Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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ヒーターの種類と壁材との関係

 「サウナ室の壁材 -竹-」「サウナ室の壁材 -黄土-」では、木材以外の壁材について考えてみました。素材の特徴を考えていくと、ヒーターとの相性はどうなのだろうということが気になってきます。今回は、ヒーターと壁材との関係について考えてみます。

 

遠赤外線の特徴

 遠赤外線については、「遠赤外線サウナについて考えてみよう」でもいろいろ特徴をまとめてみました。その中でも触れましたが、遠赤外線ヒーターには空気を温めにくいという特徴がありました。遠赤外線は電磁波で、物質を介さずに直接身体に届く熱でした。空気によって運ばれる対流熱とは違い、遠赤外線、つまり輻射熱は空気を介さずに直接身体や物質に届く熱ということで、空気は温めにくいという特徴があります。

遠赤外線サウナ遠赤外線サウナ

(画像出典:サンバーニング株式会社HP)

 

 遠赤外線を利用したハロゲンヒーターなどを使っていると、顔や身体は熱くなっているのにちょっと移動すると部屋自体は寒いということがあると思います。エアコンが温風によって部屋全体を温めるのに対して、ハロゲンヒーターなど遠赤外線を使ったヒーターは身体だけを温める印象です。

ハロゲンヒーター

(画像出典:電気代節約.jp)

 

 遠赤外線サウナについて、 "Is an Infrared Sauna Better Than a Traditional Sauna?"という記事では、次のように説明されていました。

Unlike a traditional sauna, infrared saunas don’t heat the air around you. Instead, they use infrared lamps (that use electromagnetic radiation) to warm your body directly.(中略)Manufacturers claim that in an infrared sauna, only about 20 percent of the heat goes to heat the air and the other 80 percent directly heats your body.*1

(伝統的なサウナと違って、遠赤外線サウナは周りの空気を温めません。その代わり、遠赤外線ランプ(電磁放射線を使うもの)を使って身体を直接温めます。(中略)メーカーは、遠赤外線サウナでは熱のうちわずか20%だけが空気を温め、残りの80%は直接身体を温めると主張しています。)

  メーカーによると、遠赤外線サウナは熱のうちの20%しか空気を温めないというのです。大半が直接身体に届き、空気を温めにくいという特徴があることがわかります。遠赤外線を利用している電子レンジの例を考えても、食品はしっかり熱くなるにも関わらずレンジの中はそれほど熱くはなっていないです。やはり遠赤外線は空気をあまり温めないということでしょう。

 また、遠赤外線は水分を含むものによく届くという特徴もありました。人の身体や食品など、水分を含むものによく届くという特徴があります。そうすると、石などは遠赤外線でしっかり温まるのだろうか、という疑問がわいてきます。物質の温まりやすさは、遠赤外線の吸収率を見てみるとわかりそうです。

 

遠赤外線の吸収率

 遠赤外線は人体を効率よく温めることが知られています。人体の他には、どういう物質を温めやすいのでしょうか。遠赤外線をよく吸収する物質と、そうでない物質があるようです。一般社団法人遠赤外線協会のホームページには次のように書かれていました。

プラスチックスや植物、鉱物(石、ガラス、セラミックスなど)も遠赤外線をよく吸収し、吸収された遠赤外線は、表面でほとんど熱に変わり、透過することはありません。ガラスは、可視光線が透過するので、遠赤外線も透過すると思われがちですが、間違いです。
また、水やアルコールなども遠赤外線をよく吸収し、1mmの厚みがあれば、そこでほとんど吸収され、透過することはありません*2。 

 「透過」は光や放射線などが物体の内部を通り抜けることです。透過しないということは、通り抜けてしまわないということです。水の他にプラスチックや植物、石、ガラス、セラミックスなども遠赤外線をよく吸収するということです。一方、金属類は遠赤外線を吸収せずに反射してしまうそうです。

