Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

浴室・サウナの男女差

 浴室やサウナの男女差についてはしばしば取り上げられます。新しい施設、と期待したのが男性専用施設であったり、女性側はサウナなし、もしくは水風呂なし、と聞いて落胆した経験のある女性も少なくないでしょう。女性側はサウナなし、水風呂なし、というケースの他にも、女性側はドライサウナなしというケース、温度設定が異なるケース、差のあり方はさまざまです。そもそも男性専用、という施設も少なくありません。サウナのランキングなどで評価が高い施設も男性専用が多く、女性はがっかりすることも多いのではないでしょうか。ここ数年で、男性専用施設を女性に解放するいわゆる「レディースデー」を開催する施設も増えてきて、どのイベントも盛況のようです。そもそもどうして、男女の浴室に設備の差や温度設定の差があるのでしょうか。今回は、浴室・サウナの男女差について考えてみます。

 

浴室の男女差

 「水風呂の歴史 -後編-」では次のような新聞記事を紹介しました。1991年、約30年前の記事です。

ひょんなことから、意外なことに気づいた。温泉地のホテルや旅館で、男湯に比べて女湯のつくりが見劣りし、旅好きの婦人たちが割り切れなさを抱いている、ということだ。最近泊まった山口県内の温泉地のホテルで女湯がぬるすぎて、ちょっとした騒ぎがあった。ここはわかし湯だが、わかし方が不十分なのだ。逆に男湯は、熱かった。悪いことに、女性客がホテル側に抗議したところ、なにを勘違いしたのか、男湯の温度の方をさらに上げた。男は熱湯、女は水風呂。「ここの宣伝文句の岩風呂は男湯のこと。女湯は浴槽があるだけ。おまけにぬるいとは……。温泉地では、たいてい女が軽く扱われる」と一人が不満をもらした。女湯をのぞいて見るわけにはいかなかったが、当のホテルのお手伝いさんも、設備に差があることを認めた。すべてのホテル、旅館がこうだとはいわない。しかし、ある温泉地のホテルのCMで立派な浴場が紹介されると、「女湯とは違う」という声を聞いたのを思い出した。温泉は男の天国、という時代ではない。女性だけで旅を楽しむのがあたり前のいま、受け入れ側の設備にまだ差があったのか、と意外に思う。同じ宿泊費を払っているのに、気の毒だ*1

 これは温泉地のホテルの浴室について男女差があったという話で、「温泉地ではたいてい女が軽く扱われる」「女湯は違う」という男女差についての不満について、気の毒だと感じる男性の視点で書かれています。差がある場合、女性側の方が条件がよくないことが多い、ということがわかる記事です。

 サウナについて言えば、サウナ室の数や水風呂の数が男女で異なる場合があります。男性側の方がサウナ室・水風呂が多いということが多いです。また、同じ設備だと思っていても、サウナ室・水風呂の設定温度が異なるというケースもあります。その場合、サウナ室の温度は男性側に比べて女性側の方が低く、水風呂の温度は男性側に比べて女性側が高いということが多いです。また、サウナ室の種類が異なる場合もあります。その場合は、男性がドライサウナ、女性はミストサウナやスチームサウナといった湿式サウナのみ、ということが多いです。また、女性側はサウナなし、というケースや、サウナ室はあっても水風呂なし、水風呂はあってもチラーなし、など、いろいろな形で男女の浴室に差があることは多々あります。また、同じようにサウナ室・水風呂があっても、ヒーターの種類やサウナ室の構造など、男性側の方が質が高そう、と感じるケースもあります。

 サウナを売りにしている宿泊施設なども、よくよく見ると「女性側はサウナなし」というところも多く、女性のサウナ好きはがっかりした経験もあるのではないでしょうか。そして、「レディースデー」が象徴するように、そもそも女性が対象となっていない男性専用の施設も多いです。

 

「女性の方が熱さに弱い」は誤解

 一般的に、男性に比べて女性の方が熱さや冷たさに弱いと考えられがちです。「レディースデー」の開催にあたっても、温度設定を普段通りにするかどうか検討されることがあるようです。例えば、2020年3月の「かるまる 池袋店」のレディースデーについて、次のような投稿がTwitterにありました。

