Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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水風呂のライオンについて

 先日サウナ専門ラジオマグ万平の のちほどサウナで」の収録で、マグ万平さんが気になることとして、「水風呂の流れ込みにあるライオンのメーカーや歴史について調べてほしい。ルビーパレスはライオンじゃなくてカエルだけど、カエルもいいのか」と質問してくれました。実は少し調べ始めていたことで、その場でも簡単な回答はしましたが、今回は早速、マグ万平さんの質問に答えるべく、水風呂のライオンについてまとめてみました。

 

なぜ風呂にライオンなのか

 ライオンの口から水がじゃばじゃばと水風呂に流れる様を見ると、贅沢な気分になります。水風呂に動物の蛇口がある場合、多くはライオンの蛇口ですし、ライオンの蛇口にはお金持ちのお風呂、というイメージもあります。

 

【白山湯高辻店の水風呂】

サウナ ライオン

(画像出典:京都府浴場組合HP)

 

【神大湯の水風呂】

サウナ ライオン

(画像出典:TOKYO SENTO

 

 地下水じゃばじゃばかけ流しのロスコの水風呂も、ライオンの口から水が注がれます。

 

サウナ ライオン

(画像出典:『湯遊ワンダーランド』)

 

 なぜ風呂、水風呂にライオンなのかを調べてみました。『新装版 世界大博物図鑑』のライオンの項には、次のように書かれています。

古代エジプトでは、太陽がしし座にはいる8月にナイル川の増水がはじまるため、泉や水源にライオンの頭を模した彫刻を飾った。この風習がギリシア・ローマに伝わり、浴場などに口から水を吐くライオンの意匠が使われるようになった*1

 浴場に見られるライオンの蛇口のルーツは古代エジプトということです。ナイル川がしし座の8月になると増水し氾濫することから、水のある水源のところにしし=ライオンの頭の彫刻が置かれるようになったというのです。

 古代エジプトではライオンは太陽・夏の象徴でもあったそうで、「セクメト」などライオン頭の神もいます。

 

サウナ ライオン

(画像出典:Wikipedia)

 

 『サイン・シンボル大図鑑』にもライオンは「太陽の獣」*2と書かれていました。また、次のような記述もありました。

太陽の象徴の場合、ライオンは聖なる空間の番人として、しばしば神殿の門柱に刻まれる。その頭部は保護的役割を担い、ガーゴイル(樋嘴)として建物を飾ることもある。これら太陽のガーゴイルは、雨水を壁に流れないよう導くことで、水と結びつき、豊穣の象徴を生み出す*3

 ライオンは「水」や「豊穣」と関係があるようです。とそういえばライオンは風呂場の蛇口に限らず、柱などに飾られることもあります。玄関にあしらわれるライオンについても、『新装版 世界大博物図鑑』に理由が書いてありました。

強大なその力は目に集中しているといわれ、したがってライオンは眠るときにも目を閉じないと信じられた。この特性により、ライオンは見張番の象徴となり、家の門や扉にその彫刻が飾られるようになった*4

 風呂や玄関に飾られるライオンの頭、もともとの意味を知らずに形が現代にも残っていますが、それぞれの理由は、はるか昔にあるのですね。

 こうした伝統から、日本に「蛇口」が誕生した頃にも、西洋の蛇口にはライオンのモチーフのものが多かったようです。『語源由来辞典』というサイトでは「蛇口」という日本語の語源について説明しています。日本で水道が開設された明治20年、道路脇の共有栓から水が供給されていて、その共有栓はイギリスからの輸入品が多く「ヨーロッパで水の守り神」とされるライオンモチーフのものが多かったそうです。輸入品ではなく、日本国内で共有栓が作られるようになると、中国や日本の「水の守り神」である「龍」のデザインのものが作られるようになり、「龍」のもとになった生き物が「蛇」であることから「蛇口」と名付けられたとのことです*5。国立国会図書館の「レファレンス協同データベース」には、この説の他にも、この明治期に道路に設置された共有栓の円柱部を「蛇腹」と呼んでいたことから、吐水口を「蛇口」と呼んだという説など、いくつかの説があげられています*6

