冊子本第二弾『サウナの熱の謎』では熱についての記事を冊子用にまとめ直してみました。その中で、熱の種類はその伝わり方から輻射熱、対流熱、伝導熱の3つに分けられるということも取り上げました。サウナ室の熱さの感想として「蓄熱」という言葉を使う人もいると思います。蓄熱とは何なのでしょうか。今回は蓄熱についてまとめ、サウナ室の熱のこもった状態について考えてみました。
蓄熱とは
サウナ室に入って、このサウナ室は熱がしっかりこもっているな、と感じたり、熱の密度が高いな、と感じることがあると思います。あるいは壁がしっかり熱く、壁からの熱を強く感じることもあります。こういうときに、「蓄熱」という言葉を使う人もいるかと思います。熱が溜まっている感じ、熱がこもっている感じを「蓄熱」と表現することもありますが、蓄熱とはそういうことではないようです。蓄熱の辞書の定義を見てみると次のように書かれています。
[名](スル)熱を蓄えること。「蓄熱暖房」
[補説]熱容量の大きな物質を暖めておき、必要なときに熱を取り出し暖房するという利用法がある*1。
熱を蓄えること、という意味ではありますが、蓄えておいて必要なときに取り出す、というようなことのようです。PVソーラーハウス協会の説明では、次のように書かれています。
蓄熱は、物体の温度を1℃上げる為に必要な熱量のことで、その物質がどれくらいの熱を貯め込むことで蓄熱が出来るのかということです。(中略)イメージとしては熱をしまう(ためる)ことの出来る熱タンクというと分かりやすいかもしれません*2。
物体の温度を1℃上げる為に必要な熱量、と説明されています。 バッテリーを充電して電気をためておくことを蓄電といいますが、それと同じように熱をためておいて後で使うようなイメージのようです。
蓄熱の活用
辞書の解説には、「必要なときに熱を取り出し暖房するという利用法がある」とされていました。熱タンクというたとえもあったように、事前に物質を温めておいて、熱を蓄え、それを必要なときに使う、というのが蓄熱のようです。
ヒートポンプ・蓄熱センターのホームページでは、空調システムに蓄熱を活用する仕組みについて書いてありました。
蓄熱システムは熱源機と空調機の間に蓄熱槽を設けて熱を蓄えることにより、熱の生産と消費を時間的にずらすことが可能なシステムです。
たとえば、夜間に熱源機を運転して空調に必要な冷温熱を作って蓄熱槽にためておき、昼間にその熱を取り出して空調するといった運転が可能です*3。
時間的にずらすことが可能なシステム、とあるように、やはり蓄熱は熱を事前にためておき、それを必要なときに取り出して使うということのようです。空調システムに蓄熱を導入すると、冷暖房を使わない夜の間に蓄熱槽にエネルギーを蓄えておき、昼にそのエネルギーを使って冷暖房を動かすことができる、と説明されています。
(画像出典:ヒートポンプ・蓄熱センターHP | 蓄熱について)
空調システムだけでなく、家の壁材にも蓄熱は活用されているようです。エコナウォールという蓄熱塗り壁材を使うと、住宅の蓄熱量が一般的な住宅の約3倍になるといいます*4。「潜熱蓄熱」技術を使ったこのエコナウォール、冬は日中に蓄えたエネルギーを夜放出して温度低下を防ぎ、夏は夜蓄えた冷気を日中に放出して温度上昇を抑えることができるといいます*5。
(画像出典:北洲HP | エコナウォール|蓄熱塗り壁材)
蓄熱というのは基本的に時間差があるものだといえそうです。事前に蓄えておき、あとで使うという形です。サウナ室に入って部屋に熱がこもっていると感じたり、熱の密度が高いと感じるような、リアルタイムの熱のこもり方を説明するのに蓄熱という言葉を使うのは、意味が違うといえそうです。
サウナ室の熱がこもった状態は何と言う
蓄熱は蓄えておいたエネルギーをあとで使う、というものだとわかりました。それではサウナ室に熱が溜まっているような感じ、熱の密度が高いと感じるような状態は何と表現すればよいのでしょうか。
サニーペットの「営業用のサウナ設備工事のポイント」には「断熱と保温」という項目があります。そこには次のように書かれています。
いわゆるサウナ浴とは、サウナルームの中に入って十分に汗を流すことですから、そのためには室内の断熱と保温工事を完全にすることがポイントになります。
この点を軽視すると、次のような障害を引き起こすことになります。
●完全な自動換気が行われない。
●その結果、暖気のためサウナの天井裏に結露を生じやすい。そのため次々に他の設備に悪影響を及ぼす。
●熱により、ストーブに過度の負担がかかり、電熱量もかさむ。
