Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

入浴と硬水・軟水

 サウナ好きにとって、サウナ室の温度設定やヒーターの種類などはもちろん、水風呂がどういう水風呂かということも重要です。水温がどの程度か、バイブラがあるのかないのか、深さ・広さはどうかなどいろいろな指標がありますが、「水質」も水風呂によって違います。水質の良さを売りにするお店もありますが、水質が良いとはどういうことなのか、なかなか簡単には説明ができません。水質を構成する要素の一つに硬度があります。今回は、水の硬度について、特に入浴の観点から考えてみます。

 

硬水と軟水

 「水の質を構成する要素」で見た通り、硬度とは水1000ml中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を表わした数値のことでした。計算方法や、WHOの基準、日本での基準なども「水の質を構成する要素」で確認しました。WHOの基準では、120mg/L以下を軟水、120mg/L以上を硬水と定めていました。一方、日本では硬度が100未満のものを「軟水」、それ以上のものを「硬水」と呼ぶということも確認しました*1

水の硬度

 

 日本の水は基本的に軟水だ、とよく言われます。「石鹸百科」というサイトによると、日本では「生活用水の80%が硬度80ppm*2の軟水に分類」され、これは世界的に見て非常に珍しいことだそうです*3。アメリカやヨーロッパなどは、硬度180ppm以下の硬水地域の方が軟水地域よりもはるかに多いといいます*4。基本的に、アメリカやヨーロッパに比べて日本は軟水が多いと考えてよいようです。入浴の観点から、硬水と軟水にはどのような違いがあるでしょうか。

 

硬水と石鹸

 「水の質を構成する要素」で見たように、東京都水道局の水道水質基準では、硬度は300mg/L以下となっていて、その理由は「硬度が高いと石けんの泡立ちが悪くなることから」*5と書かれています。東京都水道局のホームページによると、硬度の値が200mg/Lを超えたあたりから「石けんの泡立ちが悪くなる」「スケールが付着する可能性が高くなる」とされています*6。スケールというのは、水の中に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が固体として残ることです。例えば電気ポットや加湿器の口に白く付着するのが身近な例です。天然温泉の浴槽でも見られますね。

スケール

(画像出典:株式会社サンエス・サービスHP

 

 石鹸の泡立ちが悪くなることやスケールが付着しやすくなることから、水道水質基準では高度が300mg/L以下と定められているということです。スケールが残りやすいのは、水分中のミネラル分が多い方が、つまり硬度が高い方が残りやすいのだろうとわかりますが、どうして硬度が高いと石鹸が泡立ちにくいのでしょうか。牛乳石鹸のホームページでは、その理由について次のように説明されています。

軟水は石けんにとっては良い水で、よく泡立ちます。使用する水の硬度が高くなるにつれて、石けんの泡立ちは悪くなります。これはカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が石けんと反応して、水に溶けない金属石けんになり、石けんの洗浄性を失ってしまうからです*7

 日本は基本的に軟水で、石鹸がよく泡立つということですね。先に見たように、日本は生活用水の80%が硬度80ppmの軟水ということでした。つまり日本の水は石鹸がよく泡立ち、ヨーロッパなどでは同じ石鹸でも泡立ちにくいということです。その理由は「水に溶けない金属石けん」になるから、とのことですが、金属石けんとは何でしょうか。

 通常私たちが「石鹸」と呼ぶものは、汚れを洗うもの・水に溶けるものですが、「金属石鹸」は洗浄力がなく、水に溶けない性質を持っているそうです*8。「石鹸かす」とも言われます*9。水分中のマグネシウムやカルシウムが多いと、石鹸と化学反応を起こして、洗う力もなく水に溶けないマグネシウム石鹸やカルシウム石鹸などの「金属石鹸」になります。「金属石鹸」がたくさんできてしまうと、石鹸の泡立ちは悪くなり、汚れが落ちにくくなるということです。

硬度の高い水は硬度成分をたくさん含んでいるので、金属石鹸もたくさんできます。この反応は石鹸が汚れにとりつくよりも先に起こるので、金属石鹸が多くできると汚れ落としに回る石鹸分が少なくなってしまう。つまり、硬度の高い水は石鹸の効きが悪くなるのです。ですから同じ程度の汚れ物でも、硬度の高い水で洗うと、硬度の低い水で洗うときよりたくさんの石鹸が必要になります*10