表面が光った(酸化していない)金属は、遠赤外線をよく反射します。遠赤外線暖房機のヒータ背面に金属板が設置されているのは、前面にできるだけ遠赤外線を反射・集中させるためです*3

 表面が光った金属は遠赤外線を反射するというのです。光っている金属類は、遠赤外線ヒーターでは温まりにくいといえそうです。日本ヒーター株式会社のホームページにも次のように書かれていました。

物質により吸収する波長と吸収率(=放射率)が異なり、加熱されやすいものと加熱されにくいものがある。プラスチックやゴムなどの高分子材料や、塗料、繊維、穀物、人体などの水分を含んだものは赤外線(特に中~遠赤外線)をよく吸収するが、アルミや金などは波長にもよるがほぼ反射してしまうので、赤外線加熱は効率が悪い。これを利用して、吸収物に赤外線ヒーターをより集中して照射させるために反射板として利用できる*4

  やはり水分を含んだものは温まりやすく、アルミや金は温まりにくいということですね。具体的に、物質ごとにどのくらい差があるのでしょうか。これは、赤外線の吸収率を比較するとわかりそうです。

赤外線の吸収率

 

 吸収率を見てみると、人体と木やレンガ、土、石はあまり変わらなそうです。どれも遠赤外線で温まりやすい物質といえそうです。一方、金やアルミが非常に温まりにくいということもわかります。

 「サウナ室の壁材 -竹-」で紹介したアダムアンドイブの男性側のサウナ室は壁に純金が使われていましたが、アダムのヒーターはストーンを使った対流式のストーブのため、空気によって温められているかもしれません。金属類は熱伝導率も高く、熱容量も大きいので、温め方によっては熱くなるわけですが、遠赤外線とは相性がよくないといえそうです。アダムの場合も、壁の純金は装飾の目的が強いかもしれませんが、対流式のストーブであればしっかり熱くなっている可能性があります。遠赤外線ヒーターのサウナ室で壁に金属を使うのはあまり効率がよくなさそうです。

 遠赤外線の吸収率を見ると、木材も石も遠赤外線をよく吸収し、遠赤外線によってしっかり温まる物質であるということがわかります。

 

汗蒸幕

 「サウナ室の壁材 -黄土-」でも紹介した汗蒸幕のゆの汗蒸幕は、石壁でドーム状になっている部屋でした。汗蒸幕とは韓国式のサウナです。

汗蒸幕

(画像出典:汗蒸幕のゆHP)

  汗蒸幕は、ドーム型であることが特徴の一つのようです。

「汗蒸幕」は、韓国で約600年の歴史がある伝統的なサウナです。黄土と薬石を積み上げて作られた巨大なドーム内部の温度は、なんと約90~150℃! かなり高温になるドーム内は発汗効果も絶大!(中略)黄土から出る遠赤外線効果もあって体の芯から温まることができます*5

 前回、「サウナ室の壁材 -黄土-」で見た黄土が発する遠赤外線についてここでも触れられています。石や黄土を積み上げてドーム状にするのが汗蒸幕の特徴だといえます。

 KONESTの「韓国式伝統サウナ『汗蒸幕』の利用ガイド」にも次のように記載されています。 

汗蒸幕(ハンジュンマク)は、麻布をかぶって温度の高いドームに入る、約600年の伝統を誇る韓国式伝統サウナ。黄土(ファント)と薬石を積んだドームの石から遠赤外線が発せられることにより、体が芯から温まり短時間で汗をかけます*6

 黄土と薬石を積んだドームの石から発せられる遠赤外線により温まる、とあります。熱源については、次のような記載がありました。

現在はガスや電気が使われるのが一般的ですが、昔ながらの方法で松の木を燃やして温めるお店もあります*7

 昔ながらの方法は松の木を燃やすという方法のようですが、やはり今はガスや電気が一般的なようです。

 日本の汗蒸幕のゆも、汗蒸幕は遠赤外線ヒーターでした。空気によって熱が運ばれる対流熱でも石は温まると考えられますが、遠赤外線も石を効率的に温めることがわかりました。そして、物質は温まると輻射熱を発するので、温まることによって石自体も輻射熱を発します。この石が発する輻射熱も空気を介さずに直接身体を温めるわけですから、ドーム状にしてあらゆる角度から輻射熱が飛んでくるようにすれば、しっかり身体も温まり発汗も促されるはずです。

