「サウナと汗 発汗の仕組み①」と「サウナと汗 発汗の仕組み②」では、発汗の基本についてまとめました。サウナ室での汗の出方を思い出してみると、1セット目ではまんべんなくじんわりとかいていた汗が、2セット目から玉のような汗になる、という経験のある人は少なくないかもしれません。こうした汗の変化はどういう仕組みで起こっているのでしょうか。今回はサウナ室でかく汗について考えていきます。
見える汗と見えない汗
私たちが「汗をかいている」 と思って見ている汗以外に、実は私たちは目に見えない汗をかいているのです。
高温環境に入ると、体温調節のために汗腺が働き始めます。すると、汗が皮膚表面から排出されますが、すぐに蒸発して私たちの目には見えません*1。目に見えないため、汗をかいていると認識できませんが、実際には発汗が始まっているのです。出てきた瞬間蒸発し、気化熱によって皮膚表面の熱を奪い、体温調節をしているのです。体温が上がって汗の量が増えても、排出された汗全てが蒸発してしまう間は、皮膚表面に水滴として残らないため、私たちの目には見えません。
いつから目に見える状態になるかは、蒸発量によって変わります。蒸発量は温度や湿度によって決まりますが、出てくる汗の量が、蒸発できる量(最大蒸発量)を超えると皮膚表面に蒸発できない汗が目に見える形で残ります*2。ここでやっと私たちは、「あ、汗をかいている」と認識するのです。つまり、「実際汗の排出が始まる時点と、汗が見えるようになる時点とは一致しない」*3わけです。私たちが「汗が出てきた」と認識する頃には、身体はかなりの発汗をした後だということです。
汗の蒸発量は、その環境の温度や湿度にもよりますが、塩分も汗の蒸発のしやすさに影響すると言います。大量に汗をかくと汗に含まれる塩分の濃度が濃くなります。通常の汗における塩分濃度はそれほど高くなく、汗の蒸発を妨げるほどではありませんが、大量の汗をかくと塩分の量も増え、その塩分も蒸発を妨げると考えられています*4。
玉の汗になる仕組み
サウナ・水風呂を繰り返す中での汗の変化について、サバンナ高橋は「有吉ジャポン」(2017年3月25日放送)で以下のように表現しています。
第3ステージにおける「自分汗」の正体はともかく、、、実際にサウナと水風呂を繰り返していると、1セット目の汗はじわっとかくのに対して2セット目からは以下の図のように玉のような汗になる、という経験がある人もいるのではないでしょうか。
玉の汗になる、ということはそもそも目に見える汗が皮膚表面に蒸発せずに残っている状態ですが、どうして汗の見た目が変わるのでしょうか。これは無効発汗が続くことで汗の出口がふさがっていくという身体の仕組み*5と関係がありそうです。
こうした仕組みで、汗はぷくっと玉のような水滴状になると考えられます。水風呂でクールダウンするとはいえ、サウナ浴をしている間は発汗をし続けます。発汗を続けていくうちに無効発汗が増え、玉のような汗が皮膚に残るようになると考えられそうです。
また無効発汗が続くと、汗孔がふさがっていき、「汗は次第に減少し、ついには止まってしまう」*6と言います。人によっては、何セットも繰り返しているうちに汗の量が減ってくる、という人もいるのではないでしょうか。これは無効発汗が続き、汗の出口がどんどんふさがっていって、発汗量が減っているためだと考えられます。汗が出てきた時にまめに汗を拭きとると汗孔がふさがることを防止できるとも言われています。
湿度と発汗
サウナで汗をかくと言っても、サウナ室によって汗の出方は違います。私たちが汗と認識しているのは目に見える無効発汗の汗であり、まだ汗が出てこない、と思っている間にも実際には有効発汗の、かいた途端に蒸発している汗はかいているのです。このサウナ室は汗が出にくい、というのは、正確に言えば有効発汗の汗をかいている時間が長い、と言えそうです。
目に見える汗が出てくる早さはサウナ室によって違います。これには温度ももちろん関係していると考えられますが、湿度が大きく関係していそうです。目に見える無効発汗の汗が皮膚表面に残るのは、蒸発できない汗が残るためですから、湿度の高いサウナ室ではより早く目に見える汗が出てくることになります。体感としても、湿度が低いカラカラのサウナ室では汗が出にくく、湿度が高いサウナ室では汗が出やすいと感じる人が多いのではないでしょうか。
温度が高く湿度が低いサウナ室では、「蒸発量は極限近くになる」*7と言われています。つまり、汗の多くが蒸発し、「無効発汗が少ないので無駄な水分喪失は少なく、汗による冷却の効率は良い。このような理由から、高温低湿条件のサウナ浴では、体温は比較的上昇しいにくい」*8わけです。一方、湿度の高いサウナ室で体感が熱いのも、効率よく身体が冷却されていないからだと言えるでしょう。
身体を冷却する効果がない無効発汗が続くと、汗孔がふさがっていきやがて汗の量も減っていきます。汗の蒸発によって体温調節ができないということは、熱中症のリスクが出てくるということです。冷却効果、体温調節という観点で言えば、効率よくきちんと汗が蒸発するカラカラのサウナ室の方が無駄や危険性はないと言えるかもしれません。
カラカラのサウナ室では「汗がでない」「汗がでにくい」と思ってしまいますが、蒸発しているだけで実際に発汗はしているわけです。目に見える汗が出にくいと感じても、油断せずに水分補給をする必要がありそうです。
今回はサウナ室でかく汗についてまとめました。発汗の仕組みを頭に入れて、サウナ室で自分の汗の出方を見てみるのも楽しいかもしれません。
参考文献
小川徳雄(1998)『汗の常識・非常識-汗をかいても痩せられない!』、講談社
菅屋潤壹(2017)『汗はすごい-体温、ストレス、生体のバランス戦略』、ちくま新書