Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

水の質を構成する要素

 サウナと言えば、サウナ室と同じくらい水風呂も重要です。サウナ好きの人は、水風呂とセットで「サウナ」と考えている人も多いのではないでしょうか。サウナ室が施設によっていろいろ違うのと同じように、水風呂も施設によってさまざまです。何が違うのかを考えるために、今回は「水」の質に関係する要素についてまとめてみます。

 

水風呂のいろいろ

  水の質に関連する要素を見る前に、水風呂の特徴をあらわす構成要素を考えてみます。水風呂の違いと言うと、一番に思いつくのが水温ではないでしょうか。サウナ室の温度計の表示温度や座面の温度がさまざまであるように、水風呂にもさまざまな温度のものがあります。10℃以下は「シングル、グルシン、ジュード・ロウ」と言われるように、特に冷たい水風呂と言えます。18℃前後のところが数としては多いように感じますが、10℃以下もあれば、20℃をこえる水風呂もあります。

 水温はもちろんその水風呂の特徴を示す大きな要素ですが、水風呂を構成する要素はそれだけではありません。浴槽の広さや形も体感の気持ち良さと無関係ではありません。浅い水風呂と腰や腹まで水位のある深い水風呂とでは、入ったときの感覚は違いますし、広さも入ったときの感覚や快適さに影響があると言えます。

 また、いわゆる「バイブラ」があるかどうかということも水風呂の特徴の一つです。「バイブラ」というのは、バイブラ装置で浴槽の下の方から気泡を噴射して、水・お湯をぼこぼこさせるものです。水・お湯がぼこぼこと常に動いているので、身体に物理的な刺激が与えられます。

サウナ 水風呂

(画像出典:SUN WORKS HP

 

 サウナ後の水風呂の場合、サウナで温まった身体と、水風呂の冷たい水との間で熱交換が行われ、じっとしていると意外と冷たくありません。しかし水が常に動いていると、じっとしている場合と同様に熱交換は行われますが、常に冷たい水が身体に接してより冷たく感じます。バイブラがあるかどうかも、水風呂の大きな要素の一つです。

 また、掛け流しであるか、循環であるかというところも水風呂を構成する要素の一つです。掛け流しは、一度流れていった水を再利用せず、新しい水をどんどん加水する方法です。循環は、流れていった水を回収し、またそれが加水される仕組みです。

 そして、どのような薬品をどのくらい使って清潔さを保つか、ということも施設によって違いがあります。

 このように水風呂にもいろいろな構成要素があるわけですが、これらだけではない「水の質」の違いを感じている人もいるのではないでしょうか。例えば、同じくらいの広さ・深さ、水温の水風呂同士なのに、この施設の水風呂は水温以上に冷たく感じる、ということや、肌触りがなめらかな気がする、水風呂から出たときの爽快感が違う、浴室を出てからも爽快感が肌に残る、など、「水の質」によって体感が違うと感じている人もいると思います。「飲める水風呂」を売りにしているところもありますが、「水の質」を構成する要素にはどのようなものがあるのでしょうか。

 

pH(水素イオン濃度)

 水の性質を表す指標の一つにpHがあります。酸性、中性、アルカリ性、という言葉を聞いたことがある人も多いでしょう。pHは、ドイツ語読みすると「ペーハー」と読み、英語読みすると「ピーエイチ・ピーエッチ」と読みます。計量の基準を定める計量法では、読み方は「ピーエッチ」と定められています。

 pHとは、その溶液中の水素イオン濃度、(H+)の量を表すものです*1。pHの値が7より小さいときが酸性、7より大きいときがアルカリ性となります*2

水質

(画像出典:メンテナンスワールド プロの究極メンテ術

 

 人間の身体はpH7.35~7.45で、肌のpHは4.0~6.5とやや酸性だそうです*3。それは、「細菌をブロックする防壁になっているため」*4だそうです。その水が置かれている環境によって、水のpHは異なります。例えば、井戸水では主に弱酸性、藻の生えた貯水池ではアルカリ性を示すそうです*5

 『循環水のプチ科学』では、浴槽の水質管理に重要な水質基準項目をあげています。これは、きれいな浴槽水を実現するためにこれだけは行ってください、という管理基準や方法をまとめたものだそうです。その中で、pHについては快適基準が6.8以上、7.4以下とされています*6。しかし、これは人体への影響というより、浴槽に使う薬剤の効果との関連でこの値なのだそうです。浴槽水のpHの管理は「塩素剤と凝集剤の働きを最大限発揮させるため」*7だと言います。pHが高いと、塩素剤の殺菌力が低下し、低いと凝集剤の効果が低下するので、中性付近にする必要があるというのです。塩素剤は殺菌のために使われるもので、凝集剤は水中の汚れを凝縮させ(まとめて)取りやすくするためのものです。こうした薬剤の効果が効率よく発揮されるように、pHを中性付近に保つことが大事なのだそうです。コントロールする方法は、pHが高いときには硫酸水素ナトリウム(粉末硫酸)で中和し、pHが低いときは炭酸ナトリウム(ソーダ灰)で中和するそうです*8

  

硬度

 水の性質を表す指標として、軟水・硬水という言葉もよく聞きます。「全て軟水です」と書かれていたり「軟水水風呂」とアピールされていることもあります。この軟水・硬水というのは水を「硬度」という指標で見たときのものです。硬度という言葉には、「物質の硬さ」という意味もありますが、水に関する「硬度」については次のように説明されています。

