Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナと汗 発汗の仕組み②

 「サウナと汗 発汗の仕組み①」では、人の発汗に体温調節の役割があることがわかりました。暑い時以外にも、私たちはいろいろな場面で汗をかきます。今回は、いろいろな汗について更に詳しく見ていきます。

 

発汗の種類

 暑い時、熱が出た時以外にも私たちは汗をかきます。これは「温熱性発汗」と言われています。それとは別で、例えば緊張した時に手に汗が滲んだりするのは「精神性発汗」と言われています*1。また、辛いものを食べた時に汗が出るという人もいるでしょう。これは「味覚性発汗」と言われています。

発汗の種類

 

  • 精神性発汗について

 精神的ストレスに反応してかく汗で、痛みや緊張、興奮、驚きなどによってかく汗です。体温調節のための温熱性発汗では身体中から汗が出るのに対して、精神性発汗は汗が出る場所が手のひらと足のうらに限られています*2

 精神性発汗で手のひらと足のうらに汗をかくのは、もともとはもともとは滑り止めのためだと言われています*3。これは人以外の動物にも見られる発汗です。例えば犬や猫が獲物を狙う時、また逆に襲われる時に足の裏から汗が出て滑り止めの役割を果たします。こちらの発汗の方がもともと多くの動物に備わっていて、人にもこの形が残っている、と考えるのが自然だと指摘されています*4。この名残で、私たちは緊張したり驚いたりすると手のひらと足の裏に汗をかきます。実際に人も手に適度な水分があると摩擦が強くなり、物をしっかり握ることができたり、手を使う作業がしやすくなります。精神性発汗による手のひらの汗は、うそ発見器にも利用されています*5

 

  • 味覚性発汗について

 香辛料の刺激で反射的に、顔だけに、左右対称に出る汗です*6。基本的に味覚性発汗は顔だけに集中して発汗しますが、夏の暑い日に辛いものを食べると顔以外からも汗が出ることがあります。これは、辛いものによって体温が上がって、体温調節の温熱性発汗による汗も出てきているためです。赤唐辛子に含まれる辛み成分カプサイシンは、中枢の温ニューロンも含め全身の温度センサーを刺激するのです。

 

 汗腺

 汗は汗腺から分泌されますが、汗腺にも種類があります。エクリン汗腺とアポクリン汗腺の2つです。エクリン汗腺は全身に分布しています。人の汗腺はほとんどがこのエクリン汗腺で、普通「汗」と言う時にはこのエクリン汗腺から分泌されるものを指します*7。一方、アポクリン汗腺は脇の下・乳輪・まぶた・耳の孔・小鼻・鼻の孔の入口・外陰部・肛門周辺など、限られたところにしか存在していません*8。人以外の多くの哺乳動物は、有毛部のほぼ全面にアポクリン汗腺が分布しているといいます*9。人の場合、限局的に、剛毛のあるところにアポクリン汗腺が見られます。つまり、人は進化の過程で、剛毛が退化するとともにアポクリン汗腺もエクリン汗腺に進化し、剛毛が残ったわずかな部分にアポクリン汗腺も残った、と考えられるのです*10

2つの汗腺、エクリン汗腺とアポクリン汗腺

 

  • エクリン汗腺について

 ほぼ全身の皮膚面に分布しますが、総数には個人差があり、200万~500万個と幅があります*11。そのうち汗を出す能力をもった汗腺(能動汗腺)は、日本人の場合、平均およそ230万個で、他のものは汗を分泌する能力がない(不能汗腺)とされています*12。ただし、この不能汗腺もまったく汗を分泌しないのではなく、極めて強い刺激にしか応じない、という説もあります*13「サウナと汗 発汗の仕組み①」で見た、99.5%が水で残りの0.5%が塩分というのはこのエクリン汗腺から出る汗の成分です。ほぼ水のため、かいたばかりの汗自体ににおいはありません。ただし、汗の成分が皮膚表面の細菌によって分解され、芳香性の物質に変化することにより、においが生じます*14。皮膚表面にずっと汗が残っていると、細菌によって分解されてにおいを発するようになる、ということです。普段私たちが汗と呼んでいるのはほとんどこちらのエクリン汗腺からの汗なので、ほとんど水ということになります。サウナ室を出た後、汗を流さないで水風呂に入るのはもちろんよくないですが、見かけてしまったら99.5%は水だ…と思うことにしたらいいのかも。

 

  • アポクリン汗腺について

 エクリン汗腺から出る汗とは異なり、アポクリン汗腺から分泌される汗は少し濁っていて粘性が強く、半透明です。脂質、タンパク質、含硫アミノ酸、揮発性短鎖脂肪酸、男性ホルモン類などが含まれます*15。ほとんどが水のエクリン汗腺から分泌される汗と異なり、においがあります。また、アポクリン汗腺の汗には鉄も含まれます。シャツの脇の部分などに褐色のシミができることがあるのは、この鉄によるものです*16

 

