Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

サウナと熱 -比熱と断熱-

  「サウナと熱 -蓄熱とは-」では、「蓄熱」という言葉をきっかけに、サウナ室に熱がこもっている状態は何と言えばよいのか考察しました。「蓄熱」はその意味を調べてみるとサウナ室に熱がこもっている、熱の密度が高い、という状態を説明するのには使えなそうでした。サウナ室の熱のこもった状態には保温や断熱ということが関係ありそうでした。素材によって、抱え込める熱の量、比熱が違うということにも触れ、そうするとサウナ室の壁の素材によってサウナ室の熱の様子は変わるのではないかと考えました。素材による違いについて具体的に見ていく前に、今回は比熱と断熱についてもう少し詳しく見てみます。

 

比熱とは 

 「サウナと熱 -蓄熱とは-」では、素材による「温まりやすさ、冷えやすさの度合い」として比熱があると紹介しました。比熱とは1gあたりの物質の温度を1℃上げるのに必要な熱量で、物質1gあたりの熱容量であると紹介しましたが、もう少し詳しく、比熱について見てみます。

比熱

 

 「1gあたりの熱容量」とありますが、比熱と熱容量はどのような関係にあるのでしょうか。結論から言うと、どちらも「物質の温度を1℃上げるのに必要なエネルギー量」という点は共通しています。では何が違うのかというと、比熱は「物質1gを1℃上げるのに必要なエネルギー」で、熱容量は「物質全部を1℃上げるのに必要なエネルギー」という点です*1

比熱と熱容量

 

 つまり、熱容量というのは総量によってその都度変わるものということです。温まりやすい木材でも量が大量であれば全体を1℃上げるのには、小石全体を1℃上げるよりも多くのエネルギーが必要になる場合もある、ということです。物質全体を1℃上げるのにどのくらいのエネルギーが必要か、という指標なので全体の量に応じて変わるということです。一方、比熱はそれを質量で割って1gの温度を1℃上げるにはどのくらいのエネルギーが必要か、ということを示す指標なので、量に関わらず物質ごとに一定の値になるということです。単純にその素材の温まりやすさ/冷えやすさの度合いを示すのであれば、量に関係ない比熱を見るのがよいということになりますね。

 比熱が大きい物質は温まる・冷えるのに時間がかかります。1℃上げるのにたくさんのエネルギーが必要ということです。一方、比熱が小さい物質は、1℃温度を上げるのに必要なエネルギーが小さいわけですから、速く温まる・冷えるということです。つまり、比熱が小さい素材は温まりやすく冷えやすい素材ということです。瓦と板を同時に温めると、比熱の小さい板の方が速く温まるということでした。比熱の大きい瓦や鉄や石は、1℃上げるのにもたくさんのエネルギーが必要で、結果的に温めるのに時間がかかる、ということですね。

 

断熱とは

 「サウナと熱 -蓄熱とは-」では、サウナ室に熱がこもっている状態について説明するのに、保温と断熱という言葉が使えそうだとわかりました。保温は身近な言葉ですが、断熱はどうでしょうか。断熱についてももう少し詳しく見てみます。

 「断熱」の辞書の定義は次の通りです。

外部との熱の出入りをさえぎること*2

 文字通り、熱の出入りを遮ることですね。断熱は建築の文脈でよく目にする言葉です。家を造るときには、天井、壁、床などに、それぞれに適した断熱材を使って熱を逃がしにくくするわけです。そうすることで、夏は涼しく、冬は温かい家になります。断熱材は熱の出入りを遮るためのものですが、どういう素材がよいかということを考えるにあたり、重要なのは伝導熱だといいます*3。それに加えて、強度や耐久性も重視されます。

一般に密度(比重)の低い素材ほど気孔率が高い傾向にあり、結果的に熱伝導率は低くなり断熱効果も優れているようです。しかしながら、低密度の素材は、圧力が加わった場合に圧縮歪みが発生したり、耐熱性に問題があったりするため、一概に熱伝導率の低い素材がベストであるとはいえません*4

