Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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新型コロナウイルスとフィンランドのサウナ習慣

 新型コロナウイルスの流行により、サウナ通いの習慣が変わった人もいるかもしれません。感染がこわいのでサウナに行けない、という人もいたでしょうし、サウナは問題ないと考えて通い続けた人もいたと思います。サウナが日本以上に文化として根付いているフィンランドでは、新型コロナウイルスはどのようにサウナ習慣に影響を及ぼしたのでしょうか。今回は、2020年に実施されたフィンランドの調査に関する論文をご紹介します。

 

フィンランドの新型コロナウイルスの影響

 日本では、2020年4月に最初の緊急事態宣言が発出され、温浴施設も営業ができない時期がありました。フィンランドでも、2020年3月に措置がとられ、いわゆるロックダウンの時期があったそうです。

Finland, preventives measures to deter COVID-19 pandemic were set in March 2020. Consequently public saunas and some of those shared among the inhabitants of a housing company were closed. *1

(フィンランドでは、2020年3月にCOVID-19のパンデミックをおさえるために措置がとられました。その結果、公衆サウナや、住民の間で共有されていたサウナの一部は閉鎖となりました。)

 今回紹介する論文では、2020年5月の最終週に回答してもらった調査結果がまとめられています。フィンランドでも、一度落ち着いた感染状況がまた悪化するという状況ではあったようですが、今回の調査は2020年5月頃のものということです。下記はフィンランドの新型コロナウイルス感染者の2020年3月からの推移です。

 

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(画像出典:JHU CSSE COVID-19 Data)

 

 日本でも最も緊張感があり、多くの施設が営業を停止していたのは2020年4月頃でしたね。

 

調査の概要

 今回は、Lassi A. LiikkanenとJari A. Laukkanenによる"Sauna bathing frequency in Finland and the impact of COVID-19"という論文の内容を紹介します。

 調査はランダムに選ばれた1000人のフィンランド人を対象に行われました。対象は、18歳から75歳のフィンランド人です。回答を得られたのは男性497人、女性501人とのことです*2。調査の質問内容は"It included questions about baseline sauna bathing, recent changes and their reasons, and beliefs about infectious diseases"*3とあり、基本的なサウナ浴習慣について、そしてその変化と理由について、また感染症に関する考え方についてのものということです。また、別のセクションでは、他の生活習慣(喫煙・間食・運動など)に関して、パンデミックを受けて変化があったか、という質問項目も設けてあるそうです*4

 

調査の結果-サウナの利用実態- 

 まず、サウナにどのくらい入るかという点については、半数以上の人が週に1回以上はサウナに入ると回答しています*5。最も多いのは、男性では「週に2~3回」です。"Men were more frequent bathers than women, and were twice as likely to bath at least four times a week compared to women"(男性は女性よりも頻繁にサウナ浴をしており、週に4回以上入るという人の数は女性と比較して2倍でした)*6とあるように、総じて男性の方がよくサウナに入っているという結果です。女性は「月に数回」よりも低い頻度であるという回答が26%、全く入らないという回答が9%と、男性と比べてサウナに入らない人が多い印象です。具体的な内訳は下記の通りです。

サウナの利用頻度

 

 男性の方が女性よりサウナによく入る、ということに加えて、女性の場合、若い人の方がよりサウナに入らないという結果も書かれていました。"Women over 35 years bathed more frequently than younger ladies"(35歳以上の女性は、若い女性に比べて頻繁にサウナ浴していました)*7とあるように、35歳以下の若い女性はあまりサウナに入らない場合が多いということです。一方、"Among men, no age trend
was observed"(男性の場合、年齢による傾向は見られませんでした)*8とあるように、男性の場合は年代による差は見られなかったそうです。具体的な内訳は下記の通りです。

週に1回以上サウナに入る人

 

 たしかに若い女性で週に1回以上サウナに入るという人は少なめです。女性には年齢による差が見られ、男性には見られないというのは日本の利用実態とも似ていますね。

 

