ヴィヒタは日本でもサウナアイテムの一つとして知られるようになってきました。イベントなどで、ヴィヒタを使ったマッサージの「ウィスキング」を受けられる機会もあります。ヴィヒタというと白樺が有名ですが、実際にはいろいろな木が使われるようです。今回はサウナのヴィヒタ、サウナウィスクについて見てみます。
サウナウィスク、ヴィヒタ・ヴェーニク
「ヴィヒタ」はよく聞きますが、サウナ室でヴィヒタを用いて身体を叩くマッサージをウィスキングと言います。そして、サウナ室で使う木の枝を束ねたものをサウナウィスクと言うそうです。"Everything you need to know about sauna whisks"(サウナウィスクの全て)では次のように説明されています。
Sauna whisk, called vihta in Finland and venik inRussia, is a special accessory. To many sauna bathers it is a compulsory item. A whisk is a bunch of young tree twigs which are used to give a special massage in sauna*1.
(サウナウィスク、フィンランドではヴィヒタ、ロシアではヴェーニクと呼ばれますが、これは特別なアイテムです。多くのサウナ利用者にとって、必須アイテムです。ウィスクはサウナでマッサージをするための、若い木の枝を束ねたものです。)
「ヴィヒタ」=白樺と言われることもありますが、種類は問わず、サウナで使う木の枝を束ねたものをフィンランド語では「ヴィヒタ」、ロシア語では「ヴェーニク」と言うようです。ちなみに日露辞典でвеник(ヴェーニク)を引くと「(サウナ・掃除用の)枝箒」と書いてあります。枝箒。言われてみれば箒ですね。
ヴィヒタ・ヴェーニクを使ったウィスキングの一般的な効果については次のように説明されています。
Using sauna whisk during massage promotes better blood circulation, cleans the skin and enriches it with health*2.
(ウィスクを使ってサウナでマッサージすると、血液の循環が促進され、肌がきれいになり、健康になります。)
血行を促進し、肌をきれいにしてくれるようです。そもそもサウナ浴は血行が促進されるものであると言えます。サウナに限らず、温冷交代浴が血行を促進することが指摘されています。「筋肉を温めたり冷やしたりすることで、血管が拡張と収縮を繰り返すポンプのような作用をし、血行が促進されて早期の疲労回復につながる」*3というのです。身体を温めることや発汗にも血行促進の効果はあると言われていますが、叩くことで更に血行が促進されるのでしょう。
そして、どんな木を使うかによっても効果が違うようです。葉や枝の堅さは違えど、叩くということで言えば、どんな木を使ってもあまり変わらなそうな気がしていしまいます。そもそも血行促進や直接皮膚表面に触れて肌がきれいになるという効果以外の、体内に影響するような効果があるのはどういう仕組みなのでしょうか。"7 лечебных веников, которыми парятся на Руси"(ロシアで使われる薬用ヴェーニク7種類)では、その仕組みについて言及されていました。サウナ室で使うことにより、植物の精油が蒸気を通して体内に入るためだと言います。例えば白樺の場合、白樺の精油が蒸気を通して体内に入り、気管支を拡張するのだそうです*4。蒸気に乗って体内に入ると言われると、さまざまな効果があることや、植物によって効果が異なることも納得ができます。
ウィスキングは、ロウリュをしてたくさんの蒸気をたてたサウナ室内で行った方が植物それぞれの効果を得やすい、ということなのかもしれませんね。では具体的に、どんな植物にどんな効果があるのでしょうか。
使われる植物いろいろ
ヴィヒタ・ヴェーニクにはいろいろな木が使われると言います。
Whisks are made of different tree species. The most popular of them are birch, oak and eucalyptus*5.
(ウィスクはいろいろな種類の木から作られます。最もポピュラーなのは、樺、オーク(ナラ)、ユーカリです。)
「ポピュラーなもの」でもなじみのある白樺以外にも、オーク(ナラ)やユーカリがあげられています。
(画像出典:EXPERT SAUNA)
使用する木によって、効果も違うようです。"Everything you need to know about sauna whisks"の中のTYPES OF SAUNA WHISKS(サウナウィスクの種類)に書いてある内容をまとめてみます。
使う木によって得られる効果も違うようです。こちらは英語の資料ですが、ウィスキングと言えば、やはりロシアの文化というイメージです。ロシアのウィスク、ヴェーニクにはどのような木が使われているのでしょうか。
ロシアのヴェーニク
「海外のサウナの入り方 ~ロシア編~」でも見たように、ロシアのサウナ(バーニャ)の入り方をみるとヴィヒタ・ヴェーニクが必須であることがよくわかります。
ちなみにロシアの蒸し風呂と言えばサウナではなく「ванна」(バーニャ)という名称もよく聞きますが、「バーニャ」は広く「風呂」を表すロシア語で、例えば「日本のお風呂」は「ヤポンスカヤバーニャ」というような言い方になるようです。ちなみにサウナは「сауна」(サウナ)と表記するようです。サウナハットの発祥も実はフィンランドではなくロシアだったり、ロシアも長い歴史を持つ蒸し風呂の「本場」ですね。ロシアの情報を紹介する時には、「ヴェーニク」・「バーニャ」という言葉を使うことにします。