水のカルシウムイオン・マグネシウムイオンを含有する程度。酸化カルシウムに換算して、水1立方メートル中に10グラム含むときを1度とする。硬度20以上を硬水、10以下を軟水という*9

 

 つまり硬度とは、水1000ml中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を表わした数値のことです。SUNTORYのホームページには、その計算方法が記載されていました。

硬度=(カルシウム量x2.5)+(マグネシウム量x4.1)の式で計算できます。
例えば、カルシウム量9.7mg/L、マグネシウム量1.5mg/Lの水の場合は
(9.7mg/L×2.5)+(1.5mg/L×4.1)=30.4mg/L となり、この水の硬度は、およそ30と考えられます*10。 

 

 WHOは硬水と軟水の基準を次のように定めています*11

  • 硬度0~60mg/l 未満:軟水
  • 硬度60~120mg/l 未満:中程度の軟水
  • 硬度120~180mg/l 未満:硬水
  • 硬度180mg/l 以上:非常な硬水

 また、「い・ろ・は・す」のホームページでは「日本では、硬度が100未満の物を「軟水」、それ以上を「硬水」と呼びます」*12と書かれていました。

サウナと硬水と軟水

 

 東京都水道局のホームページでは、水道水質基準では硬度は300mg/L以下となっていると書かれています。これは、硬度が高いと石鹸の泡立ちが悪くなるためだそうです。また、水質管理目標設定項目として「おいしい水の要件」の観点から10~100mg/Lと設定されているそうです*13

 水道水についてはこのような基準があるそうですが、日本の天然水*14はほとんどが軟水で、ヨーロッパや北米には硬水が多いそうです。それは、地殻物質が違うためだそうです*15。evianのHPでは次のように説明されています。

天然水は地中にしみ込んだ雪や雨水が地層中で汚れやゴミを濾過し、地層中のミネラルを吸い取って湧き出しています。日本は国土が狭く地層に浸透する時間が短く、ヨーロッパや北米の大陸では地層に接する時間が長いことが、硬水と軟水を生み出す要因のひとつとされています*16

 雪や雨が地層を通っていく中で濾過されて、地層の中のミネラルを吸い取るというわけです。そうした仕組みなので、地殻物質の違いや広さなどが水の質にも影響するということです。

 

水風呂の水質

 水の質をあらわす指標やその基準などがあるのはわかりますが、水風呂の水がどのような水質なのかを知ることはなかなか難しいです。

 そんな中、水が有名なサウナしきじでは水の成分表が掲示されています。硬度やpHが飲料のミネラルウォーターと比較されています。硬度84、pH7.7とのことです。

 成分の含有量は恐らく100mlあたりの量で、1000mlに換算するとカルシウムが25mg、マグネシウムが5.5mgとなり、先ほどあげた計算式、硬度=(カルシウム量x2.5)+(マグネシウム量x4.1)に数字をあてはめると、(25×2.5)+(5.5×4.1)=85.05となります。

サウナ 水

 

 また、神戸クアハウスで売られている神戸ウォーターの成分も、神戸ウォーターのペットボトルに記載されていました。こちらは硬度113、pH6.7とのことです。

 表記が100mlあたりなので、1000mlあたりに換算するとカルシウムが33.3mg、マグネシウムが7.3mgとなります。こちらも計算式に数字をあてはめると、(33.3×2.5)+(7.3×4.1)=113.18となります。

サウナ 水

 

 この2つについて、硬度とpHの観点でマッピングしてみました。

硬度とpH

 

2つの例だけでははっきりしたことは言えませんが、水が有名な施設の水の成分を見ると両方硬度が高めなのは興味深いです。また、pHは先に述べた通り、水質の管理という点においては人体への影響はあまりなさそうですが、これから水風呂の水質の良さについて調べていく上で関連性がないと現時点ではまだはっきりと言えないため、いったんこのような視点でも見てみました。

 

 今回は水の質を構成する要素について見てみました。サウナ室の好みが人それぞれ違うように、そしてそれが温度だけでは説明できないように、水風呂の好みも人それぞれで、水温だけでは説明できない部分があります。そして、人それぞれでありながら、サウナ室同様、多くの人に人気の水風呂もあります。多くの人が心地良いと感じる水風呂はどういう水風呂なのか、これからさらに考えていきたいと思います。

 

参考文献

evianホームページ「ミネラル量と水の硬度、硬水と軟水の違い」(最終アクセス日:2020年9月5日)

SUNTORYホームページ「お客様センターQ&A・お問い合わせ」(最終アクセス日:2020年9月5日)

SUN WORKSホームページ(最終アクセス日:2020年9月5日)

い・ろ・は・すホームページ「ミネラルウォーターQ&A」(最終アクセス日:2020年9月5日)

東京都水道局ホームページ「トピック第2回 水の硬度」(最終アクセス日:2020年9月5日)

日本水処理工業株式会社ホームページ「pHとは」(最終アクセス日:2020年9月5日)

野原秀雄・SANKYOシスターズ(2006)『循環水のプチ科学』、戎光祥出版

 

 

 

 

 

*1:日本水処理工業株式会社HP

*2:同上

*3:野原・SANKYOシスターズ、p.44

*4:同上

*5:日本水処理工業株式会社HP

*6:野原・SANKYOシスターズ、p.134

*7:同上、p.134

*8:同上、p.135

*9:goo辞書

*10:SUNTORY HP

*11:evianHP

*12:い・ろ・は・すHP

*13:東京都水道局HP

*14:沈殿・ろ過・加熱殺菌以外の物理的・化学的処理を行わない水

*15:evian HP

*16:同上