Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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サウナと時間②

 「サウナと時間①」では、サウナ室内の時間表示について考え、海外のサウナ用砂時計を紹介しました。今回は、日本の二大サウナタイマー、砂時計と12分計について考えてみます。

 

砂時計の不思議

 サウナ室にある二大タイマーの一つは砂時計です。砂時計は古代エジプトの頃から利用されていると推測され、8の字形のガラス容器に密封し、枠に入れる、私たちに馴染みのある形のものは14世紀頃のヨーロッパで発生したらしいとされています*1
 さまざまな時計が発達した今でも、砂時計はサウナ室でよく使われていますし、カフェなどで用いられることもあり、現代でも私たちにとって身近なタイマーの一つです。
 この砂時計、よく考えてみると、砂が一定の間隔で落ちて行くというのは不思議なことです。例えば、水であればそうはいかないと言われています。実際に、古代には水を使った水時計もあったそうですが、こちらは生き残りませんでした。

サウナ 時計

(画像出典:メキシコの文化と自然に魅せられて

 

 なぜ他の物質を使った時計、例えば水時計では都合が悪いかということについて田口善弘は「水では流れ出る速さが一定ではなく、容器の中の水の量が多ければ多いほど、水はどんどん流れていってしまう」*2と述べています。確かに水の場合、容器に水を入れてひっくり返すと、たくさん水が入っている時には勢いよく水が落ち、入っている水が少ない時とは勢いが違います。ペットボトルなどをひっくり返しても、落ちる速度が一定でないことがわかります。
 一定でなくても、中の水が全て落ちたら何分、という形であれば水時計も使うことはできます。ただ、落ちる速度が一定でないと、残り時間がわかりにくいということも指摘されています。砂時計であれば、砂が減る量が一定なので、半分減れば時間も半分経過したことがわかります。田口によると、例えば砂と水で10時間計を作ったとすると、9時間経った時点で砂時計の場合は10%の砂が残っているのに対して、水時計の場合は1%の水しか残っていないと言います*3。水時計の場合、残っている分量からどのくらいの時間が経過したかを推測することが難しいと言えます。こうした利点から、砂時計は長く生き残ってきたと考えられています。
 私たちがサウナ室で見かける砂時計は、5分や10分のものが大半です。そのため砂時計は短時間の計測しかできないというイメージがあるかもしれませんが、1年計の砂時計も存在します。島根県の仁摩町に1年計の砂時計があります。

サウナ 砂時計

(画像出典:仁摩サンドミュージアムHP


 これだけ大きい砂時計ですから、砂が落ちる穴も大きいのだろうと思ってしまいますが、穴の部分は私たちが普段見かける小さな砂時計とほとんど同じだそうです*4。どれだけ砂の量が増えても、砂が流れる速度は変わらず、穴の大きさも、5分計でも1年計でもほぼ同じで良い理由は、砂の動き方に秘密があると言います。
 砂が落ちていく際の砂の動きを見ると、穴の周りでアーチを形成することがわかっています*5。このアーチが、上からかかる力を水平方向の力に変えて、側壁に伝えるというのです。つまり、アーチが上からの圧力を壁の方に逃がすので、上の方の砂の重さは下まで伝わらずに分散されるのです*6。そのため、たくさんの砂が入っていても、少しの砂が入っていても、砂が落ちる速度は変わらないのです。
 このような仕組みで、砂時計は一定の速度で砂が落ちるため、時間の経過がわかりやすいです。12分計の場合は、サウナ室に入った時に針がどこを指していたかを覚えていないと何分経過したかがわかりませんが、砂時計の場合は砂の減り方で大体の時間の経過が見てとれるというわけです。同時に複数人で使うことは難しいですが、サウナ室の砂時計にはこうした利点もありますね。もちろん耐熱性もポイントですが。

 

 12分計「サウナタイマー」

 サウナ室の二大タイマーの2つ目は12分計です。公衆浴場のサウナで最も使われていると言われています。「サウナタイマー」とも呼ばれるそうです。

サウナ 12分計

(画像出典:株式会社スタックHP

 

