Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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サウナと汗 デトックス効果は都市伝説

 サウナで汗をかくことにデトックス効果がある、美容効果がある、と考えている人もいるかもしれません。しかし、発汗により老廃物や毒素が排出されることはほぼないことが最近の研究でわかっています。今回は、サウナとデトックスについてまとめます。

 

そもそもデトックスとは?

 『デジタル大辞林』によると、デトックスは以下のように定義されています。

detoxificationの略。解毒・浄化の意。体内の有毒物・老廃物を排出すること。健康法の一つとして、健康補助食品や食事法、運動法、入浴法などが紹介されている*1

 このデトックスという言葉、そもそも医学用語などではなく、その定義などが曖昧なまま、宣伝文句として使われています。明治大学科学コミュニケーション研究所はデトックスについて「デトックスが何を意味しているのか?という定義づけが(少なくとも学術的には)されておらず、用語として全く不明瞭な状態である」*2と指摘し、「商品を売らんがための説明に終始しているものが多く、科学的検証の対象となっていない。科学的な説明に見せかけた根拠のない説明も多いため疑似科学と判断する」*3と結論付けています。

 つまりデトックスという言葉自体、学術的には定義付けをされていない、曖昧な用語だと言えるでしょう。それを踏まえた上で、ここではデトックスを身体から悪いものを出すこと、有毒な物質や老廃物を出すこと、という意味の言葉として考え、発汗との関係を見ていきます。

  

発汗でデトックスという誤解

 発汗をすると汗と一緒に老廃物が排出されるのでデトックス効果がある、と思っている人もいるかもしれません。しかし、「サウナと汗 発汗の仕組み①」で見たように、汗は99.5%が水です。老廃物を含み、身体の外に排出するのは尿です。「尿が老廃物などの排泄物であるのに対し、汗は体液の損失を犠牲にした体温調節のための分泌物という決定的な違いがある」*4と言われています。

サウナの汗と尿

 

 老廃物だけでなく、有害な物質や毒素が発汗によって体外に排出されると思っている人もいるかもしれません。日本サウナ・スパ協会が作成している『サウナ・スパ健康アドバイザー公式テキスト』にも、汗の役割として有害な物質を外に出すということが挙げられています。テキストでは、汗をエクリン汗腺から分泌されるもの、とした上で、その働きが次のように説明されています。

汗には大きく分けて、二つの働きがあります。
①体内の老廃物を分泌して、体や皮膚を清潔にする働き…尿と同じように過剰な塩分や有害な重金属を体外に排出します。

②体温を調節する働き…発汗によって体温の上昇を抑え、身体全体のクーラーのような役目を果たします。
 通常、1回のサウナ浴での発汗量は約300~400㎖で、汗のもたらす健康・美容効果が十分に得られます*5

 『サウナ・スパ健康アドバイザー公式テキスト』では汗は「尿と同じように過剰な塩分や有害な重金属を体外に排出する」とされています。尿と汗が異なることは既に指摘しました。老廃物だけでなく、身体に有害な物質を排出するのも尿であって、汗ではありません。医師で作家の米山公啓は身体に有毒な物質、毒素は「皮膚から出るものではなく、腎臓と肝臓で解毒されて尿として排出されます。汗の大部分は塩分と水分です」*6と言います。尿は原液の段階では身体に必要なもの、不要なもの、水を多量に含んでいます。それが、尿細管という管を通る間に、身体に必要な栄養素は再吸収され、要らないものが更に追加されて分泌され、水は大部分が再吸収されて排泄物として体外に出ていくという仕組みです*7

 老廃物にせよ有毒な物質、毒素にせよ、排出するのは尿であり、汗はこれに関与しません。有害な物質は内臓で分解されるので、サウナ・水風呂を繰り返すことで内臓の動きが活発になる、という形で多少はサウナ浴にも効果があるかもしれませんが、発汗によりデトックスになる、というのは誤解です。

 

脂腺からの汗?