調査結果-コロナの影響による変化-

 新型コロナウイルスの流行を受けてサウナ習慣が変わったか、という点については、22.7%(221人)の人がサウナ浴をする頻度が減ったと回答した、という結果になりました*9。逆に増えたという回答も10%(99人)ありました。こうした利用頻度の変化には、住宅事情が大きく影響していると指摘されています。つまり、プライベートサウナにアクセスできたかどうか、という点が大きいそうです。"Block of houses"は共同のマンションやアパート、"Detached house"が一戸建て、"Attached rowhouse"が長屋、ということだと思いますが、この3つのタイプに分けたとき、共同のマンションやアパートの人ほどプライベートサウナにアクセスしにくく、一戸建てや長屋の場合はプライベートサウナにアクセスしやすい、ということです。具体的な内訳は下記の通りです。

プライベートサウナへのアクセス状況

 

 そりゃそうか、というところですが、一戸建てや長屋の人は家にサウナがあるなど、プライベートサウナへのアクセスがしやすい、ということですね。戸建ての場合、98%とほとんどの人がプライベートサウナに入ることができるということです。そして、新型コロナウイルスの流行を受けてサウナ浴の頻度が減ったか、変わらないか、増えたか、という点についての回答は下記のように住宅の種類と関連がありました。

サウナ浴の頻度

 

 最もサウナ浴の頻度が減ったのは共同のマンションやアパートに暮らしている人たちということですね。一戸建てや長屋の人は8割くらいが「変わらない」という回答です。一方、「増えた」という人の割合はそれほど変わらないのも興味深いです。このことから、論文では次のように結論づけられています。

In the face of circumstances during COVID-19 epidemic, some people reacted by reducing, others by increasing their bathing frequency. Sauna activity was at least partly influenced by access to saunas, as those with no access to private saunas were more likely to reduce or stop sauna bathing.*10

(COVID-19のパンデミックに直面して、サウナ浴の頻度を減らすという反応をした人と、増やすという反応をした人がいました。プライベートサウナにアクセスできない人はそうでない人よりもサウナ浴の頻度を減らしたり、サウナ浴をやめたりする可能性が高いので、サウナ浴は少なくとも部分的にサウナへのアクセスによって影響を受けたといえます。)

 サウナ浴が減ったという人があげた理由は、"unavailability"(利用できないため)が56%、"fears of using shared sauna facilities"(共同のサウナを使うのがこわいため)が28%、"unspecified sickness"(不特定の病気のため)が14%となっていたそうです*11

 一方、サウナ浴の頻度が増えたという人があげた理由は、"the need to relax"(リラックスが必要なため)が89%、"spend time"(時間を使うため)が84%と多く、"improving immunity"(免疫力向上のため)も31%、"changing the place of dwelling"(引っ越したため)も22%いたそうです。

 共同サウナを使うのがこわい、という人も少なからずいたわけですが、調査では多くの人が公衆サウナ・共同利用のサウナの閉鎖に賛成であったといいます。73.5%の人が、閉鎖に賛成したそうです*12。66.8%の人が、新型コロナウイルスがサウナでうつる可能性があると感じていたといいます*13。サウナの熱が細菌やウイルスの不活性化には役立たないと答えた人は21.5%、免疫力の向上が期待できないとした人も33.1%いたとのことです。

 つまり、高温環境のサウナであれば新型コロナウイルスの感染リスクはない、と考える人はあまり多くなく、やはり感染のリスクがあると感じて、共同のサウナは危険と考える人も少なくなかったということでしょう。一方で、それよりも「利用できないから」という理由の方が、サウナ浴の頻度減少には大きく影響したということですね。

 

 今回は、新型コロナウイルスの影響でフィンランド人のサウナ浴の頻度にどのような変化があったかという調査結果をまとめた論文を紹介しました。プライベートサウナにアクセスできる人は、もっと利用頻度が増えているのかなと思いましたが、そうでもありませんでした。2020年5月時点の調査結果なので、閉まっていて使えなくなったため利用頻度が減った、という人が多かったわけですが、その後はどうなったのか、営業が再開したら利用は戻ったのか、というところも気になります。また、そもそも男女の利用頻度に差があることなども興味深い点でした。

 

参考文献

Liikkanen, A. Lassi  and Laukkanen, A. Jari. "Sauna bathing frequency in Finland and the impact of COVID-19", Complementary Therapies in Medicine. 56, 2021.

 

*1:Liikkanen&Laukkanen, p.2

*2:同上、p.2

*3:同上

*4:同上

*5:同上

*6:同上

*7:同上、p.2

*8:同上

*9:同上、p.2

*10:同上、p.3

*11:同上

*12:同上

*13:同上