Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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昔のサウナ実態調査

 サウナ利用者が増えると、サウナの健康効果や「正しい入り方」が話題になります。それは、過去のサウナブームにおいても同じで、新聞記事などには「正しい入り方」について、効果についてなど取り上げられています。そして、実態としてはどうなのかというアンケート調査も行われてきました。サウナ後にざぶんと浸かる水風呂がいつからあるのかということも、こうした調査から少し見えてくるかもしれません。今回は、ちょっと昔のサウナの実態調査についてまとめてみます。

 

「大衆におけるサウナの入浴法の現状」

 1981年の『読売新聞』には「サウナ入浴法知らぬ人多いョー学会で報告」という記事があります。この記事は次のような書き出しで始まります。

サウナぶろが普及しているが、正しい入浴法を知らない人が多く、健康増進効果があがっていない*1

 第32回日本体育学会で、入浴者の実態調査をもとにした「大衆におけるサウナの入浴法の現状」を発表したというのです。この調査は、1月~3月まで、東京国立競技場スポーツサウナを利用した男性(30歳~60歳)74人のアンケート調査からなります*2。調査の対象者の体形の内訳が載っていました。約1/3が「太め」(軽肥満)、10%が「太り過ぎ」(肥満)、7%が「細め」で、普通の体形の人は50%ほどだったといいます。サウナ経験5年、週に5回以上通う人が半数以上いたそうですが、入浴方法は人それぞれだったそうです。

 この記事では、理想的なサウナ入浴法を次のように説明しています。

最初、十分間入り、内臓や筋肉深部の血液の循環をまず促進したあと冷水を浴び、あと五分ずつ二回入浴と冷水浴びを繰り返すのが、新陳代謝の効果をあげる最善の方法とされている*3

 1セット目は10分サウナ室に入り、冷水を浴びて、残り2セットはサウナ室5分と冷水浴びということです。しかし、このアンケート調査によると、実際には1回だけの入浴で終わりにしてしまう人、5~8回とたくさん入る人などさまざまだったそうです。「三十分以上の長湯や十分未満の”カラスの行水”も三〇%近くを占めていた」*4とあります。

 理想的とされる入り方とは異なる入り方をしている人が多いという結果になったわけですが、それでも入浴後は大半の人が「疲労が回復」したと回答しています。そして、約1/3の人が「熟睡できる」「仕事の効果があがる」と回答したそうです。入るセット数やサウナ浴にかける時間は人それぞれでも、大半の人が疲労の回復などを体感しているという結果になったわけです。

 ちなみにここで言う冷水浴びは水風呂に浸かることなのでしょうか。はっきりとはわかりませんが、サウナ室と冷水がセットで考えられていることはわかります。

サウナと冷水

(画像出典:サウナでトランスする「ととのう」とはどういうことか。温泉に詳しい医学博士に聞いてみた | 朝日新聞デジタル)
 

「サウナ入浴法の検討」

 日本体育学会の調査より数年前の1975年にも、サウナ入浴法について調査が行われていました。水田拓道他(1975)の研究、「サウナ入浴法の検討:―入浴時間の設定が生体諸機能に及ぼす影響―」では、サウナの入浴時間に焦点をしぼって、サウナ入浴法について調査が行われています。

近年「あなたの健康の維持増進のために」とか、「今日の疲れはサウナでおとそう」というようなキャッチフレーズと共にサウナはその数を増し、利用者も急激に増えている(中略)サウナ入浴の目的は発汗作用にすべて集約されるが、ときにそれは疲労回復であり、減量であり、気分転換であったりといろいろの目的のもとに利用されている。ところが、それらの目的はどのような入浴パターン、即ち、サウナ室への入浴時間、入浴繰返し回数、冷水浴の有無などの組合せで得られるのかは殆んど研究されていない。利用者の多くは自分の経験にもとずいて一定のパ ターンを作っているようであるが、経験の浅い人ではややもするとねらい通りの入浴ができないことが多いようである*5