金属石鹼

(画像出典:くらぷらブログ

 

 同じ「石鹸」という言葉なのでわかりにくいですが、水分中のミネラルが多すぎると化学反応を起こして、洗う力のない「かす」が生成されてしまう、ということですね。これが硬度が高いと石鹸が泡立ちにくい理由です。

 

軟水と石鹸

 日本の水は基本的に軟水なので、石鹸がよく泡立つということでした。しかしうちの店は軟水です、というお風呂屋さんでは、石鹸が落ちにくくヌルヌルした感じが残ります。なんとなく普段のお風呂よりもシャンプーや石鹸が落ちにくい、いつまでもヌルヌルした感じが残ることがあると思います。これはどういう仕組みでしょうか。

 軟水のシャワーなどで石鹸を洗い流したときに残るヌルヌルした感じは、石鹸が分解されてできた脂肪酸だといいます*11。カルシウムやマグネシウムなどのミネラル成分が適度にあると、脂肪酸は金属石鹸になるのでさっぱりした感触になり、少ないとヌルヌルした感触になる、ということのようです*12

 牛乳石鹸のホームページにも次のような記載がありました。

日本の水道水は軟水ですが、微量のミネラル分を含みますので、石けんを使用する際には微量の金属石けんができます。この金属石けんが、洗った後のさっぱり感を与えています*13

  ミネラル成分が多いと金属石鹸がたくさんできてしまい、泡立ちにくかったりするわけですが、少なすぎると今度はヌルヌルした感じが残るということです。適度にミネラル成分が含まれていると、泡立ちもよく、かつさっぱり感もあるということでしょう。

 石鹸の泡立ちやすさやヌルヌル感など、硬度によって石鹸を使ったときの体感が異なることがわかりました。また、軟水の方が肌や髪に優しいとも言われています。これも原因はミネラル成分の量です。アクアクララのホームページでは、軟水のメリットとして肌や髪にやさしいことがあげられています。

軟水は肌や髪にも優しく、身体や髪を洗っても心配はほとんどありません。硬水で体や髪を洗うと、カルシウムイオンやマグネシウムイオンの影響で、肌がつっぱったり髪がパサパサしたりすることがあります*14

 

アクア東中野

(画像出典:アクア東中野(東京都中野区) - サウナイキタイ

 

 確かにヨーロッパなどでシャワーを浴びると髪がごわつくことがあります。日本の水とは違うと感じたことがある人もいるのではないでしょうか。ミネラル成分が多い水で洗うと、しっとりではなく肌がつっぱる感じがしたり、髪がパサパサしたりするということです。そう考えると、ゆっくり湯に浸かる、ゆっくり風呂に入るという入浴文化とその地域の水の硬度はある程度関係があるのではないかという気もしてきます。

 

 今回は硬度について考えてみました。水分中のミネラル成分の量によって、化学反応が起こったり、肌や髪への影響が異なるということがわかりました。そう考えると、浸かった場合に体感が違うということも説明がつきそうな気がします。肌感やあがってからの感触などに硬度が影響するということは十分考えられます。水風呂の体感と硬度との具体的な関係について、今後さらに考えてみたいと思います。

 

参考文献・資料

アクアクララ株式会社ホームページ「硬水と軟水の違いは? メリットとデメリット」(最終アクセス日:2021年4月30日)

い・ろ・は・すホームページ「ミネラルウォーターQ&A」(最終アクセス日:2021年4月30日)

牛乳石鹸ホームページ「What's 石鹸」(最終アクセス日:2021年4月30日)

石鹸百科「石鹸と硬水・軟水」2009年11月改訂(最終アクセス日:2021年4月30日)

東京都水道局ホームページ「トピック第2回 水の硬度」(最終アクセス日:2021年4月30日)

ニセ化学と石けんの諸問題「金属石けん(石けんカス)について」(最終アクセス日:2021年4月30日)

 

*1:い・ろ・は・すHP

*2:濃度を表す単位として、mg/Lとppmがある。1ppmは1mg/Lと同一となるので、mg/Lでもppmでも濃さは同じと考えてよさそう。

*3:石鹸百科

*4:同上

*5:東京都水道局HP

*6:同上

*7:牛乳石鹸HP

*8:同上

*9:同上

*10:同上

*11:ニセ化学と石けんの諸問題

*12:同上

*13:牛乳石鹸HP

*14:アクアクララ株式会社HP