Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

水風呂としての海水と淡水

  日本ではサウナ後のクールダウンといえば浴槽の水風呂が主流です。水風呂の水質について考える際には、水道水や井戸水を想定しています。しかし、自然の中のサウナであれば、湖や海でクールダウンということもあり得ます。淡水と海水とでは、どういう違いがあるでしょうか。今回はサウナ後の「水風呂」として淡水と海水がどう違うか考えてみます。

 

海を水風呂に

 フィンランドではサウナ後に湖に入る、というようなことをよく聞きます。日本でもアウトドアのサウナの場合は、サウナのあとに川に入ったりします。場所によっては、湖や川ではなく海でクールダウンできるところもあるようですが、サウナ後のクールダウンに使う「水」としては主流ではないように思います。

 例えば、ヘルシンキのサウナ施設「Löyly」ではサウナ後に海に入ることができるそうで、サウナ後、海に飛び込む様子の動画などもあります。 

youtu.be

 日本でも、 新潟の「サウナ宝来洲(ホライズン)」が日本海を水風呂に、と報じられていました*1。海を水風呂として、サウナ後のクールダウンに使うと淡水の場合とどういう違いがあるのでしょうか。

 

海水と淡水の違い

 そもそも海水と淡水の違いは何でしょうか。大きな違いは塩分濃度です。淡水は次のように定義されています。

塩分をほとんど含まない水。塩分含有量の少ない水。井戸、池、河川などの水*2

 一方、海水は次のように説明されています。

海のもっとも基本的な構成要素。(略)海水中には重量比にして約3.5%の無機塩類が溶けている*3

  海水の「塩分」「塩類」は私たちにとって身近な食塩(塩化ナトリウム)だけでなく、塩化マグネシウム・硫酸マグネシウム・硫酸カルシウム・塩化カリウムなどさまざまです。海にはさまざまなミネラル成分が含まれるということです。

 約3.5%の塩類を含む点以外は、「海水の物理的性質は基本的には純水の物理的性質が基礎となる」*4そうです。基本的には、純水と同じように比熱や熱容量は大きいという特徴があります。とはいえ、塩分を含んでいることによって比熱や熱伝導度(熱伝導率と同じ)も淡水とは少し違うようです。比熱については、「海水の比熱は純水に比べて低く、塩分が増加するにつれて低くなる」*5と言われています。熱伝導度については、「海水の熱伝導度は純水に比べていくぶん低く、塩分35psuの海水では純水に比べて約4.2%小さい」*6そうです。海水の方が淡水よりも少し、温まりやすいということですね。熱伝導度は淡水より少し低いということなので、淡水より少し熱が伝わりにくいということでしょう。

  また、海水に溶けている塩類はイオンに解離しており、海水の電気伝導度、つまり電気の通しやすさは純水よりも大きいそうです。

海水に溶けている塩類は、ほぼ完全にイオンに解離して電解質溶液となっているため、海水の電気伝導度は純水に比べて桁違いに大きい*7

 水溶液の中での電流は、マイナスの電気を持った「陰イオン」が「プラス側(陽極)」に移動することで発生します*8。海水に含まれる塩化ナトリウムは分離してイオンになりやすい物質で、ナトリウムイオン(Na+、陽イオン)と塩化物イオン(Cl-、陰イオン)に分かれます。塩化ナトリウムが陽イオンと陰イオンに分かれて、電子が陰極から陽極に移動するので電気が流れる、ということです*9。これは食塩水でも同じで、塩化ナトリウムを溶かした溶液は電気を通すということです。

 一方、純水*10はイオンがほとんど含まれていないといいます*11。純水の場合、H+(水素イオン)とOH-(水酸化物イオン)に分かれるということが極めて少ないため、ほとんどイオンは含まれないのだそうです。そのため、電子が移動できず、電気を通さないというわけです。純水ではない淡水も、定義を考えると塩類をほとんど含まない水ですから、イオンがほとんど含まれていないものといえそうです。海水はイオンが多く、電気を通しやすいという性質があり、淡水はイオンがほとんど含まれていないので電気も通しにくい、という違いがあるのですね。 

 また、海水は塩分が含まれている分、淡水より重いという特徴があります。そのため、淡水に比べて身体が浮きやすくなります。塩分が含まれている分、海水は淡水より2.5%ほど密度が大きい(重い)そうです*12。水の上にものが浮かぶのは「浮力」が働いているためですが、浮力は次のように定義されています。

静止している液体や気体の中にある物体がその液体・気体から上方へ引き上げるように受ける力。アルキメデスの原理により、物体が排除する流体の重さに等しい*13

 浮力は「水中の物体に働く上面と下面の水圧の差」*14です。水中では、上からの水圧よりも下からの水圧が大きいため、物体が浮く、ということです。そしてこの下からの水圧は流体の重さによって発生する圧力なので、流体の密度が大きい(重い)ほど大きくなります*15。海水は塩類を含む分、淡水よりも密度が大きく(重く)、そのため海水の方が淡水よりもものが浮きやすいということです。

