Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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水風呂の冷え方の違い

 サウナ室の温度設定がさまざまであるように、水風呂の水温も施設によってさまざまです。チラーによって冷却している、していないという違いもありますが、それだけではない「冷え方」の違いを感じることがあります。そして、この冷え方の違いは水の温度だけの問題ではないように思います。今回は、水風呂での身体の冷え方について考えてみます。

 

水風呂での身体の冷え方

 水風呂の水温によって、水風呂に入っているとき、水風呂から出たときの体感は変わります。冷たい水風呂は場合によっては痛いくらいに感じることもありますが、これは15℃以下または、45℃以上の温度刺激は「痛み」として感じられるためであると「温度感覚と痛み -サウナ編-」で確認しました。15℃以下の水風呂では、痛みを感じる痛覚が反応する可能性があるのでした。

皮膚の痛み

 

 水温とは別に、水質の良い水風呂に入ったときに冷え方が気持ち良いと思うことがあります。水温自体はそれほど低いわけではなくでも、しっかり冷えるような気がする水風呂があります。そうした感覚になる水風呂を思い出してみると、特定の水温ということでもないように思います。地下水で水質が良いと言われているところなどで感じることもありますが、どういう仕組みで冷え方が変わるのでしょうか。お湯のお風呂に入ったときの身体への熱の伝わり方が一つのヒントになりそうです。

 

一番風呂は体によくない

 沸かしたてでまだ誰も入っていない一番風呂は贅沢なイメージですが、身体によくない、特に高齢者にはよくないと言われています。これは、かなり古くから言われていることのようです。

一番風呂

(画像出典:【1番風呂好き必見!!】ほんとはヤバかった1番風呂の真実とは??| おふろ部)

 

 1972年刊行の全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会による『公衆浴場史』には、名前の通り公衆浴場の歴史がまとめられています。その中に、「入浴の俚諺・俚語」というパートがあります。

俚諺、俚語とは、昔からいいならわしたことばで、訓戒、風刺などを含んだ短句の類で、今日でも文章や日常会話中に使用されている*1

 つまりこのパートでは入浴にまつわる慣用表現や俗説などについてまとめられています。その中には、「湯水のように使う」など身近な表現もありますが、「一番風呂」についての表現も紹介されています。

つぎに、俚言すなわち俗説に類するものを書きだすと、

〇新湯(さらゆ)は毒だ

〇新湯にはいると肌が荒れる

〇さらゆにはいると早く年がよる

 これは昔から一般に各地でいわれている入浴訓で、新しい湯は熱く伝導も強く、刺激がある。それで、

〇年寄りを新湯に入れるな*2

 「新湯(さらゆ)」、つまり一番風呂ですね。『公衆浴場史』は1972年に刊行された本です。その時点で、一番風呂は毒、肌が荒れる、一番風呂に入ると早く老いる、という入浴訓が日本の各地で言われていたということです。さらに、年寄りを一番風呂に入れるなということも古くから言われていることがわかります。一番風呂はどうして体によくないのでしょうか。

 

一番風呂が体によくない理由

 一番風呂がどうして体によくないか、飯塚玲児は「一番風呂が体に悪い3つの理由」という記事で以下の3点理由を挙げています。

 ①湯船と浴室の温度差が大きいこと

 ②お湯がきれいすぎるから

 ③塩素*3

  ①については、一番風呂に入るということは最初に浴室に入るということで、冬などは浴室内が冷えているからお湯との温度差が大きく体の負担が大きいということです*4。一番風呂であれば、お湯も冷めていないあつあつの状態なので、浴室や床は冷えている、しかしお湯は熱い、ということで温度差が大きいということです。特に高齢者を一番風呂に入れるなというのは、こうした理由があるということです*5

 ②は、「きれいすぎる」という一見良さそうな内容になっています。飯塚は次のように説明しています。

きれいだとなんで悪いの? と思うだろうが、一番風呂の湯は不純物がほとんど入っていないために、お湯の熱を直接肌に伝えてしまうのである。これが「一番湯のピリピリするような感じ」につながっているのではあるが、温熱の伝わり方が強過ぎるために、疲れやすかったり、体への負担も増えたりする場合がある*6

 つまり、不純物が入っていないことで、熱が身体に伝わりやすいということです。これは、『公衆浴場史』でも指摘されていました。

湯槽になん人かはいると、皮膚からの排出物などが混合して、熱の伝わりかたが弱くなり、からだへの刺激もおだやかになる。それでその湯は老人向きとなる。昔から老人を新湯に入れるときは、湯をよくかきまわし、つまり湯をよくもんで湯に含んでいる刺激性のものを追い出してからであるといわれている*7

 ここでも、人が入浴すると皮膚からの排出物などが混合して熱の伝わり方が弱くなって、刺激も少なくなると書かれています。不純物がない、きれいすぎる状態のお湯に入ると、熱の伝わり方が強く、刺激が強いということです。『公衆浴場史』では、対策として湯をよくかきまわすということがあげられています。一方、飯塚は次のように指摘します。

お湯がきれいすぎて体に悪いわけだから、汚くすればいい、というと聞こえは悪いが、ようは不純物を入れればいいのであって、たとえば市販の入浴剤などを入れればいいわけだ*8。 

