Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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地下水について

 水風呂について、あそこは地下水だから水質がよい、井戸水を使っているらしい、などの感想を聞くこともあります。地下水だから水質がよい、水風呂として良い水風呂だといえるのでしょうか。そもそも地下水とはどういうものか、地下水と井戸水は同じなのか、など意外とよくわかっていないところがあります。今回は、地下水について考えてみます。

 

地下水・井戸水

 そもそも地下水の定義は何でしょうか。地下水は、『日本大百科全書』では次のように定義されています。

地中にある水のうちで、地下水面より下にあって地層中の間隙(かんげき)を満たして存在している水を地下水という*1

 また、日本地下水学会のホームページには、次のような引用があります。

従来、地下水とは地下水面より下の帯水層に存在する飽和状態の水のことを指す用語であった。しかし、現在では地下水面より上の不飽和状態にある水も含めて地下水とする考え方が取られるようになっている。今日、地下水とは地下に賦存する水の総称である*2

 地下水面は、地下水の水面ということです。つまり、今では地下にたまっている水を総称して「地下水」と呼ぶという理解でよいようです。では井戸水とは何でしょうか。

その地下水を採取するために井戸を掘削し、揚水ポンプで地下水をくみ上げます。この地下水をくみ上げた水のことを「井戸水(井水)」といいます*3

 井戸などを作って汲み上げた地下水のことを井戸水、あるいは井水(せいすい)と呼ぶということです。つまり井戸水も地下水も「水」としては同じと考えてよいということですね。

 ちなみに、「温泉」の定義は次のようになっています。

地熱のために、その土地の平均気温以上に熱せられた地下水*4

 地下水のうち、熱水や火山ガスなどで熱せられたものを温泉と呼ぶ、ということです。つまり、地下にある水の総称が地下水、それを井戸などで汲み上げたものが井戸水(井水)、熱せられたものが温泉、ということですね。

  

水道水と「カルキ臭」

 地下水に対して、普通の水と言えば水道水ということになるでしょう。水道の歴史は長く、日本最初の水道は江戸時代、徳川家康の頃とされています*5。ただし、昔の水道というのは水源から導水するだけ、水を引いてくるだけで浄化や消毒は行っていなかったため、水源が汚染されると水道によって伝染病が拡がってしまうことも多々あったわけです*6。今のような、浄化・消毒を行う水道の始まりは、1840年のイギリス、ロンドンだそうです。これがコレラ流行の防止にも大きく影響したそうです*7。日本の現代的な水道の始まりは、1887年イギリス人技師の指導により横浜に作られたものだそうです。

水道水

(画像出典:ウォーターサーバー・宅配水なら うるのん【公式】HP

 

 水道から出る「水道水」は、どういう処理をされて我々に届いているのでしょうか。「水道水」は、水源の原水の状態から浄水場で凝縮・沈澱処理、濾過処理、塩素処理されて、各家庭に届いています。沈澱処理は、原水に薬品を加えて攪拌し、濁りの成分や不純物を凝縮させて、塊になったところで沈澱除去するという作業です。それから砂の層で濾過処理されて、沈澱処理でとれない細かな不純物が取り除かれていきます。そして、塩素注入による殺菌処理をして、水質検査を経て家庭に届くという流れです*8

 こうした過程を経て、飲むこともできる安全な水が水道から出てくるわけですが、それでもやはり買ったミネラルウォーターの方が美味しいと感じる人は少なくないでしょう。また、同じ水道水でも都会よりも田舎の水道水の方が美味しいと感じる人もいると思います。水道水の需要が増大し、今は大量の水を迅速に処理するために「急速濾過法」が使われているといいます*9。この方法だと、ゆっくり濾過して不純物や細菌を取り除くことができず、結果的にたくさんの塩素を入れざるを得ないのだそうです。さらに、原水自体の汚染が進んでいることも指摘されています*10。田舎の方が水が美味しいとすれば、濾過処理を都会よりゆっくりできて、原水も都会よりはきれい、ということが考えられるようです。

 よく水道水は「カルキ臭」がする、と言ったりします。カルキというのは、「さらし粉」の俗称で、ドイツ語のKalk(石灰)を語源とするそうです*11。消毒剤や漂白剤として使われます。ただ、水道水の中に「カルキ」が含まれているわけではありません。殺菌消毒のために入れた塩素が、水中に含まれる有機物質などと結合して生じる結合塩素の臭いが、「カルキ臭」に似ているのだそうです*12。水源の原水自体が汚れてきて、かつ大量に水を処理しなければいけない状況だと、塩素の量が多くなり、結果的に「カルキ臭」も強くなるということです。

カルキ臭

(画像出典:ウォーターサーバー比較@ranking HP

 

 温浴施設で地下水を使っている、という場合も、濾過処理はしている、薬品も使っている、というところもあるでしょう。一方、地下水を使っていて「濾過処理もしていない」ということを売りにしているお店もあります。地下水にはどういう特徴があるのでしょうか。

  

地下水の種類・特徴

 地下水には、井戸を掘ると自噴してくるような場合と、手押しポンプやつるべを用いて水を汲み上げる場合の違いがあるといいます*13。湧き出てくるものと、汲み上げないといけないものがあるということですが、何が違うのでしょうか。

 十分な量の地下水を通すことができて、十分な量の水を生産することができる地層は「帯水層」と呼ばれています*14。ここから地下水をとるわけですが、比較的浅いところは「帯水層」の上に水を通しにくい層(難透水性層)がなく、深いところは難透水性層があることが多いという特徴があるそうです。この水を通しにくい層が上にある帯水層に井戸を掘ると、自噴することもあるそうです*15

