Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

水風呂のはじまりを考える

 「水風呂の歴史 -前編-」「水風呂の歴史 -後編-」では、サウナとセットで入る水風呂がいつからあるのか考えるために、新聞記事の中の「水風呂」という言葉に注目するなどしてみました。「前編」の方では、「温冷交代浴」が注目され始めたのは比較的最近であることも確認しました。しかし、「温冷交代浴」という言葉ではないにせよ、サウナと水風呂の組み合わせは、サウナが流行した1970年代からすでに定着していたようです。今回は、サウナ後の「水風呂」のはじまりについて、もう少し迫ってみます。

 

70年代 サウナ浴は水浴とのセットが一番

 「水風呂の歴史 -前編-」では、『銭湯検定公式テキスト2』の記述などを参考に、「温冷交代浴」の効果は2000年代に入ってから注目されるようになったとまとめました。しかし、「温冷交代浴」という言葉は出てこずとも、サウナのあとには、お湯に入ったり、休憩をしたりするよりも水風呂に入るのがよいのだ、ということは1970年代から指摘されています。

 例えば、1972年の新聞には、サウナ浴は「水浴」と交互で行うのが一番よいということをまとめた記事が掲載されています。『読売新聞』の「サウナの生理学 血のめぐり、疲労回復に効果 ただし、健康であることーお年寄りにはムリ」という記事です。出だしは次のようになっています。

埼玉県の公衆浴場などで、最近「百円サウナ」を始めたところから、サウナ入浴はぐっと身近なものになってきた。しかし、サウナの大衆化が進んでいる割りには、科学的で健康的な利用法は意外に知られていない*1

 ごく最近の記事でも同じようなことが言われている気がしますが、1972年時点ですでにこうした記事が新聞に載っています。

 この記事は、スポーツ科学研究所(日本体育協会内)が調査研究した結果をもとにまとめられています。紹介されている結果として、「サウナ入浴による直腸温の変化」があります。この調査では、①サウナと休息の繰り返し、②サウナと温浴の繰り返し、③サウナと水浴の繰り返しの3パターンについて、直腸温の変化がまとめられています。

 

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(画像出典:『読売新聞』1972年4月2日、朝刊)

 実線が①サウナと休息の繰り返し、点線が②サウナと温浴の繰り返し、線と点の組み合わせが③サウナと水浴の繰り返しです。サウナに8分入ったあと、それぞれ休息・温浴・水浴を5分した際の変化をみています。

 この結果から、記事では「サウナ浴の効果をねらうなら、サウナと水浴(水ブロかシャワーをあびる)を交互させる」*2と言われています。

グラフのカーブが物語っているように、サウナと温浴または休息の組み合わせでは、浴後に「入浴前の状態」戻る*3のがおそい。したがって、「ぐったり」する。「サウナと水浴」の方が、直腸温は上がらず、湯上りの気分はサバサバと快適だ。(中略)サウナのあとで水浴すると、からだの負担が軽くなり、サウナ入浴の効果があがることがデータからわかった。つまり、サウナの「温刺激」と水浴の「冷刺激」とが、からだの機能の振幅を広げるという点でより効果があるというわけである*4

 水浴をする、つまり水風呂に入る・水シャワーを浴びることによって、「入浴前の状態」に戻るのが、サウナ後にお湯に入ったり休憩をする場合に比べて早いということです。グラフを見ると、①サウナと休息の繰り返し、②サウナと温浴の繰り返し、が似たような形のグラフになるのに対して、③サウナと冷浴の繰り返しだけは、ほぼ一定の、直線に近い結果になっています。サウナ後に休憩をする・お湯に浸かるのと、水で冷やすのとでは直腸温の変化に大きな違いがあるようです。

 このように、1970年代の新聞記事において、サウナ浴の効果的な入り方はサウナのあとに水浴をすること、とされているのです。記事では、こうした効果は健康であることが前提で、注意点もあると書かれています。

もっとも、以上の「ききめ」は健康であることが前提であるが、念のためにサウナ浴で注意すべき点を黒川所長にあげてもらった。①病み上がりは避ける(循環器系には刺激が強すぎるから)②食後すぐはいってはいけない。飲酒後もさける③睡眠不足、からだの不調のときは避ける(気分が悪くなったら失神することもある)④浴後約三十分は休憩する(生理機能が入浴前の状態に戻るまで約三十分かかるから)④週にせいぜい一回か二回であること。連日利用して効果があがるというものではない。もちろん、血圧の高い人や心臓病の人は、もってのほかだ*5

 水浴とのセットがもっとも効果的であるけれど、健康な人向けの入浴方法であるということですね。 

水浴

(画像出典:セザンヌ『水浴』 | 名画の見られる日本の美術館 HP)
 

70年代「水風呂」の魅力と入り方

 また、翌年1973年の全国サウナ浴場協会*6の機関紙『サウナジャーナル』の中の、全国サウナ浴場協会会長(当時)の今井義晴による記事「身体が冷えないうちに お客にリラックスさせる工夫も」では、より明確に「水風呂」の魅力と入り方について書かれています。

熱い身体を水で冷やすのはどんなに気持ちのよいものかは経験者のよく知るところだ。サウナ浴のよさはこの水風呂に入ることによって倍加される*7

 そして、水風呂の入り方についても書かれています。

頭から飛び込むなぞ、もってのほかだ。足からゆっくり入ってもらいたい。金冷浴というのが、そのスジのマニアにすごくもてはやされているが、もちろんこの部分は、その効果を十分に期待して、つけてもらいたい。

