Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

温度感覚と痛み -サウナ編-

 サウナの良いところと言えば、サウナ室で温まり、水風呂で冷えるという交互浴の刺激です。サウナ室で熱いと感じ、水風呂で冷たいと感じる、この熱い、冷たいを感じる仕組みはどのようなものなのでしょうか。今回と次回は、人の温度感覚について考えてみます。

 

温度を感じる仕組み

 私たちの皮膚は、いろいろな感覚を感じることができます。人が皮膚で感じる感覚には、触覚、圧覚、痛覚、冷覚、温覚などがあります。触覚は、物が皮膚に触れたことを感じる感覚で、圧覚は圧力を感じる感覚です。物の重さなどを手で感じるのは圧覚が関係しています。温度を感じる感覚、冷覚、温覚は、それぞれ冷点・温点で受容されるといいます。

温度感覚

(画像出典:身体のバリア・皮膚 §1 皮膚の機能と体性感覚 | Pure Medical attitude HP)

 

 つまり温度感覚は、「温」と「冷」という独立した、別の二つの受容器系で伝えられるということです。温点と冷点が別々にあって、ある点は「温」だけを感知し、ある点は「冷」だけを感知するということです。数としては冷点の方が温点より多いそうです。

 「温点」「冷点」があり、それぞれ「温受容器」と「冷受容器」が反応して「温かい」「冷たい」と感じるというわけです。人間の皮膚の温度の感覚は、24℃~35℃の範囲では温度そのものではなく温度の変化を感知していて、それ以下・以上では温度変化がなくても「温かい」「冷たい」と感じることができるそうです*1。「温受容器」は皮膚温約32℃以上、45℃以下で反応し、「冷受容器」は10℃以上、30℃以下で反応するそうです*2

温覚と冷覚

 

 そして、15℃以下または、45℃以上の温度刺激は、「痛み」として感じられるそうです*3。そしてこれらは「熱痛覚」「冷痛覚」と呼ばれるそうです*4。15℃以下、あるいは45℃以上の刺激に関しては、痛みを感じる痛覚の方が反応するというのです。

痛覚

 

痛みを感じる痛覚

 皮膚の感覚の中には、痛みを感知する痛覚があり、これは痛点で受容されます。皮膚で感覚を受容する点の中で、最も数が多いのが痛点だそうです。その次が触点、圧点、そして冷点、温点の順で数が少なくなります*5。温点や冷点は、触・圧点に比べてはるかに少ない*6とも言われており、温度を感知する点は他に比べて少ないということがわかります。痛点が最も多いということは、実験でも示されています。「理科実験:ヒトの皮膚感覚」で示された実験結果には「痛点が最も反応数が多いことがわかった」*7とあり、「このことはやはり動物としてのヒトにとって危機を察知するために、痛点が最も多くなっていることが考えられる」*8ということも示されています。痛みを感じるということは、命を守るために重要な機能であると言えます。痛みを感じるからこそ、私たちは身体の異変に気付くことができるわけです。痛みを感じなければ、怪我や病気に気づかずそのまま命を落とすということもあり得るわけで、痛みは生命を維持するために重要な要素だと言えます。

 温度に関しても、15℃以下や45℃以上の刺激に関して痛点が反応するのは、「冷たすぎる物や熱すぎる物に触れた時、凍傷や熱傷から身を守るための巧妙な仕組み」*9だといいます。「痛い」と感じるようになることで、この温度は身体にとって危険だよ、とわかって回避することができるというわけです。熱すぎて痛いくらい、冷たすぎて痛いくらい、と思うことがありますが、これは実際に痛点が反応して痛みとして知覚しているわけですね。

 

温覚と痛覚とサウナ室

 45℃以上の刺激に関しては、痛点が反応するということでした。確かに45℃のお湯に入ろうと思ったら、熱いを通り超して痛いと感じる人が多いのではないでしょうか。

 一方、サウナ室の温度は80℃~100℃と高温ですが、火傷をすることもなく痛みを感じることも基本的にはありません。よく100℃のお湯を触れば火傷をするのに、100℃のサウナ室に入るのはどうして大丈夫なのか、というような問いも見かけますが、これは水と空気の熱伝導率が違うためです。熱伝導率は、熱の移動のしやすさ、伝わりやすさです。「サウナと汗 発汗のメリット」「サウナの湿度計測の難しさ①」で取り上げたように、水の熱伝導率は0.6(W/mK)くらいであるのに対し、空気の熱伝導率は0.02(W/mK)にすぎません。熱の移動のしやすさが、水と空気とでは大きく違うため、室温が80℃~100℃あっても火傷することなく、痛みを感じずに入ることができると言えます。

熱伝導率

 

 皮膚表面が痛いくらいの高温サウナについては、湿度が低くヒリヒリと痛いのかと思っていましたが、「カラカラサウナのいろいろ~男性サウナ室~」で見たように、意外と湿度も高いということがわかりました。空気中の水分が多い方が、痛いと感じるのかもしれません。

 水分、ということでわかりやすいのはロウリュ時です。高温のサウナ室で、ストーンにたくさんの水をかけてロウリュをすると、熱いを通りこして痛いと感じることがあると思います。ロウリュをすると水蒸気を含んだ熱気が皮膚にあたり、こうした熱さには痛点が反応するのかもしれません。

