サウナ・水風呂の後に皮膚表面に赤い斑点が出ることがあります。サウナ愛好家はこれを「あまみ」と呼びます。「あまみ」が出るのは良いサウナだ、体調がいいと「あまみ」が出る、などと言われることがありますが、実際どのような仕組みでこの「あまみ」は出ているのでしょうか。今回は「あまみ」の謎に迫ります。
「あまみ」とは
サウナ・水風呂の後に皮膚に赤い斑が出ることがあります。この斑点、サウナ愛好家の間では「あまみ」と呼ばれています。漫画 『湯遊ワンダーランド』にも、サウナ・水風呂後に身体に「あまみ」が出る様子が描かれています。
(画像出典:『湯遊ワンダーランド』2巻)
サウナ・水風呂後の斑点を「あまみ」と言い始めたのは、「サウナ,水風呂,大好き湯守日記」というブログの執筆者であるサウナブログのパイオニア「濡れ頭巾ちゃん」だとされています。「濡れ頭巾ちゃん」はブログで「あまみ」について以下のように説明しています。
10度以下の強冷水と、
上質なサウナセッションを繰り返すと
カラダ中の毛細血管が開き、
いつしか天女のような文様が
浮かびあがってきますひとが ととのった証に刻印される
天から授かったその文様のことを
『あまみ』といいます*1
上記の記事の中でも言及されているように、「あまみ」とはもともとは北陸地方の方言です。具体的に、どこの方言で、どういう意味の言葉なのか、『全国方言辞典』で「あまみ」を調べてみました。すると、「あまみ」は富山の方言だということがわかりました。『全国方言辞典』の「あまみ」の定義は次のようなものです。
火に当たって、皮膚にできる斑点。
あまみができてしもた
(火だこが出来てしまった)*2
「あまみ」はもともと富山の方言で、「火に当たって、皮膚にできる斑点」のことでした。
身体が赤くなったり白くなったりする仕組み
もともとは火に当たって皮膚にできる斑点を意味する「あまみ」、サウナ・水風呂の後にも出るのはどういう仕組みでしょうか。私たちは熱いと肌が赤くなりますし、逆に寒かったり気分が悪い時には青白くなることもあります。これはどういう仕組みでしょうか。
身体が赤くなったり白くなったりすることは、血液の流れと関係があります。私たちの身体は、血液が皮膚に流れる量をコントロールしています。
私たちの身体には体温を37℃前後に保つことができる仕組みが備わっています。その仕組みの一つは発汗です。人間は汗をかくことによって体温調節をしています。発汗については、別の記事で詳しくまとめます。体温調節をするもう一つの仕組みに、皮膚への血流量(皮膚血流量)をコントロールする方法があります*3。この仕組みについて菅谷潤壹は次のように説明しています。
皮膚の血管にはあの手この手のくふうがされていて必要なときには大量の皮膚血流が確保できるようになっている。こうして皮膚血管が強く拡張することによって、核心部の熱が皮膚に運ばれ、皮膚から外界に放出されるという熱の移動がうまく作動する*4
必要なときには大量の皮膚血流ができるようになっていて、逆に必要がなければ皮膚血流を少なくすることができるのです。具体的には、体温が上がると皮膚表面の血流を増やし、体温が下がると皮膚表面の血流を少なくする仕組みがあるということです。つまり、暑い環境下にいる時と、寒い環境下にいる時とでは、皮膚表面の血流量が異なります。
皮膚表面に近いところの血流量が多くなれば、血液の色で通常の状態より肌は赤く見えます。熱が出ると顔が赤くなるのはそのためです。また、熱を逃がすという働きではありませんが、アルコールで顔が赤くなるのも頬の筋肉がゆるくなり、皮膚表面の血流量がいつもより多くなっているためと考えられます。
逆に、寒いところにいると肌が青白くなります。これは熱を逃がさないように、皮膚表面に近いところの血流量が少なくなるよう調節されているためです。
