「 サウナ室の壁材 -竹-」では、竹を壁材に使ったサウナ室について考えてみました。サウナ室の壁で木材以外というと、黄土など土の壁もあります。今回は、黄土のサウナについて考えてみます。
土壁
黄土を使ったサウナ室について考えるために、まず土壁の特徴を見てみます。土壁とは「土に藁や砂を混ぜて水で練ったものを塗り固めた壁のこと」*1です。土壁には調湿作用・断熱機能・防火機能という3つの主な特徴があるといわれています。調湿作用とは、つまり湿度を調整する性質です。
土壁には湿度を調整する性質があります。湿度が高ければ空気中の水分を吸収し、湿度が低ければ水分を放出して過度な乾燥を防ぎます。(中略)土壁はまるで生きているかのように水分や空気を吸ったり吐いたりするため、「呼吸する壁」とも言われます*2。
土壁は湿度や空気を吸収したり放出したりできるということです。そして、断熱機能、つまり熱を逃がしにくいという特徴もあるといいます。
土壁は、熱や冷気を逃がしにくいという性質を持っています。そのため、冬場は暖房の温かさを維持しやすく保温性に優れています。一般住宅では隙間風や窓際の寒さが目立ちますが、土壁の家はぽかぽかとした自然のぬくもりを感じることができます。調湿作用によっても体感温度が快適に感じやすいことも、あたたかい理由のひとつです。 極端な温度変化を嫌う醤油やお酒造りの蔵に土壁が使われているのも、こうした断熱性能を利用しているためです*3。
熱や冷気を逃がしにくいということは、サウナ室に使えば熱のこもったサウナ室にできそうです。そして最後に防火機能です。つまり燃えにくい素材ということですね。
土は本来、燃えにくいものです。そのため、土壁は耐火性に優れています。また、土壁は火に接触して温度が上がっても有害な化学物質を放出しません。建築基準法の観点から見ても、安全な防火構造として認められています。 火事が多かった江戸の住居や蔵の多くに土壁が使われていたことも頷けますね*4。
土は燃えにくいため、土壁も火に強いということです。温度が上がっても有害な物質を放出しないという点も、サウナ室に向いていそうです。
上記の主な3つの特徴に加えて、土壁には脱臭作用もあるといいます。
土壁には、家にこもりがちな生活臭をにおいにくくする性質あります。料理のニオイ・ペットのニオイ・人の汗や皮脂汚れから発生するニオイなど、家の中には様々なニオイ成分が漂っています。このニオイ成分の大部分は空気中に含まれるため、土壁が空気と一緒に吸収してくれる働きがあります*5。
人の汗の臭いを空気と一緒に吸収してくれる、これもまたサウナ室に向いていそうな特徴です。壁材として使うデメリットとしては、劣化するとヒビ割れしたりボロボロと崩れることがある・蓄えた水分を放出できなくなり、カビが発生しやすくなることなどが指摘されています*6。
「サウナと熱 -素材による熱伝導率・比熱の違い-」で見たように、土壁は木材に比べて容積比熱が大きいです。熱伝導率は、木材が0.12W/m.Kであるのに対して土壁は0.69W/m.Kと大きな差はありませんが、容積比熱を比べてみると木材が520J/L・Kであるのに対して土壁は1,100J/L・Kと値がかなり大きいことがわかります。
トヨダヤスシ建築設計事務所のブログでは次のようにまとめられています。
熱容量は、やはり土壁とレンガが一番。
壁にレンガを使う国、土を塗る国があるように、素材の熱容量をうまく生かすことで快適な家をつくっていたのでしょう*7。
つまり土壁は熱容量も大きく、断熱性もしっかりしている、熱を逃がしにくいということのようです。抱え込める熱の量が大きく、熱を逃がしにくいということは、サウナ室の壁に土を使うとしっかり熱がこもったサウナ室ができそうです。
黄土とは
黄土サウナというのは時々聞きますが、黄土とは何なのでしょうか。事典・辞書の定義は次のようなものです。
粘土,細砂からなり,均質,多孔質,粗鬆(そしょう)な黄褐色の土。レスともいう。無層理で風化によって縦の割れ目が発達する。石灰分 CaCO3が多く,これが黄土小僧,しょうが石と呼ばれる特有の結核となって含まれる。鉱物は石英が多く,少量の粘土鉱物,長石,雲母などの有色鉱物を伴う*8。
(画像出典:ウィキペディア(Wikipedia))
