前回「水の『ろ過』について」では、「ろ過」についてまとめてみました。かけ流しと循環ろ過式の違いなどにも少し触れましたが、温浴施設のろ過はどのように行われているのでしょうか。また、水の質についてどういうは基準があるのでしょうか。今回は、温浴施設とろ過について考えてみます。
公衆浴場の水質基準
厚生労働省は、公衆浴場の水質基準を定めています。平成15年に改訂された「公衆浴場における水質基準等に関する指針」によると、水質基準は原湯、原水、上り用湯、上り用水についてと、浴槽水について、それぞれ決められています。用語の定義及びそれぞれの基準は次のように説明されています。
つまり浴槽の中の湯水と、それ以外の、直接浴槽に入れる湯水やカラン・シャワーから出る湯・水とで基準が違うということです。そして、それぞれに「ただし、温泉水又は井戸水を使用するものであるため、この基準により難く、かつ、衛生上危害を生じるおそれがないとときは、1のアないしエの基準の一部又は全部を適用しないことができる」「ただし、温泉水又は井戸水を使用するものであるため、この基準により難く、かつ、衛生上危害を生じるおそれがないときは、1のア及びイの基準のどちらか又は両方を適用しないことができる」*1という文言があります。温泉水や井戸水を使う場合で、この基準が適用しにくく、衛生上危険がなければ、色度と過マンガン酸カルウム消費量の基準は適用しない場合もあるということです。
「色度」は「水の着色の程度」*2で、「濁度」は「水の濁りの程度」*3です。たしかに温泉や井戸水で色のついた水の場合もありますよね。
「過マンガン酸カリウム消費量」は、「水中の酸化されやすい物質によって消費される過マンガン酸カリウムの量」*4だそうです。し尿などで汚染されると過マンガン酸カリウム消費量も増加するので、汚染の度合いを知る指標になるといいます。
温泉や井戸水を使う場合に、一部適用されないものもありますが、基本的にはこうした項目が水質の基準として設けられています。それから、レジオネラ属菌が検出されないことなども基準に入っています。
こうした基準を守るためにも、ろ過処理は必要になるということです。温浴施設では実際どのように水・湯をろ過しているのでしょうか。
循環式
循環かかけ流しか、というのは前回の「水の『ろ過』について」でも触れましたが、循環式とはどういうものでしょうか。厚生労働省の「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」には次のように書かれています。
循環式浴槽とは、温泉水や水道水の使用量を少なくする目的で、浴槽の湯をろ過器を通して循環させることにより、浴槽内の湯を清浄に保つ構造の浴槽を言います*5。
厚生労働省のマニュアルには、循環式浴槽の構造も図示されています。
(画像出典:厚生労働省HP、「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」)
そして、循環式浴槽には「連日使用型循環浴槽」と「毎日完全換水型循環浴槽」があるそうです。「連日使用型」は文字通り、24時間以上、完全換水を行わないで循環ろ過する浴槽で、「毎日完全換水型」は毎日、水を完全に落として入れ替える浴槽です*6。
「連日使用型」の構造は、「集毛器、循環ポンプ、消毒装置、ろ過器、加熱器(熱交換器)、循環配管によって構成され、浴槽内の湯を浄化し適温に保つ」*7そうです。湯・水は集毛器で髪の毛などが除去されて、塩素系薬剤などの消毒剤で消毒されます。それからろ過で細かい汚濁物質がろ過されて、加熱器で適温に温められ、浴槽に戻るという仕組みです*8。「毎日完全換水型」の構造は、主に循環ポンプとろ過器だそうです*9。
湯・水を循環させる方式は、主に2つあります。「側壁吐出・底面還水方式」と「側壁吐出・オーバフロー還水方式」です。「側壁吐出・底面還水方式」は「浴槽の側壁からろ過・消毒された湯を浴槽内に吐出させて、浴槽の底から吸い込んでろ過器に戻す方法」*10で、一般的に広く使われているそうです。
(画像出典:厚生労働省HP、「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」)
「側壁吐出・オーバフロー還水方式」は「浴槽内に浴槽の側壁や底面から湯を吐出させて、浴槽の縁からオーバフローさせた湯を集めてろ過器に戻す方法」で、湯が溢れ出ているように見える視覚的な効果があること、浴槽表面の浮遊物を取り除けることが指摘されています*11。
(画像出典:厚生労働省HP、「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」)
ろ過装置
循環式の浴槽では、ろ過器によって湯・水がろ過されます。実際に温浴施設で使われるろ過装置はどういうものなのでしょうか。
例えば、株式会社ショウエイのホームページではろ過装置とその仕組みがわかりやすく説明されています。
(画像出典:株式会社ショウエイHP)
「ヘアキャッチャ」は厚労省のマニュアルで「集毛器」となっていたものです。まずここで髪の毛など大きな不純物が取り除かれるわけですね。「ろ過タンク」でろ過されて、さらに細かい汚濁物質が取り除かれるという仕組みです。
また、多くの温浴施設のろ過装置システムを手掛けているミズプラのホームページにも興味深い情報がいろいろ掲載されていました。ミズプラはスーパー銭湯事業の「ろ過装置システム」部門で全国第1位、30%以上のシェアを占めているそうです*12。導入実績のページを見てみると、なるほど馴染みのある施設がたくさんです。
ミズプラのホームページでは、軟水風呂にするための軟水装置を含めたチャートなども記載されています。軟水風呂は「水がイオン交換樹脂を通る事で、硬度成分を取り除き、軟水にしたお風呂」*13と説明されています。軟水処理とは具体的にどういう処理なのだろうという疑問が解消されました。
ミズプラのホームページでは他にシルク風呂や炭酸風呂に必要な装置を含めたチャートなども見ることができて、おもしろいです。
今回は、温浴施設の「ろ過」について見てみました。水風呂についても循環か、かけ流しか、など考えることがありますが、実際どういう装置でどのような処理がされているのかがわかった気がします。そうすると、今度は水を冷やすチラーの仕組みもしっかり理解したくなってくるものです。
参考文献・資料
株式会社ショウエイホームページ「ろ過/ろ過装置とは」(最終アクセス日:2021年5月21日)
株式会社北陸環境科学研究所「水質調査の項目」(最終アクセス日:2021年5月21日)
厚生労働省ホームページ、「公衆浴場における水質基準等に関する指針」(最終アクセス日:2021年5月21日)
厚生労働省ホームページ、「循環式浴槽におけるレジオネラ症防止対策マニュアル」(最終アクセス日:2021年5月21日)
テラル株式会社HP「よくあるご質問」(最終アクセス日:2021年5月21日)
ミズプラホームページ、「製品情報」(最終アクセス日:2021年5月21日)