 結果的に温度を下げないということに決まったということですが、「女性用」に温度を下げるかどうかが検討されたわけです。レディースデーを開催する施設は、女性にも男性専用施設のサウナを楽しんでもらおう、と考えて開催しているわけですから、これはもちろん良かれと思ってそういう案も出るということでしょう。熱すぎたら楽しめないのでは、と考えられているのだろうと思います。「女性サウナ―の皆さんには厳しいかもしれませんが」という言葉の中に、女性の方が熱いのが苦手であるという前提があるように思います。

 しかし、実際にはむしろ女性の方が熱さや冷たさに強いとさえ言われています。「サウナと汗 発汗の仕組み②」で見たように、女性は男性より少ない汗で体温調節ができるとされていて、また皮下脂肪が厚い傾向にあるため、男性に比べて熱が身体に入ってきにくいというのです*2。そして、皮下脂肪が厚いということは、寒さにも強いと言えます。皮下脂肪が厚いことに加えて、女性は寒気に対する感覚も鈍感であるという指摘もあります*3。つまり、身体の構造上、女性の方が暑さ・寒さ(熱さ・冷たさ)には強いと言えるわけです。そう考えると、本来女性は熱いサウナ室・冷たい水風呂にも強い人が多い可能性が高いと言えます。

発汗の男女差

 

久野寧は、「かように女性は寒暑とも耐力が強いのに、労働基準法では女性が高温工場等の使役から保護されているには本質的にいえば当を得ぬことである」*4と言います。かように女性は寒暑とも耐力が強いのに、サウナ室も水風呂もマイルドに設定されがちなのは本質的に言えば当を得ぬことである、とでも言いましょうか。

 また、女性の方が皮膚が薄いため、高温のサウナはよくないというような説明をする人もいます。実際に、女性は男性に比べて皮膚が約0.5mmほど薄いと言われていますが、深部体温の上昇ということを考えると、皮膚の0.5mmの差よりも皮下脂肪の厚さの方が影響が大きそうです。実際に、男性専用施設のレディースデーなどで、「熱すぎた」という不満はあまり聞かないように思います。相当熱い最上段のアウフグースを涼しい顔で受けている女性も少なくありません。

  

熱いのが苦手なサウナ好き

 女性の方が熱さに弱いというのは誤解で、サウナが好きな女性には熱さに強く、熱いサウナや激熱のアウフグースを望んでいる人たちもいます。

 一方で、実際に熱いサウナを苦手と感じている女性サウナ客もいることは事実です。特に年配の女性から、「熱すぎると汗が出ない」という発言を度々聞きました。実際に、女性サウナ室では1段目ではなく床、つまり0段目に座っている人も多いです。男性側ではほとんど見かけないように思いますが、女性側では0段目人口は少なくありません。この「熱すぎると汗が出ない」という感覚は、恐らく次のような仕組みだと考えられます。

 「サウナと汗 サウナ室でかく汗」で見たように、私たちが「汗をかいている」と認識するときの、目に見える汗は「無効発汗の汗」と呼ばれる汗でした。実はその前に目に見えない「有効発汗の汗」をかいているのです。汗をかき始めてしばらくは、汗が出ると同時に蒸発してしまうので目に見えません。汗は蒸発するときに熱を奪っていくので、これで体温調節ができるわけです。しかし汗がたくさん出続けると、蒸発できる量を超えて、蒸発できずに皮膚表面に水分として残る汗が出てきます。これが「無効発汗の汗」で、私たちが通常「汗」と呼んでいるものです。蒸発しない、つまり熱を奪って体温調節をすることに寄与しないため「無効発汗」と呼ばれています。

発汗

 

 サウナ室に入っているときも、最初はどんどん汗が蒸発していて、目に見えない汗をたくさんかいているわけです。熱くて短時間しかサウナ室にいられないとすると、蒸発できずに残る汗(無効発汗の汗)が出てくる前に熱くて出たくなってしまう、ということが考えられます。「熱すぎると汗が出ない」という感想は、実は有効発汗の汗はたくさんかいているのだけれど、蒸発しない無効発汗の汗が出るに至るまでサウナ室にいることができない、という状況なのではないかと思われます。

 そして、こうした感覚が女性に多いとすれば、それは男女の発汗量の差が原因だと考えられます。同じ体温で見ると、女性の汗は男性の汗の2/3~1/3であり、女性の方が男性より汗が出始めるまでに時間がかかると言われています*5。量が少なければ当然、蒸発しきれず残る無効発汗の汗が出てくるまでの時間も長くなります。つまり、女性の方が「汗が出てきたな」と感じ始めるまでに時間がかかるというわけです。