風で運ばれて堆積した淡黄色または灰黄色の細粒の土。中国北部・ヨーロッパ・北アメリカ・北アフリカ・ニュージーランドなどに分布。レス*9。
(画像出典:ウィキペディア(Wikipedia))
黄砂が堆積して土になったもの、ということです。黄土(ファント)は韓国・朝鮮では伝統的にいろいろな場面で使われてきた素材のようです。黄土は石鹸やパックに使われる他、染料としても使われるそうです*10。そして、住宅にも古くから使われてきたそうです。
なんといってもファントパン(黄土で作った部屋)が最高でしょう。黄土に、短く切った稲わらを混ぜ、水で溶き、壁や天井、床を作る方式の伝統的韓国の家です*11。
黄土についてはよもぎ蒸しなどの文脈で、その特徴についていろいろ書かれています。黄土の特徴を調べてみると、微生物を多く含むため殺菌作用があるとされていること、温めると遠赤外線を放射するということが大きな特徴としてあげられています。
黄土はとても粒子が細かく、沢山の酵素が含まれているので、解毒作用、浄化作用、自然殺菌力が備わっています。また黄土を温めると遠赤外線を放射するので、身体をより深く温めることに役立ちます*12 。
鉄分とマグネシウム、微生物が多く含まれ、殺菌性の力があるとされています。黄土から発生する遠赤外線が新陳代謝・血液循環の促進や有害物質の排出を促します*13。
物質は温めると輻射熱、つまり遠赤外線を発するので、石や木と比べて黄土がたくさん遠赤外線を発するのかはわかりませんが、このように説明されているケースが多いようです。また、韓国・朝鮮での黄土の歴史については、次のような指摘もありました。
先人は黄土を単純な土としてではなく、食や住居にも活用していました。韓国では昔から黄土を使った家を建てたり、赤潮のために死にかけている海や汚染された川を回復させ、魚類の成長を促したり、黄土の畑で農作物を作ったりしていたそうです。
また朝鮮時代には病気の治療に使われたり、王様が疲れたときや治療のための、黄土部屋を宮殿に作っていたというエピソードも。その他、恋煩いに黄土を食べさせたり、食物の毒にあたったときの解毒や、食糧飢饉には黄土を混ぜてかさましした餅を食べてしのぐなど、黄土は様々な場面で人々の暮らしに寄り添っていたのです*14。
住宅にはもちろん、治療にも使われていたようです。「薬土」とも言われていた黄土、食べることもあったのですね。
韓国・朝鮮と黄土、と聞くと思い出すのはハンジュンマクやチムジルバンです。ハンジュンマクとチムジルバンはどちらも韓国式のサウナですが、違いは温度にあるようです。ハンジュンマクは100℃近い高温サウナで、チムジルバンは50℃~90℃の低温サウナという違いがあるそうです*15。韓国式のサウナには、黄土を使ったものも多いようです。
黄土サウナ
身近なところで黄土を壁に使っているサウナ室がある施設と言えば、ヨコヤマ・ユーランド鶴見、THE SPAなどがあります。
【ヨコヤマ・ユーランド鶴見 黄土サウナ 男性側】
(画像出典:ヨコヤマ・ユーランド鶴見HP)
これは男性側の写真です。女性側も似たようなサウナ室ですが、男性側がヒーター2台であるのに対して女性側はヒーターが1台で、床が広い印象です。床に座っているお客さんも多いです。ホームページでは、次のように紹介されています。
マイナスイオンに満ちあふれた黄土サウナの天井壁の上部は「黄土」、壁面の一部は「ゲルマニウム鉱石」天然健康石をふんだんに取り込んだマイナスイオンあふれるサウナです*16。
いつ行ってもしっかりと熱いサウナ室ですが、前日が休館日だった日、少し熱が物足りなく感じたことがあります。気のせいかもしれませんが、長時間ヒーターを切っていると体感が変わるのでしょうか。
THE SPA西新井、THE SPA成城のサウナ室も黄土サウナです。
【THE SPA西新井 黄土サウナ】
(画像出典:THE SPA西新井HP)
上が女性側のサウナ室、下の2枚が男性側のサウナ室です。ホームページでは次のように説明されています。
遠赤外線がからだの奥から発汗を促し、老廃物を排出します。さらに、壁面に用いた黄土が放出する成分は、老化防止や解毒作用をもたらすといわれています*17。
THE SPA成城も同じような黄土サウナです。
