Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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水の「ろ過」について

 前回「地下水について」では地下水についてまとめてみました。その中で、水道水が実際にどのような処理をされて家に届くかということも確認しました。その行程の中には「ろ過」がありました。地下水を使っていて、「循環ろ過していない」と書いてある施設もあります。よく耳にする「ろ過」ですが、「ろ過」とはどういうことなのでしょうか。今回は「ろ過」について考えてみます。

 

ろ過とは

「ろ過」の辞書上の定義は次のようになっています。

固体粒子と流体 (液体または気体) の混合物を多孔性のろ材に通し,両者を分離する操作。この場合用いられる機器をろ過器という*1

 要するに液体や気体の中に含まれる固体粒子を取り除くと考えてよさそうです。他にも「ろ過」の定義を見てみると、例えば次のようなものがあります。

水中に含まれる汚濁物質を物理的にきれいにすることです。

正確には、個体(汚濁物質・異物)を含む液体や気体を、細かな孔が空いたろ過材に通すことで、孔よりも大きな個体の粒子を分離することです。
生物ろ過と分けて、物理ろ過ともいいます*2。 

ろ過

 

 水を物理的にきれいにすること、ということですね。汚れとなる固体を細かい穴の開いた過材を通すことで水の中から取り除く、ということです。「生物ろ過」「物理ろ過」という言葉が出てきます。ろ過には3種類あるようです。株式会社東京アクアガーデンのホームページには次のようにまとめられています。

1.物理ろ過 スポンジやウールマットを使って水をろ過します。水中の糞や、食べ残しのエサなど、目で見えるサイズのゴミはこの方法で除去できます。
2.化学ろ過 流木から流れ出たアクや、カビのような悪臭の元を、活性炭やゼオライトのようなものに吸着して除去します。
3.生物ろ過 水槽を健全に保つために圧倒的な力を発揮するのが、この生物ろ過です。バクテリアに生物の排泄物を分解してもらうことが目的です*3

 つまり、物理的にフィルターを通してろ過するのが「物理ろ過」、活性炭などを入れて、そこに汚れを吸着させるのが「化学ろ過」、バクテリアに分解させるのが「生物ろ過」ということです。

ろ過

(画像出典:初心者向けアクアリウム(熱帯魚・水草水槽)入門WEBメディア QUBE(キューブ)HP

 

 サウナという文脈で、今は水のろ過について考えていますが、ろ過自体は「流体」、つまり液体と期待から固体を取り除くことなので、水以外にも例があります。ろ過の具体的な例として、株式会社ショウエイのホームページでは次のものがあがっています。

プールや浴槽水…ろ過装置の砂やカートリッジで毛髪・垢などのゴミを除去
ガス…セパレーターやガスフィルターで固形物を除去
空気…空気清浄器のフィルターで花粉を除去
水道水…浄水器のフィルターでサビを除去 など*4

 ガスや空気中の固体を取り除くことも「ろ過」と言うわけですね。

 水の場合、「ろ過前の汚れた水を原水、ろ過後のきれいな水を処理水」*5と呼ぶそうです。

 

緩速ろ過と急速濾過

 「地下水について」では、水道水の処理について、今では大量の水を処理する必要があるため、「急速濾過法」になっており、結果的に塩素をたくさん入れなければならないということを確認しました。急速ろ過と緩速ろ過は、どのように違うのでしょうか。

 日本の現代的な水道の始まりは、1887年イギリス人技師の指導により横浜に作られたもので、このときからろ過方式が採用されたといいます*6。それ以来、ろ過方式による「近代的な水道」が普及したそうです。このときに日本が採用したのは当時のヨーロッパと同じ「緩速ろ過方式」でした*7。「緩速ろ過方式」は砂の層をゆっくり通すだけで十分除菌力があるため、そこにさらに何かを投入して殺菌する必要はなかったそうです*8

 そんな中、アメリカで「急速ろ過方式」という方法が実用化されました*9。これは、薬品を使って速く大量に浄水する方法です。自然の力を利用する「緩速ろ過方式」とは違って、除菌力が不十分であり、塩素の投入が必須になるというデメリットが指摘されています*10。そして、日本でも非常に時間がかかる「緩速ろ過方式」から浄水するスピードが圧倒的に速い「急速ろ過方式」へと移行していったというわけです。

 「緩速ろ過システム」は、時間をおいて、原水の中の粗いゴミが沈澱するのを待ちます。それから、細かい砂の層を通して、ゆっくり水をろ過していきます。これらの所要時間は約34時間だそうです*11

緩速ろ過

(画像出典:東京都水道局HP

 

 一方、「急速ろ過方式」では、まず「凝集剤」という薬品を投入します。粗いゴミをかためる薬品です。そして、水をかき混ぜてゴミのかたまりができやすいようにします。その後、このゴミのかたまりを沈澱させます。それから砂の層を通してろ過し、最後に塩素を入れて殺菌します。所要時間は全体で約5~6時間だそうです*12。時間が大幅に短縮できる分、薬品が必要になるということです。時間をかければ、砂の層をゆっくり通すだけで薬品を使わなくてもきれいな水になるということですね。

急速ろ過

(画像出典:東京都水道局HP

 

