議』盛況の2日間」

*17:同上 

*18:同上

*19:同上

*20:同上

*21:朝日新聞、「サウナは健康によい利用法を 京都で国際会議、各国から1200人」

*22:同上

*23:朝日新聞、「第10回国際サウナ会議」盛況の2日間