 サウナ・スパ協会のテキストでは、汗はエクリン汗腺から分泌されるものであるとされていました。一方、エクリン汗腺から出る汗とは別に、脂腺からかく汗にはデトックス効果がある、という記述も見かけます。

 「サウナと汗 発汗の仕組み②」で見たように、汗を分泌する汗腺はエクリン汗腺とアポクリン汗腺の2つです。そもそも、汗の定義は「皮膚の汗腺から分泌される液」*8であり、汗腺から出る液を「汗」と呼ぶわけですから、汗とはあくまでエクリン汗腺・アポクリン汗腺から出る液のことだと言えるでしょう。 

 では脂腺とは何かというと、皮脂を産出する器官です。皮脂は脂肪酸などによって構成されるもので、皮膚表面で汗腺から出た汗などの水分と混合、乳化して表面脂肪酸を作り、皮膚表面をコーティングして皮膚を守ります*9

 脂腺は手のひら、足の裏以外の全身の皮膚と、一部の粘膜に分布しています。多くは毛とセットになっていて(毛脂腺)、粘膜など毛がないところにある脂腺は独立脂腺と呼ばれています*10

サウナとエクリン汗腺と脂腺

 

 図を見てわかるように、エクリン汗腺と脂腺は別物であり、エクリン汗腺から出てきた汗と、脂腺から出てきた皮脂が皮膚表面に出てきてから混ざることはあっても、脂腺から老廃物の混ざった汗が排出される、というのは誤解だと言えるでしょう。

 更に図を見ると、アポクリン汗腺からの汗であれば毛脂腺と同じ毛穴から出てきそうに見えます。しかし、以下の「サウナと汗 発汗の仕組み②」の図で見たように、エクリン汗腺が手のひら、足の裏以外全身に分布しているのに対して、アポクリン汗腺はほぼわきの下に分布し、その他は陰部や耳など限定された場所にしか分布していません。

サウナとエクリン汗腺とアポクリン汗腺

 

 そして、私たちは「アポクリン汗腺の汗を意識することはまずない」*11と言います。最も多く分布するわきの下でも、かく汗は普通エクリン汗腺から分泌された汗です*12。そして、アポクリン汗腺で汗が分泌されると「毛の根本の凹みが濡れてくるが、汗滴を形成することなく、すぐに乾く」*13そうです。

 エクリン汗腺の汗とアポクリン汗腺の汗は、汗をかく理由が異なります。アポクリン汗腺から汗が分泌される理由は痛み、心配、不安などであるとされていて、サウナ室でかく体温調節の汗とは異なることがわかります。また、摩擦刺激によってもアポクリン汗腺から汗が分泌されることがあり、腕を動かす摩擦刺激でわきの下にはアポクリン汗腺からの汗が分泌されることがあります。とはいえこれもごくわずかで、わきの下の場合も、大半はエクリン汗腺からの汗です。

 更に、痛み、心配、不安や摩擦刺激でアポクリン汗腺が汗を分泌すると、その汗腺はしばらく分泌を休むと言います。休む時間は数時間、長いと24時間以上だそうです*14。アポクリン汗腺は、分布している場所が限られていること、分泌される理由が心配、痛み、不安や摩擦などの刺激であること、一度分泌するとしばらく汗腺が休んでしまうことから、一度にたくさんここから汗が分泌されることはなく、私たちがその汗を意識することはないのだそうです。アポクリン汗腺を考慮しても、やはり脂腺から汗が出る、ということは基本的になさそうです。

 

発汗でデトックスは都市伝説

 カナダ、オタワ大学の運動生理学者であるパスカル・インベルトの研究により、「汗と一緒に毒素も排出されるというのは、都市伝説に過ぎなかった」*15ことがわかりました。インベルトの研究は学術誌Environment Internationalに掲載されましたが、National Geographicにその概要がまとめられています。

natgeo.nikkeibp.co.jp

 