ついで上半身をつける。三十秒から一分ぐらいが適当かと思われるが、これとてやはり個人差がある。長く入ると風邪を引きかねない。刺すような冷たさを感じ、苦痛ならば出ればよい*8

 「金冷浴」という言葉は調べてもあまり情報が出てきませんが、「金冷法」という言葉を見てみると、男性が精力をつけるために睾丸を冷やす民間療法のことのようです。1970年代には、これが「すごくもてはやされて」いたのですね。『はこだて医療情報』のホームページで、ひ尿器科医院の院長、岡本知士は次のように指摘しています。

昔は精力をつける為に寒布摩擦と金冷法を実践していた人も多々いたようですが、寒布摩擦はともかく金冷法は当たらずとも遠からずで、“精力”の意味を勃起能力ではなく“精子を作る能力”とすれば、理にかなった民間療法だったと言えます*9

 また、東京都浴場組合のホームページには「熱い風呂と冷たい水の連続刺激で男が若返る」という記事がありました。

精子や男性ホルモンを生産する働きを持つ睾丸を活発にするには、袋の温度調節機能が不可欠です。
そこで熱い湯舟と水風呂の連続刺激で袋を鍛え直しましょう。湯舟で温めてから、水風呂に下半身をつけ、袋が縮み上がったら再び熱い湯舟へ。これを3~4回、毎日繰り返すだけで、睾丸の働きは確実に若返ります*10

 1970年代には、こうした効果もサウナ後の水風呂に期待されていたのですね。今井は、サウナにどのくらい入ればよいか、何分入ればよいか、などよく質問されるとして、次のように答えています。

「一週間に二回が適当である」

「一度のサウナ浴の入り方は二回がよい」

「サウナ浴、水風呂、洗体を合わすと三十~四十分ぐらいになる」*11

 つまり、サウナ・水風呂のセットを2セット、サウナに入ること自体は週に1~2回がよいとしています。頻度として週に1~2回がよいとされているのは、先の『読売新聞』と同じです。

 

冷たい水風呂のはじまり

 つまり、日本でサウナが普及・流行した1970年代には、サウナ後の水風呂は当たり前だったわけです。そして、チラーを使って人工的に冷やすということが始まったのも1970年代のようです。

 1977年6月の日本サウナ協会連合会*12の機関紙『月刊サウナ』には次のような記事があります。「各所で冷水装置取付けの傾向」という見出しです。

従来、概して二十一、二十度に保ちつつあった浴室内冷水槽の水温も、今月に入って日増しに上昇しはじめ、更に最夏期になれば、おそらく二十七、八度あたりまでぬるみ、浴客の損なわれる爽快感は勿論、皮膚刺激による健康効果の減少をも憂へて最近、東京都内のサウナ店では、此処かしこでチーラー式冷凍装置等を取付け、冷水槽の温度の保冷に手を加える店がふえて来たようだ*13

 1977年時点で、チラーを使って水風呂の温度を下げる施設が増えてきた、というのです。気温に変化などがあったのだろうかと、気象庁の記録を見てみると、1977年6月の日平均気温は20.9℃、最高気温は29.5℃であり、1965年6月の日平均21.6℃、最高気温31.2℃とさほど違いはありません。ちなみに、2020年6月は日平均23.2℃、最高気温32.6℃で、若干平均気温が上がってきているように感じます。

 1970年代はサウナが流行し、施設がどんどん作られた時代です。水風呂についても、夏場でも冷たい水風呂を提供できるようにしようという動きが、1977年頃から出てきたのでしょう。サウナ後の水風呂自体は、おそらくサウナ普及の最初期からあり、人工的に温度を管理する冷たい水風呂のはじまりも1977年と比較的早い段階だということがうかがえます。

 

 今回は、サウナ後の水風呂のはじまりについて考えてみました。最近でも「サウナのメインは実は水風呂!」というような切り口でサウナの特集が組まれたりすることがありますが、サウナのあとは水浴がよいという検証は1970年代にすでになされており、またチラーを使った冷たい水風呂も1970年代後半には出てきているわけで、1970年代のサウナブームにおいても、サウナと水風呂はセットで楽しまれていたことがわかりますね。

 

参考文献・資料

気象庁ホームページ、「東京 日平均気温の月平均値(℃)」(最終アクセス日:2021年6月25日)

全国サウナ浴場協会、『サウナジャーナル』、1973年9月号

東京都浴場組合ホームページ、「熱い風呂と冷たい水の連続刺激で男が若返る」(最終アクセス日:2021年6月25日)

『はこだて医療情報』、「男性の性(3)」、2010年3月19日(最終アクセス日:2021年6月25日)

『読売新聞』「サウナの生理学 血のめぐり、疲労回復に効果 ただし、健康であることーお年寄りにはムリ」、1972年4月2日、朝刊

 

 

 

*1:『読売新聞』1972年4月2日、朝刊

*2:同上

*3:原文ママ

*4:『読売新聞』1972年4月2日、朝刊

*5:同上

*6:現公益社団法人日本サウナ・スパ協会

*7:全国サウナ浴場協会、1973年9月、p.4

*8:同上

*9:はこだて医療情報

*10:東京都浴場組合HP

*11:同上

*12:現公益社団法人日本サウナ・スパ協会

*13:日本サウナ協会連合会、1977年6月、p.1