 「不純物」は何も汚いものでなくてもよいわけですね。入浴剤などでもよく、何か水に混ぜることで熱の伝わり方を穏やかにすることができるということです。また、温泉はもともといろいろな物質が溶け込んでいるものなので、一番風呂でも問題がないそうです*9

 ③の塩素も、一番風呂であると肌に与える影響などが強くなるということが指摘されています*10。人が入ることで、塩素が中和でき、刺激が少なくなるということです。塩素に関して、飯塚はビタミンCが有効なので「ビタセラC」などの塩素中和剤を入れる、蜜柑の皮を入れるなどして残留塩素を減らすことができると指摘しています*11。蜜柑や柚子など柑橘類を風呂に入れるのは、残留塩素を減らすという効果もあるのですね。

 ②と近い内容で、早坂信哉は「人体の濃度とお湯の濃度の差が問題」*12と指摘しています。

一方、人体の皮膚の内側は細胞や血液などで満たされていますが、細胞や血液といった体液中にはたんぱく質や様々なミネラル分などの成分が含まれており、日本の水道水と比べるとずっと濃くなっています。

この体の内側の濃度(濃い)とお風呂のお湯の濃度(薄い)の違いが皮膚にぴりぴり感や違和感といった刺激をもたらすと考えられています。(中略)実は一番風呂と二番目以降のお風呂では、湯の成分が異なります。人がお風呂に入ると、その人の皮膚に付着している汚れ、皮脂、汗、古くなった角質などの不純物が湯に溶け込みます。その分、わずかですが、湯の濃度が濃くなります。このわずかな変化が皮膚への刺激を和らげます*13

 人の皮膚のたんぱく質やミネラル分などの成分は水道水より濃いため、その濃度の薄いお湯との差で皮膚に刺激をもたらすということです。人が入浴したあとでは、湯の濃度が少し濃くなるので刺激が少なくなるということです。こうした面からも、きれいすぎるお湯は刺激が強いということですね。

 

水風呂の冷え方と不純物

 一番風呂が体によくない理由の一つとして、不純物がなくきれいすぎると熱が直接伝わる、熱の伝わり方が強いということが指摘されていました。きれいすぎるお湯は、熱の伝わり方が強い、激しいということです。

 しかし、これは水風呂にとっては利点になりそうです。水風呂で考えるなら、不純物のないきれいな水の方が冷えやすいということになるのではないでしょうか。「熱が伝わる」というのは、熱が温度の高い方から低い方へ移動するということです。熱いお湯の場合は、お湯の熱が身体に伝わってきます。水風呂の場合は、身体の方が熱いので、身体の熱が水に移動します。この移動の、伝わり方の強さが不純物のないきれいな水の方が強いということであれば、きれいな水の方がより身体が冷える、ということになります。つまり、がんがん掛け流しできれいな水であれば、より熱の伝わり方が激しく、より冷えるといえるのではないでしょうか。つまり不純物を含んでいるかどうか、きれいであるかどうかによって「冷え方」が変わるということです。

水風呂

 

 そして、入浴剤を入れるだけでも熱の伝わり方を穏やかにできるということでした。水風呂の場合も、清涼感を増すためにミントなどの入浴剤を入れたりしているところもあります。この場合、皮膚表面への刺激や上がったときにすっとする感じはあるかもしれませんが、冷え方でいうと穏やかになってしまっているのかもしれません。清涼感を増す入浴剤入りの青い水風呂に入って、見た目ほど冷えないな、と感じたことがありますが、入浴剤という不純物が熱交換の妨げになっていたのかもしれないと思うと納得です。

 また、ミネラル分について考えると、濃度の差が皮膚と水風呂の間で小さい方が肌への刺激が少ないということになります。となると、硬度の高い水風呂の方が皮膚への刺激は少ないのかもしれません。水質の良さが売りのサウナしきじや神戸クアハウスの水は硬度が高めです。冷え方とはまた違いますが、皮膚表面の体感には硬度も影響がありそうです。

 

 今回は、水風呂の冷え方について考えてみました。一番風呂が体によくない理由を水風呂にあてはめて考えると、不純物のないきれいな水の方が冷えやすいと考えられます。水風呂の体感は、硬度など水の質も関係してきそうですし、水温も含めいろいろな要素があって、水風呂ごとに違ってくるのだと考えられます。しかし、冷え方という点で考えるのであれば、掛け流しの新鮮な水風呂は不純物の多い水風呂よりも冷えやすいといえそうです。

 

参考文献・資料

飯塚玲児「一番風呂が体に悪い3つの理由」2015年10月8日(最終アクセス日:2021年8月13日)

全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会(1972)『公衆浴場史』、全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会

早坂信哉「『一番風呂は体に悪い』は医学的にも本当です」2019年11月11日(最終アクセス日:2021年8月13日)

*1:全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会、p.369

*2:同上、p.371

*3:飯塚

*4:同上

*5:同上

*6:同上

*7:全国公衆浴場業環境衛生同業組合連合会、p.371

*8:飯塚

*9:同上

*10:同上

*11:同上

*12:早坂

*13:同上