Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナ飯が美味しい仕組み

 サウナと言えばサウナ・水風呂ですが、「サウナ飯」という言葉があるように、サウナ後のごはんもサウナの楽しみの一部と思っている人は少なくないでしょう。サウナの後のごはんはどうして美味しく感じるのか、今回はサウナ飯が美味しい仕組みについて考えます。

 

そもそも味覚とは

 私たちが味を感じる感覚を「味覚」と言いますが、これは唾液に溶けた化学物質が舌などを刺激することによって起こります*1。味を感じる味受容器は、舌の他に、口の中の粘膜や喉の粘膜にもあります*2。味覚は基本的に甘味・酸味・塩味・苦味・旨味の5つです*3

 ちなみにこれらの味覚、舌のどの部分で感じているか、分布図を見たことがある人もいるかもしれません。しかし、あれは誤りで、舌全体で味を感じているということが最近ではわかっています。

 味を感じる味受容器は「味蕾」と呼ばれ、舌の上で唾液によって溶けた物質はこの味蕾に入り、味蕾の中にある味細胞に刺激を与えます。この刺激が味覚神経に働いて、大脳皮質味覚領に伝えられることによって、私たちは味を知覚します*4

 

運動後に味覚は変化する

 味覚にはもちろん個人差もありますが、同じ人間についても味覚はいろいろな要因で変化すると言われています。味覚に影響を与える大きな要因として運動が指摘されています*5。加えて、女性の場合は月経周期も味覚に影響があるとされています*6。運動と味覚に関して、仙台大学の紀要には、運動の前後で味覚に変化があるかどうか実験した結果をまとめた佐々木繁盛・早川公康・藤井久雄による「身体運動が味覚に与える影響」という報告があります。

 この報告は、大学生を被験者に、有酸素運動・無酸素運動それぞれの前後に味覚に変化があるか実験した結果をまとめています。実験では、苦味をのぞく甘味・酸味・塩味・旨味の4つについて実験をしています*7

 実験では甘味は砂糖を、塩味は食塩を、酸味はクエン酸を、旨味は味の素を水に溶いて、これらの味の濃度が低いものから高いものまで、5種類の濃度の水溶液を用意して被験者に飲んでもらったそうです。味の種類を伝えずに、濃度が低いものから順に飲ませて、どこで普通の水と区別ができるか、どこで味の種類を当てられるかということを運動前と後とで比べるという方法です*8

サウナと味覚の実験

 

 実験の結果、佐々木・早川・藤井は「すべての味において運動後に検知閾値、認知閾値で味覚閾値の低下が見られた」*9と結論付けています。実験結果を見てみると、男女の間で差が見られるものもあり、全ての味覚で有意な差が見られたとも言い切れない気がしますが、基本的に運動後の方が人は味を知覚しやすいという結果です。運動前よりも、低い濃度でも感知できる、つまり味が濃く感じるのです。

 どうして低い濃度でも感知できるようになるのか、簡単に言うと身体が欲しているからだそうです。4つの味覚と運動によって消費されるものについて、佐々木・早川・藤井はそれぞれ説明しています*10。その内容をまとめると以下のようになります。

サウナで味覚が敏感になる理由

 

 運動によって私たちの味覚は変化し、普段よりも味に敏感になる、先行研究ではこれが運動後にご飯やお酒を美味しく感じる仕組みの一つだとされています。

 

サウナと運動

 運動後にご飯が美味しく感じる理由はわかりました。サウナ浴は運動ではないですが、サウナ後は疲れる、眠くなるという人は多いのではないでしょうか。朝のサウナは短めに、と思っている人もいるでしょう。サウナはしごは体力的に、という人もいるでしょう。運動ではないですが、サウナ・水風呂を繰り返すと体力を消耗している感覚があると思います。

 サウナ室では大量に汗をかきます。「サウナと汗 発汗の仕組み①」で見たように、発汗には体温調節の役割があります。そして、「サウナと汗 発汗のメリット」で見たように、汗は血液から作られます。血液を汗の原液にして、濾過して汗にして排出する、という過程で、私たちの身体はエネルギーを使います。

 また、「サウナの『あまみ』の仕組み」で見たように、私たちは血流量の調節によっても体温調節をしています。体温が上昇すると、熱を逃がそうと皮膚血流を増やし、逆に体温が下がると血液が表面近くにいかないように、皮膚表面の血流を減らします。

サウナのあまみの仕組み

 

こうした動きも、私たちが意図して行っているわけではありませんが、エネルギーを消費している原因の一つと言えるでしょう。

 サウナ・水風呂に入ると、私たちは汗をかいたり、血流量を調節したり、身体のエネルギーを消費していると考えられます。しかし、走ったり、筋トレをしたりするのとは違って筋肉を使っていません。サウナ後は体力を消耗した感じはあるけれど運動後のようなしんどさがない、と感じる人もいるのではないでしょうか。これは運動と違って筋肉の疲労がないためでしょう。

 

