Saunology -Studies on Sauna

Saunology -Studies on Sauna-

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子どものサウナ浴①

 サウナ室は小学生以下入室禁止としている店も多いです。スーパー銭湯などで子どもを連れて入って常連さんに怒られた、なんて話も聞きます。サウナ浴は子どもにとって危険なのでしょうか。今回は、子どものサウナ浴について考えてみます。

 

子どものサウナ浴

 日本のスパやサウナ施設では、施設自体中学生以下は入館できない、という制限があったりします。また、入館自体はできる銭湯やスーパー銭湯でも、サウナ室は小学生以下は禁止など、子どものサウナ浴は禁止されているところが多いです。

 実際に子どもとサウナに入っていたら、他のお客さんから「危ない!」「子どもをサウナに入れてはだめ!」「子どもがサウナに入ると脳が溶けるのよ!」と言われたなんていう話も聞きます。一般的に子どもはサウナ室に入らない方が良い、とされている印象です。

 しかし、フィンランドでは子どもの頃からサウナに入っているという話を聞きます。そのため、フィンランドでは大丈夫なのになぜ日本ではだめなんだ?施設が責任を負いたくないだけでは?などと言われることもあります。実際に、子どもがサウナ浴をすることによってどういう危険があると考えられるのでしょうか。子どもとサウナ浴に関する論文がいくつかあったので、その内容をまとめつつ、サウナ浴が子どもの身体に及ぼす影響について見てみます。

 

体温調節機能の違い

 Eero Jokinenらは子どもの循環機能や体温調節機能に着目し、実験を行いました。前提として、Jokinenらは子どもの方が大人より体温調節が苦手で、体温が上昇しやすいことを指摘しています。

Sauna bathing can cause considerable circulatory changes. The thermoregulatory system of a child is in many ways inferior to that of an adult*1.

(サウナ浴は循環機能に大きな変化を起こします。子どもの体温調節のシステムは、大人の体温調節のシステムと比べて多くの点で劣っています。)

   体温調節の機能が大人よりも劣っていることに加え、子どもは大人よりも身体の中の体温、深部体温が上がりやすいことも指摘されています。その理由として、子どもの方が大人よりも、体重に対する体表面積の比率が大きいことが挙げられています*2。体重に対する体表面積の比が大きい方が、高温環境で熱が身体に浸透しやすいと言います*3。また、子どもは身体が小さく皮下組織も薄いため、物理的に速く深部体温が上昇するそうです*4

 身体の大きさや機能から、Jokinenらは"the capacity to convey heat by blood from the body core to the skin in a hot environment is reduced in children*5"(子どもの場合、高温環境で熱を血流によって身体の中心部から皮膚へ運ぶ能力が低下します)と指摘します。

 実験は、81人の被験者を集めて行われました。81人の被験者は、年齢ごとに4つのグループに分けられました。

Aグループ:2歳~5歳

Bグループ:5歳~10歳

Cグループ:10歳~15歳

Dグループ:15歳~40歳

 実験では、一般的なフィンランドのサウナ室と似た温湿度の部屋を用意して、準備段階・サウナ浴・休憩の3段階を通して身体の変化を計測・観察したそうです。準備段階と休憩は21℃~23℃の部屋で10分過ごしてもらい、サウナ浴にあたる部分は室温70℃・相対湿度20%の環境で10分過ごしてもらう、という方法です。

 この実験の結果、5歳以下と5歳以上でいろいろな部分に差が出ています。基本的に、"children tolerated the 10 minute sauna batihng well*6"(子どもたちは充分、10分間のサウナ浴ができました)とあります。ただ、Aグループ、つまり2歳~5歳のグループでは、28.6%の子どもが"felt uncomfortable in sauna*7"(サウナの中で不快だと感じた)、また23.8%の子どもが"felt uncomfortable after the sauna*8"(サウナの後で不快感を感じた)と言います。不快感の主な原因は目眩と熱すぎるという体感だったそうです*9。こうした症状は、Bグループ以上の年齢ではあまり見られなかったと言います。

 直腸温の上昇は子どもの方が大きいという結果になったそうです。Aグループでは1.6℃、Bグループ・Cグループでは1.5℃、Dグループは0.9℃となっており、2歳~15歳の子どもは15歳以上に比べて直腸温の上昇が大きいことがわかります*10

  また、一回拍出量の変化についても、Aグループの子どもたちにおいて一番大きな変化が見られたと言います。一回拍出量とは、1回の心臓の収縮で排出される血液の量のことです。サウナ浴中、どのグループでも一回拍出量には減少が見られました。Bグループが16.2%減、Cグループが11.3%減、Dグループが14.6%減であるのに対し、最年少のAグループでは32.9%も減少したと言います*11

 上記の実験結果をまとめると以下のようになります。

サウナと子供

 

 つまり、Aグループの5歳以下の子どもたちについては、大人やもう少し年上の子どもたちと比べて高温環境でうまく体温調節ができていないことがわかります。結果的に、目眩が起こったり、熱すぎて不快、と感じる割合も多くなっていると考えられます。そして、体温の上昇も他の年齢と比べて大きくなるわけです。 

 Jokinenらはこの実験結果を次のようにまとめます。

The most important finding in this study was the inferiority of children's circulatory adjustment to short heat stress during the Finnish sauna bath as compared with adults*12.