 こうした身体の構造から、女性には比較的低い温度でじっくり長時間サウナ室にいて、無効発汗の汗をしっかりかきたい、という人も多いのではないでしょうか。女性側のサウナ室がスチームサウナやミストサウナなど、湿度の高い湿式が多いこともこうした女性の好みと関係があると考えられます。湿度が高い分、汗が蒸発できなくなるまでの時間が短く、短時間で「汗が出てきた」と感じられるためです。

  

利用者の数

 浴室の広さやサウナ室の数、ヒーターの質などは、利用者の数によっても変わってくると考えられます。男性専用施設が多いということにも、サウナやカプセルホテルの利用客に男性が多いということが考えられます。「【女性はダメ?】カプセルホテル=男性専用なのはなぜ?」という記事では、カプセルホテルに男性専用が多い理由を次のように説明しています。

出張や翌朝の早朝出勤に合わせて、宿泊先を探す、忙しいビジネスマンの為に作られたというのがカプセルホテルの成り立ちです。

その頃は女性の出張は今より少なく、男性会社員の利用者がほとんどでした。

ということで、手っ取り早く男女間で起こりうるトラブルを避けられ、利益を上げられるため、「男性専用」としするカプセルホテルがほとんどになりました*6

 また、カプセルホテルの場合、個室ごとに施錠ができないため、安全を考慮してトラブルを避けるため男性専用にしている、という指摘もありました*7

 実際に見聞きするサウナの混雑状況から、男性の利用者の方が多いだろうということは予想できます。イベント以外で、女性がサウナ室に入るのに並んだり、入館制限をされることは稀でしょう。

 しかしそこには女性の体質の問題もあります。女性は月に一週間程度は、生理があるため温浴施設に行けないわけです。生理の日数は人によっても違いますが、前後を入れて、そろそろくるかもしれない、終わったっぽいけど念のため、という時期も入れれば平均一週間は温浴施設に行きたくても行けない期間があるわけです。一週間、つまりひと月のうち1/4は、行けない期間があるとすると、行けるなら行きたい人の1/4は行けない、ということになるので、常に1/4、行きたいけど行けない人がいるということになります。

 レディースデーなどを定期的に開催する場合は、同じ第1週、などではなく、開催するときによって週を変えたりすると、より多くの人に参加できるチャンスがあると言えます。また、欲を言えば、単発のレディースデーであれば2週間くらいあけて2回に分けて開催、などしてもらえるとどちらかは体調の問題に引っかからず、悔しい思いをする人が減ると言えます。しかし1回の開催でも施設側は非常に大変だということはよくわかるので、イベントの日が行けるタイミングであることを願うしかないです。

 いずれにせよ、行きたいと思う人口のうち、常に1/4くらいは行きたくても行けないのだ、ということは男女の温浴施設利用者について考える際に覚えておくべきポイントかもしれません。

 

 今回は、浴室・サウナの男女差について考えてみました。女性が熱い・冷たいのに弱いというのは誤解であるとは言え、発汗量・発汗速度の関係で比較的温度が低いサウナ室を好む女性がいることも事実だと言えそうです。そうすると、0段目に座って長時間じっくり汗をかくスタイルで楽しんでいる年配の方たちは、比較的温度が低めでセルフロウリュができるフィンランド式のサウナが合うかもしれません。現在のサウナブームといわれる以前から利用している女性の客層にこそ、もしかしたら、温度が低くセルフロウリュができるフィンランド式のサウナ室は需要があるのかもしれません。

 

参考文献・資料

「カプセルホテルのアレコレ!男性専用の理由」、『池袋のサウナ・ホテル『Sauna & Hotel かるまる』blog』(2019年10月4日)(最終アクセス日:2020年11月6日)

「【女性はダメ?】カプセルホテル=男性専用なのはなぜ?」、『池袋のサウナ・ホテル『Sauna & Hotel かるまる』blog』(2019年10月5日)(最終アクセス日:2020年11月6日)

菅屋潤壹(2017)『汗はすごい-体温、ストレス、生体のバランス戦略』、ちくま新書

久野寧(1963)、『汗の話』、光生館

『読売新聞』夕刊、「男湯女湯」、1991年3月18日

 

 

 

*1:『読売新聞』、1991年3月18日

*2:菅谷、p.184

*3:久野、p.75

*4:同上

*5:菅谷、p.183

*6:池袋のサウナ・ホテル『Sauna & Hotel かるまる』blog

*7:同上