 よく見かけるのは、この画像のようなタイプのものかと思います。赤い針が1周して1分、黒い針が1周して12分というものです。このサウナタイマー、最初に作ったのは株式会社スタックという会社だそうです。株式会社スタックのホームページには次のような説明があります。

日本で初めて「サウナタイマー」が誕生して42年となります。弊社創業者米良勅夫が皆さまの健康を願い、ドライサウナ用のタイマーを発明し、「KENKOサウナタイマー」と名づけたのが始まりでした。それ以来、製品自体の改良はもちろんのこと、お客様のニーズに合わせ、デザインの変更や新機種の販売も重ねてまいりました。そうしてこの度、サウナ業界での新しい波「SPA&スチームサウナ」用クロック(SKS)を
2011年4月より新発売しました。*7

 ホームページによると、日本初のドライサウナ専用の12分計、サウナタイマーが発明されたのは1970年のことだそうです。株式会社スタックはそれ以来、今日に至るまでサウナタイマーの製造・販売を続けているそうです。創業者である初代社長は、病の克服のためにサウナに通っていて、それでサウナタイマーを開発するに至ったそうです*8。株式会社スタックが販売しているサウナタイマーは110℃まで耐性があるとされています*9

www.stac-sauna.com

 

 このサウナタイマー、どうして1周12分のものを設置しているのでしょうか。その理由については諸説ありますが、株式会社アクトパスの代表取締役である望月義尚のブログ、「温泉・温浴コンサルタントブログ【一番風呂日記】」では次の3つの理由があげられています。

①パーツを通常の時計から流用して作っている

②デザインに馴染みがある

③1回のサウナ入浴時間がおよそ12分前後である*10

 普通の時計から部品を流用しているという理由はとても合理的、効率的ですね。1回のサウナ入浴時間がおよそ12分前後、と言っても、サウナ室にいる時間は人それぞれで、砂時計のように5分や10分でも良いわけですが、どうせ決まった時間がないのなら、普通の時計の部品を使えた方が良いですよね。 

 「サウナと時間①」で取り上げた『SAUNA』の中の中山真喜男の「サウナ時計」には、サウナ室という高温環境下でタイマーを動かし続けることの難しさについても書かれています。

以前日本の時計トップメーカーと開発を進めたことがあります。結論を言えば、工場実験で、100℃の温度条件下で1年間は保証できるが、それを超えると狂いが出て、その壁を越えることができず、いろいろ検討の結果、開発を断念しました。*11

 サウナ室のような高温環境下では、1年を超えると狂いが出てしまうと言うのです。12分計の寿命が1年であることも言及されています。高温環境下では維持が大変な12分計ですが、砂時計と並んでとても普及しています。砂時計では使える人数が限られますから、それだけ時間の経過を知りたい人が多いということかもしれませんね。

 

 今回は、サウナと時間について、日本のサウナ室の二大タイマー、砂時計と12分計について考えてみました。次回は、私たちがサウナ室にいるときに体感する時間の感覚について考えてみたいと思います。

  

参考文献

株式会社スタックHP

田口善弘(1995)『砂時計の七不思議―粉粒体の動力学』、中公新書

中山真喜男(2005)「サウナあれこれ サウナ時計」、社団法人日本サウナ協会発行『SAUNA』344号

望月義尚、「サウナタイマー事業譲受の経緯とご挨拶」 、『温泉・温浴コンサルタントブログ【一番風呂日記】』2016年11月8日 

 

*1:世界大百科事典

*2:田口、p.9

*3:同上、p.10

*4:同上、p.12

*5:ちなみに、穴の大きさが粒子の大きさの6倍くらいないと目詰まりを起こしてしまい、安定的なアーチは作られないとのことです。

*6:田口、p.19

*7:株式会社スタックHP

*8:同上

*9:同上

*10:望月義尚「サウナタイマー事業譲受の経緯とご挨拶」

*11:中山、「サウナあれこれ サウナ時計