 海水と淡水の違いは主に塩類の有無ですから、性質の違いも塩類に起因するわけですね。 

海水と淡水

 

水風呂として使うには

 海をサウナ後の水風呂として使うとすると、淡水とどのような違いがあるでしょうか。イオンの有無で電気を通しやすいかどうかということは体感には関係がなく、比熱、熱伝導率の差もそれほど大きくなさそうです。浮力の違いは、少し体感に影響がありそうです。

 一方、海水はミネラル分が多いため、肌や髪にダメージを与える可能性があります。「入浴と硬水・軟水」でも見たように、肌や髪に優しいのは硬度の低い軟水でした。

海外でシャンプーをしたら髪がキシキシ・ゴワゴワになってしまったという経験はありませんか。これは硬水に含まれるミネラルが原因です。海水浴のあとに髪がバサバサになってしまうのも、海水に含まれるミネラルが影響しています。また、ミネラルは肌への刺激となり、肌荒れを招くこともあります*16

海水

(画像出典:GATTA(ガッタ))

 

 海水もミネラル分が多いため、髪や肌への刺激が淡水よりも大きいようです。また、ミネラル分だけでなく、海水には微生物や不純物が含まれているため、皮膚炎を起こすこともあると指摘されています。

海水には、塩分はもちろんですが、プランクトンや微生物、不純物などが含まれています。塩分の刺激によって肌荒れを起こしたり、不純物が毛穴につまり炎症を起こす可能性もあります。また、海水に浮遊しているプランクトンが原因で、皮膚炎を起こすこともあります*17

 また、海水浴後に毛穴が開いた状態で冷たいシャワーを浴びると毛穴が閉まってしまい、肌が炎症を起こす可能性があることも指摘されています。

温水が出るシャワーがある場合は、冷水ではなく、ぬるま湯がベストです。海では日差しによる熱で、毛穴が開いた状態になっています。冷たいシャワーを浴びると表面の汚れは取れますが、冷たい水によって毛穴が引き締まり、汚れが落ちづらくなってしまうため、毛穴に汚れが詰まり、肌が炎症を起こしてしまう危険性があるのです*18

 サウナ後に海に入るとなると、サウナで発汗し、毛穴が開いた状態で海に入ることになるので、塩分や微生物、不純物が入ってしまう可能性もありそうです。淡水とは違って肌や髪への刺激は強いと考えられそうです。

 また、「水風呂の冷え方の違い」でまとめた熱交換という視点から見ると、不純物の多い海水はきれいな淡水よりも熱が伝わりにくいとも考えられます。不純物の少ないきれいな淡水と比べると海水の方が身体は冷えにくいかもしれません。

  ヘルシンキのサウナ施設「Löyly」の紹介でも、バルト海は塩分濃度が低くて快適だと書かれていました。サウナ後の水風呂として使うのであれば、塩分濃度が比較的低い海がよさそうです。

バルト海

(画像出典:ヘルシンキのサウナLÖYLYへ!バルト海に飛び込み<Day422> | tabitabi)

 

 今回はサウナ後の水風呂としての海水について考えてみました。広い海に飛び込む開放感、波のリズム、景色など、海には海の良さがあると思います。水質という視点では、水風呂に適しているかというとそうでもないかな、という印象です。井戸水、湖、川、海、それぞれ特徴が違うので、好みも分かれそうです。いろいろな水を水風呂にしてサウナを楽しめたら贅沢ですね。

  

参考文献・資料

Kirala Water「軟水・硬水の違いを比較! 料理や美容に活用できる!飲み分け・使い分けのススメ」2017年12月8日(最終アクセス日:2021年8月27日)

monai ORGANICS「海水が肌荒れの原因になる?肌荒れを防ぐには」2021年3月16日(最終アクセス日:2021年8月27日)

Qikeru「【中1理科】3分でわかる!水圧・浮力とは何もの??」2017年11月20日(最終アクセス日:2021年8月27日)
科学情報誌(HOME)「海水・食塩水が電気を通すのはなぜ?|疑問を2分で!」2019年4月2日(最終アクセス日:2021年8月27日)

ギモン雑学「なぜ真水(淡水)よりも海水の方が体がよく浮くのか?」(最終アクセス日:2021年8月27日)

週刊SPA!編集部「日本海が水風呂に!サウナで自然と一体になる新体験。沈む夕日や満天の星に囲まれた外気浴も」2021年6月29日(最終アクセス日:2021年8月27日)

 

*1:週刊SPA!編集部

*2:精選版 日本国語大辞典

*3:日本大百科全書

*4:同上

*5:同上

*6:同上

*7:同上

*8:科学情報誌(HOME)

*9:同上

*10:塩類や有機物などがほとんどすべて除去された状態の水

*11:科学情報誌(HOME)

*12:ギモン雑学

*13:精選版 日本国語大辞典

*14:Qikeru

*15:ギモン雑学

*16:Kirala Water

*17:monai ORGANICS

*18:同上