実際にどのような木がヴィヒタ・ヴェーニクに使われるか、イラストがありました。「バーニャにはどんなヴェーニク(ヴィヒタ)が良いとされているか?」というイラストです。
(画像出典:「Польза и вред бани для здоровья мужчин и женщин」)
左から、白樺、柏(カシ)、イラクサ、リンデン(ライム)・ヤマナラシです。
こちらの画像では、「バーニャとサウナのためのヴェーニク」として7種類あげられています。
(画像出典:NashKendr.ru)
左上から、白樺・オーク(ナラ)・ 菩提樹・もみ・ジュニパー・ヨモギ・竹です。こうした画像がいろいろなサイトに載っていました。次のものもその例です。
(画像出典:ВЕНИКИ БЕНИКИ)
左上から白樺・オーク(ナラ)・ ジュニパー・ ユーカリ・ヨモギ・ ヨモギ*6・ ナナカマド・菩提樹です。
共通して出てくるものが多く、スタンダードなものがわかります。
ロシアのヴェーニクの効果いろいろ
「海外のサウナの入り方 ~ロシア編~」でも取り上げた「Как правильно париться в бане」 では、"Для банных веников используются травы и ветви деревьев, свойства которых по-разному влияют на человека."*7(ヴィヒタにはハーブと木の枝が使われますが、それぞれの植物の特性は異なる影響を人に与えます)と説明されていました。やはり使う木によって効果が違うということです。
「Женский журнал Story-Woman.ru」(女性誌Story-Woman.ru)には、「ロシアの7つの治療用ヴィヒタ」という画像がありました。ヴェーニクに使う7種類の木について、それぞれ特徴・香り・強度などをまとめています。
(画像出典:「Польза и вред бани для здоровья мужчин и женщин」)
上記の画像の内容を、日本語でまとめてみました。
また、以下の画像も、ヴェーニクの種類と特徴をまとめています。
(画像出典:Дневник Успеха)
こちらも上から白樺・オーク(ナラ)・針葉樹の木(モミなど)となっています。正確なことはわかりませんでしたが、白樺は発汗量が増える、オーク(ナラ)は発汗量は増えないが皮膚病に効果あり、モミなどは天然抗生物質といえ傷の治療に役立つ、というようなことが書いてあるようです。
"7 лечебных веников, которыми парятся на Руси"(ロシアで使われる薬用ヴェーニク7種類)という記事にも、使う木によってどのような効果がえられるか書いてありました。こちらもわかった範囲で内容をまとめてみます。
【白樺】
汎用性が高く、価格も手頃だとされています。気管支炎、喫煙者や喘息の人に欠かせないとされています。白樺の精油が蒸気を通して気管支を拡張するのだそうです。その他にも、筋肉・関節の痛みを和らげる効果やリラックス効果もあり、肌にもよいとのことです。
【オーク(ナラ)】
丈夫でウィスクとして使いやすいため人気とのことです。しかし、丈夫だからこそ敏感肌の人には使わない方が良いそうです。油っぽい肌をしなやかにしてくれる効果があるそうです。また、神経系を落ち着かせ、ストレスを緩和するともされています。タンニンなどが含まれるため、発汗を軽減させるともされています。オーク(ナラ)を柔らかくするために湯に浸したら、そのお湯は足湯に活用するのがおすすめだそうです。
【針葉樹(モミ、ジュニパーなど)】
発汗を促し、筋肉の深部の血行を良くするそうです。これも敏感肌の人には向かないとのことです。脊椎の痛み・神経痛などを緩和する効果があるそうです。
【ユーカリ】
風邪や喉の痛みに効果的だそうです。ただ、枝が細かく葉が長く、叩くウィスクにはあまり向かないようです。叩くのではなく、温めたユーカリのヴェーニクを顔に押しあてて、鼻で呼吸し吸入すると良いとのことです。また、白樺やオーク(ナラ)に2~3本ユーカリの枝を足して、組み合わせてヴェーニクを作るのが非常に便利だとされています。単体で使うというより、混ぜるという形です。
【ヨモギ】
ヨモギもユーカリと同じように、顔に押し当てて呼吸する使い方が良いそうです。慢性気管支炎、気管支喘息、リウマチ、腎臓病などによく使われるとのことです。
今回はサウナウィスク、ヴィヒタ・ヴェーニクについて見てみました。葉の形状や堅さ・柔らかさによって使いやすさも変わってくるのですね。扱いやすい木と混ぜて使う、顔用にするなど奥が深いです。日本でもいろいろな木のウィスクを体験できるようになるとますますサウナが楽しくなりそうですね。
参考文献・資料
EXPERT SAUNA, "Everything you need to know about sauna whisks"(最終アクセス日:2020年5月30日)
Hinfo, "7 лечебных веников, которыми парятся на Руси"(最終アクセス日:2020年5月30日)
NashKendr.ru, "Веники для бани"(最終アクセス日:2020年5月30日)
ВЕНИКИ БЕНИКИ, "Какой лучше выбрать веник для бани?"(最終アクセス日:2020年5月30日)
Женский журнал Story-Woman.ru, "Польза и вред бани для здоровья мужчин и женщин"(最終アクセス日:2020年5月30日)
Дневник Успеха,"Как правильно париться в бане: 7 этапов для релакса"(最終アクセス日:2020年5月30日)
武田健太郎、「『疲れたら休養』はNG 軽い運動で血行促進」、日経プラスワン、2012年5月5日(最終アクセス日:2020年5月30日)