Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナと熱 -素材による熱伝導率・比熱の違い-

 「サウナ室内の素材や内装」 では、サウナ室の壁の構造や、内装に関する決まりなどを見てみました。燃えない素材であることなども重要ですし、壁も防熱のために何層にもなっていることがわかりました。とはいえ、私たちがサウナ室に入るときに見えている壁の表面の素材も、何を使うかによって熱さの体感などが変わりそうな気がします。今回は、サウナ室の壁材について、素材ごとの違いを考えてみます。

 

サウナ室に使う素材

 「サウナと熱 -蓄熱とは-」「サウナと熱 -比熱と断熱-」で見たように、木材をサウナ室に使うのは理にかなっていると言えそうです。"SAUNA MATERIALS: What materials is a sauna made of?"という記事では、サウナ室のメインの素材は木であると書かれています。

The main material of a sauna is the wood used for the loungers and for the interior cladding of the cabin. The different types of wood differ in appearance, feel and smell. Wood such as spruce, aspen, oak or hemlock are often used – but the choice is much larger with over 100 different sauna woods.*1

(サウナのメインの素材は、椅子や小屋の被覆材*2などに使われる木材です。木の種類によって、見た目や感触、香りが異なります。スプルース、アスペン、オーク、ヘムロックなどがよく使われますが、サウナに使う木は100種類以上あります。)

  基本的には木材が使われるとしながら、この記事では他の素材についても言及されています。

In order to visually enhance the sauna, salt walls or stone wall elements can also be installed, for example. A stone wall behind the stove also has the advantage that any splashes of water leave no stains in case of strong sauna infusions.*3

(サウナの視覚的魅力を増すために、例えば塩の壁や石の壁という要素を取り入れることも可能です。ストーブの後ろを石の壁にすることは、水をかけたときに水しぶきの汚れを残さないという利点もあります。)

 確かに塩の壁や石の壁は、木材一辺倒にするより視覚的に綺麗かもしれません。ヒーター周りは石の壁にしておくと水しぶきの汚れが残らない、というのは木材より表面が熱く、水が蒸発するためでしょうか。ヒーター周りは不燃材、という話がありましたが、ロウリュをする場合は水がはねるということも壁材を考えるにあたり重要ですね。

 さらに、ガラスを使うことについても言及されています。

In order to make your desired sauna a real eye-catcher and to give you a “wide view” from the inside, you should not neglect the topic of glass: Especially with a design sauna, people like to work with a lot of glass in order to achieve a lightness and transparency in terms of design.*4

(サウナをアイキャッチングにし、中からの「広い視野」を確保するために、ガラスという選択肢も無視するべきではありません。特にデザインサウナの場合、明るさとデザインの透明性のためにガラスがたくさん使われます。)

 ガラスの面が多いと、なんとなく熱がこもりにくいような気がしますが、実際のところはどうなのでしょうか。 サウナしきじや神戸クアハウスのように、ガラスの面積が多いサウナ室もありますよね。

 また、金属類は使えないということも指摘されています。

No metal objects are used in the equipment of a sauna, as the metal in the sauna heats up too much, so that one could burn up very quickly during contact with it.*5

(サウナ室内だと金属が熱くなりすぎて、ちょっと触っただけで火傷してしまうのでサウナには金属類は使いません。)

 金属は熱くなりすぎて火傷する、そりゃそうだろう、という感じです。たまに、壁材をとめるネジに触れてしまって「あつっ!」となることがありますが、金属類は実際とても熱くなりますね。熱くなりすぎないということで、床に関してもやはり木材が最適、ということが指摘されています。

Sauna floors cannot be manufactured from materials, which quickly heat up in high temperature, which is why wood is the best for this. The floors must also be moist resistant in order not to slip on them. The benches must be mounted in such a way that any metal parts would not be accessible.