血液の流れ方で肌の色が変わることは、血流を一時的に止めてみるとよくわかります。例えば手のひらなどをもう片方の手の指でぐーっと押して指を離すと、おさえていた部分は白くなりすぐにじわっと赤みが戻ってきます。これは、血管を締めていた間は血液が表面近くを流れず、肌が白くなり、指を離したことで血液が流れ出して赤みが戻っているのです。
このように、血流量によって人の肌は赤くなったり白くなったりします。そして、血流量のコントロールは体温調節のために行われているのです。
「あまみ」が出る仕組み
では「あまみ」のように斑に肌が赤くなるのはどういう仕組みでしょうか。血流量のコントロールと肌の色の変化の関係を踏まえると、次のように説明できそうです。
サウナ室であたたまると体温が上昇するので、身体が体温調節のために熱を逃がそうとします。「血を皮膚に近い方に沢山流せ!」という指令が出て、血管が緩くなり、皮膚表面の血流量は多くなると考えられます。顔や身体は赤くなりますね。
そして、水風呂に入ると今度は皮膚の表面の温度が下がるので、熱を逃がさないようにします。熱を逃がさないようにするために、今度は血管を締める反応が起こると考えられます。それでも、身体の中はまだ熱いので、引き続き血流量を増やすよう指令が出ます。水風呂で冷えたことによって皮膚表面の細い血管は締まっているのに、身体の中が熱いため血は集まってきて、締まっていない血管に集中すると考えられます。血管が締まり白くなっている部分と、血が集中して赤くなる部分ができるわけです。これによって赤い斑模様が皮膚表面に見られるのが「あまみ」の仕組みだと言えるでしょう。
「あまみ」が出るのは良いサウナ?
サウナ愛好家の中では、「あまみ」が出るのは良いサウナであるとされたり、自分のコンディションが良いと「あまみ」が出やすい、とされたりしています。「あまみ」が出る仕組みを考えると、水風呂によって身体の表面が冷えても引き続き身体の中が熱く「体温を下げよ!皮膚表面の血を増やせ!」という指令が出続けていることで「あまみ」が出るはずですから、「あまみ」が出るということはそれだけ身体が芯までしっかりあたたまるサウナ室であると言えそうです。サウナ室の表示温度が高くても、顔が熱くなって長くいられないサウナ室では身体の表面しかあたたまらず、「あまみ」は出にくいと考えられます。
また、自分のコンディションが良い時に出る、と感じるのも、脳からの指令通り血流量が増えなければ「あまみ」は出ないということになりますから、体温調節や血流量の調節がきちんと行われる体調、ということにはなるでしょう。
「身体にいい」「身体に悪い」とは安易に言えない
「あまみ」については「身体に害はない」「身体に悪いことではない」と書かれていたり、「身体にいいのか?悪いのか?」ということが考察されたりしているのを見かけます。また、「あまみ」がしっかり出ると、「これって身体に悪くないのかな?」と心配になる人もいるでしょう。
しかし、そもそも「身体にいい」「身体に悪い」というのは複合的、総体的なことであり、そう単純なものではないでしょう。例えばX線検査(レントゲン検査)は放射線を浴びますから、身体にいいとは言えませんが、それ以上に大きなリスクを回避するために行います。適量であれば身体にいい効果があるけれど、摂取しすぎると身体に害がある、というものもあります。
サウナ浴自体も、身体にいいのか、悪いのか、という文脈で語られることがありますが、「身体にいい」ということは、プラスマイナスを考えて、プラスが上回れば良いわけです。一つの現象や仕組みだけで医学的に「身体にいい」「身体に悪い」と言うのは短絡的と言えるでしょう。
参考文献
近藤徳彦(1998)「人の体温調節反応」、『神戸大学発達科学部研究紀要』5巻2号、pp.55-56
菅屋潤壹(2017)『汗はすごい-体温、ストレス、生体のバランス戦略』、ちくま新書
参考資料
『サウナ,水風呂,大好き 湯守日記』(最終アクセス日:2019年4月9日)
『全国方言辞典』(最終アクセス日:2019年4月9日)