 「地下水について」では、深いところから汲み上げる深井戸の地下水はミネラルが多くなる傾向にある、硬度が高くなる傾向にあることを確認しました。ろ過という観点から見ても、深いところにある地下水は自然としっかりろ過されていて、きれいなのではないかという気がしてきます。「WILD MIND GO! GO!」というサイトで法政大学准教授の野田岳仁は次のように述べています。

 なぜ地下水はきれいなのでしょうか。この理由を考えるために、自然のろ過装置をつくって実験してみましょう!地下水は、地上に降った雨などが長い時間を掛けて地中に染みだしたものです。石や砂といった地層をペットボトルのなかに再現して、汚れた水がどのようにろ過されていくのか、大地による自然の浄化力を体感してみましょう!*13

ろ過

(画像出典:喜多方市水道課HP

 

 地下水がきれいな理由を、ペットボトルの中で地層を再現することで確認しようということです。やはり深いところにある地下水は、自然にゆっくりろ過されていてきれいだといえそうです。

 

循環ろ過とかけ流し

 しっかりろ過をすると水はきれいになるわけですが、浴槽で使うお湯・水ということを考えたときに、循環ろ過式とかけ流しではやはり大きな違いがあるのでしょうか。

 温泉に関する記述で、循環ろ過式とかけ流しを比較したものがあります。温泉ソムリエの高橋渓輔は、浴槽の中のお湯を循環し続ける循環ろ過式の温泉と比べると、常に新鮮なお湯が浴槽にそそがれるかけ流し温泉の方が圧倒的に高い人気を誇っていることを指摘しつつ、循環ろ過方式の温泉のメリットも指摘しています。

源泉の湯量をそこまで必要としない循環ろ過方式の温泉は、かけ流し式温泉に必要な湯量よりもはるかに少ないお湯の量で大きな浴槽をまかなうことが可能です。また、かけ流し式と比べてはるかに少ない湯量で泡風呂や打たせ湯などのような豊富な入浴設備を整えることができ、さらに貸切風呂や露天風呂付き客室など複数の浴場を設けることもできます。つまり、循環ろ過式の温泉は施設の内容が充実しているところが多いんです!*14

 

循環ろ過

(画像出典:群馬のグルメ&タウン情報サイト【だんべー.com】

 

  かけ流しに比べて、少ないお湯の量で済む、つまりコスパがよいということがまず大きなメリットです。そのことで、お風呂の種類を増やすことなどもできるということが指摘されています。一方、かけ流しはやはり新鮮で「温泉本来の濃い成分を楽しむことができるかけ流し方式の温泉は魅力的」*15であるといいます。とはいえ、かけ流しの方が圧倒的によいということでもないようです。かけ流しのデメリットについては次のように指摘されています。

かけ流しの温泉は、温度調整が難しく日毎にお風呂の温度が変わる、お湯に湯の花が混じっているのが不潔に見える、石化した成分が浴槽に付着して汚らしく見えるといったデメリットもあります。実は、温泉の質にこだわらない観光客の多くは、お湯も浴場も綺麗で写真映えのする循環ろ過式の温泉を選んでいたりもするんです*16

かけ流し

(画像出典:群馬のグルメ&タウン情報サイト【だんべー.com】

 

 かけ流しの方が温度調整が難しい、というのは温泉に限らず水風呂もそうかもしれません。また、温泉の場合は見栄えが悪くなるということも指摘されています。温泉で考えてみると、循環ろ過式にもかけ流しにもメリットデメリットがあるということです。

 温泉成分の濃さという点は、水風呂について考える際にはあてはまらないと思いますが、やはり地下水を使ったかけ流しで新鮮な水風呂は心地良く感じます。自然にろ過された地下水であれば人工的なろ過は必要ない場合もあり、それを循環させずにかけ流すと常にきれいで新鮮な水になるということでしょう。

 

 今回は「ろ過」について考えてみました。浴槽の循環ろ過についても少し考えてみましたが、具体的にどのような装置で循環ろ過をさせているのでしょうか。次回はろ過機について考えてみる予定です。

 

参考文献・資料

石原信次(2004)『ズバリとわかる!知っておきたい水のすべて』、インデックス・コミュニケーションズ

株式会社ショウエイホームページ、「ろ過/ろ過装置とは」(最終アクセス日:2021年5月14日)

株式会社東京アクアガーデンホームページ、「ろ過の仕組みを知ろう!熱帯魚水槽内の糞尿や汚れが無害化されるまで」、『トロピカ』2018年5月26日(最終アクセス日:2021年5月14日)

高橋渓輔、「温泉の循環濾過(ろか)の仕組み|源泉かけ流しとの違いは?」温泉部、2017年8月17日(最終アクセス日:2021年5月14日)

テラル株式会社ホームページ、「ろ過、逆洗、洗浄とは?」2019年05月22日、(最終アクセス日:2021年5月14日)

野田岳仁「川にでかけて自然のろ過装置をつくってみよう!」『WILD MIND GO! GO!』2016年8月12日、(最終アクセス日:2021年5月14日)

 

 

 

 

*1:ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

*2:株式会社ショウエイHP

*3:株式会社東京アクアガーデン

*4:株式会社ショウエイHP

*5:テラル株式会社HP

*6:石原、p.162

*7:同上

*8:同上

*9:同上

*10:同上

*11:同上

*12:同上、p.165

*13:野田

*14:高橋

*15:同上

*16:同上