So, only natural materials are used for sauna interior finishing – wooden panelling for saunas. You must never use plastic, because when it heats it may emit materials, which are harmful for your health. Furthermore, do not use ceramic tiles – .*6

(サウナの床には高温ですぐに熱くなる素材は使えません。だから木材が最適なのです。また、床は滑らないように、耐湿性も必要です。ベンチは、金属部品に触れることがないように作られる必要があります。したがって、サウナ室には天然素材だけが使われます。サウナ用の木材のパネルです。プラスチックは温めると身体に害のある物質を放出する可能性があるので、絶対に使用しないでください。また、セラミックのパネルは使用しないでください。)

 ここでも指摘されているように、金属部品が外に出ていると触れたとき熱くて火傷する可能性があるので、基本的には座るところや背もたれには金属部品がこないように作られているのですが、場所によっては外に出ている構造のところもあり、うっかり触れて「あつっ!」となることがあります。 金属は熱くなりすぎる、これは体感としてもわかることですが、同じサウナ室の中で木材の部分は触れても平気で、金属は触れないほど熱いということも、素材による熱伝導率や比熱の違いが理由というわけです。

  

素材ごとの熱伝導率

 同じサウナ室の中でも金属は触れないほど熱くなり、木材は座ったり寄りかかることができるということには、熱伝導率や比熱・熱容量が関係しています。

 熱伝導率は、熱の伝わりやすさのことです。100℃のお湯に触れると火傷をするのに100℃表示のサウナ室にいても火傷をしないのは、水と空気の熱伝導率、つまり熱の伝わりやすさが違うからでした。水のように熱伝導率が大きい、熱を伝えやすいものに触れると熱さ・冷たさが伝わりやすいというわけです。逆に、熱伝導率が小さい、熱を伝えにくいものに触れても、そこまで極端な熱さ・冷たさは感じない、ということになります。木材の熱伝導率が小さいことは「サウナと熱 -比熱と断熱-」でも見た通りです。この熱伝導率、素材ごとにどのような違いがあるのでしょうか。『理科年表』(国立天文台編)や『試して学ぶ熱負荷HASPEE~新最大熱負荷計算法~』(空気調和・衛生工学会編)などを見てわかった範囲でまとめてみます。素材ごとに調べていくと、条件によって、種類によってさまざまな数値が出てきて、比較が難しかったため、建築素材としてまとめられているものを主に参考にしてまとめてみました。

熱伝導率

 

 木の種類によっても違ってきますが、やはり木材は熱伝導率が低めであることがわかります。ただ、金属類の鋼・アルミニウムの数値を見ると、他はそれほど大きな差はないとも言えます。

 また、熱の伝わりやすさには、素材による熱伝導率だけでなく、触ったときの表面の状況も関係してきます。例えば、木材とガラスとでは、そこまで大きく熱伝導率の数値は違いませんが、ガラスの方が触ったときに冷たく感じるはずです*7。この違いは、「手との密着度の違いによるもの」*8だといいます。ガラスの表面はつるつるで、触ったときに手とガラスの密着度が高く、空気の入り込む余地が少ないわけです。一方、木の表面はざらざらなので、手との接着面に空気が入りやすく、そのためあまり冷たく感じないのだそうです*9。つまり、表面に凹凸がある、ざらざらした素材の方が熱を伝えにくいということですね。

 

素材ごとの容積比熱

 「サウナと熱 -比熱と断熱-」で見たように、比熱は1gあたりの物質の温度を1℃上げるのに必要な熱量です。温まりやすさ、冷えやすさの度合いと考えられます。比熱の値が大きいということは、1gあたりを1℃上げるのにたくさんのエネルギーが必要である、つまりすぐには温まらないということになります。逆に、比熱の値が小さいということは、少ないエネルギーで1℃上げることができる、つまり温まりやすいということになります。

比熱


木材は比熱の値が小さく、温まりやすく冷めやすい物質であるということは「サウナと熱 -蓄熱とは-」で見た通りです。

  建築の材料として素材ごとの比熱を比較する際には、「体積あたりの必要熱量」を表す容積比熱を使うことが多いようです。建築実務的には、体積を単位とする容積比熱の方が便利だからとのことです。単純に比熱、というときには「1gあたりの物質の温度を1℃上げるのに必要な熱量」を表していて、容積比熱は「1㎥の物質の温度を1℃上昇させるために必要な熱量」ということになります。実際に壁や床として使うのにどうか、ということを考える際には、容積を単位として考えた方が比較しやすいということです。容積比熱についても、『試して学ぶ熱負荷HASPEE~新最大熱負荷計算法~』(空気調和・衛生工学会編)をもとにまとめてみます。