 インベルトの研究によると、どれほど激しい運動をしても1日の発汗量は2ℓ程度で、それだけ汗をかいても「汚染物質は0.1ナノグラム以下しか含まれない」*16そうです。これは、人が普段の食生活で体内に取り込む汚染物質のうちの0.04%に過ぎないと言います*17。先に引用した『サウナ・スパ健康アドバイザー公式テキスト』では、1回のサウナ浴で出る汗の量は約300〜400㎖とありましたので、400㎖だとしても、汗に混ざる汚染物質は普段食事等で摂取する汚染物質の0.008%ということになります。

 基本的に、汗はほぼ水です。ですが、重金属やプラスチックに含まれるビスフェノールAは水に溶けやすい性質であるため、ごくわずかの量が汗に含まれるそうです。しかし、これも尿と一緒に排出される量の方が多く、汗で排出される量はごくごくわずかだと言います*18。つまり、人体に影響があると言えない量だとわかったため、発汗でデトックスは都市伝説だったと結論付けられているのです。

 この研究結果を受けて、『AERA dot』はサウナ・スパ協会に見解を求めています。

dot.asahi.com

 

 この記事によると、問い合わせに対して協会は「重金属については、排出量までは書いていません。少しは出ているはずなので問題はないと思っています」とし、「汗では毒素は全く出ないという研究結果が出れば、見直す可能性はあります」*19と回答しています。

 研究結果でも、ごくごくわずかであれば、汗に汚染物質が含まれることが指摘されていますが、化学者のジョー・シュワルツは「どの程度の量かということは、常に問うべきです」*20と言います。人体に影響があると言えない量の有害物質が混ざっていたとして、発汗によって有害物質が外に出る、だからサウナ浴は健康に良い、というのは妥当ではないでしょう。研究結果をまとめたNational Geographicには、「都市伝説の中にも一粒の真実はあるものだ」*21と書かれています。ほんの微量であれば、有害物質も含まれるということを「一粒の真実」と表現しています。効果がないにも関わらず、「発汗デトックス産業」の勢いが止まらないことについて、シュワルツは 「複雑な問題に単純な解決法を適用しようとした結果です。希望を持つことはとても大切ですが、一部の人間は、その希望を利用して何も知らない消費者にとんでもないものを売りつけようとするのです」*22と言います。

 本当に効果があるのか、どういう仕組みで効果があると言えるのか、提供される宣伝文句を鵜呑みにするのではなく、私たちは自分の頭で考える必要があります。『サウナ・スパ健康アドバイザー公式テキスト』をはじめいろいろな情報がありますが、私たちの身体に関わることですから、無理矢理健康効果を求め、サウナが身体に良いものであると言い切ることには、もっと慎重であるべきでしょう。デトックス効果などなくても、サウナは気持ち良いものです。

  

参考文献

Engelhaupt, Erika(2018)ルーバー荒井ハンナ訳、「『汗をかいてデトックス』はウソだった、研究報告」、『National Geographic』、(最終閲覧日:2019年6月18日)

岩下明日香(2018)「汗にデトックス効果なし サウナ協会の反論は?」、『AERA dot』、(最終閲覧日:2019年6月18日)

小川徳雄(1998)『汗の常識・非常識-汗をかいても痩せられない!』、講談社

清水宏(2011) 『あたらしい皮膚科学』第2版、中山書店

菅屋潤壹(2017)『汗はすごい-体温、ストレス、生体のバランス戦略』、ちくま新書

日本サウナ・スパ協会、「知っておきたいサウナ・スパの健康知識」、『サウナ・スパ健康アドバイザー 公式テキスト』

明治大学科学コミュニケーション研究所、「デトックス」、『疑似科学とされるものの科学性評定サイト』(最終閲覧日:2019年6月18日)

*1:デジタル大辞林

*2:明治大学科学コミュニケーション研究所

*3:同上

*4:小川、p.65

*5:日本サウナ・スパ協会、p.18

*6:岩下

*7:小川、p.67

*8:デジタル大辞林

*9:清水、p.23

*10:同上

*11:菅屋、p.23

*12:同上、p.24

*13:同上

*14:同上

*15:Engelhaupt

*16:同上

*17:同上

*18:同上

*19:岩下

*20:Engelhaupt

*21:Engelhaupt

*22:同上