 ちなみに、「カラン」というのも動物に由来する名称です。「カラン」はオランダ語で「鶴」を意味する「クラーン(KRAAN)」に由来するそうです。形が鶴の首から頭に見えて、鶴に似ているためそのように呼ぶようになったそうです*7。お風呂周りには、動物と関連するものが多い印象です。

 

ライオン蛇口はどこで売っているのか

 水風呂の水を吐き出すライオン、どういうところが販売しているのだろうと思って調べてみたところ、例えば信楽焼のお店で販売していました。「しがらき焼大谷陶器」というお店には、いろいろなライオン蛇口が売られていました。

サウナ ライオン

 (画像出典:しがらき焼大谷陶器HP

 このライオン蛇口の商品説明には、「温泉お風呂の壁に設置して下さい 庭の噴水用にもご利用頂けます」と書いてありました。大きさも大・中・小と種類がありました。

 信楽焼と言うと店頭の狸のイメージですが、水風呂を吐き出すライオンも作られていたとは、びっくりです。 

サウナ たぬき

品川区の宮城湯店頭のたぬき

(画像出典:ベビーキッズTV) 

 

 信楽焼のお店には、ライオンの蛇口と共にカエルの蛇口も販売されていました。マグ万平さんのコメントにもあったように、ルビーパレスは水風呂も湯風呂もカエルの口から水・湯が吐き出されています。

 

カエルにはどんな意味があるか

 カエルはライオンと違って、水辺の生き物ということで風呂場や噴水にあしらわれるのかなという気もしましたが、それだけでもないようです。

 『新装版 世界大博物図鑑』には次のように書かれていました。

古代エジプトにおいては、カエルは豊穣を象徴した。多産のイメージが大きかったためである。古代エジプトでは、母なる神ヘケトがカエルの形態であらわされる(中略)ナイル川の肥沃な泥土と生産力から生まれ、その泥のシンボルがカエルだったのであろう*8

 また、『サイン・シンボル大図鑑』にはカエルは「古代エジプトから日本まで、豊穣や魔術をはじめ、広い範囲の象徴体系に結びつけられてきた」*9と書かれていました。また、「ケルト神話では、地上と癒しの水とを支配した。ガーガーと鳴く声が雨を思わせるので、マヤ族は水の神と見なした」*10という記述もあり、「豊穣」のイメージや「水の神」という解釈もあったことがわかります。一方、カエルはライオンとは異なり、不浄なものとされたり悪の象徴とされることもあるそうです*11。特に西洋ではライオンの方が風呂や噴水によく用いられるような印象があるのは、こうしたカエルのネガティブなイメージも関連するかもしれません。とはいえ、やはりカエルも「水」「豊穣」のイメージを持つ動物であることがわかりました。

 

 今回は、水風呂のライオン蛇口についてまとめてみました。ライオンにせよ、カエルにせよ、「水」や「豊かさ」のイメージがあることがわかりました。イメージ通り、やはりじゃばじゃばかけ流しの水風呂は贅沢さを感じることができ、そして何より気持ちいいですね。

   

参考文献

SUGITA ACE、「カランとクレーン」2014年1月20日(最終閲覧日:2020年7月11日)

荒俣宏(2014)『新装版 世界大博物図鑑 第3巻[両生類・爬虫類]』、平凡社

荒俣宏(2014)『新装版 世界大博物図鑑 第5巻[哺乳類]』、平凡社

国立国会図書館『レファレンス協同データベース』(最終閲覧日:2020年7月11日)

ブルース=ミッドフォード, ミランダ(2010年)小林頼子・望月典子 監訳『サイン・シンボル大図鑑』、三省堂

『語源由来辞典』(最終閲覧日:2020年7月11日)

 

 

*1:荒俣、p.110

*2:ブルース=ミッドフォード、p.57

*3:同上

*4:荒俣、p.106

*5:語源由来辞典

*6:レファレンス協同データベース

*7:SUGITA ACE

*8:荒俣、p.46

*9:ブルース=ミッドフォード、p.65

*10:同上

*11:荒俣、p.47