Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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硬水・軟水のエリアと文化

 「入浴と硬水・軟水」では、日本の水は基本的に軟水で石鹸の泡立ちがよく、髪もごわつかないということを確認しました。そもそもどうして国・エリアによって水の硬度が変わるのでしょうか。今回は、また水の硬度について考えてみます。

 

日本の水が軟水である理由

 日本の水は軟水、ヨーロッパの水は硬水という傾向がありますが、水の硬度には地形が関係あるそうです。日本は山と海の距離が近いため、水が軟水になるようです。

日本の国土は狭く傾斜が急な山々に囲まれており、山のふもとから海が近い場所がたくさんあります。そのため、山々に降った雨が地層の中に滞留する時間が短く、水に溶け込むミネラルの量が少なくなります*1

日本の国土

(画像出典:日本山岳会 山はおもしろいHP)

 

 山に降った雨が比較的すぐに海に流れていくので、土の中の滞在時間が短くなります。そうすると、ミネラルが溶け込むための時間が少なくなり、あまりミネラル成分を含まない軟水になるというわけです。

 また、日本の川は海外の川と比べて急勾配であることも指摘されています。石原信次は、「日本の川は諸外国の川と比べると、短くて急勾配といった特徴があるのです」*2と指摘します。その理由は「日本列島が南北に細長いうえに山脈が多く、険しい地形だから」*3だそうです。石原は次のように続けます。

日本では上流で雨が降っても、川の勾配が急なため、水は一気に海へ流れ出ていきます。雨が降るとすぐに洪水が起きるという、まさに「あばれ川」なのです*4

 日本の河川が急勾配であることは、内閣官房水循環政策本部事務局の『水循環白書』でも指摘されています。

我が国の国土は地形が急峻であるため、大陸と比較して河川の勾配が急で流路延長が短く、河川の水は極めて短時間で海に至る*5

 『水循環白書』には、日本の主要な河川の勾配図も掲載されています。

サウナ 水

(画像出典:内閣官房水循環政策本部事務局『水循環白書』p.69)

 

 少々文字が小さいですが、左から常願寺川、安倍川、筑後川、吉野川、利根川、信濃川、北上川、セーヌ川、ロアール川、コロラド川、メコン川、ライン川です。こうして見ると確かに日本の河川は急勾配だとわかります。

 つまり日本の地形は、水が海へ流れ出るまでの速度がはやいということですね。そのため、土の中を通る時間が短く、ミネラル成分がたくさん溶け込む前に海に流れ出る、ということです。

 

 一方、硬水が多い地域は、水が海に流れ出るまでの速度がおそく、ゆっくり移動するためミネラル成分が多く溶け込むそうです。

一方でヨーロッパをはじめとする硬水が多い地域では、山と海が遠く離れていて、緩やかな地形をゆっくり水が移動します。それだけ岩石と触れる時間が長いので、ミネラルを多く含み、硬水となります。 またヨーロッパには、貝殻や魚の骨が含まれた石灰岩の地層が広く分布しています。貝殻や骨にはミネラルが含まれているので、地層のミネラル分も多くなります*6

 ヨーロッパの水が硬水になりがちなのは、水がゆっくり海へ流れ出るということに加えて、貝殻・魚の骨が含まれた石灰岩の地層が多いからだということです。地形や地層の特徴によって、水の硬度が変わるわけですね。

石灰岩

(画像出典:世界遺産Twitterアカウント)

 

硬度と食文化

 水は生活に密着しています。軟水と硬水の特徴の違いは、料理にも関係があることがいろいろなところで指摘されています。

水はもともと、ものの香りや味を引き出す力をもっています。なかでも、ミネラルが少ない水ほどその力が強いとされています*7

 この特徴から、石原は和風出汁をとる繊細な日本料理には軟水が適していると指摘します*8。ミネラルが多い硬水を使うと、タンパク質が固まってうまみ成分が溶け出しにくいのだそうです。そして、ご飯を炊くのも軟水の方がよいそうです。硬水で炊くと、「水に含まれるカルシウム分が邪魔をして米が水を十分に吸収できなくなる」*9ためだそうです。ご飯を主食とし、出汁をとって調理する日本料理には軟水が適しているということですね。軟水だからこそこういう食文化になったのでしょう。