 「入浴と硬水・軟水」では硬度について考えてみましたが、地下水を汲み上げた井戸水は軟水なのでしょうか。硬水なのでしょうか。これは、井戸の深さと関係があるようです。井戸は掘る深さによって種類を分けることができ、30mくらいの深さが掘られている井戸を「深井戸」、10mほどの深さが掘られている井戸を「浅井戸」と呼ぶそうです*16。「浅井戸」の水は周囲の環境などによって水質や水量が変化しやすく、「深井戸」の水は周囲の環境の影響を受けにくく、安定した水質と水量を得ることができるといいます*17。「深井戸」の水は、一年中水温が安定していることも指摘されています*18。地下水は地層に含まれるミネラルを含むため、日本でも硬度が比較的高くなるといいます。硬水に分類される硬度の場合もあるそうです。雨や雪が地表に降り、地面に浸透していって地下水になるわけですが、その過程で地層に含まれるミネラル成分を取り込むので、深い部分まで浸透した水は硬度が高くなるということです*19

地下水

 

 売っている飲料用の水が「ミネラルウォーター」と呼ばれるように、美味しいとされる水は適度なミネラルが含まれる、つまり適度な硬度がある水ということでしょう。「入浴と硬水・軟水」では、石鹸の泡立ちやすさについて、ミネラル成分が多すぎると泡立ちが悪くなる一方、少なすぎてもヌルヌルが残る、ということを確認しました。日本の水は適度なミネラル成分を含む軟水なので、石鹸の泡立ちが良い、ということでした。美味しさという観点からも、ミネラル成分を適量含んでいることが重要なようです。

確かに、ミネラルは水をおいしくする一要素ではあるが、それらが適量含まれていることが重要である。例えば、一般にヨーロッパの水は硬度が高く(日本の水の一〇倍以上)、飲むと舌にかなりの刺激を感じ、とても、おいしいとは思えない*20

  志村史夫は、厚生労働省が出している「おいしい水研究会」のデータを引用しており、それによるるとおいしい水の水質要件の「硬度」の項目は、10~100の数値とされています*21

 また、水の「まずさ」の原因は塩素や水中の微生物や有機物などの不純物であるとされていますが、こうしたものが一切なく、きれいなら美味しいかというとそうではないそうです。徹底的に不純物を取り除いた水(超々純水)はまったく美味しくないといいます*22。つまり、美味しい水というのは「水をおいしくする物質(不純物!)が適度に含まれている」*23ものだということになります。

 水を美味しくするミネラル成分も、まずくする不純物も「適量」含まれていることが重要ということです。

ミネラルウォーター

(画像出典:TABIZINE HP

 

 これはあくまで飲んだときの「美味しさ」の話ですが、水風呂としての浴感、肌感とも関係があるかもしれません。硬度が高すぎると髪がごわついたり肌がつっぱったりすることは、前回確認した通りです。しかし、地下水、特に深いところから汲み上げる「深井戸」の地下水は硬度が高い傾向にあるわけです。水風呂という観点で考えたときに、水道水と地下水との違いは、どの程度処理をしているか、というところと、硬度にありそうです。もちろん、地下水を使う場合にもお店で濾過処理や殺菌消毒をする場合もあるでしょう。しかし、濾過もしていない、ということを売りにしているお店の水は、やはり浄水場で処理された水とは違う体感になるように思います。硬度についても、地域によるとはいえ基本的に日本の場合は水道水は軟水であり、深いところから汲んだ井戸水、地下水とは硬度が違ってきます。髪や肌への影響がミネラル成分の量によって左右されるのであれば、硬度の高い地下水の水風呂と、低い水風呂とでは体感が違ってもおかしくありません。また、硬度に関しては、地下水・井戸水でもどの程度深いところから汲み上げているかで数値が違ってくるので、「地下水だから」「井戸水だから」と単純には言えないところもありそうです。

サウナしきじ

(画像出典:サウナしきじ HP
 

 今回は地下水についてまとめてみました。水の硬度と水風呂の肌感との関係はまだはっきりしていませんが、「適度な」硬度や不純物、というのは水風呂の水質を考えるにあたってもヒントになりそうです。美味しい水の条件であるミネラル成分や不純物が適度に含まれる、ということは、水風呂として水を使うときの肌感にも関係がありそうです。

 

参考文献・資料

株式会社トチナン、「井戸水の種類は軟水と硬水のどっち?」2019年1月8日(最終アクセス日:2021年5月7日)

公益社団法人日本地下水学会ホームページ

志村史夫(2004)『『水』をかじる』ちくま新書

徳永朋祥(2010)「地下水と人と社会」、東京大学「水の知」(サントリー)編『水の和:自然と人と社会をめぐる14の視点』化学同人、pp.73-96

三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社「地下水(井水)利用のメリット・デメリット」(最終アクセス日:2021年5月7日)

 

 

*1:日本大百科全書

*2:日本地下水学会HP

*3:三菱ケミカルアクア・ソリューションズ株式会社HP

*4:デジタル大辞泉

*5:志村、p.154

*6:同上、pp.154-155

*7:同上、p.155

*8:同上、p.156

*9:同上、p.158

*10:同上

*11:同上、p.159

*12:同上

*13:徳永、p.76

*14:同上、p.77

*15:同上、pp.77-78

*16:株式会社トチナンHP

*17:同上

*18:同上

*19:同上

*20:志村、p.164

*21:同上

*22:同上、p.163

*23:同上