Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

サウナについて調べ、考え、まとめるブログ。知れば知るほど、サウナにはまだまだ謎がある。その謎を解き明かしていくために、サウナについて様々な角度から考察してサウナ理解を深めます。身体で感じるだけでなく、頭で仕組みを考えるとサウナはもっと楽しい。サウナ好きがサウナをもっと知りもっと楽しむために始めたサウナ考察ブログ。 お問合せは下記までどうぞ。 saunology37@gmail.com

ビールロウリュ

 セルフロウリュができる施設はまだ少ないですが、アウトドアでテントを使ったサウナを楽しむ人も増えてきました。そんな中で、水以外のもの、例えばビール等をかけてしまってサウナストーンが焦げてしまう、ということもあるようです。水やアロマ水をかけても焦げ付かないストーンですが、どうしてビールをかけると焦げてしまうのでしょうか。そもそもビールやその他飲料でロウリュということはあり得ないことなのでしょうか。今回はビールロウリュについて考えてみます。 

 

焦げる仕組み

 焦げる、という現象はそもそもどういう仕組みで起こるのでしょうか。ものが焦げるという現象は、炭素(C)を含む炭素化合物を燃やすことで起こります。

ロウリュと焦げ

 

 燃焼によって、炭素化合物は分解され、炭素(C)は酸素(O2)と結合して二酸化炭素(CO2)になります。しかし、酸素が足りないとO2と結合できないCが残ってしまうのです。これを炭化と言います*1。通常私たちが「焦げた」と思っているのはこの炭化が起こり黒くなっているものです。

 理論上、酸素が十分に供給されていれば「いくら強火で加熱しても、炭化反応は進みません」*2と言われています。例えば肉を焼く時、片面をずっと下にしていたらすぐに焦げてしまいます。焦げないように、時折ひっくり返すのは酸素と触れるようにするためです。炒め物をする時にも混ぜながら調理しますが、これも酸素の供給を十分にして、焦げないようにする手段の一つです。あとは、火力を弱くすることで炭化が起こりにくくするという方法もあります。

 炭化の原因は酸素不足です。高温で勢いよく全部蒸発させてしまえば焦げないのでは、と思ってしまいますが、炭化するかどうかは、CがO2と結びつくことができずに残ってしまうかどうかなので、重要なのは酸素の量であって、いかに石をあたためても酸素不足であれば焦げは生じてしまうわけです。そもそも温度が低く燃焼が起こらなければ炭化も起こらないので、弱火で調理すると焦げにくいのと同じで、温度が低ければ石に焦げも残らないと考えられます。

 例えば石が隙間なくぎっしり詰められていたら酸素は入りにくいと考えられるので、焦げやすいかもしれません。また、テント等の狭い空間に人がたくさんいるような状況だと、酸素不足で焦げやすくなるとも考えられます。

 

焦げる可能性のある物質

  炭素化合物を含む物質は焦げる可能性がある、ということですが、具体的にどういう液体は焦げる可能性があるのでしょうか。

 例えば水(H2O)には炭素(C)が含まれないので、水をかけても石に焦げが付くことはありません。一方、たんぱく質はCHNOの元素から、糖質はCHOの元素からできています。こうしたものを含んでいる場合は、Cが残って炭化、つまり焦げが生じる可能性があるということです。

 サントリーHPの成分表によると、ビールに含まれる糖質は100mlあたり平均3.46gほどのようです。また、ビール以外の飲料の糖質についても、鈴木内科クリニックの栄養コラム、「飲み物に含まれる糖質」のデータを100mlに換算すると次のようになります。

サウナと糖質

 

 年明けに日本酒を入れたロウリュを行った施設もありました。日本酒100mlあたりの糖質は純米酒で3.6g、本醸造酒は4.5gだそうです*3。ビールとそれほど差がないですね。

 ちなみに、アロマ水でロウリュをしても通常焦げることはありませんが、アロマオイル(精油)自体はCを含みます。精油を構成する成分の大部分はアセチルCoA(アセチルコエンザイムエー)から生じるそうです。アロマオイルをそのまま石にかけたり、大量に水に入れてしまったら焦げる可能性はあると考えられます。アロマオイルをそのまま焚いてしまって焦げてしまったとか、水が切れてしまってアロマポットに焦げが付いてしまった、という話もよく聞きます。

 

海外のビールロウリュ文化 

 ストーンを焦げ付かせてしまう可能性があるビールですが、海外のサウナ文化に目を向けてみると、ビールロウリュの話がいろいろ出てきます。例えばフィンランドではロウリュをする水にビールを混ぜることもあるそうです。

Finns also have been known to pour beer on the rocks to fill the sauna with the aroma of baked bread*4.

(フィンランド人はサウナ室を焼けたパンの香りで満たすためにビールを石にかけることも知られています。)

 香りを楽しむためにビールを石にかけることがあるというのです。フィンランドだけでなく、ラトビアにも同様の文化があるとされています。

In Finnish and Latvian sauna culture, a beer afterwards is thought to be refreshing and relaxing. Pouring a few centiliters of beer into the water that is poured on the hot stones releases the odor of the grain used to brew the beer*5.