和風出汁

(画像出典:「主婦A子のレシピ」HP)

 

 一方、硬水は肉料理に向いているといいます。軟水で肉料理をすると、肉の臭みまで出てしまうそうです*10。石原は、「硬水はカルシウムが豊富に含まれているため、肉のタンパク質と結合して、アクがちょうどいい具合に抜ける」*11と指摘します。出汁をとりたい、素材の味を水に溶けださせたい、という場合は軟水がよく、臭みのある素材を調理するときには硬水がよい、ということですね。

硬水の地域が多いヨーロッパでは、水をそのまま利用せず、お米は炒めたり蒸したり、水を使わずスープストックや牛乳で煮たり、また肉も油で炒めたりローストする料理が多く作られています*12

 たしかに洋食は米を使っても水で炊くよりもパエリアやピラフのようにいためたり蒸したりすることが多いですね。煮込む料理も水に素材のうまみを溶け出させる出汁というより、スープストックや牛乳で煮込む、ということが多いです。こうした食文化の違いにも水の硬度が関係しているのですね。

パエリア

(画像出典:ウォータースタンド株式会社HP)

 

 飲み物についても「香や味わいを引き出したい場合は軟水を、マイルドな味を楽しみたい場合は硬水を使うといい」*13とされています。日本茶の苦み・渋みの美味しさがよく出るのは軟水、エスプレッソなどのコーヒーは硬水を使うとまろやかになるそうです*14。日本酒を作る際にも、比較的硬度の高い水で作るとミネラル成分が多いため発行が促されて辛口の酒になり、軟水を使うとゆっくり発酵するので甘口でまろやかな味になるそうです*15

 ミネラル成分の量によって、水に溶けだすうまみや発酵の進度が変わるということは、料理をする上でも水の硬度は重要ですね。それによって、水に適した食文化になるというのも自然なことだといえます。

 

硬度の分布と文化

 味の素のホームページには、世界の水の硬度の分布が掲載されています。

硬度

(画像出典:味の素株式会社HP)

 

 やはりヨーロッパは硬水のエリアが多いのですね。アメリカは広いということもあり、日本と同じような軟水エリアもあることがわかります。洋食・和食という形で比較されますが、中国も硬水ですね。中華料理も出汁をとって、というより炒めるなどして味付けすることが多いですね。チャーハンもご飯を炒めるもので、ふっくらというよりパラパラに仕上げた方がよい料理なので、納得です。

パラパラ炒飯

(画像出典:「主婦A子のレシピ」HP)

 

 とはいえ、日本の中でも硬水寄りのところはありますし、深いところから汲んだ地下水などは硬度が高くなる傾向にあるということは、以前も確認しました。ヨーロッパでも地域によって軟水の地域はあり、あくまでも全体的な傾向ということになります。

 

 今回は、水の硬度とエリアの関係についてまとめてみました。水中のミネラル成分の量はいろいろなことに影響することがわかってきました。そうすると、浸かったときの肌の感触や、冷え方にも影響があってもおかしくない気がします。水風呂の心地よさや肌に残る感触を説明する要素は他にもいくつか思い当たりますが、硬度も必要な要素の一つになりそうです。

 

参考文献・資料

kanzaiホームページ「硬水と軟水」2020年4月1日(最終アクセス日:2021年6月11日)

味の素株式会社ホームページ、「豊かな軟水から生まれた日本の『だし』」(最終アクセス日:2021年6月11日)

石原信次(2004)『ズバリとわかる!知っておきたい 水のすべて』、インデックスコミュニケーションズ

内閣官房水循環政策本部事務局(2020)『令和2年版 水循環白書』

日田の水研究所ホームページ「水の性質は地層・地形の違いで変わる」2019年12月25日(最終アクセス日:2021年6月11日)

 

 

 

*1:日田の水研究所HP

*2:石原、p.110

*3:同上

*4:同上

*5:内閣官房水循環政策本部事務局、p.68

*6:kanzaiHP

*7:石原、p.30

*8:同上

*9:同上

*10:同上

*11:同上、p.32

*12:kanzaiHP

*13:石原、p.32

*14:同上

*15:同上、p,36