 伝導熱は触れることで直接伝わる熱のことでした。この伝導熱がどのくらい伝わりやすいかという熱伝導率が低い素材の方が、熱が伝わりにくいわけですから、断熱効果は優れているということです。しかし強度や耐久性なども重要で、負荷のかかる場所では強い素材が必要になるので、どういう場所で使うかということによって選ぶ必要があるということです。

 断熱材には次のような種類のものがあります*5

断熱材

 

 建材としての断熱材にはいろいろあり、使う場所によって適切なものを選ぶ必要あがるようですが、断熱ということを考える際に熱伝導率が重要であることがわかりました。

 

木は熱を伝えにくい素材

 熱の伝えにくさは素材によって違います。中でも木という素材は熱伝導率が小さい、つまり熱が伝わりにくい、熱を逃がしにくい素材であるようです。木材に触ったときとコンクリートに触ったときに感覚が違うというのはなんとなく体験からわかるかと思います。コンクリートに触わると「ひやっと」感じることがあるのに対して、木材に触って「ひやっと」感じることは少ないのではないでしょうか。

 「ひやっと」感じるのは、鉄やコンクリートが体温をすぐに奪う、つまり熱伝導率が大きいためだといいます。一方、木は熱伝導率が小さい、熱を伝えにくいので、それほど「ひやっと」感じることはないということです*6

 木材が他の素材に比べて熱を逃がしにくい素材であることは「サウナと熱 -蓄熱とは-」でも見た通りです。木材の熱の逃がしにくさは、断熱材に近いくらいだといわれています*7

断熱


 木材が断熱性に優れているのは、空気を多く含んでいるためであるということも「サウナと熱 -蓄熱とは-」で言及しました。空気は熱を伝えにくい性質を持っていますから、空気を多く含む素材は熱を伝えにくい、つまり断熱性に優れているというわけです。100℃のサウナ室にいても火傷をしないのにお湯であれば45℃くらいでとても熱く感じ、100℃のお湯に触れば火傷をするのも、空気の熱伝導率が水の熱伝導率に比べて低いからでした。空気は熱を伝えにくく、空気を多く含む木材も熱を伝えにくいということです。 

 サウナ室の壁やベンチには木材が使われるのが一般的ですが、木という素材は熱伝導率が小さく、熱を伝えにくい、逃がしにくいという特徴を持っています。そして、先ほどの比熱でいうと、木は比熱が小さいので少ないエネルギーで、つまり速く温まるという特徴もあるということになります。速く温まるけれど、抱え込める熱の量が少なく、また熱伝導率が小さいので触ってもそこまで熱くない、ということですね。このような特徴から、木材がサウナ室の壁やベンチに向いていることがわかります。

 

 今回は、比熱と断熱について更に詳しく見てみました。木材というのは比熱の観点からも断熱の観点からもサウナ室に使うのに向いていると言えそうです。一方、もっと比熱の大きい物質を使うと、温まりやすさやどこまで温まるかということ、どのように熱を放出するかということは変わってくるわけです。次回は、いよいよサウナ室の壁の素材による違いについてさらに詳しく見てみたいと思います。

 

 

参考文献・資料

Study-Z、「もう迷わない!比熱と熱容量の違いについて理系ライターがわかりやすく解説」(最終アクセス日:2021年1月9日)

建材ナビ編集部、「断熱材の基礎知識」、建材ナビ、2019年8月21日更新(最終アクセス日:2021年1月9日)

森林・林業学習館、「木材の断熱性」(最終アクセス日:2021年1月9日)

日光化成株式会社、『断熱板進化論 進化した断熱材料』(カタログ)(最終アクセス日:2021年1月9日)

 

 

 

*1:Study-Z

*2:デジタル大辞泉。

*3:日光化成株式会社

*4:同上

*5:建材ナビ編集部

*6:森林・林業学習館

*7:同上