(フィンランドとラトビアのサウナ文化では、ビールはリフレッシュ・リラックスできると考えられています。数cmのビールを水に入れて熱い石にかけるとビールを醸造するために使われる穀物の匂いが発生します。)

 どちらの記述も、ビールをそのままかけるのではなく、水にビールを混ぜる、という内容です。そのまま焚くと焦げるアロマオイルも水に少し加えるのであれば焦げませんし、ビールと糖質の量はそれほど変わらない日本酒も水に混ぜてロウリュに使われたりしています。水と混ぜれば、ビールを使って良い香りのロウリュを楽しむことができるということかもしれません。

 また、どのようにビールを使うのかまでは書かれていませんでしたが、ドイツのスパではbeer Aufguss sessionsがプログラムの一つにあるとHPに書かれています*6。ビールを使ったロウリュというのが海外で行われていることがわかります。

  一方、ストーンのメンテナンスという観点から、ソフトドリンクやビールをかけないようにと書いているサイトもあります。

 

サウナ ビール ロウリュ

(画像出典:BUILD

 例えば、Sauma maintenanceというタイトルで、次のように書かれているサイトがありました。

Pouring beer or soft drinks on the sauna heater will make it very difficult to clean*7.

(ビールやソフトドリンクをサウナヒーターにかけると掃除がとても大変になります。)

 更に具体的な注意が続きます。  

Additionally, don’t use anything other than fresh water on the stones - especially chlorinated water from pools or spas, as this can release noxious fumes and corrode the heater. Adding a little scented oil to the water is fine, but other substances like beer or soft drink will leave burned sugar marks on the heater which are very difficult to remove*8.

(そして、新鮮な水以外のものを石にかけないでください。特に、プールやスパの塩素の入った水は有害な物質を発生させ、ヒーターをだめにしてしまいます。香りのするオイルを少し水に入れるのは良いですが、他のもの、例えばビールやソフトドリンクはヒーターに砂糖の焦げた跡を残し、落とすのが大変です。)

 ビールやソフトドリンクをかけると焦げが残って落とすのが大変だからかけないように、ということです。また、塩素の入った水をかけないようにという点も海外のサウナの注意書きを調べてみるとよく見かけます。ロウリュができる環境で、かつプールとセット、スパゾーンにサウナがある、というケースが多いからでしょうか。

 一方、ソフトドリンクなどをかけられてしまった時の洗浄方法について書いているところもありました。

Sauna users have been known to pour soft drinks or even to urinate on the rocks to create steam when water isn't at the ready*9.

(サウナ利用者は、水の準備ができていないとソフトドリンクをかけてしまったり、放尿して蒸気を発生させることすらあります。)

 そういう時は、石を水と液体洗剤もしくは塩素系漂白剤の混合液に浸してスポンジ等できれいにした後で、再び純水に浸しましょう、と書かれています。そして、この作業は"a process that should take place weekly under normal circumstances, anyway"*10(どっちにしても毎週、通常の環境でも行うプロセス)とされていて、水以外のものをかけた場合以外にも必要な作業であるとされています。

 そもそもサウナストーンは洗浄やメンテナンスが必要で、かつ定期的に交換が必要であると書かれていました。消耗品として、メンテナンスや交換が必要であるということを知っておくのも、サウナを提供する側の責任かもしれません。加えてサウナを提供する側はリテラシーを持って、利用する側にどのように利用してほしいかを明確に伝えることも大事かもしれません。例えば水風呂の場合に汗流しカットはもちろんのこと、頭まで潜ることを禁止し、禁止だという掲示があるのと同じように。先ほど紹介したサイトのように、水以外かけないで、と注意書きをするなどの工夫をして、どう使ってもらいたいか明確にすることが大切です。

 

 今回はビールロウリュについて考えてみました。糖質を含むビールをかければ、条件によっては石が焦げ付いてしまうことがありますが、フィンランドやドイツ、ラトビアではビールでロウリュをすることもあるようです。ロウリュが身近な国では、どのくらいを水に混ぜれば焦げ付かないか、あるいは焦げ付いた場合はどう洗浄するかなど、知っている人が多いのかもしれません。こうした海外の文化も見てみると、サウナの楽しみ方はいろいろで、リテラシーを持った上でいろいろな楽しみ方ができると良いなと思います。マナーはもちろん大事ですが、知識を持ったユーザーが増えることで楽しみ方も広がる、という側面もあるのではないでしょうか。

 
参考文献
Paul Steinbach. "Cleansing Rituals", Athletic Business.
Spa Expert. Melinda Minton, "Finnish Saunas"
Wikidwelling. "Sauna"
鈴木内科クリニック「飲み物に含まれる糖質」

長谷川裕也「料理の科学」『生活と化学』

*1:Wikipedia

*2:長谷川裕也

*3:BS12トゥエルビ

*4:Spa Expert, Melinda Minton

*5:wikidwelling

*6:ASIA SPA

*7:BUILD

*8:同上

*9:Paul Steinbach

*10:同上