容積比熱

 

 容積比熱を比較すると、木材は圧倒的に値が小さいことがわかります。金属類は容積比熱の値も大きいですが、岩石やタイル、コンクリートも値が大きいですね。これらの素材は温まるのに時間はかかりますが、持てる熱の量が多いため触れないほど熱くなると考えられます。

 タイルはスチームサウナなど湿式サウナにはよく使われますが、ドライサウナと同じような高温環境で壁や椅子に使うと触れないくらい熱くなりそうです。湿式サウナは湿度の熱さはあっても熱の熱さはドライサウナほどではないので、タイルも使えるということですね。湿度・水分には強い素材でしょうから、湿式サウナには向いていますね。湿式・乾式での素材のすみ分けも理にかなっているということでしょう。

 

サウナ室に使う素材

 建築の材料として使われる素材という観点から、素材ごとの熱伝導率と容積比熱を比較してみました。もちろん、高温環境であるサウナ室でどうか、ということを考えると、いろいろな条件・要素を考慮する必要があり、単純な比較はできません。素材についても、レンガと耐火レンガとでは数値も違い、サウナ室で実際に使われているものがどうか、ということを考えるとまた結果は違ってくるかもしれません。そして、そもそもサウナ室の壁も一つの素材で作られるのではなく、何層もあって断熱や防熱のことが考えられていることは既に確認した通りです。

熱伝導率と容積比熱

 

 しかし、傾向として、熱を伝えやすい(触ったとき熱くなりすぎる)素材がどういう素材なのかはわかりますし、温まるのが早い・遅い素材、熱をたくさん抱えられる素材とそうでない素材はなんとなくわかります。

 容積比熱と熱伝導率の両方を見てみると、天然木材はいずれも低い値であることがわかります。熱伝導率に関しては、金属類が圧倒的に高く、それ以外の素材にはあまり差は見られません。一方、容積比熱を比較してみると、天然木材が他の素材に比べて特に値が小さいことがわかります。

 つまり、どちらの要素を見ても、木材は高温環境であるサウナ室に向いているということがわかります。金属類がだめ、ということも改めてわかります。そして、レンガや岩石、土壁などは木材よりも容積比熱が大きい、つまり温まるのに時間はかかるがたくさんの熱を持てる素材ということがわかります。こうした素材は、人が触れないヒーターの周りや、高い位置に使えば、じっくり温まりじっくり熱を放出するのではないかと考えられます。触っても大丈夫である一方で、木材は早く温まり、すぐに熱を抱えきれなくなるということなので、人が座る・寄りかかる部分は木材に、そうでない部分には容積比熱の大きい素材にすると、放出される熱も変わってくるかもしれません。

 

 今回は、サウナ室に使う素材について、熱伝導率と容積比熱を比較して考えてみました。あくまで目安、傾向ということにはなりますが、こうした傾向をもとに実際のサウナ室について考えてみるとおもしろそうです。 

 

参考文献・資料

corso. "SAUNA MATERIALS: What materials is a sauna made of?"(最終アクセス日:2021年2月5日)

 EsaunaShop. "Which panelling are most useful for saunas?" 2018.8.31. (最終アクセス日:2021年2月5日)

上久保尚貴・難波隆彦、「熱伝導率」、大阪教育大学ホームページ(最終アクセス日:2021年2月5日)

空気調和・衛生工学会編(2012)『試して学ぶ熱負荷HASPEE~新最大熱負荷計算法~』

国立天文台編(2011)、『理科年表2021』、丸善出版

 

 

 

*1:corso

*2:石、タイル、木材などを重ねて外壁を覆い、保護するもの。

*3:corso

*4:同上

*5:同上

*6:EsaunaShop

*7:上久保・難波

*8:同上

*9:同上