【THE SPA西新井 黄土サウナ 女性側】
(画像出典:THE SPA成城HP)
サウナ室に関するホームページの説明はTHE SPA西新井と同じ文章が掲載されています。THE SPAのサウナ室も、しっかり熱のこもったサウナ室です。
また、汗蒸幕のゆにも黄土サウナがあります。
【汗蒸幕のゆ 黄土サウナ 男性側】
(画像出典:汗蒸幕のゆHP)
男性側にある黄土サウナです。60℃前後、低温のサウナ室になります。ホームページには次にように書かれていました。
黄土には人体に必要な1万余種の微生物が生成され、陰イオンとミネラルを多量に含み、ゲルマニュウムとセルマニュウムが活発に外部の熱を受けエネルギーを貯蔵し、遠赤外線を発散します。
一般粘土より700倍の発散率があるとされ、体の細胞を構成する分子を刺激し、分子の運動により内側から体温を上昇させ、身体の奥から発汗を促します*18
他のところで説明されている黄土の特徴と同じようなことが紹介されています。ちなみに女性側の低温サウナは、黄土サウナに紫水晶を加えた紫水晶サウナです。
【汗蒸幕のゆ 紫水晶サウナ 女性側】
(画像出典:汗蒸幕のゆHP)
こちらも60℃程度の低温サウナです。紫水晶サウナについては、次のように説明されています。
世界5大宝石のひとつである紫水晶は、遠赤外線が91%も放出される「神秘の光線」または「育成光線」と呼ばれており、体内の細胞運動を活性化させる作用をなし、浄化作用に優れ、老廃物を除去し、疲労回復や美肌効果があるとされ、血流を促進させ新陳代謝を円滑にし、抗菌と解毒、老化防止に卓越な効能があるといわれています。
このサウナも韓国では、温熱療法として汗蒸幕サウナ同様に人気があり、体調の回復目的として日常的に利用されています*19。
紫水晶も遠赤外線がたくさん放出される物質とされています。こちらも低温サウナということで、横になってゆっくり温まっている人が多かった印象です。
汗蒸幕のゆと言えば、やはりハンジュンマクですね。
【汗蒸幕のゆ 汗蒸幕】
(画像出典:汗蒸幕のゆHP)
汗蒸幕については、次のように説明されています。
ゲルマニュウムを内包するオンドル石を(深成岩内分類花崗岩)の硬度は強くはないが火には強く、複層構造石で熱を貯蔵し、反復的に発散する特異石をドーム状に組み、加温によってバイオクリーンルーム化した内部は、自然発生する遠赤外線により体内の老廃物である乳酸や脂肪、銅、鉛、カドミウム等重金属の有害物質までも皮脂腺(アポクリン腺)から排泄され、また各種添加物、農薬成分などが驚くべき高いレベルで排出されたと報告があります。
ゲルマニュウム遠赤外線サウナは、陰イオンが発散され身体の細胞深くに浸透し、皮脂腺から汗が発汗します。普通の汗腺からの汗と違い、太い汗を発生させさわやかな気分にしてくれます*20。
汗蒸幕は石のドームです。ドーム型であることで、石から発生する遠赤外線(輻射熱)が効率良く室内にこもりそうです。黄土ではないですが、石も木材に比べて熱容量の大きい物質なので、木よりも温まるのに時間はかかるでしょうけれど、一度温まったらしっかり熱を発して熱を逃がさない壁材だろうと考えられます。
今回は黄土のサウナについて考えてみました。今回紹介した黄土サウナ、たまたまかもしれませんがヒーターはどれも遠赤外線ヒーターでした。温められるとそれ自体も遠赤外線を発するという黄土、また汗蒸幕のような石は、遠赤外線ヒーターと相性が良いのでしょうか。次回は、ヒーターの種類と壁材について考えてみます。
参考文献・資料
iemiru、「昔ながらの土壁が再ブーム!?日本の気候に最適な特徴とは」、iemiru コラム vol.485(最終アクセス日:2021年2月19日)
KONEST、「黄土(ファント)」(最終アクセス日:2021年2月19日)
LES CINQ SENS. 「黄土の特徴」(最終アクセス日:2021年2月19日)
温泉部「韓国のチムジルバンとは?ハンジュンマクとの違いや効果効能」2017年8月17日最終アクセス日:2021年2月19日)
トヨダヤスシ建築設計事務所、「左官素材(土壁、漆喰等)物性値を整理。熱伝導率、透湿抵抗比、熱貫流率、容積比熱、密度、蓄熱有効厚さ等」2016年4月3日(最終アクセス日:2021年2月19日)