 更に、ロウリュをすると皮膚表面で潜熱が発生しているということも「サウナのロウリュが熱い仕組み②」などで見た通りです。潜熱は、気体が液体になるときに発生する熱です。汗をかくことで体温が下がるのは、汗(液体)が蒸発して気体になるときに熱を奪っていくためです。この反対で、気体が液体になるときには熱を発します。ロウリュをすると空気中の水分量が一気に上がりますが、高温の空気はたくさんの水を含むことができるので、気体のままでいられます。それが、高温の空気より温度が低い皮膚にあたることで、結露して液体になります。

サウナと潜熱

 

 「サウナと結露・潜熱 汗と結露の割合」で紹介した論文では、ロウリュをしたときに身体についていてる水分のうち、どのくらいが汗で、どのくらいが結露した水かということを実験で明らかにしていました。この論文では、14%~67%が汗ではなく結露の水であったことが示されていました。多い場合は半分以上の水が汗ではなく結露の水、ということになりますから、皮膚表面で水になる際にそれだけたくさんの潜熱を発している、ということになります。温刺激が一定の高さになり痛い、と感じる他に、ロウリュでは潜熱の発生を痛みとして感じている可能性もあります。また、タオルや団扇などであおぐ場合は、熱風が身体に当たり痛いと感じることがあります。ロウリュ・アウフグースをすると、ただサウナ室に入っているより痛みを感じる機会は多くなると言えそうです。

 

痛みと好み

 サウナ室の温度帯・湿度帯の好みは人によって違う部分もあると思いますが、痛いくらい熱いのが好き、という人も中にはいるでしょう。痛みを感じるくらい、熱ければ熱い方が良いと思う人もいると思います。一方、熱いを通り越して痛いと感じるのはちょっと嫌だな、と感じる人もいるでしょう。ロウリュ・アウフグースをする際には、その辺りのことも考えておくとよいかもしれません。高い温度のサウナ室でロウリュをがんがんすることは、人によっては痛いな、気持ち良いレベルではないな、と感じることもあるかもしれないわけです。

 "Practicing Sauna Safety"(サウナを安全に楽しむ)という英語の記事でも、ロウリュをしすぎることに関してこんな記述がありました。

Their management staff had mounted a sign on the wall that reads:"Humidity can NOT be above 40%!". The sign is intended to stop sauna enthusiasts from putting too many ladles of water on the sauna rocks. While they may love the steam and profuse sweating, not all of us should attempt extreme sauna temperatures.*10

(施設のスタッフが、壁に次のような掲示をしていました。「湿度は40%を超えないように!」この掲示は、サウナ好きがサウナストーンに水をかけすぎることを防ぐために書かれたものです。サウナ好きは蒸気とそれによる大量の発汗を好むかもしれませんが、全てのサウナ利用者が極端なサウナの温度を試すべきではありません。)

 これはBanya 5 sauna and spaに行ったときに、温度が104℃(220℉)、湿度が27%あり、この掲示があった、という話です。

 痛み自体がちょっと不快、と感じる人もいますし、熱いロウリュ・アウフグースに耐えられると「強い」ということでもないです。サウナは我慢大会ではないとよく言いますが、ロウリュ・アウフグースも同じで、自分に合った時間、無理なく参加できるのが大事で、極端な熱さを好む人ばかりではないかもしれないと考えることも重要かもしれません。そもそも「痛み」を感じるのは身体が危険を察知するためなわけです。多くの人が安全に快適にサウナを楽しめると良いですね。

 もともと設定温度が高く、熱いサウナ室でのロウリュサービスは、熱すぎて痛いと感じることもあります。それはやはり、温点ではなく痛点が反応し始める、「痛い」と感じ始める刺激になるからだと考えられます。そう考えると、短いスパンでロウリュサービスを実施する場合、サウナ室の温度はあまり高すぎない方が、痛みや不快感を感じることなくロウリュを楽しむことができるということでしょう。もちろん、痛いくらい熱いのが好き、という人もいると思いますし、その痛いくらいの、実際痛点が反応しているであろう熱さに耐えた後に待つ水風呂もまた気持ち良いもの、というのもわかる気がします。しかし痛点が反応する仕組みは危険を回避するためということを考えると、ほどほどにということも身体にとっては大事かもしれません。

 

 今回は温度感覚について考えてみました。今回は特にサウナ室での温度感覚、痛みについてまとめました。次回は水風呂と温度感覚・痛みについて考えてみます。

 

参考文献

Cedarbrook Saunas + Steam, "Practicing Sauna Safety"(最終アクセス日:2020年11月20日)

イミダス、『人体用語事典』

電子情報通信学会(2010)『知識ベース』

日本東洋医学協会、「『感覚器系』 の雑学」、イアトリズム(最終アクセス日:2020年11月20日)

古木隆寛・中城満・原田哲夫(2018)「理科実験:ヒトの皮膚感覚」、『日本科学教育学会研究会研究報告』32巻8号、pp.19-22

山田幸宏「皮膚が感じる感覚には何がある?」、看護roo!(2020年4月7日)(最終アクセス日:2020年11月20日)

 

 

*1:イミダス『人体用語事典』「温覚/痛覚」の項

*2:電子情報通信学会、p.2

*3:日本東洋医学協会およびイミダス『人体用語事典』

*4:日本東洋医学協会

*5:山田幸宏

*6:イミダス『人体用語事典』

*7:古木・中城・原田、p.22

*8:同上

*9:山田幸宏

*10:Cedarbrook Saunas + Steam