サウナ飯が美味しい仕組み

 サウナは運動ではありませんが、発汗などに伴う体内のエネルギー消費については運動と重なるところがあると言えます。運動後の味覚についての実験をもとに、サウナ後の味覚について考えてみましょう。 

サウナ後に影響がある味覚

 

 運動に発汗が伴うように、サウナでも大量の汗をかきます。「サウナと汗 発汗の仕組み②」で見たように、人の汗は99.5%が水で残りの0.5%が食塩などです。ほとんどが水とはいえ、大量の発汗が起こると塩分も多少は出ていきます。佐々木・早川・藤井の報告でも、

「発汗量が多い運動では、発汗により体内のナトリウムが減少する。そのことにより、発汗量の多い運動後では、失ったナトリウムを補給するために塩味の閾値*11が低下することが示唆されている」*12

と指摘されています。特に発汗量が多い運動の後は塩味に敏感になるということです。運動前後の比較実験では、塩味について女性の方は男性に比べて味覚の変化が少なかったそうですが、サウナでは女性もたくさん汗をかきます。また、サウナ好きは発汗習慣があるため、汗もかきやすく、サウナ後は男女共に塩味に敏感になっていると考えられそうです。

 また、汗腺が働くためのエネルギーの一部はブドウ糖の解糖によって得られるとされています*13。糖分は私たちのエネルギー源の一つです。発汗したり、血流量を調整したりすることにエネルギーを消費しますが、その時に糖分も消費していると考えられます。だから、サウナ後は甘味も感じやすくなると考えれます。普段それほど甘いものを食べないけれどサウナ後にはアイスやかき氷を食べたくなる、という人もいるかもしれません。エネルギー代謝にクエン酸が消費されることを考えると、サウナ後は酸味にも敏感になっていると言えそうです。サウナは運動ではありませんが、エネルギーは消費しているため、私たちはサウナ後、いろいろな味に敏感になっている、つまりいつもより味をしっかり、濃く感じていると考えられます。

 サウナ後の飲み物といえばオロポやイオンウォーターですが、これらの飲み物が好まれることには、理由があったわけですね。普段よりも味を濃く感じるため、薄いものが飲みやすいということでしょう。

  

「お腹が空いた」とは

  味覚が敏感になっているので普段より美味しく感じる、ということだけではなく、サウナ後はとにかくお腹が空いているからご飯が美味しいのだ、という人もいるでしょう。  

 そもそも空腹を感じる仕組みにも、胃の中が空になる以外に血糖値の低下があります*14。体内のエネルギーが消費されると血糖値が低下し、脂肪を分解してエネルギーを作り出そうと働きます。脂肪を分解する時に、遊離脂肪酸というものができます。この遊離脂肪酸が血液の中に増えると、私たちが空腹を感じる脳の摂食中枢に情報が送られ、エネルギーの補給を促すため「お腹が空いた」と感じます*15

 サウナ浴をすると普段のペースより早くお腹が空く、と感じている人もいるかもしれません。それは、胃の中の食べ物の残量だけでなく、発汗などによってエネルギーを消費し、血糖値が下がることで普段より空腹感が増してるとも考えられます。味に敏感になる、空腹感がある、こうした仕組みでサウナ飯は美味しく感じると言えそうです。

 もちろん、サウナですっきりした後の食事ということで、心理的な効果もあるでしょう。何を食べるかより誰と食べるか、という人もいると思いますが、美味しく感じることにはそうした心理的な状況も影響はあると考えられます。好きなサウナの後のご飯は美味しく感じるわけです。

 

 今回はサウナ飯が美味しい仕組みについて考えてみました。上がった後に何を食べようか考えながら入るのも楽しいですね。どこのサウナに行き、何を食べるか、組み合わせはたくさんあるのでサウナの楽しみは尽きないです。

 

参考文献

HelC+「満腹感や空腹感を感じる食欲のメカニズムを探る」、シミックヘルスケア株式会社(最終閲覧日:2019年7月9日)

小川徳雄(1998)『汗の常識・非常識-汗をかいても痩せられない!』、講談社

佐々木繁盛・早川公康・藤井久雄(2013)、「身体運動が味覚に与える影響」、『仙台大学紀要』45巻1号、pp.47-53

三田有紀子・近藤沙歩 ・米澤真季 ・大島千穂・續順子 (2015)、「女性の性周期に伴う味覚感受性と運動習慣の関連性」、日本調理科学会『日本調理科学会大会研究発表要旨集』27巻、p.194

 

 

*1:デジタル大辞林

*2:佐々木・早川・藤井、p.47

*3:デジタル大辞林

*4:佐々木・早川・藤井、p.47

*5:三田・近藤・米澤・大島・續、p.194

*6:同上

*7:苦味は検知されやすく、後味が残るためこの実験からは除かれています。

*8:佐々木・早川・藤井、p.48

*9:同上、p.52

*10:佐々木・早川・藤井、pp.51-52

*11:味を知覚できる最低限の値。つまり、閾値が低ければ低いほど、低い濃度でもその味を感知できるということ。

*12:佐々木・早川・藤井、p.51

*13:小川、p.66

*14:HelC+

*15:同上