発汗の男女差

 人の汗には種類があることがわかりました。汗の量については、男女でも差があると言われています。女性は一般的に、男性よりも汗をかきにくく、汗の量も男性より少ないと言われています*17。同じ体温で見ると、女性の汗は男性の汗の2/3~1/3であり、女性の方が男性より汗が出始めるまでに時間がかかると言われています*18。しかし、「これらは女性が暑さに弱いということを物語るものではない」*19と菅谷潤壹は言います。同年代の男女に同じ暑熱負荷を与えて体温の変化を比較すると、一般的に体温上昇の過程に大きな差は見られないと言います。汗の量が少ないからと言って、女性の方が体温調節ができていない、暑さに弱いということではないのです。体温調節は同じようにできている、しかし汗の量は少ない、つまり、女性は男性よりも少ない発汗量で体温調節ができるということです。

 その理由の一つとして、女性の熱生産量が少ないことがあげられます。熱生産量、わかりやすい指標としては基礎代謝があげられます。女性は男性より、基礎代謝が約6%~10%くらい低いとされています*20。更に、女性には熱生産について特殊な仕組みがあることが指摘されています。男性の場合、周りの温度が高くなるとほぼ並行して熱生産量が増えます。一方、女性は周りの温度が30℃~34℃の場合、温度が上がるほど熱生産量が減少します。つまりこの範囲であれば、温度が高くなればなるほど男女で熱生産量の差が大きくなるのです。例えば、32℃の環境では、男女の熱生産の差は23%になります*21。菅屋は「こうして女性は、(軽度の)高温環境においては少ない汗で体温調節が可能になる」*22とまとめます。男性は温度が上がれば上がるほどがんがん汗をかくのに対して、女性は少ない汗で体温を調節できる仕組みを持っているということになります。

 また、女性は男性に比べて皮下脂肪が厚い傾向にあります。脂肪は熱を伝えにくいので、断熱効果があります。皮下脂肪が厚いことによって、体内への熱の侵入を防ぐことができると言われています*23。少ない汗で体温調節ができる上に、脂肪の断熱効果で男性より熱が身体に入ってきにくいということです。ちなみに、皮下脂肪が厚いということは、寒さにも強いと言えます。皮下脂肪の厚さに加えて、女性は寒気に対する感覚も鈍感であるという指摘もあります*24

サウナにおける発汗の男女差

 

 つまり女性は男性に比べて汗をかきにくい、汗の量も少ないけれど、暑さ・寒さにはむしろ男性よりも強いということが言えそうです。サウナ室の熱さにも、水風呂の冷たさにも、女性は強いということですね。久野寧は、「かように女性は寒暑とも耐力が強いのに、労働基準法では女性が高温工場等の使役から保護されているには本質的にいえば当を得ぬことである」*25と指摘します。「サウナと温度 座面温度の計測~男性サウナ室~」「サウナと温度 座面温度の計測~女性サウナ室~」の結果を比べると、女性サウナ室の方が平均的に温度が低いことがわかります。また、施設によっては水風呂の温度も、男性側より女性側の方が高く設定されていることがあります。しかし、こうした男女の体質の差を見てみると、こうした設定温度の差も「当を得ぬこと」と言えるかもしれません。

 しかし女性の方が汗をかきにくいというのは事実で、そのため湿度が高いサウナ室を好む女性が多いという可能性はあります。サウナ室の湿度を計測してみた結果、女性側の方が男性側よりも湿度の数値が高めであることがわかりました。これは女性が男性より発汗が遅く、汗の量も少ないためかもしれません。しかしそのことは女性が男性より暑さに弱い、ということを示すのではなく、むしろ女性の方が暑さ・寒さには強いと言えそうなので、サウナ室の温度を低くする根拠にはならなそうです。

 

 今回は汗について種類など更に詳しく見てきました。次回はサウナとの関係で、更に汗について考察してみます。

 

参考文献

小川徳雄(1998)『汗の常識・非常識-汗をかいても痩せられない!』、講談社

久野寧(1963)、『汗の話』、光生館

菅屋潤壹(2017)『汗はすごい-体温、ストレス、生体のバランス戦略』、ちくま新書

*1:小川、p.24

*2:強い精神的ストレスで額など他の場所から汗が出ることもあるが、これは「精神性発汗」とは言わない。「精神性発汗」は精神的ストレスに反応して手のひらと足のうらに出る汗のことで、精神的刺激から身体のその他の部分に出る汗には特別な名称はない(菅屋、p.171)。

*3:菅屋、p.155

*4:小川、p.25

*5:菅屋、p.162

*6:小川、p.35

*7:同上、p.40

*8:同上、p.54

*9:小川、p.56

*10:同上

*11:菅屋、p.39

*12:小川、p.44

*13:同上、p.47

*14:菅屋、p.31

*15:同上、p.32

*16:同上

*17:久野、p.75

*18:菅谷、p.183

*19:同上

*20:同上、p.184

*21:同上

*22:同上

*23:同上

*24:久野、p.75

*25:同上