 石は木材に比べて熱容量の大きな物質です。遠赤外線は空気を温めにくいからこそ、遠赤外線の吸収率が高く、たくさんの熱を持つことができる石をドーム状にすることで、熱がこもるようにできると考えられます。

 

 対流式ヒーターの特徴

  石を温めて、そこに触れた空気によって熱が運ばれる対流式のヒーターのサウナ室にはどういう特徴があるでしょうか。対流熱は空気や水によって運ばれる熱です。遠赤外線が空気を温めにくいのに対して、対流式のヒーターは空気を温めることで熱を運ぶわけです。

対流式ヒーター

(画像出典:泉興産株式会社HP)

 

 対流式のヒーターを使う場合、遠赤外線ヒーターに比べて空気も温まりやすいと考えられます。空気は熱い方が軽くなるので、結果的に熱い空気が上の方に、冷たい空気が下の方にくるようになります。空気を温めにくい遠赤外線ヒーターに比べて、対流式のヒーターの場合、よりこの動きが大きいのではないでしょうか。そうすると、上の方の壁に熱容量の大きい素材を使うとよさそうです。もちろん、遠赤外線ヒーターを使っても全く空気が温まらないわけではないですし、遠赤外線ヒーターのサウナ室もやはり上の方が熱いです。ただその傾向が、空気の対流によって温まる対流式ヒーターを使ったサウナ室の方が強いのではないかということです。

 また、遠赤外線は「基本的には空間中を直進」*8するといわれています。遠赤外線はどちらかというとまっすぐ、直線的に熱がとんでくるというわけです。空気を温めにくく、直線的に熱がとんでくるとすると、壁材は一律同じ素材でもあまり変わらないように思います。

 一方、対流熱が中心のヒーターの場合は、空気の動きがより激しいと考えられ、上の方に熱容量の大きい素材を使うと、熱い空気によって温められた物質が輻射熱も発して、効率よく部屋が温まりそうです。例えば、人が座ったときに触れる高さは木材にして、天井付近に石やレンガなど、木材より熱容量の大きな素材を使うとよさそうです。

 もちろん、遠赤外線ヒーターのサウナ室も、換気によって空気の流れはありますし、上の方が熱いということには変わりないですが、メインであるヒーターからの輻射熱はまっすぐに身体に届くとしたら、壁材を高さによって変えることであまり体感に差はなさそうにも感じます。

 

 今回は、ヒーターと壁材との関係について考えてみました。壁の素材がどの程度体感の温度に影響するのか、ヒーターの種類とどのくらい関係があるかはわかりませんが、サウナ室に入ったときに、ヒーターの種類と壁材の両方を改めて見てみたくなりました。 

 

参考文献・資料

HIS、「汗蒸幕」(最終アクセス日:2021年2月26日)

KONEST、「韓国式伝統サウナ『汗蒸幕』の利用ガイド」(最終アクセス日:2021年2月26日)

Wilson, Debra Rose, "Is an Infrared Sauna Better Than a Traditional Sauna?", healthline. (最終アクセス日:2021年2月26日)

一般社団法人遠赤外線協会、「遠赤外線とは?」(最終アクセス日:2021年2月26日)

 日本ヒーター株式会社、「遠赤外線・近赤外線について」(最終アクセス日:2021年2月26日)

ヒートテック株式会社、「6.遠赤外線の吸収率」、Heat-tech(最終アクセス日:2021年2月26日)

 

 

*1:Wilson

*2:一般社団法人遠赤外線協会HP

*3:同上

*4:日本ヒーター株式会社HP

*5:HIS

*6:KONEST

*7:同上

*8:ヒートテック株式会社