 「『サウナブームを文化に』を問う」などの過去の記事でも見たように、1970年代はサウナ施設が急増し、サウナの利用者も急増した「サウナブーム」の時期でした。日本サウナ党の結成も1971年でした。サウナ利用者が急増する中で、サウナ好きたちはそれぞれ自分の好みのペースでサウナ浴を楽しんでいたわけですが、この調査では、入浴時間の違いによって人体への影響にどのような差があるかを調べています。調査方法は次の通りです。

サウナの調査

  

 実験の結果も気になるところですが、「水浴時間」という言葉が出てくることから、また1分~2.5分という時間から、これは水風呂に浸かるということではないかと考えました。

 アンケート調査の結果では「冷水浴の併用」について「必ず併用する」が70.6%、「時々併用する」が23.9%、「併用しない」が5.5%で、「94.5%がなんらかの形で利用している」*6とまとめられています。また次のようにも書かれていました。

一回当りの冷水浴時間は2~3分が多く78.5%をしめた。しかし、季節・水温によって変化するようである*7

 つまり1975年時点では、多くのサウナ利用者がサウナ・水風呂の繰り返しという入浴の仕方をしていたということがわかります。ざぶんと浸かる水風呂はいつからあるのか、まだ明らかになっていませんが、1970年代のサウナブームのときにはあったようだということがわかりました。そして、実験で用意されている冷水が15~17℃ということから、このくらいの温度帯であったことがうかがえます。

 

 また、サウナ入浴回数についてのアンケート結果は次のようなものだったそうです。

サウナのアンケート

 

 つまり、当時は5分3セットという入り方の人が多かったということでしょう。この調査の実験でもサウナ室の温度は117~118℃と高めで、当時のサウナ室の温度が高めだったことがうかがえます。そのため、5分程度で出る人が多かったのでしょう。

 この調査では、このアンケート結果を踏まえて、上記「実験用に設定された入浴パターン」の1)~4)のパターンを設定し、このパターン通りサウナ浴をしてもらい、体重の変化、全身反応時間*8、血圧の変化、垂直跳びのジャンプ時最大出力パワー、皮膚温などを比較しています。

 結果として、全身反応時間や垂直跳びにおけるジャンプパワーなど、筋神経の関係する機能については、サウナ5分入浴→1分冷水浴で3回繰り返す入浴法のとき良い成績を示すということがわかったそうです*9

サウナ浴のパターン

 

つまり、多くの人がこの時期に実際に行っていたパターンが最も疲労回復や気分転換に効果的であるということが裏付けられたわけです。サウナ利用者が経験的にこのくらい、と思う入り方が、実験でも筋神経関係の項目で良い結果になるというのは興味深いです。経験に基づく個人の感覚というのはあなどれません。

 一方、血圧や心拍数、皮膚温の変化には、入浴パターンによる差異は見られなかったそうです。しかし、どのパターンにおいても、「循環機能への有効な刺激として考察され、長期にわたる利用によって環境温の変化に対する適応能を高める効果が期待される」*10とまとめられています。

 何分何セット入るかによって、人体に及ぼす影響が変わるという実験結果も興味深いですが、アンケート調査により当時のサウナ浴の実態が見えてくるのがおもしろいです。

 

 今回は、ちょっと昔のサウナの実態調査について見てみました。水風呂の起源にはたどりつけていませんが、1970年代には水風呂があり、サウナ好きの95%近くが水風呂に入っていたであろう、ということはわかりました。引き続き調べていきたいです。

 

参考文献・資料

水田拓道、植屋清見、日丸哲也、永田晟、山本高司(1975)「サウナ入浴法の検討:―入浴時間の設定が生体諸機能に及ぼす影響―」 、日本体力医学会、『体力科学』24巻3号、pp.101-107

『読売新聞』「サウナ入浴法知らぬ人多いョー学会で報告」、1981年9月8日、朝刊

 

*1:『読売新聞』

*2:同上

*3:同上

*4:同上

*5:水田他、p.101

*6:同上、p.103

*7:同上

*8:感覚刺激の提示から行動による反応が生じるまでの時間のこと

*9:水田他、p.107

*10:同上