(この実験の最も重要な発見は、フィンランドのサウナ浴中の短時間の熱ストレスに対する子どもの循環調整が大人と比べて劣っている、ということです。)

 そしてJokinenらは、子どものサウナ浴には大人が付き添うべきであると結論付けています。 

 

ホルモンの変化

 Jokinenらは、同様の実験でホルモンの変化についても調べています。こちらの実験の対象は5歳~10歳の子どもたち、女児11人、男児9人です。実験の方法は体温調節の機能についての実験と同じで、フィンランドのサウナと同じくらいの環境である70℃、相対湿度20%の部屋を用意して行ったそうです。先の実験と同じように、21℃~23℃の部屋で10分過ごし、次にサウナ浴と同じ環境、70℃で10分過ごし、最後に休憩として21℃~23℃の部屋で10分過ごしてもらうという方法です。

 実験の結果から、ホルモンに関しては大人と違って変化しないもの、大人と同様に変化するものがあることがわかったと言います。例えば、大人はサウナ浴中に変化が見られるアドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾールについては、今回の実験では変化が見られなかったと言います*13。ただし、これは大人の実験よりもサウナ室の温度が低く、短時間であったためかもしれないことにも言及されています。一方で、大人の実験結果と同様に変化が見られたものも多く、Jokinenらは子どもの場合もサウナ浴がホルモンに中程度の変化をもたらしたことを指摘し、大人と同様に体温調節のためにホルモン変化があると結論付けています。そして、こうしたホルモン変化が"our concept that a child's body fights the rise in body temperature by all available means"*14(子どもはあらゆる可能な手段で体温上昇と戦っている、という私たちの考え)をサポートする結果であるとしています。

 ホルモンの変化についても、大人と全く同じように変化するというわけではなさそうです。こちらの実験は5歳以上を対象に行われているので、5歳以下の場合の結果も気になるところです。

 

子どものサウナ浴の危険性

 論文の実験結果から、小さな子どもは身体のつくりや機能の面から、大人に比べて高温環境にいることで危険もあるということがわかります。

 特に5歳以下の子どもに関しては、大人とは大きな違いが観測されました。体温調節機能が未熟ということは、サウナ室で身体が急激に温まりやすいだけでなく、大人と同じようにサウナ・水風呂に入るのもリスクがあると言えそうです。

 また、子どもの場合は身体の不調を自覚し、言語化して訴えるということも難しいことがあります。そうして点でも、子どものサウナ浴にはリスクもあると言えそうです。

 ただし、論文の結論は子どもはサウナに入るべきではないということではなく、子どもが入る場合は大人がしっかり見ていないと危ないこともあるね、ということでした。大人と子どもの身体の機能の違いを知っておくことは重要であると言えるでしょう。

 フィンランドでは子どももサウナに入っている、日本が厳しいのだ、施設の責任逃れだ、という声もありますが、フィンランドでも子どものサウナ浴に関する研究はされており、危険性も指摘されているということです。

 もちろん、フィンランドのサウナと日本のサウナとでは平均の温度が違う、ということも関係はあるでしょう。中温高湿でじっくり温まるサウナ室だから大丈夫だとされているのでは、という指摘もあると思います。そうであれば、日本でもフィンランド式であるとされているサウナ室なら子どもも入室可能、ということになりますが、そうとも限りません。サウナ室の温度だけの問題ではなさそうです。

 

 今回は、子どものサウナ浴のリスクについて見てみました。しかし、論文の結論はサウナに入ってはいけない、ではなく大人が見ていないと危ないこともある、ということであり、実際にフィンランドでは子どもたちもかなり小さな頃からサウナに入っていて、特に問題はないとされています。「親がしっかり見ている」というところが一つのポイントのように思われますが、どうしてフィンランドでは子どもたちもサウナに入って大丈夫なのか、次回はそのあたりを更に詳しく考えてみます。

 

参考文献

Jokinen, Eero etal. (1990) "Children in Sauna: Cardiovascular Adjustment", Pediatrics.
86 (2), pp.282-288.

Jokinen, Eero etal. (1991) "Children in sauna : hormonal adjustments to intensive short thermal stress", Acta Physiol Scand. 142(3), pp.437-442.

 

 

*1:Jokinen etal., 1990, p.282

*2:同上

*3:同上

*4:同上

*5:同上、p.283

*6:同上、p.284

*7:同上

*8:同上

*9:同上

*10:同上

*11:同上

*12:同上、p.287

*13:Jokinen etal., 1991, p.441

*14:同上