●サウナルーム内の上・下の温度差が激しすぎて、サウナ浴中には悪寒を覚える*6。
サウナ室を作る際には断熱と保温工事が重要だというのです。保温の意味は「温度を一定に保つこと。特に、温かさを保つこと」*7です。家のお風呂を保温する、保温性に優れたタンブラー、など、保温という言葉は身近ですね。サウナ室にしっかり熱がこもっている状態というのは、ドアの開閉等ですぐに温度が下がってしまったり、上の方と下の方で極端に温度差があったりするのではなく、しっかり熱が部屋中にこもっている状態だと考えられますので、熱が逃げない、しっかりいきわたっているということで、保温という言葉を使うのがよさそうです。サウナ室に熱が溜まっている状態は保温性が高い、といえるでしょう。
また、サウナ室に熱がしっかりこもっている状態というのは、ヒーターからの熱だけでなく壁などからも熱を感じるような状態ともいえるでしょう。「サウナと熱 サウナ室の中の熱」で見たように、物質は温められると輻射熱を発します。ヒーターの熱や、ヒーターで温められた石に触れて熱くなった空気によって壁が温まり、壁も輻射熱を発していると考えられます。
そして、壁の温まり方や輻射熱を発するまでの速度は、壁の素材によっても違います。壁の素材の比熱によって変わると考えられます。
比熱とは1gあたりの物質の温度を1℃上げるのに必要な熱量で、物質1gあたりの熱容量です。要するに温まりやすさ、冷えやすさの度合いという感じです。熱容量が大きいと温まりにくく冷めにくい、熱容量が小さいと温まりやすく冷めやすいということです。
紙太材木店代表取締役、田原義哲のブログでは、瓦と板を同時に温めるとどうか、ということが書いてあります。瓦は熱容量が大きいのでなかなか温まらず、「でも木のほうは貯め込むほど熱容量が大きくありませんから受けた熱は自分がすぐに熱くなって放熱してしまいます」*8とされています。木材は熱容量が小さいので温まりやすく、すぐに放熱するといえそうです。
石や鉄が温まるのに時間がかかるというのはなんとなくイメージできます。その代わり熱容量が大きいので、触ることができないくらい熱くなります。一方、木の場合は触ることができないほど熱くはなりにくいですね。それは木の熱容量、つまり抱え込める熱の量が石や鉄に比べて少ないからだと考えられます。すぐに熱を抱えきれなくなり、放出するということです。だからサウナ室の壁には木材が合っているといえそうです。
熱容量の大きい物質は、温まるのに時間がかかりますが、一度温まったら触れないくらい熱くなり、長時間熱を放出できるわけです。ヒーターで石を温めるという方法は、熱容量の大きい石を使うからこそ有効といえますね。
そして、これとは別に断熱という指標があります。いかに熱を外に逃がさないか、ということです。木材は熱を逃がしにくい素材だといわれています。例えば鉄は木材より450倍、熱を逃がしやすいそうです*9。コンクリートでも木材より15~20倍の熱を逃がすといいます*10。そして、その理由は木材が空気をたくさん含んでいるためだそうです。空気があるために熱が逃げにくいというのです*11。
熱がしっかりこもっているサウナ室は、壁からの熱もあり、断熱もしっかりしていて、保温性も優れている、ということかもしれません。壁の材質としては木材の場合が圧倒的に多いので、熱がこもっていると感じる、熱の密度が濃いと感じるサウナ室は換気などさまざまな条件により保温性に優れ、断熱もしっかりしているということでしょう。
今回は蓄熱という言葉について考えてみました。物質によって抱え込める熱の量が違う、熱を発するまでの速度が違うとなると、気になるのは使う壁材による違いです。サウナ室の壁は木だけではなく石や土などもあり、それぞれ体感が異なってくる気がしないでしょうか。次回は、壁材について考えてみたいと思います。
参考文献・資料
PVソーラーハウス協会、「蓄熱」(最終アクセス日:2021年1月2日)
SSDプロジェクト、「家を建てる前に知っておきたい『木の話』」(最終アクセス日:2021年1月2日)
サニーペット、「営業用のサウナ設備工事のポイント【1】」(最終アクセス日:2021年1月2日)
田原義哲、「断熱性=熱容量 と勘違いすると、瓦やコンクリートに断熱性があることに。」『ケヤキの木の下で』2018年8月29日更新(最終アクセス日:2021年1月2日)
デジタル大辞泉
ヒートポンプ・蓄熱センター、「蓄熱とは」(最終アクセス日:2021年1月2日)
北洲、「エコナウォール|蓄熱塗り壁材」(最終アクセス日:2021年1月2日)